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第九話『仲間』

今回の話には少々残酷な描写がございます。

 いないんだ。

 ここに来たなら状況を知らないわけない。

 ただの行商人だから逃げただけなのか。

 それにしても、おかしな点が多い。

 シャチが森林の入り口から見ていた時には、植物が襲っていた。

 でも、話を聞く限りはまだすごく小さくあそこまで大きく広がっていなかった。

 行商人は馬車を使っていた。あの村に向かうなら1日もかからないはず。だが、ある憶測を交えて考えると合点がいく。

 

 強制的に成長させる魔術がある可能性。


 だけれど何のために。


 「ねぇ、リハエル?大丈夫?」

 「あ、あぁ。ごめ、すみません。」


 思考を巡らせていると周りの声が聞こえなくなる。

 シャチが心配そうにこっちを見ている。

 安心させるんじゃなかったのか。


 「大丈夫。大丈夫です。」

 

 馬車を使っているなら、もうここから離れちゃってるか。

 追うことがもうできない。


 だけど、もし狙いがある ”ヤバイ奴” なら。


 「……!!」

 「シャチ!!」


 俺は咄嗟に、シャチに手を伸ばす。

 1秒か、2秒か……

 数秒のラグが命取りになることがある。

 瞬きが終わった数秒後には、目の前のシャチは網で囚われていた。

 

 「え……リハ……いやぁぁあああああ!!!!」


 ―――ブォン!!!


 シャチが網で捕まってからものの数秒で引っ張られ、森の中に消えていく。


 「シャチぃぃいいいい!!!!!」


 シャチの消えた森の方角を確認する。

 これで明白だ。

 狙われているのは、狙われていたのはシャチだった。

 

 行商人が黒幕なのか。

 それは、分からなかった。

 でも、とにかく今は助けなきゃいけない。

 あの優しい少女を。


 くっそ。油断だった。

 俺は悔やみながらも、森の中を走り続ける。

 魔力感知で、シャチの魔力は覚えているから追える。


 「……!!」

 

 俺は足を止めた。

 冷静に分析するべきだと判断したんだ。

 闇雲にシャチを追っても追いつけないかもしれない。

 だから、怪しい奴を叩いて取引をする。

 最善を尽くす。


 俺は、魔力を集中させて魔力感知を更に広く拡大してみた。

 

 集中しろ。

 とにかく、引っ掛かったやつのもとに片っ端から。


 「掛かった!!」


 魔力感知に複数の魔物が引っ掛かった。

 東方向に散り散りに複数。これは、野生の狼だろう。

 南方向は、微力な魔力。村があるからその住民だろう。

 今向かっている方向はシャチと素早い魔力が1匹。何かの魔物。

 西方向に、魔力に囲まれている魔力が1つ。

 一番キナ臭い。


 「そこか……!!」


 俺は、西の方角に走る。

 一番怪しいと思ったからだ。

 いや、もしかしたらただ魔物に囲まれた一般人かもしれない。


 目的地に到達した。


 ―――ザザッ!!


 俺の瞳に写ったのは、その男を囲んで守るようにした魔物たち。

 そして、見覚えのある男の姿。


 それは―――――


 「セバス=ワタリィィイ!!!!」

 「おんやぁ~?あの時の旅人さんじゃないですか~?名前を憶えててくれて嬉しい限りですねぇ~!」


 思考を駆け巡らせる。

 魔物の数はおよそ20匹。

 こいつらを一気に屠る魔法を俺は……


 「汝、水の女神リヴァイアサンの名のもとに

 我に水の加護を貸したまえ。優しき心を糧に、その魂を解放せよ。

 無数に降り注ぐ雨の如く、天に恵まれた力を我に貸したまえ!」


 今回は魔力を渋らなくていい。一番得意な水魔法で一気に終わらせる。

 魔物の黒い狼の数はおよそ20匹。

 あの時のスライムよりも多い上に、強い魔物だからこそ調整しない。


 「雨の槍(レインランス)!!」


 ―――ザァアアアアアア!!!!


