第十一話『祠の守護者』
朝が来た。
祠を目指すために、出発の準備をする。
村長は、シャチに事情を説明しているのか、2人の姿は見えない。
「よっこいしょ。」
重たい荷物を持ち上げる。
ようやく準備が終わった。
ポーションや必要のない木の板をもらった。
木の板は、もし万が一に魔法陣が必要になった場合の基盤。
この世界では紙が高価なものだから、中々に手に入らないという。
「リハルド様。もう準備は終わったのですか?」
「はい。ポーションと木の板を分けていただいてありがとうございます。よかったのですか?」
「滅相もないですよ。村を救ってくれた報酬とシャチちゃんの旅の門出の選別も含めてです。」
村人の一人が代表して言ってくれた。
1000リア(この世界での金銭)も頂けたんだ。
1リアを日本円で表すと1円分となる。わかりやすくて助かる。
「では、遠慮なく旅の経費としていただきます。」
「大丈夫さ。それよりも、祠に行く際には気を付けるんだぞ。」
「気を付ける?」
村人が真剣顔つきでこちらを見てきた。
「あぁ。あの祠には、その祠を守るという守護者がいるらしいんだ。かなりの手練れという噂もあるから気を付けて言って来いってことさ。」
祠を守る人がいるらしい。
正直『未来視』があれば問題なく解決はできそうだが……。
2秒先と言っても、こちらの反応が間に合わない速度で襲われたら生死にかかわる。
もっと鍛える必要はありそうだ。
「はい。わかりました。ご忠告感謝します。」
ちなみに村の人には、6歳ということは秘密である。
シャチとクリムゾンしか知らないのだ。
なぜなら、説明をするのがめんどいからだ。
「リハエルー!」
シャチが村長の家からこっちに大きな声で手を振りながら声を掛ける。
初めて出会った時よりも、いい顔になった。
あんなにも引っ込み思案で、人見知りだった者とは思えない。
俺は、咄嗟だったが手を振り返した。
「行きましょう。シャチ。」
「はいっ!」
「では、リハエル殿。どうか娘を頼みます。」
「お任せください。必ず、守り抜いて見せますよ。」
村長は、一礼をして俺たちを見送ってくれた。
そして、俺たちは祠に向け村を後にした。
「リハエル。」
「どうしましたか?」
「私、この試練を上手くやれるかな?」
不安そうな表情になっている。
それもそうだ。
知らない場所、そして急に告げられた祠に行けという話。
不安じゃない方がおかしいんじゃないのか。
「大丈夫です。シャチならできますよ。俺が見てきましたから。」
元気づけることしかできない。
それが、今の俺にできることだ。
どんなに苦しい試練が待っていても、これは彼女の試練。
俺にどうこうすることは許されないのかもしれない。
ただ、危険と判断したら……俺は迷わず彼女を助ける。
「リハエルがそういうなら!私、できる気がします!」
少女は、笑顔になり腕に抱き着いてくる。
なんて積極的なんだ。
こんな子だとは。
いくらおじさんでも、ドキドキしちゃいます。
「さあ、あれが祠のある洞穴ですね。」
「うっ……。」
目の前には開けた空間。
そして、洞穴のある岩山。この中に祠があるらしいが。
ただで行けそうもない。
「なんだ、ここはお子様が来るようなところではないぞ。」
祠の守護者と言ったところか。
洞穴の前に、立ちはだかる者がいる。
ただの人間……じゃないようだ。
「あなたは?ただの人間には見えませんが。」
白と黒の短い髪の毛。
鋭い瞳孔は青い色。
成長期状態の俺より小さく幼い。シャチと同じくらいか。
服装は、どこかの民族の服装のようだ。淡い緑色で虎の刻印。
何より目立つ、白色の耳と尾。
決まりだ。彼は『獣人族』である。
「俺の名は『フィスト=カーニバル』だ!この『風脈の祠』を守る者だ!!」
「じゃあ、フィスト。俺たちはその中にある物に用がある。大人しく通す気は……。」
「ない!立ち去れ!」
「そうはいかないんですよ。頼まれ事ですから。」
「頼まれ事?てことは、試練の挑戦者か。」
試練の挑戦者。
この流れは、試練をクリアするには俺を倒せ。的なこと言ってくるな。
まるでゲームのような展開じゃないか。
「どっちが挑戦するんだ?お前か?それとも、そこの姫さんか?」
フィストは、指を差しながら聞いてくる。
姫さんってなんだ……。
「俺じゃない。この子だ。」
俺はシャチを紹介し、この子が挑戦者ということを伝える。
「そうか。そこの姫さんが今回の相手だな。」
「えっ……!!」
「姫さんでも、俺は手加減はしないぞ。」
とても説明がない。
割と自分勝手なのかこの獣人。
「待て待て。試練って何をすればいい。詳しく話すべきだろう?」
「俺と戦う!それだけだ!」
「なっ……だから……」
「大丈夫。リハエル。私、やれるよ。」
シャチが俺の前に立って静止させた。
よっぽど今の自分よりも大人の目だった。
覚悟が決まっている。でも同時に、少し震えている。
「わかった。でも、やばくなったら戻って来いよ。」
俺は、震える手を支えてあげた。
「うんっ。ありがとう。」
シャチが前に出る。
フィストも戦闘態勢に入った。
魔力量ではややシャチが有利だけど……。
実戦経験は彼の方が上手だな。
「行くぞ。」
とてつもない速度で地を蹴り、瞬きをする間にシャチの目の前にいる。
フィストの振りかざす拳は、魔力の籠っていないただのパンチ。
だが、その威力は―――
―――ドガンッッ!!!!!
