そして少女は兆しに気付く …3
――――――――――――――――HIBIKI side
…さて。始業式の一ヶ月後に転校生(俺のことである)が来て騒ぎ立っていた教室を出て、朝教室に来る途中に密かに定めておいた中庭という昼食スポットで弁当を食い、授業終了と同時にハーテッドをかっさらい、俺は即、帰宅を試みた。
しかし、確かに俺より後に教室を出ていた戌海琴音が目の前の河原で草をいじっている(雑草で何かを作ったりしていたのだろうが、俺はそういうことに関して全く知識も興味も無い)のを見た時には、生物には絶対敵わないもの――すなわち天敵――が必ずいるという外国の学者の言葉を思い出した。
…まあ、即出たのは学校であり、途中の商店街でちょっと晩飯のおかずを買ったのだが、ぴったりその間に追い抜かれたと考えると、自分の運の無さと油断を悔いるしかない。
まあ、こいつが河原で黄昏時を満喫していようが、石投げしていようが俺には関係ないわけで。
さっさと家に帰って寝たいので、軽ーくスルーして小走りに帰ろう……
『おい、戌海琴音』
…と思ったんだがこのポンコツ野郎がほざいたこの一言のせいで、今日は遅く帰ることとなった。
俺の昼寝ならぬ夕寝タイムを返せ。くそっ。
「あ……、響輝君」
はい響輝でございますが何か御用でも?俺は早く帰りたいんだが。
『我は呼ばないのか…』
気にするな、my brother of ポンコツ。こいつは確か昼飯頃からああだった。
何を思ったか、はたまたゼンマイでも切れたのか、朝にハーテッドを返しに来た時から何やら考え込んでいて、昼飯時にも俺を誘わず、独りでどこかへ行っていた。
……俺を誘わず?いや、これは決して期待ではない。無論、俺も健全な男子生徒の一員のつもりである。ここまで懐いた犬か何かのようにひっついてきていた奴が相手を誘わないのは常識的に考えていささか妙……。
いやいや何を考えているんだ俺は。
何にせよ、戌海琴音の落ち込み様はまるで昨日まで咲いていたヒマワリの花が急にしおれてしまったかのような感覚を覚えたわけだ。わかるだろう?
まあ、一人で飯を食べられたし、俺としては友達わっしょいとかをする気もさらさら無かったため、かえって気分が良かったわけだが、しおれたヒマワリを見てテンションが上がる奴などそうそう居るはずもないわけで。
何かあったのだろうか。
……いや、仮にあったとしても俺には関係の無いことだろうし。
俺は言及はしない。される辛さを分かっているつもりだからだ