表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/14

第七話『森の少女』

 「村のみんなを助けてほしいと?」


 少女は、涙目になりながらもそう伝えてくれた。


 「そうなの。このままだと、村のみんなが死んじゃう……。」


 主語が足りない。

 まあ、仕方がないか。

 意図を汲み取るなら、何らかの疫病か魔物の仕業かの2択か。

 少女が健康なことから、後者の確率が高いと見た。


 「魔物の仕業ですか?それとも、病気とかですか?」

 「ま、魔物なの。植物の魔物が村のみんなを襲ってるの!ツタみたいなので……なんかチューチューしてて……。村のみんな弱っちゃって……。」


 少女は不安そうな眼差しで訴えかけてくる。

 両方の可能性が出てきた。

 俺にどうこうできる問題ではないかもしれない。特に疫病ならなおさらだ。俺の会得したスキルや魔法の中で病を治すスキルや魔法がない。盲点だった。医者だったというのに。


 「村はどの辺りなんですか?俺はここに来たばかりだから土地勘もなくて……。」


 あくまで10歳と6歳の会話。

 年上と会話するなら敬語が望ましい。うむ。


 「えっと……。ここから少し離れた場所なの。『ナナシ村』って言うのだけど……。私たちが歩いていくと3日はかかっちゃう……。私もずっと歩いてきたから。」

 「3日?!ですか?!」


 驚きすぎて声が出たよ。

 往復で約1週間は放置されてるじゃないか。

 子供の足で3日程度。成長期(トランス)を使っても1日以上はかかる計算だ。


 「わかりました。助けに向かいましょう。」


 そう言い、俺は成長期(トランス)で体を光らせて変身した。

 少女は、20歳になった自分を見て驚いている。当然だ。

 普通はこんなことできないだろうから……。


 「す、すごい……。」


 とても少女は目をキラキラさせている。

 初めて巨大ロボを見た時の男の子ってこんな気持ちだったなそういえば。


 とにかく急ぐべきだろう。

 俺が、この少女を背負ってあげたいが、力も魔力量も6歳と変わらないから背負えない。とんでもないデメリット魔法だなこれ。姿を変えるだけで変装くらいにしか使えない。


 「この姿でも背負えないから、歩いてはもらいます。でも、急がなきゃいけないので手をつなぎましょう。」

 「――えっ。」


 咄嗟に言った言葉だったが、少女は頬を赤らめながら一言「はい。」と小声で手を出した。



ーーーーー


 森を少し歩いたところで、少女と話す。

 出会ってすぐには聞けなかったが、聞いてみよう。

 自分から少女にそっと声を掛けた。


 「ちなみに、名前は何と言うんですか?」

 「あ、えっと……シャチ……。『シャチ=クライアット』と申します……。」

 「シャチですか。いい名前ですね。」

 「あ、ありがとうございます。」


 俯いて、頬をまた赤らめてる。少し恥ずかしがりながら少女も問う。


 「えっと、貴方のお名前は……。」

 「俺は、ひ……リハエル。リハエル=クリムゾンって言います。」

 「リハエルさん……。」

 「リハエルでいいですよ。あなたの方が年上ですしね。」


 そうは言ったものの、今の見た目だと圧倒的にこっちが年上だ。声色も身体つきも20歳なのだから。


 「た、確かに……じゃあ、リハ……リハエル……。」


 また恥ずかしそうに頬を赤らめて名を呼んでくれた。

 少しばかり、可愛いとは思った。

 でも、俺にはロリコンという趣味はない。


 「シャチさんは、何か魔法が使えるんですか?」

 「シャチ……シャチと……呼んでください……。」


 少しずつ小声になりつつも少女は勇気を振り絞って伝えた。

 

 「わかった。シャチは何か得意な魔法はあるんですか?」

 「うん。私は、風を操るのが得意です。」

 

 少し自信満々に、風属性魔法が得意と俺に伝えた。


 「風属性魔法か……。」

 

 俺は、水属性はしっかりと教わったが、火と風と地については感覚派ドラゴンだったからちゃんと教えてもらっていない。だから好都合ではある。


 「ダメ……ですかね……。」

 「ダメなことは何も無いと思いますよ。俺は、水属性魔法が得意ですがそれ以外は苦手で……。」

 「にが……苦手ということは、使えはするということ……ですか……?」

 「いや、”まだ” 使えませんよ。」

 「”まだ”……ですか。」


 きっと少女は思っただろう。

 この人は、複属性適性者ということに気が付いたのかもしれない。

 まあ、全属性扱えるので間違えてはいない。


 「そうだ。見せてください!風属性魔法!」


 これは興味本位だ。

 実物を見れるのは滅多にない機会だと思う。それに、実物を見ることで俺も扱えるようになれるかもしれない。もちろん練習や訓練は必要だけど。

 だから、せっかくだから見せてもらいたい。


 「見せる……!?今ですか!?」

 「そうです。すぐ近くに魔物もいるようですし。」


 驚く少女に、冷静に魔力感知で発見できた魔物が来る。

 魔力量的には、あの時の狼と全く同じだな。


 ――――ガルルルル!!!


 ほら来た。


 「来ますよ、シャチ。」

 「は、はい!!ってえぇ!!本当に見せるんですか?!」

 「ほら、早くしないと美味しく食べられますよ。俺たち2人とも。」


 ――――ガサガサ!!


