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第十話『けじめ』

 俺たちは、セバスの計画を防ぎ少女の住む村へと足を運んでいた。

 もう何人かは、目が覚めているようだった。

 その、魔物の残骸が残っている村の掃除などを行っている人や、心配そうに他の村人を見る人もいる。


 俺が村に入ると、村人のみんなはこちらを見つめる。

 みんなは知らないだろうから、部外者が来たと思われている。


 「ま、まさか……またこの村を……!!」


 農具を持った筋肉質の人がこちらに敵意を向けている。

 それもそうだ。

 先ほど、殺されかけたのだから。


 「先の者の手先か……!!」

 「ひぃ……。」


 筋肉質の人間以外はみんな怯えている。

 『ヒューマンプラント』に襲われたせいか、完全に疑心暗鬼になっている。


 「落ち着いて聞いてください。」

 「敵に貸す耳は無い!!」

 「だから、敵じゃない。落ち着いて聞いてくれ。」


 何を言っても聞く耳を持たない。

 あの行商人……いや『影』を名乗った諜報員め余計なことを。


 どうしたものかと考えていると、俺の背後で隠れていたシャチが顔を出す。


 「お……お父さん!!」

 「シャ……シャチか……!?」


 シャチを見て、村人のみんなが心配そうな眼差しを送る。

 少女が攫われたものだと思っていたのか、安堵している人もいる。


 「この人は悪い人じゃないです!私を助けてくれた優しいお方です!!」

 

 シャチが、必死に訴えかける。

 シャチなりの勇気を振り絞ったのだろう。

 

 「シャ、シャチ……それは一体……?」


 村人たちは、ざわざわとしたが

 ようやく俺の言い分を聞いてくれそうになった。


 「あのー。この村を侵食していた植物は全て焼き払っておきました。村人の皆さん全員の命には別状はありません。」


 起きた事の顛末を、村長と今その場にいる村人に説明した。

 『ヒューマンプラント』との戦い。

 行商人を名乗るセバスという男について。

 そして、シャチが狙われているということを。


 「な、なんと……。シャチが……。」

 「はい。憶測ではありますが、シャチが何らかの理由で狙われています。」

 「うちの子がご迷惑を……。」


 シャチの父親が、この村の長だったんだ。

 とても、申し訳なさそうに頭を下げている。

 確かに助けてあげたが、ここまで頭を下げられると逆に申し訳なくなる。


 「そこで提案なんですが……。」


 正直、少しビビっている。

 何言われるのかわからない。

 反対される可能性が高いから。


 「俺は、ある方を助けてあげたく旅を始めました。娘さんを、俺と一緒に旅に連れて行ってもよろしいでしょう……か。」


 気が付くと、俺の目の前には拳があった。


 ―――ドガッ!!!


 「リハエル……?!ちょっとお父さん?!」


 シャチが、びっくりしながら動けないでいる。


 激しく身体が吹き飛び壁に衝撃が走る。

 まさか、ここまで拒絶されるとは……。

 娘をくださいと挨拶しているわけではないが……。

 今のでわかった。


 この男は、自分の子供に溺愛している……!


 「お前さんには、感謝をしている。命の恩人だ。」

 「だが、お前さんのようなまだ発展途上の子度に預けるには不安だな。あぁ?」


 まるでヤクザのような形相じゃないか。怖い。

 言葉より手が先に出るタイプのパパさんですか。


 「でも、あの植物を殲滅できるくらいの力はありますよ。」

 「だが、俺の拳は避けられない程度だ。」

 

 避けられなかったのではない。避けなかったのだ。

 村長の動き出しから、拳が飛んでくる直前までの動作は見えていた。

 ぶっ飛ばされる覚悟はあったし、それが道理と思ったから。


 「俺と戦え若造。勝てば娘を連れて行ってもいいだろう。ただし、負ければ諦めてもらうぞ。」

 「ちょっとお父さん?!」

 「シャチは黙ってみていなさい。」


 なんでこうなってるんだか。

 でも、勝てばいいなら簡単だな。


 「わかりました。魔法なしで純粋な力の勝負と言ったとこでしょうか?」

 「あぁ。降参するか、ダウンを取った方が勝ちだ。」

 「わかりました。それで行きましょう。」


 筋肉質で、格闘技には自信ありそうな村長。

 黒髪で翡翠色の瞳だ。

 顔つきはシャチには似ていない。シャチは母親似なのかもしれない。


 「それでは、手加減はしないぞ若造。」


 格闘技の経験は、昔に学校で柔道と空手をやっていたから心得はある。

 一応、6年間あの古龍の連れてきた魔物とも戦っていたから実戦にも慣れている。


 ―――ダッ!!!