 行商人、セバスは咄嗟に魔力道具を使いバリアを張ったようだ。

 だが、周りの魔物は雨の槍(レインランス)でズタボロにさせた。

 魔物が消失していく。

 実体が無くなっていく。

 見るからに行商人の魔術であった。召喚魔術か何かだろう。

 

 「く……やりますねぇ~……!目につけていたけど、こんなにも早く再開できるとは驚きですよぉ~。」

 「何が目的だ。やはりシャチか。」

 「よくわかっているじゃないですかぁ~。でも、目的とかは私にはわからないんですよぉ~。」

 「はぁ?」

 「あらら、お察しが悪いんだ~か~ら~。依頼ですよ、い・ら・い。」

 

 このひげおっさんは自分の立場が全然わかっていない。

 今でも楽観的で楽しそうにお話をしている。

 それよりも、こいつは依頼と言った。

 依頼ということは、雇われている人間。

 情報を聞き出すしかない。


 「依頼って何のために、誰にされたんだ。」

 「いやいや、言えるわけがないじゃないですかぁ~。依頼主の事は何も話せませんよぉ~?」


 まあ、当然の事だな。

 雇い主の事は話せない。


 「まあ、いい。シャチを返してもらおうか。」

 「それはできない相談ですよぉ~?だって……」

 

 ―――パシュッ!!!


 目の前の人間には、一瞬の出来事に感じただろう。

 だって今、目の前で自分の左腕が吹き飛んでいるんだから。


 「え、ええぇぇぇえええ!?!?」


 これは、無詠唱で行った。

 いや、正確には魔法陣を使った魔法だ。

 クリムゾンから魔法陣についてあらかた教えてもらっておいてよかった。

 ここに来るまでに、木々や地面に魔法陣を書いておいた。

 魔力を流し込むだけで発動する自動魔法(オートマジック)

 水の刃を飛ばすイメージで作った魔法陣。

 魔力の消費も省エネで済むから、昔重宝されていたのは頷ける。

 魔法陣は条件さえ整えば自由に作れる。無限の可能性がある魔法使いの中でも夢がある代物だった。


 「あんたが寄こした使い魔?魔物?もうすぐここに来るんだろ?」

 「ひぇ……。」

 「それがシャチを抱えている。こんな状況彼女に見せるには……あまりにも酷というものでしょ。」

 「わ、私は……。」


 余裕だった彼の表情と声色が一変した。

 助けてください。

 もうしません。などと言った言葉が聞こえる。


 「助けてほしかったら情報を吐け。」

 「そ、それだけは……。」

 「お前はわかっちゃいないんだ。10歳の少女を攫って、その少女一人のために村1つ壊滅に追い込んだんだ。それを、情報1つで許してやると言っているんだ。」

 

 なんでこんなに怒っているのだろうか。

 出会って間もない少女と、知らない村のために。

 笑顔を守りたいと誓ったからか。

 あの1日で心情に変化が出たからか。


 「わ、私は『影』なんですよぉ~……依頼主様のことは言えるわけがないんですよぉ~……。」


 ―――パシュッ!!!


 「あぁあああぁぁああああ!?!?」


 セバスの右腕が空中で踊る。

 こんな拷問のようなことは本当はしたくない。

 だって、どこを切ったら死ぬのか……

 どこを切ったら致命傷が避けられるのかが、前世の職業柄わかってしまうから。

 得意になんてなりたくないから。


 「さすがだよ。『影』?なんですかそれ。」

 「かか、影って言うのは、私たち依頼を引き受けるギルドみたいなものですよ!はい!」

 「で?誰に依頼されたんですか?」

 「そ、それは……。」

 

 両腕が吹き飛ばされても、情報を漏らさないのはプロだなと実感する。

 命がかかっても依頼主の事は絶対に口にしない。

 これが、探偵とか諜報部員のプロの意地ってやつなんだと実感した。


 目の前のそいつが、涙目になりながらも口は堅い。


 「はぁ。じゃあ、お前の使っている魔法を教えろ。」

 「は、はい!!私は、魔物を召喚して使役する魔術師です!!操れる魔物はおよそ30匹程度ですが!!はい!!簡単な命令しかできません!!はい!!」


 魔力感知にシャチの魔力を感じ取った。

 もうすぐそこまで来ている。

 セバスの魔物を操れる命令範囲は簡単なものか。

 ここに連れてこいとでも命令されたのだろう。


 ―――ザザッ!!!


 シャチの捕らえられた網を掴んでいる魔物。

 ゴブリンのような魔物が運んできた。


 ―――パシュッ!!!


