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第二話『名前』

 ドラゴンと出会って6年の月日が経った。

 まず初めに魔法の使い方と実際に見て覚えるところから始めた。ところがどうしたことか。

 このドラゴンには先生という職業は合ってない。

 口から火を吹く、羽根を使って風を飛ばす、足を使って地面を操る。人間離れした能力を見せつけられて自慢を始められました。

 でも、水魔法の扱いだけは苦手なのか、逆にしっかりと分かりやすく教えてくれた。火、地、風の3属性は天賦の才で感覚派だったらしいが、水だけは苦手で師匠に教えてもらったとか。ドラゴンにも師弟関係があるんだと思い知った瞬間だ。


 6歳にもなって、多少なりに言語も話せるようになった。ラスリー大陸で主流となっている『トーヒ語』から教えてもらった。元の世界でいう『日本語』に近い言語だった。ありがたい。

 それから、長生きしているドラゴンだからか様々な言語を知っていたんだ。龍族が主に扱う言語『ゴランド語』、獣人族が主に扱う『モノケ語』、妖精族が主に扱う『セイレイ語』の3ヶ国語を教えてもらった。それぞれの種族の特徴などを詳しく教えてもらった。歴史と同じく。


 「汝、水の女神リヴァイアサンの名のもとに

 我に水の加護を貸したまえ。優しき心を糧に、その魂を解放せよ。

 流れる水の形を、何人(なんぴと)をも貫く槍となれ。」


 「水流の槍(アクアランス)!!」


 黒髪、緋色の瞳をした少年が水魔法を扱うための詠唱を済ませ、手のひらに作った水の槍が勢いよく洞窟の岩へと飛んでいく。バラバラに砕けるほどの威力で。


 「凄まじい威力だな。水属性だけなら吾輩とタメを張れるぞ。」


 大きな身体をした深紅のドラゴンが大きな翼をパタパタさせながら念話で話しかけてくる。


 「そ、そうかな……?」


 水属性が苦手というのもあるが、この大きなドラゴンと肩を並べられるのは少し嬉しかった。


 「そこでだ、お前お前と6年も呼び続けるのも変な感じがしてな。名前を聞きたいのだが、お前はなんというのだ?」


 そういえば、気にもしていなかったが、前の世界の名前はあるがこっちで名乗るわけにもいかない。こちの世界の名前はもちろん知らないし無いに等しいだろう。


 「名前はないよ。生まれてすぐあんたと一緒にいるんだから。」


 「では、吾輩がつけてやろう。その代わり、お前も吾輩に名前を付けろ。」


 ドラゴンの中でも、このドラゴンは明らかに上位種だというのに名前がないのか。と疑問にも思っていた。まあ、でも名前をくれるのはありがたい。


 「ありがとう。じゃあ、付けてくれよ。」


 ドラゴンは、数秒か、数分か、考えてから念話で教えてくれた。


 「お前の名は、リハエル。そう名乗るのだ。」


 リハエル。まるで元の世界で言う天使に属しそうな名前だな。めちゃくちゃ重たく感じたが、それよりもすごく嬉しかった。親が子に名前を付けるのは、こんなにも嬉しいものなのかな。


 「吾輩にも与えてくれ、名を。」


 しばらく考えてから、俺はふと地元の言葉を頭の中で並べてみていた。

 『フェニックス』『ノヴァ』『ヴァルキリー』『レックス』

 どれもしっくりこない……。


 かっこよくて強そうな名前の方がいいのに。

 深紅の龍。デカくて強い特別な存在。


 「クリムゾン。クリムゾンというのはどうだ?」


 まんま深紅を英語にしただけだが……

 とても安直な名前だが……


 「クリムゾン!!良い名だ!!かっこいい!!」


 子供か。と心の中で言ってしまうほどにはしゃいでいる。


 「お前の名は、リハエル=クリムゾンということにしよう。家族のようなものだからな。お前言っていたではないか、家族は名前を一緒にする的なことをよ。だから、これからも共に生きていこう。」


 ―――――!!


 元居た世界の事を思い出す。


 「6歳の誕生日おめでとう~!これ、欲しかったんでしょ?」


 茶髪の綺麗な女性。俺の元の世界の母親。

 物心がついて初めて頂いたプレゼント『医学の本』。ただの医者になるために欲しいと思っていた分厚い本だが、嬉しかったんだ。人から何かをもらうということ。


 「おぉ。じゃあ、俺からも渡さなきゃな!!」


 金髪のイケイケな男性。俺の元の世界の父親。

 初めてのプレゼントは『コン〇ーム』。ふざけているのか。当初6歳の使い方も知らない純粋無垢な子供になんてものを渡しているんだ。と今では思う。バカな父親だったが、優しくて思いやりのある最高の父親だった。


 2人とも、本当にいい俺の両親だったのに、今どうしているんだろうか。優しいからな、泣いてくれているのかな。それとも、まだ知らない……それはないか。

 

 懐かしい思い出が込み上げてくる。

 リハエル=クリムゾン。この世界で得た初めてのプレゼント。そして、その瞳から1滴の雫が零れ落ちた。これが、嬉しいという感情からなのか、父と母を心配して出てきてしまったものなのかはわからない。でも、この世界でのこの嬉しい気持ちは本当だ。


 だから、言おう。この気持ちを――――


「はい。お父様。これからも共に生きましょう。」

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