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プロローグ『銀行強盗事件』

 俺は38歳の医者だ。いや、元・医者だ。

 俺の手で人の命を生かすことも、殺すこともできてしまう。

 ただ、俺の手は神の一手なんか言われて手術の成功率は100% ”だった” んだ。

 俺が最後に手術したのは35歳の時だった。運が良かったのか悪かったのか、担当した人間が大金持ちの、しかもお偉いさんのところのお子さんだった。お子さんといっても俺より少し上の30半ばの男性。かなり重たい心臓の病だったんだ。心臓の手術。繊細な技術が必要だ。

 「お前ならできる」

 「貴方にしかできない。」

 そんな期待の眼差しが勝手に向けられていたな。


 俺は、失敗した。いや、失敗しか道はなかった。もう、助からないほどに放置されてきたんだ。見ただけでそれはわかっていた。だが、そんなことは患者の親になんかわかるわけもなく罵倒を浴びせられた。上司からは

 「お前は悪くない、仕方がなかった。」

 と同情されたな。手術の失敗。人の命を終わらせたことに変わりはない。大金持ちのお偉いさんには勝てない。権力的にも。


 俺は、医者の道から降ろされた。


 と、そんな昔のことを思いながら無職の俺は貯金を下ろしに銀行に向かっていた。

 都会の喧騒がうるさい真夏。熱々になったコンクリートを安物のサンダルで歩いて、エアコンの利いている銀行の中に足を踏み入れた。

 銀行の中には、子供から老人まで順番待ちしている人もいる。平和だな。と心の中で呟いていると。


 ――パンッ!!!


 「きゃああああああああああああああ!!!!!!」


 なんだなんだ?爆竹か何かが破裂した音と共に叫び声が響き渡る。そう――

 なんか銀行に悪そうな人がいます。拳銃を持っています。本物ですねあれ。


 「静かにしろ!!ぶっ殺すぞ!!」


 とても物騒な声が響く。中年くらいのおっさんの声だ。体つきもいいし仲間もいる。大人しく警察が来るのを待った方がいい。


 うえーーーーーーーん!!!!


 「泣くんじゃねぇ!!死にたいのか!!!」


 いや、12歳くらいの子供だろ。仕方がないだろ。俺もそのくらいの歳なら泣くわ。そんな物騒なもの振り回しながら脅されたらもっと泣くわ。泣き喚くわ。


 「やめてください!仕方がないでしょ!まだ幼いんですよ!」


 うわー、出ました正義感丸出しの女の人。そういうことを言うと、こういう悪人ってのは沸点が低いから逆に暴れるぞ。


 「うぜーんだよ!!黙れないなら黙らせてやるよ!!クソガキども!!」


 あ。やばい。

 絶対に、やばい。


 男は、人の尊い命を奪えるその凶器を子供と女の人に向けている。


 バカだ。

 俺も、お前らも。

 勝手に体が動いちまったんだ。

 だって、動かないと確実に数秒後の自分は後悔する。

 見ず知らずの人なのに、俺は――――


 その凶器と子供の間に入っていた。


 ――パンッ!!!


 撃たれた。


 撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた撃たれた。


 俺の脳内には、撃たれたのだと頭の中で高速に喋っている。と、同時に熱くて冷たいということも頭で認識している。


 致命傷だ。周りの声がうるさい。なんて言っているのかわからないが、とてもうるさい。俺は、今は無職でも元・医者だ。傷ついてはいけない部分が傷ついてしまったのはわかる。これは、もう助からない。あの時の大金持ちの子供と同じだ。どうしようもないんだ。

 まあ、一度人を殺したんだ。その報いが今になってやってきたんだ。あの子供と女の人は無事だろうか。いや、どうでもいいか。もう死ぬんだ。


 「今度は、後悔がないように生きよう――――」


 その言葉が脳内か、口でかはわからない。最後にそう言ったのだけは間違いがないんだ。



 ・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 あれ?意識がある。

 でもどこだろう、ここは。


 俺は、真っ白な空間にいた。現実味のないその空間の目の前には、もっと現実味の無い人間が座っている。

 綺麗な桃色の髪の毛に、金色の瞳。そして、大きな胸。


 「胸は、どうでもよいではないか!!」


 え?