 先ほど感じた魔力の正体はやはり狼だった。3匹もの狼が襲い来る。

 俺からしたら雑魚同然だった。簡単な狩りだ。

 さて、少女の魔法は……


 「汝、風の女神アイオロスの名のもとに

 我に風の加護を貸したまえ。自然の力を糧に、その魂を解放せよ。

 全てを刻む風の刃を無数に吹き飛ばせ。」


 詠唱を唱え始めた時に、少女の身の回りに踊るように風が舞う。

 大気中にあるその空気は、自然と少女に力を貸すように形を変えているように見える。

 空気のため、目をしっかり凝らさなければ見えにくい。


 「突風の千刃(サウザントウインド)。」


 少女が魔法名を発した瞬間に、その風の刃が魔物に向かって素早く攻撃を開始する。

 一瞬にして、3匹もの狼がバラバラになった。

 めちゃくちゃな凶器だ。怖すぎ。

 だって、見えない包丁で調理されているみたいじゃん。しかもかなり鋭利な刃物。


 「す、すご……。」

 「ど、どうでしたか!!」


 少々興奮気味に俺に聞く。

 褒めてもらいたいのか、目をキラキラさせながら、功績を見て欲しそうにしている。


 「はい。よくやりました。シャチが倒してくれなかったら食われていたかもしれないですし。」


 俺は、スッと手を伸ばして頭を撫でた。

 小動物を撫でてるように優しく。


 「えへへ……。」


 少々頬を赤らめながら、嬉しそうにしている。

 あまり褒められてこなかったのか、自信につながるといい。

 そして、俺は詠唱内容は覚えた。あとは、詠唱内容の意味と風の魔力操作を鍛えれば簡単にできそうとは思う。


 「この先、シャチの力はきっと必要になるでしょう。村を救うのはシャチですよ。」

 「え……。」


 そう、頼まれたがあくまで手助けをするだけだ。

 村を助けるのはシャチ本人だ。


 「で、でも……。」

 「大丈夫です。俺もついています。手助けしますよ。」


 その言葉が、嬉しかったんだ。

 涙を浮かべながら、こくりとシャチは頷いた。


 そして――


 「ありがとう、リハエル。」


 俺にとっても救いの言葉だ。

 感謝は、何よりも嬉しいんだ。

 前世もそれが嬉しくて医者をやっていたんだから。


 必ず、村の民を救って見せよう。

 

 俺たちは、村へ進むために森を少し早足で進める。



ーーーーー


 夜になってしまった。

 今日は、野営をしなくてはいけないな。

 少し開けた場所を見つけていたので、そこで寝泊まりしよう。

 普通に眠ると少女を守れないから、魔力察知を解かずに眠ろう。

 魔力消費をしながらだから、寝起きは少々疲れてしまうがいいだろう。


 焚き火を始めた。

 少し肌寒い。


 「リハ……リハエルは、どこから来たんですか?」

 「え?」

 「う~ん……。」

 

 俺は考えた。

 どう答えてあげるべきか。

 洞窟で生まれて、洞窟で育って今に至るんだよ~~~って馬鹿正直に言っても怖がられるかバカにされるか笑われる。以上。


 だから、正直に話す。


 「別の国からですね。」

 「別の……国?」


 あながち間違えてはいない。

 元の世界の国から、この世界の国に渡ってきたのだから、嘘ではない。


 「そう、別の国ですよ。ここではないもっと遠くの場所から来ました。」


 そう、この世界では異物ともいわれる人間。転生者。


 「ど、どんなところなんですか?」

 「素晴らしいところなんですよ。ご飯も美味しくて、周りの建物は大きいけれど夜は綺麗なんです。高いところから眺めると、地面に星があるような景色なんですよ。」


 俺の来た世界の日本。

 それは、発展を繰り返して便利な世の中だ。この世界とは比べ物にならないくらい便利だろう。

 ご飯も美味しい。魔物を食べてきたからわかる。絶対美味しい。

 だから、見せてあげたい。

 

 でも、この世界もいいところだ。

 建物の光も無いから、夜空の星々が良く見える。

 空気も変な排気ガスがないから綺麗に、そしておいしく感じられる。

 ご飯も工夫をすればきっと、こっちの世界の料理も美味しいものが作れるだろう。


 「見て見たいです。そんな綺麗な光景を、見て見たいです。」

 「……!」


 目を輝かせながら、こちらをじっと見て迫ってきた。


 でも、きっと帰れない。

 見せることができない。

 それが現実だ。


 俺は「それは、難しいことだ。」と言おうとしたが開きかけた口を無理矢理止めた。


 それを伝えるのは酷だから。

 こんなにも、純粋な目をしているんだから。


 頭を撫でながら俺は言った。


 「あぁ。いつか一緒に見に行きますか。俺の故郷を見に。」

 「はい!!」


 元気な返事が染みる。

 この約束は叶えられることはない。

 でも、それ以外の事は叶えさせてあげたい。

 この子が悲しむのは、絶対にダメだ。


 「いっぱい……いっぱい……リハエルのことを……教えてくだ……しゃ…い……。」


 その言葉を最後に眠りに落ちた。

 純粋な寝顔。

 まだ、10歳なんだと改めて実感させられる。俺の中身が38歳のおっさんだなんて知る由もないだろう。

 前世では、医者として様々な人を助けてきた。

 この手で、様々な命を助けてあげた。


 とりあえず、今世ではこの笑顔を守っていこう。


 だからこそ、この子のためにも村を救ってあげたい。

 これは、俺の感謝も込めてだ。


 風の魔法を命懸けで見せてもらった。その恩も返す。

 それと、故郷に連れて行けない代わりに、聞かせてあげないといけない。


 「あぁ。ゆっくりと教えてあげるさ。俺の故郷 ”日本” についてもな。」


 俺も、その誓いを最後に眠りに落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