地を割るほどの威力。
見えていたのか、偶然か、本能か。そんなことはわからなかった。
でも、紙一重でシャチは避けた。
「汝……」
シャチは詠唱の構えに入る。
ただ、これは俺でも苦労した芸当だ。
目の前の1対1の状態での詠唱。
たかが数秒。その隙を狙わないバカなヤツは知性の無い魔物だけだ。
俺は、あの化け物ドラゴン様に死に際まで教え込まれた。
何度逃げ出そうとしたか……。
詠唱しつつ、敵の攻撃を見極める芸当。『詠唱回避』。
教えてもないことだ。できるはずがない。
「敵を目の前にして、詠唱とはいい度胸だ。」
「でも、俺はその隙を見逃すほどお人好しじゃねぇんだわ!!」
フィストは、シャチに向かい攻撃を止めない。
拳はシャチの腹部、顔、胸部。
的確に狙いを定めて狙っている。
『未来視』で見なくてもわかる。
このままだと、シャチは負けてしまう。
でも―――
それは―――
違った。
シャチの目は、拳を捉え見ている。
本当にあの怯えていた少女なのか?と疑問にも思える。
俺は、止めて守ろうと考えていたのに足は動かず……
ただ、目を丸くさせ彼女を見ていた。
「汝、風の女神アイオロスの名のもとに
我に風の加護を貸したまえ。自然の力を糧に、その魂を解放せよ。
我の地を駆ける足へ、風の力を身に纏わせよ。」
なんだ、全部見えているじゃないか。
フィストも弱くはない。
素早い動きと、拳に籠る力。
そして、先を見据えた目。
そこら辺の魔物や蛮族なら数秒で決着している。
この試練に挑む人間がシャチじゃなければ、数秒で追い返してただろう。
「な……詠唱が……!!」
フィストは、何かを感じ取ったのか攻撃をやめ後退る。
完璧な身のこなし。
「旋風脚。」
シャチの足に、強力な魔力が集まっている。
その刹那―――
凄まじい勢いで巻き上げられた土煙の中、
俺の目が捉えていたのは、シャチの蹴りがフィストに直撃したとこだ。
「ぐっ…ぁ……!!」
その前の動作も見えていた。
左足の魔力は大地を蹴っていた。その勢いで巻き上げられた土煙。
あり得ない速度で、フィストの顔面へ飛んでいた。
右足の魔力を残していたのは、最後の一撃のため。
宿っていたのは風の魔力。
フィストもその一撃を耐えるために、左腕で顔を守っていた。
いい反射神経だと思った。
でも、風の影響で威力は上がっていた。
普通の魔力+風圧のコンポ。気は失わなかったが無傷ってわけにもいかない。
これは、シャチの機転の良さが勝利に導いた。
「くっ……。」
「はぁはぁ……私はまだやれますよ。」
なんか、意外とシャチって戦闘好きなのかな。
やる気が凄い。アドレナリンってやつか?
「あぁぁ……くそ……。こんな子供に……。くそだ。」
「ん?」
「あああああぁあぁぁあああ!!!!!」
とてつもない叫び声だ。
怒っているのか、すごい気合が感じる。
なにか、やばい。
「まだだ、まだ一撃も当てれてない。こんなんじゃ師匠に顔向けできねぇんだよぉぉ!!!」
みるみるうちに魔力が膨れ上がっている。
その姿は、まるで人ではない何か。
獣人族特有の変化。
クリムゾンに教えてもらった話の通り。
プライドの高い獣人族にのみ有された力。
『獣化』だ。
フィストの姿は、白と黒の虎のような姿になっている。
自分の弱さが怒りとなって変化した姿。
「まだ、これからだぞ……!!ガキィ……!!」
鋭い牙、鋭利な爪。強靭な肉体。
先ほどの小柄な獣人族とは思えない変貌。
俺の成長期と同じような感じか。
まるで、大人顔向けの威圧感がある。
これが『祠の守護者』の本来の姿なんだ。




