第四話『封印の巣窟』
成長期を使用した状態での魔法訓練をここ数ヶ月行った。
20歳の状態でも、ある程度動けるようにはなってきた。
ただ、この姿を維持するのにも微量だが魔力の消費をしてしまうという難点がある。
光が散っていき、元の姿に変化していく。元の6歳の身体に戻ってしまった。
そして、俺は聞かなくてはいけない。
この洞窟について、なぜクリムゾンがここにずっと閉じこもっているのか。
「ねえ、クリムゾン。」
俺は、ふとクリムゾンの方を向いて尋ねた。
「なんでクリムゾンは、この洞窟にずっといるんですか?外に出てもいいのに。」
クリムゾンは、しばらく黙り込む。
静かに、この洞窟のあたりを見渡して上を向く。
「そろそろ、話しておかなくてはならないか。吾輩がここに留まる理由を。」
深刻そうに、そしてどこか寂しそうにそう告げた。
「この洞窟が ”封印の巣窟” と言われているのは伝えたな。」
クリムゾンがこちらを見て告げた。
俺は、こくりと頷き「うん。」とだけ相槌をした。
「今から300年前くらいか。吾輩は『ナンバーズ戦役』に参加していたんだ。参加といっても乱入戦の方が正しいか。その時、うっかり数千人を ”焼き殺した” 。」
俺は、耳を疑った。目をも丸くした。
数千もの人間を ”焼き殺した” ?
この世界ではわからないが、元の世界での殺しなんてご法度。
在ってはいけない出来事だ。
だってそれは、 ”悪人” が行うことだ。
このドラゴンは、クリムゾンは俺を育ててくれた恩人でもあるんだ。
子供を脅すための戯言なのではないのか?
「 ”焼き殺した” のは女、子供を殺した極悪人だけなのを頭に入れておいてくれ。吾輩には、無作為に人を殺す趣味はない。低俗な魔物と一緒にはするな。」
彼は、そう言っているが殺しは殺し。この世界ではそれが普通なのかもしれないが……
転生という、元の世界があった俺の中では複雑だ。
条件にはこのドラゴンが当てはまらないことを祈るばかりだが……。
「その罪が災いしてか、この世界の勇者と呼ばれる人間『シド』と言っていたか。その勇者なる人間に封印されてしまったのだ。この世界では物珍しい封印の術式を組み込まれた魔法とこの洞窟を媒介にしてな。この洞窟にふわふわ浮いている鉱石が魔力源。この最深部から出ようとすれば吾輩の身体は灰になって消える。」
クリムゾンがツンツンと魔力石である浮いている鉱石を指でつつかせながら話す。
一気に説明されて整理がつけられない。
勇者?封印の術式?出れば灰になる?非現実的な話もいいところだ。
「その勇者?ってのと灰になるってのは……?」
答えはわかりきっているが、念のため聞いてみた。
「勇者と呼ばれているだけだ。『シド』は男なのか女なのかわからなかった。独特な白い仮面をつけていたからな。お前と一緒で全ての属性を扱っていたぞ。」
全属性……?
俺は少し驚いたが、まあこの世界では珍しいというだけでゼロではないのだろう。まあ、ホイホイそんな珍しい存在が生まれていたら訳ないしな。
「灰になるのは、そのままの意味さ。この封印が特殊すぎてな~。吾輩の力と比例して大きくなる。吾輩が強すぎるせいでこの封印も強すぎるってわけ。」
やれやれだと言わんばかりに、でっかいため息をつく。
「一度外から出ようとして死にかけたことがあってな~。」
まるで他人事のように語るが、自分の命がかかっているってわかっているのか。
「いずれ、封印をぶち壊して復讐するのもありか……。」
人間のように手を顎に当てて考えている。
なんか、元の世界で言う『考える像』みたいだ。
と言っても――
「いやいや、仮にも勇者って善人側の人間でしょ?無作為に人を殺すのはしないんじゃないんですか?それともクリムゾンも低俗の魔物の仲間なんですか~?」
目を細めながら俺はドラゴンである怪物に迫った。
だって、復讐はしてほしくない。
なんなら、自由に生きてほしいと俺は思う。
だって、こんなにも不器用だけれど俺を殺さずに、むしろここまで育ててくれたんだ。こんなにも優しいドラゴンがいるなんて信じたくはないが、事実ここに居る。きっと誰よりも優しくて最強なドラゴンであり俺を育ててくれた恩師が。そんな奴がこんな狭いところで一生を過ごすなんて寂しいじゃないか。
「わかった。」
そう呟くと、クリムゾンは疑問そうにこちらを見つめてきた。
俺は、きっと何も考えていなかった。
そう、見えるだろう。
でも、咄嗟に出た言葉が、彼を救う言葉になるのなら言ってやる。
「じゃあ――」
「じゃあ、俺が、封印を解いてやる。そして、恩師であり父親の貴方をここから救い出します。この世界で最強になって見せます!!一生かけてでも必ず!!」
その言葉が、彼にとって……
クリムゾンにとってどれだけ大きく、そして救いのある言葉だったのかはわからない。
だが、確かに彼の瞳からは大粒の水が少しだけ零れ落ちたのだ。
ーーーーー
これは、数千以上もの前のお話であり、深紅の古龍 クリムゾンになる前のお話。
吾輩は、何千もの時を生きる珍しい種類のドラゴンだ。