 その筋肉量からは想像もできない瞬発力とスピード。

 右のストレートが顔目掛けて飛んでくる。

 でも、俺はそれを華麗に避ける。

 村長は、驚きを見せた。


 動きが見える。

 よく見える。

 右のストレートの次は、左のストレート。

 めちゃくちゃ素早い攻撃だけれど見える。


 これはちょっとずるいかもしれないが、近接戦闘において有利に戦えるようにしている。

 女神様から得た最後のスキル。

 3つ目の固有スキル。『未来視(ビジョン)』のおかげだ。

 少し先の未来が見える。

 今の成長レベルでは、2秒が限界だが使える。

 格闘戦闘だと次の攻撃が、自然の動きだと木々の揺らぎが。

 『未来視(ビジョン)』を使っている間は、2秒先の未来が見える。

 魔力を目に集中させるため、『身体透過(スケルティ)』とは併用不可能。

 使い終わった後は、疲れ目がひどい。

 数時間以上ゲームをし続けた後みたいになる。


 「まだ、かすりもしてませんよ。」

 「くっ……!若造が!!」


 突進。

 左ストレートがボディに来る。

 いや、フェイク。

 ボディと見せかけて、右フックが飛んでくる。


 俺は、それを華麗に避けて見せた。

 そして、足を引っかけてバランスを崩す。

 最後に、寝技を決めて終わりだ。


 「さあ、ゲームオーバーですね。」

 「わかった。わかったよ。俺の負けだ。」


 勝敗が決まった。

 魔力を解き、村長を解放した。

 

 村長との一騎打ちが終わり、日も落ち始めたので今晩は泊めてくれることになった。

 村の人たちからは感謝の意を込めての事だろう。

 シャチも疲れたのかもう眠りについている。

 

 「リハエル殿。」


 なんか、若造呼ばわりからリハエル”殿” と呼ばれるようになりました。

 すごく昇進しました。


 「はい?なんですか?」

 「あなたが強いのは十分わかりました。ですが、娘は……。」


 ん?

 村長は知らないのか。

 シャチの魔力量が高くて風魔法が凄まじいことを。


 「娘と旅に出るのはいいが、戦えないとご迷惑がかかるのではないでしょうか?」

 「いえいえ。娘さんはすごいです。」

 「え?」

 「たったの1日程度共にしただけでしたが、勇気と魔力が大きく、その辺の魔物くらいなら倒せます。伸びしろももちろんありますよ。」

 

 昨日の出来事を、村長に語った。

 狼程度なら1人で殲滅できる。それだけ強いんだ。

 でも、きっと村長……父親からしたら不安なのかな。

 それくらいは察することができる。


 「娘に魔法の才能があるのは、俺も妻もわかっています。」

 「ですが、まだ10歳。1年前に妻を亡くしたばかりであの子もきっと……。」


 シャチの母親がもういないのは察していた。

 村のどこを探しても、シャチに似た人はいなく彼女からも話そうとはしなかったから。


 「でも、大丈夫です。あの子は強い。」


 自信を持っていい。

 あの子がいなければ村が滅んでいた。

 今の俺だと、きっとどこかで躓く。

 だから、あの子が強く勇敢なのを肯定してあげるんだ。


 「近くで見て実感もしてます。あの子は本物です。シャチが居なければ村も滅んでいたでしょう。俺も死んでいたかもしれない。」

 「シャチが居たからこそ、救われた命なんです。この村も俺も。」

 「不安なのも心配なのもわかります。だけど、父であるあなたが信用してあげてください。あの子が自信をもって旅立てるように。」


 まだまだ父親からしたら、子供にしか見えない俺が言っても説得力はないだろう。

 でも、思ったことは言うべきだ。

 俺の言葉に、少しは心を開いてくれたのか、わかってくれたのか……。

 彼の顔にあった不安と心配の表情が消えていた。


 「では、1つだけお願いを聞いてくれますか。リハエル殿。」

 「はい。」

 

 なにか、覚悟を決めた顔をしている。

 まさか私も行きましょうとか言わないよな。

 そんな不安があった。


 「ここより、少し離れたところに小さき祠があります。」


 さすがに違ったみたいだ。


 「『その祠にある物を取ってくる。』それが条件です。」

 「祠にある物?ですか?」

 「はい。昔からの風習です。旅立たせる子への試練というやつなのですが、それを娘に受けてもらいたいのです。」

 「リハエル殿の言葉を信じていないわけでも、娘を信じていないわけでもありません。ただ、これは村長として、父親としてのけじめと覚悟のために受けて欲しいのです。」


 すごく熱い眼差しで見ている。

 まあ、村の風習。よくある話だ。

 それを否定するということは、シャチの強さと今までの言葉を否定するも同じ。

 答えは――


 「はい。わかりました。」


 もちろん”イエス”だ。

 シャチの秘められた力を出すのにもってこいだ。

 魔物たちとの戦い方を教えてあげるチャンスでもある。

 

 「では、明日の早朝から娘にも伝えておきます。」


 祠に何があるのかは聞かなくてもいい。

 聞いたら楽しみがなくなるというものだしな。

 昔のゲーマー時代を思い出す。

 小学生の頃はゲーマーだった俺だが、中学からは医学の勉強で忙しかった。

 なんか、小学生の頃のゲーマー時代の心に戻っている気がして少し嬉しい。


 「それでは、お先に失礼します。」


 村長はそう言って、俺が借りている部屋から立ち去った。


 俺も明日に向けて準備をした後、

 疲れていたのか、すぐに眠りについた。

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