彼の光
彼の光
12歳の時に、僕は悟った。この世界は残酷だ、と。何もかも生まれた時から決まっていたんだ。人生は「物語」なんだって。脇役のほうが主役やヒロインなんかよりも多い。
「人生とは、あなたが主役の物語なのです!」
こんなことを言っている校長はどう思って言っているんだろうか。少なくとも高校に入ったばっかの俺は知らん。でも、12の俺はそう思っていたんだろうな。不意に眠気が強まった。
僕は生まれつき、何でもできたんだ!大人には、コミュニケーション能力があるってずっとほめられてるし、まわりにはいつも友達がいるんだ!お昼休みにはみんなでドッジボールをするんだ!そのときはみんなが僕を取り合ってじゃんけんするんだよ。だって僕めっちゃドッジボール強いんだからね!僕の小学校ではいつも「実力テスト」ってやつをやるんだけど、いつも僕が一番なんだ!みんなから勉強を教えてって聞かれるんだ!そんな僕には秘密があるんだ!
胸に手を当てながら誰もいない教室でただ一人でたたずんだ。
僕はいつも皮をかぶっている。みんなにばれないように、何枚も。こんな僕を誰も求めていなかったら、また皮をかぶればいい。教室にはみんなから避けられている一人の男子がいた。名前は「葉羽 有羽」。有羽はいつも毛糸の帽子をかぶり、本を読んでいた。僕は彼のことをあまり知らなかった。いや、知りたくなかったの間違いだ。廊下ですれ違うと、すべてを見透かされている気分になる。
僕はいつも通り、昼休みになるとドッジボールをした。でも少し前から右肩から右肘にかけて痛みを感じる時があった。それを隠すために、ボールを投げず、よけ続けた。その日はなんとも思われていなかったようだったので安心した。その後に僕は一人で野球の投球練習をした。今度地区ごとに代表戦があるらしく、僕はお父さんのチームのピッチャー役で出ることになっていた。痛みに耐えるため、ゆっくり肩を慣らす。グラウンドには誰もいない。僕が中心だ、って何が中心だ。そう思いながらど真ん中にストレートを投げた瞬間、指を鳴らすよりもとてつもなく大きい音がなった。まるでそこを金属バットで殴られたみたいに痛み出した。
「右腕が、折れた」
なんで、痛い、早く、救急車、スマホは、大人は、どこ。焦れば焦るほどに不安が増えていく。何分か経った時、校舎から走ってくる人影が見えた気がした。
「dあいjおbう?いmあkyうkyうsyあyおndあkあrあ」
誰かがしゃべる声が聞こえたが、誰か確認する前に僕は意識が消えた。
目が覚めた時には、僕のお父さんがベットの横にいた。
「大丈夫か!?野球の代表戦のやつは気にしなくていい!おれがコテンパンにしてくるからな。お前は治すことだけ考えればいい!」
お父さんの声でふわふわしていた頭が戻ってきた。
「お父さん、有羽君ってこの病院にいる?」
「ん~?俺あんまわからんからちょっと受付で聞いてくるわ!」
そう言ってお父さんはあわただしく病室から出た。頼りになるお父さんだな。
しばらくするとお父さんが帰ってきて、生命が危ないことを僕に伝えてきた。前からわかっていた。有羽が帽子をかぶっていたのは薬の副作用のせいなんだって。すぐ向かわなければ。そして伝えなければ、感謝を。
病室に着くと彼は多くの管につながれ、真っ青な顔をしていた。病室に入るために、使い捨てのスリッパや手袋、エプロンみたいなものをつけ、マスクをしたらやっと入れてくれた。
「有羽、わかる?僕だよ」
話しかけるとそこには、やせ細った有羽がいた。余命まであと数日という危ない状態らしい。
「有羽、本当にありがとう。有羽のおかげで僕の右腕が助かったんだ。」
「だいじょうぶだよ、ここでまでかわをかぶらなくて。」
口に笑みを浮かべて、有羽は幸せそうだった。というか皮をかぶってたのばれてたんだ。なんで?
「なんでわかったの?もしかしてボロが出てた?」
そんなことを問いかけると、有羽は笑って答えた。
「きみはたいていわらっているけど、ときどききょうしつにむしんですわっているだろう?」
ゆっくりと会話が進んでいくなかで、僕の感じていた孤独を有羽も持っていることがわかり、校長先生の話が終わるくらい長い間、僕は有羽と話した。互いを理解しあうことがこんなに楽しいのか、と僕の新たな感覚を心で激しく感じた。不意に有羽が顔をゆがめ、しゃべっていることを遮り、せき込んだ。そのときだった。僕が見たことのないような真紅の液体をせき込んだ時に出した。とても辛そうにせき込む様子が目に焼き付いた。この出来事をきっかけに、看護師や医師が何人か入ってきて、有羽に点滴を刺し、薬を飲ませた。しばらくの静寂の後、最後になるかもしれないと悟ったように、有羽は語りだした。
「ぼくはものがたりのわきやくだったけど、きみはちがう。これからもしゅやくとしてせいいっぱいどりょくしてね...。」
この日はこの会話を最後に、椅子に座って黙っているしかなかった。こんなの、あんまりじゃないか。
次の日にもう一度話したいと思い、学校終わりにいつもであればクラスの友達や他クラスの奴らと話して帰るが、肺の中の空気を使い果たすほどの勢いで病院に向かった。だが、有羽はすでに隔離されており、ガラス越しにしか見ることができなかった。有羽は諦めずに病気と戦っているというのに、僕はそれを見ることしかできない。無力感が全身を支配していた。有羽はあきらめていなかったが、もう心残りはないといった顔で僕を見て、目を閉じた。無機質に「ピー」っという音が病室に鳴り響く。
翌日有羽の葬式が行われ、僕も呼ばれた。火葬されているときに有羽の父と話した。彼は小学5年生のときからこの病気を患っていて、そのときから毛糸の帽子をかぶっていたみたいだった。火葬が終わり帰ってくると、有羽はいなかった。どこに行ったかなんて僕にはわからなかったが、確かにいないことが僕の胸を締め付けた。僕は有羽と深いかかわりはなかった。でもそんなことは関係ない。有羽だけが、本当の僕を見つけ、理解してくれた。有羽の姿をみた僕はすぐに火葬場を飛び出し、目からこぼれる何かを垂れ流しにした。
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校長の話が終わりかけようとしているとき、俺は夢から覚めた。有羽の夢を見るのは3年ぶりだったが、今も鮮明に有羽のことを覚えている。俺は主役としてやらなければならないことがある。有羽のような悲しみに身を委ねなければならない少年少女を俺が助ける。
「えー、それでは新入生代表のあいさつ。$#%&!”&’さん。」
有羽ができなかったことは俺がやる。あいつを存在させられるのは、俺だけだ。
「新入生代表$#%&!”&’。僕たちは新しい環境に変わり......最後に、昔の友人の言葉を借りて、ここで宣言します。僕たちは、僕たちの物語を主人公として歩いていく必要があります。」
「ありがとうございました。」
多くの拍手と共に真ん中の花道を通って席に戻る。気分は泥の中にいるみたいだ。
ありがとう有羽。お前のおかげでわかった。人生ってのは誰でも主人公になれる。有羽が教えてくれたんだもんな。「有羽の光」を道しるべに俺は有羽を輝かせて見せる。
ハッピーエンド作品ですが、個人的には熱いアイスのほうが、少しグロが入っているが最高作品だと思っています。