生まれた時から、魔力が溢れており周りからも賞賛されていた。
父も母も普通のドラゴンだったが、吾輩は特別だったらしい。血のように真っ赤な鱗に青色の瞳、発達した大きな角。本当は父も母も違うんじゃないかと疑いたくもなるレベルで姿も形も違った。
数百年の時を経て、吾輩は『古龍』と呼ばれはじめた。かっこいい。
だが、そのかっこよさとは正反対に忌み嫌う者も多かった。
ドラゴンは、遥か昔から人間を襲い、殲滅するような存在と言い伝えられ続けた。
別にそんなことはない。吾輩は、人間なんか食わん。美味しくないし。
それだったら昔に焼いた魚を食べていた方が幾分かマシだ。塩加減もしっかりしていればもっと美味しい。それを人間が教えてくれたのだから。
その人間が、吾輩に水魔法も教えてくれた。
火属性、地属性、風属性の3属性は己の肉体を使って体現可能な才を持っていた。感覚で全て使いこなせていたのに、水属性だけはうまく使えなかったのだ。
だから、吾輩たちの住む集落である龍の里『イゾルディアス』というところに訪れた人間。その人間から料理もごちそうしてもらって、魔法についても詳しく教えてもらった。言わば師匠というやつだ。
吾輩の魔力量を見てもらって、水属性について適性がないわけではない。むしろ水属性こそが吾輩の適性であったことを見抜いた。吾輩の中では、最強と言える人間だった。
今、その人間はもう死んでいるだろう。
だって、人間というものは長く生きても100年近くだろう。
奇跡的に何らかの魔術で100年の時を生き永らえたとしても……
『ナンバーズ戦役』で生き残れたと思わない。
あの悲惨な戦争は二度と起きないと思いたいが酷かった。
奴隷を使って戦に乗り込む国、自らの力を過信して突っ込む無謀な勇気を振りかざす国、一致団結するも敵国のスパイに崩されるバカな国、魔物を使役する国、平民を守らない屑ともいえる国。そんな自分勝手な国が多すぎて話にもならなかった。
だからこそ、吾輩の力で納めようと、極悪人共だけを焼き殺したんだ。
数千人もの被害が出た、災厄の古龍『ディザスター』と呼ばれていた。吾輩の通った国々は滅ぶだの、人が全滅して滅亡してしまうなどと、ありもしない噂が大量にばらまかれた。
数ヶ月の時を使って、吾輩はもう戦争ができなくなるほどにボロボロにした。街も国も島も燃やし尽くした。
それが災いしたのか、人間らは危険因子と判断して勇者を招き入れたのだろう。
どこの国の勇者様かわからないが、一撃で屠れるような一撃を何度も何度も吾輩に剣を振りかざしてきた。もちろん、吾輩にはその程度の攻撃は効いてもいなかったが。
「我が名は、勇者『シド=アバロン』お前を殺す者の名だ。」
女なのか、男なのか……
全く分からない声質だ。不気味。それに尽きない。
白い仮面を被っている黒髪で長髪の者。黒いローブを身にまとっている。
勇者と名乗っているが、まるで魔王みたいじゃないか。
禍々しいオーラと魔力。吾輩にはわかる。この者は、”化け物” だ。
「汝、我に聖なる導きを魅せよ。幾人もの魂が願う永劫の扉を開き、かの者を永久の洞窟へと封じ込めよ。」
その詠唱が終わったと同時に、吾輩の魔力は外で一気に使えなくなり動けなくなった。噂に聞いていた『封印の術式』というやつだった。
――瞬間
吾輩は、真っ暗な場所へと転移させられた。
暗く、何もない……いや魔石が大量に浮いている空間へと閉じ込められてしまった。
数百年、数千年……
数えるのも疲れるほどに時間が経った。
とっても暇である。
一度は、外に出ることも試みた。でも、外に出ようとすると死んじゃう。それが一回でわかった。
数十年経ったある日、泣き声が聞こえてきたんだ。産声。
吾輩、知らぬ間に赤ん坊を産んだのかと勘違いした。
洞窟の奥を見れば、真っ暗闇に溶け込む1人の影が見えた。
誰かはわからなかった。ただ、その寂しい背中は忘れることはない。
そして、下を向くと人間の子供がいた。捨て子……?というやつか。可哀想に。吾輩にこの子を守る資格はあるのか。人々を殺し続けた吾輩に。
いや、罪滅ぼしをしろという神からのお告げなのかもしれない。これまで殺してきた分、優しく守り抜けというのが、神様からの最後のチャンスなのかもしれない。
ならば、吾輩は、この子供を守り続けようではないか。それで許されるのなら。
吾輩が、師匠に育てられたように……
この子供を、今度は吾輩が師匠として育ていこう。何年も何年も……この封印の洞窟からこの子が出るその時まで吾輩は守り続けてやるさ。
この最強の古龍。災厄の古龍 ディザスターが――――
いや、その忌まわしい名は捨てよう。
新たな名前は、この子供が大きくなったら共に決めるのも悪くは無いか。
この子の名は、何がいいか……
今から考えておくか、かっこいい名前が良いか。
暇だったこの空間も、数年は楽しくなりそうで嬉しいな。
深紅の古龍、後のクリムゾンは赤子を横目に人のように笑う。
それは、心から出た笑みだった。数千年ぶりの笑みだったんだ。




