例えば少年の場合 …3
突然、悲鳴が聞こえた。
「何だ!?」
「階下からですね」
冷静なツーマンセルは何事にも冷静だ。誰も暑くならない。熱くならない。
続いて、階段をどたどたと駆けあがる音。
そして、俺達のいる教室のドアが乱暴に開かれた。
「不味いぞ、お嬢ちゃん!」
外で息を切らしているのは、大柄でかつ、引き締まった身体をしている、二十代後半くらいの男。
名を宮島功という。元陸上自衛隊に所属していたそうで、この状況を真っ先に打破した数少ない人間の内の一人だ。
「どうしました?」
俺は答えず、鈴が覚めた口調で答える。
「下の、正面玄関だが、バリケードがそろそろ破られそうなんだ。怪物共の影が見え隠れしている状況だ。……どうすればいい?」
どうやらこの男、この冷酷銀髪少女のことを退魔師か何かだと思っているらしい。
いささか勘違いとは言い難いが、まあ、こいつの白装束がそのイメージを掻き立てていることだけは確実だ。正装を着るのは良い心がけだと思う思考も俺は持ち合わせているが、その格好はやはり目立つだろう。色々な意味で。
「とりあえず、皆さんを落ち着かせながらバリケードの強化をしてください。パニックになったらそれまでです。あなたは見たところかなりの技量を持っているようですが、他の非力な方々はおそらく“恐鬼”が侵入してきたら逃げきれないでしょう」
「あ、ああ。とりあえず、全員に呼びかけてみよう。何かあったらまた頼んだぞ」
「ええ。遠慮は必要ありません。生き残りたければ、そのための努力は惜しまないべきです」
……しかし。
こいつ、何でこんなに話し上手なのだろうか。一種の才能か。
『話術の一環ともいえるな。人を導いて行くのに適切な人材とも言える』
「俺と比べるなよ」
『比べぬよ』
その時。いや、正確には俺と鈴の二人共の意識が窓からそれた瞬間。
「キイイヤアアアアアアアアア――」
奇声と共に後ろの方の窓が盛大に砕け散った。
乾いた音を立てながらガラスの破片が散乱する。
その上にそれらを踏みしめている、影。
“それ”は形容するなら、まさに鳥人間といったような風貌をしていた。
いや、確か欧米にハーピーとかいう妖精もどきの伝承があったな。そんな感じだ。