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第六話『静寂の森』

 鳥のさえずりが聞こえる。

 森が深いのか、日差しが中々入らない木漏れ日程度。でも、それがいい。

 少し不気味だが、6年間洞窟の中に居た時よりも圧倒的に明るく心地はいい。ごめんな、クリムゾン先生。南無南無。


 ――――ガルルルル……。


 犬か狼か。魔物の気配がする。

 

 来る。


 ――ガウガウ!!!!


 森の中から、四方八方から狼が襲ってくる。赤眼で腹を空かせているのだろう。ヨダレだらだらで目の前の餌(俺)に向かって飛びついてくる。


 これは、正当防衛ですね。


「汝、水の女神リヴァイアサンの名のもとに

 我に水の加護を貸したまえ。優しき心を糧に、その魂を解放せよ。

 流れる水の形を、何人(なんぴと)をも貫く槍となれ。」


 これは、普通に使うと一本を目の前の敵に飛ばす魔法だが、そのやり方を変えて応用する。この世界での魔法は1つの事に囚われてはいけないということに気が付いたんだ。この6年の魔法勉強を舐めないでいただきたい。

 リハエルの周りを囲うように水の輪が展開される。徐々に形を変えて鋭利な物へと変化していく。


 「水星の槍(マーキュリースピア)!!」


 詠唱終わりと、スキルの名前を言うと同時に指を鳴らす。

 その瞬間、周りを囲った水の輪が弾けるようにトゲトゲしたものへとなり、狼の魔物をその水の槍が突き刺す。狼の心臓や内臓はぐちゃぐちゃになっただろうか。一撃で倒してしまった。


 「おしまいっと。」

 「これ、魔物だからいいけど人間に使うとなると残酷だよなぁ……。こわ。」

 

 独り言が出てしまうくらいに残酷な惨状だった。

 よくよく考えれば、これまでに使った物全部物騒なものではあった。

 『水流の槍(アクアランス)』は岩をも砕く威力を持った一撃。

 『雨の槍(レインランス)』は無数の槍を雨のように降らせる殲滅技。

 『海に嘆く大波(ドラゴンウェーブ)』は多数の敵を溺死させる恐ろしい技。

 『水星の槍(マーキュリースピア)』は四方八方の敵をまとめて倒す全体攻撃。

 

 なんか、俺の考える技全部危なくね?

 心の中で、前世では人を生かす技を磨いてきたが、今では人も殺せる技ばかり考えていることに気が付く。

 狼の亡骸は、土に還る。木々の栄養になるようにと、土の中へ埋めた。

 

 ザザッ――


 ――?!


 振り返る。いつでも魔法が打てるように構える。

 魔法感知がビリビリしている。いや、魔法感知だけではない脳内にある本能が言っている。反応が少しでも遅れれば ”死ぬ” ということが。

 どこから来るかわからない。さっきの狼の比ではない。明らかにやばい気配。そこらにいる魔物の統率者なのか、全く違う何かなのか……。


 誰が来る。人間か魔物か。


 数秒後、攻撃が飛んでくる。


 ――ブォン!!!!!


 紙一重。

 斬撃が飛んできた。

 あり得るのか?

 現物を見たのは初めてだった。

 あれは高出力魔法なのか、ただの攻撃なのか。


 「痛っ……!」


 かすり傷。

 腕から血が流れる。

 どこからともなく飛んできたのは、おそらく風の魔法攻撃。

 詠唱の声が聞こえなかった。かなりの距離から飛んできたものなのか、無詠唱で使える魔法が存在するのか。考えることは多い。


 また来る。


 ――ブォン!!!!!


 今度は避けきれた。

 風の斬撃が飛んできた方向に走る。

 さほど距離があるわけでもない。走れば逃げられる前に間に合う。走っている最中にも何度も何度も風の斬撃が飛んでくる。魔法じゃない。これは、何度も受け流しているからわかる。ただの風圧だ。こんなにも強い切れ味の風圧は初めてだ。

 風の斬撃を飛ばしてきた本人が目に入る。


 化け物だった。


 「なっ……。」


 目を丸くした。現代では絶対にありえない生物。

 生物学的にも存在を否定したい化け物。

 そいつは、人の何倍もある戦斧を持ち、唸るその声は牛の声。筋肉質も普通の倍。牛人間とも呼ばれる化け物は『ミノタウロス』だった。


 「鼻息がうるさいなぁ、もう。」


 ――――ンモウゥゥゥ~~~!!!!


 巨大なその牛の化け物は、巨大な斧を振り上げる。

 風の斬撃ですらとてつもない威力。物理的な一撃を受けたら即死だ。かすり傷じゃ絶対に済まない。確実な死が待っていることが分かる。

 