 シャチの網を持っているゴブリンの腕を吹き飛ばした。

 そして、すぐにシャチの元へ俺は駆けだした。


 「シャチ!!」

 「リ……リハエル!!」


 網から救い出し、シャチを抱え上げた。

 

 「大丈夫ですか!」

 「う、うん!!大丈夫!!大丈夫!!」


 腕の中で泣いているのがわかる。

 怖かっただろうに。よく耐えた。


 「わ、私は……えっとぉ~……。」

 「どこへでも行けばいいです。もう、この森に近づかないと誓って……消えてください。」


 そう言い放ち、セバスの事を睨みつけた。

 その時の俺の口調は、きっと暗く、憎悪に満ちていただろう。

 

 セバスは怯えながらにして、俺たちの元からそそくさと逃げ出した。


 「怪我はなかったですか?怖かったですよね。」

 

 目の前の彼女に、とにかく安心させる言葉を言う。

 怖かった、怖かったよ。と泣きながら繰り返し呟いている。


 「もう、大丈夫ですよ。何があっても……必ず、俺が助けに行きますから。」


 咄嗟に出た言葉だが嘘偽りはない。

 この子は、狙われていた。

 誰かが守ってあげないと、また連れ去られてしまう。

 また、関係ない村の人たちも巻き込まれてしまう。

 守る人がいないなら、俺が守ってあげるんだ。


 「や……約束……。どこにもいかないでぇ……。」

 「はい。ずっと一緒です。」


 まるで告白だ。

 でも、恥ずかしさとかなかった。

 ただ、大人としてこの子を守ってあげなくてはいけない。その思いが強かった。


 「いずれ、俺は俺の目的のために旅を続けなきゃいけません。」

 「え……。」

 「俺は、お父さんを助けてあげなきゃいけないんです。閉じ込められている父を助けるために旅をしています。だから、あの村にずっとは居られません。」

 「え……じゃあ……。」


 当然の反応だ。

 約束をした直後に一緒に入れない発言。

 少女は、目を丸くして不安そうな表情をしている。


 「どうですか?」


 あまり、こんな小さな子を連れ歩くのはしたくはない。

 でも、置いて行って、俺がいなくなった後に襲われたらと考えると……不安になる。

 大人が言うのはなんだけど、この子を守るために言うんだ。


 「一緒に、旅に出ませんか?」


 その一言は、彼女をまた一段と明るくした。

 その不安そうな眼差しは、希望に満ち溢れたキラキラした瞳になった。


 そして、少女は言った。


 「はい!!ご迷惑じゃなければ!!」


 彼女の事はまだ何も知らない。

 親も知らない。

 この後、村に行ったときに相談しなきゃいけない。

 こんな幼子を危険なたびに連れて行くなんて、反対されるに決まっている。

 怒鳴られるんだろうなと、覚悟をした。


 でも――


 それでも、この子は俺じゃなきゃ守れない。

 その確信がある。

 

 初めての仲間は、幼くて勇気のある小さな少女。

 『シャチ=クライアット』が俺の仲間に加わった。




ーーーーーー


 「ぐぅぅ……痛いです……痛いですよぉ全く割に合わないじゃないですかぁ~……。」


 両腕の止血をしながら、フラフラと歩くその姿は逃げ出した行商人だ。

 森の外に出て、どこかへ向かっている。


 「おやぁ~?」

 

 セバスの目の前に、誰かが立ち塞がる。

 黒ローブの人間。

 

 「あなたでしたかぁ~。割に合わないですよぉ~。こんなになっちゃいましたよぉ~。」

 「依頼した()()はどうした。」

 「それがですねぇ~……」


 ―――シュッ。


 誰にも見えない。素早い動きが空気すらも切り裂くその手は――


 目の前の男の首を、一撃で切り落とした。


 ―――ドサッ。


 セバスの身体はピクリとも動かなくなりその場に崩れ落ちた。

 そして、光を失い死人の目となった顔は地面へと無慈悲に落ちた。


 「使えないじゃないか。簡単な依頼もこなせないクズは生きる価値無し。」


 たった一言だけ。

 コロコロと転がった、セバスの顔に向かって言い放った。


 ―――ボッ!!


 指を鳴らしたと同時に、声も出せなくなったセバスの亡骸は ”黒い炎” で燃えていく。

 男は、不敵な笑みを浮かべて立ち去る。

 

 セバスが最期に見たのは、黒ローブのフードから少しだけ見えた ”()()()()()” だった。

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