そして少女は兆しに気付く …1
問題の内容など、言うまでもない。
巽野響輝である。
何を思っているのか掴みにくく、無愛想。
琴音は自分ではなかなか人とのコミュニケーションが上手いと思っていたのだが……。
何かこの少年は自分と違うのだ。
笑いかけてもほぼ無表情か面倒そうな顔をする。
会話している時も鬱陶しそうにされるし。自分としてはただ友好な関係――すなわちは友達――になりたいだけなのに……。
それもお隣さんである。何かの縁を感じずにはいられないではないか。
しかし、どうやっても巽野響輝は笑わない。
んでもって、ハーテッドを借りて、響輝について聞こうと思っていたのだが。
「ねえ、ハーテッド」
『何だ、戌海琴音』
どうも電子音声って慣れないわね……。
「一つ訊いていい?」
『うむ』
友達になりたいのは山々だが、今はとりあえず……。
「どうやったら響輝君は笑うの?」
『脇腹をくすぐればすぐ笑いだすぞ』
「いや、そういうことじゃなくて」
まあ、その情報も悪くはないものだけど。
『まさか貴様、響輝を普段の会話の中で笑わせようとでも考えているのか?』
「うん、そうだけれど……」
何か問題でもあるのだろうか。こっちはありすぎて困ってるくらいだけれど。
『一つ言ってやるなら、諦めろ』
んなっ!
「……どうしてよ」
諦めろって何よそれ。響輝君だって人間なんだから、笑わないなんて変じゃない。
『この我ですらあれ以来、響輝がまともに笑ったところなど見ていない』
……“あれ”?
「あれって何?」
『貴様には関係ない』
何なの、全く。
やっぱりペットは飼い主に似るのかしら。……冷たい性格とか。
「あれって何?何かあったの?」
『聞いて楽しい事ではない。それに、本人の了解を得ずに話すわけにはいかん』
うっ……。
確かにそうだ。自分の知らないところで自分の過去を話されては響輝もたまらないだろう。
『ともかく、貴様も諦めろ。響輝の母でさえ、元気であったらそれで良いと割り切っているのだ。赤の他人の貴様にどうにかできる問題でもあるまい』
何とも試作機の口調とは思えない発言であったが、さすがにこれ以上言及しても自分の人間性が問われるだけであろう。
本っ当、響輝君って解らない……。