 これは、咄嗟に思い付いたんだ。

 クリムゾンから教わった魔法の1つ。聞いていたものを実践することは初めてだったけど……

 咄嗟に覚えていた魔法を使わなきゃ死ぬ。失敗しても死ぬ。

 でも、これくらい乗り越えなきゃ、この先生き抜けないし、最強になんてなれない。

 そんなことを想い馳せていたんだ。


 「汝、守護神ガリディアスの名のもとに

 我に守護の加護を貸したまえ。鋼の鎧を身に纏う精神力を解放せよ。

 誰にも傷つけることのできない盾を生み出したまえ。」


 この詠唱魔法は、適性属性に問わない無属性というやつだ。

 6属性の範囲外。誰でも扱える唯一の属性の無い魔法。守護魔法。

 詠唱を終えようとしたときには、自身の周りには膨大な魔力が囲い始める。


 「星の守護神(スターガーディアン)!!」


 構えを取った自身の身体を、無数の六角形である青色の魔力が全身を包む。

 瞬間。

 ミノタウロスの大きな戦斧は、硬い魔力の防護壁に弾かれた。

 無傷の完全防御魔法になるのか、初めての試みだったため不完全かもしれない。

 一発で、魔力が散ってしまった。

 だけれど、その一瞬の弾かれ体勢を崩したミノタウロスに攻撃チャンスが到来した。


 「できた!!これも、女神からもらった『全能力者』のおかげか。」


 『全能力者』は、全ての属性が使える上に、自分のステータスが成長に合わせて大幅に上がるチート能力のパッシブスキル。きっとこれが魔法の才能を開花させているのだろう。


 「チャンスだ。ここしかない。」

 「ミノタウロス、お前は強いよ。だけど、俺はもっと強い。」

 「汝、水の女神リヴァイアサンの名のもとに

 我に水の加護を貸したまえ。優しき心を糧に、その魂を解放せよ。

 流れる水の形を、何人(なんぴと)をも貫く槍となれ。」


 右手に集中させた水の魔力の形を槍へと変形させる。


 「水流の槍(アクアランス)!!」


 スキル名を発言したと同時に、右手で作り上げた大きな水の槍をミノタウロスに目掛けて勢いよく吹き飛ばした。

 その槍は、ミノタウロスの額に突き刺さる。

 人間の一番大事なのは、心臓と脳だ。

 今、あの魔物の額を貫いた。

 脳で体に信号を送るから、そこが死ねば体は動かなくなる。

 血も流れなくなる、心臓の鼓動もすぐに止まる。

 もうじき、命が散る。


 その瞬間に、目の前の魔物は完全に動かなくなった。

 

 「はあはあ。」


 魔力消耗が激しい。

 それはそうだ、狼の魔物を討伐する際に1回。

 ミノタウロスの攻撃を防ぐのに1回。ミノタウロスを一撃で屠るために1回。

 そして、20歳の身体を維持するので合計4回。

 息切れするくらい、運動するのにめちゃくちゃに走った後みたいだった。

 シャトルラン100回超えた後みたいだった。


 「うっ……。強かったなぁ……。」


 思わず声が漏れた。

 腕はかすり傷とはいえ、血が結構出ちゃっている。止血をしなきゃ。

 服の袖を千切って、腕を縛る。包帯の代わりにはなるだろう。


 「……!!」

 

 気配を感じる。

 ここに来る前に感じた視線と同じ。


 「誰だ。」

 「ひっ……!」

 「出て来るんだ。ずっとつけてきたのか……?」


 驚いた。

 気配を消しながら現れたのは、びっくりする人物だった。


 そう、木陰から出てきたのは、小さい少女だったんだ。

 いや、成長期(トランス)を使う前の本来の自分の姿と同じくらいか。

 綺麗な白髪に翡翠色の瞳。白いワンピースを着た、アホ毛が目立つ少女だった。


 「えっと……子供……?」

 「うっ……き、キミだって……子供じゃん……。」


 そうだった。

 成長期(トランス)を使ってなかった……。

 てか、見られてたのかな……。

 と、変な心配ばかりする。


 「うるさいな!なんでこんな危険なところをウロウロしてんだよ!」

 「ひっ……!」


 いけない、怖がらせてしまったか。

 少女は、怯えたように木の陰に隠れてしまった。


 「ご、ごめん。そんなつもりじゃ……。」

 「うぅ……。」


 ゆっくりと、俺は立ち上がって歩み寄る。

 野良猫や野良犬に近づくように。ゆっくりと。


 「君は、なんでこんなところにいるの?」

 

 少女に、静かに尋ねた。

 

 そしたら、少女は少しして木の陰から出てきて言った。

 

 「私は、助けてほしくて……。村のみんなを助けてほしくて……。そしたら、強そうな人が……居たから。だから、ずっと見てたの。」


 少女は、助けを求めていた。

 体は小さいが、魔力の量は大きい子の少女。

 正体はわからないが、その真意は聞かなくても嘘はないと分かった。

 

 「わかった。俺でもいいなら聞くよ。」


 俺がそう言うと少女は嬉しそうに、そしてどこか安心したような顔をした。


 「ありがとう……お兄さん。」

 「あぁ、いや、俺まだ6歳だからお兄さんはむず痒いな……はは。」


 変な笑いが出た。

 でも、少女はびっくりしていた。


 「え、え、あれ……。小さいのは……。」


 驚く少女と理解するのに時間がかかりそうだったので教えてあげた。

 20歳の姿は、偽物の姿であり、本来の姿はこの6歳の身体ということを。


 「ビックリだよぉ……。私よりも年下だなんて……。」

 「俺もだよ、君が10歳で俺よりも4つ上だったなんて。」


 彼女は、10歳の少女。

 俺は、中身は38歳、身体は6歳の少年。

 なんか変な感じだが、そういう状況である。


 「で、助けてほしいことは……。」

 「はっ!そうだった!」


 忘れちゃいけないだろうに、びっくりするように口を押える。

 

 「村のみんなを助けてほしいの!!」


 大きな声で言った。彼女の願いと思いを。

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