 俺今喋ったか?


 「喋っておらぬぞ。心の声を聞いておったのじゃ。」


 のじゃって。どこのおじさんだよ。


 「まだ、こんなにもピチピチな可愛い女の子なのに、おじさんはひどいんじゃないか?」


 怖い。

 全部聞かれている。

 なんなんだここは。誰なんだこの人は。


 「よくぞ、聞いてくれたな!(わらわ)は、女神シハイじゃ。ここ転生の間を管理する神様じゃ!」


 意気揚々と立ち上がって右手を胸において自信満々に自己紹介をする。それを聞いて、俺は心の中で笑っていた。


 ふっ、笑わせてくれる。

 こんな何もない、ミニマリストもびっくりする部屋で、俺よりも年下なお嬢さんが女神とな?

 うける。


 「お主、そんな性格だから強盗に殺されるんじゃよ。ナメクジに転生させてやろうかの。」


 じとーっと目を細めながら淡々と話す。


 え。

 何で知っている。

 俺が強盗に殺されたって。


 知るはずのないことの顛末。知っているのはその場にいた人間と俺自身だけのはずだった。


 「全部知っておるぞ。お主は、神の一手と言われておったそうじゃな?とても、いい人だったのじゃろうて。最後は子供と女の人を守って死んじゃうとは悲しい。涙が止まらぬわ~。」


 どこからともなくハンカチを出して目に手を当てている。


 嘘つきめ。

 人の心ないだろこの女神。


 「やはり、お主はナメクジに!いや、ノミとかダニにしてやるぞ!!!」


 女神でも感情があるんだな~。

 で、いったいなぜこんな夢を見ているんだ。俺は。


 「夢?違うぞ。」


 シハイは元々座っていた椅子に腰を掛けて言った。

 指をさしながらに、こう答える。


 「お主は、今から転生をする。だが、別の世界にじゃがな。」


 まるでゲームや漫画の話だ。

 俺は知っている。この流れを。


 「だが、ただでは転生させられないんじゃよ。」


 ニヤっと目の前の女神は笑みを浮かべる。


 ただじゃない?

 何か条件でもあるのか?

 当たり前の疑問だ。


 「もう、心読むのつーかーれーたーのーじゃー!」


 駄々をこねているような姿……いや、醜態を晒されている。なんなんだこの女神。


 「条件って何なんだ。女神様。」


 呆れたように俺は聞いた。


 「よくぞ聞いてくれた!」


 シハイは水を得た魚のように、急に元気になった。


 「はーやーくー言ーえー!」


 急かすように女神に俺は訴えた。


 「はいはい~。転生する条件は、これからお主が生活することになる世界。異世界での転生条件としては『悪という悪を滅ぼしてもらう。』という条件があるのじゃ。どうじゃ~?」

 「そんだけ?」

 「えぇ、それだけなのじゃ。」


 ビックリするくらい簡単なことで、俺は呆気に取られてしまった。


 「何か裏があんじゃないのか?」

 「無いわ!!!!」

 

 とても無さそうな反応だ。

 そんな条件でいいのなら喜んで転生する。いいだろう。


 「わかっ――――」

 「3つじゃ。」


 3つ?

 何の話だ?

 ここに来て条件を増やす気か、このわがまま王女様。


 「条件なんか増やさぬ。3つだけ好きなスキルを与えてやろうという話じゃ。」


 なんかすっごい異世界みたいな話題が飛んできました。


 「好きなスキル……。何でもいいのか?」

 「あぁ、なんでもいいぞ。」


 自信満々に俺に問いてくる。


 「じゃあ、不老不死、無敵、最強。以上。」

 「無理なのじゃーーーー!!!」


 無理なものはないんじゃないのか。何でもいいといったじゃないか。と、まあこれは意地悪だったか。


 「じゃあ、―――」


 俺は、3つのスキルを決めて……新たな人生をこれから歩むことになる。

 転生させられた俺の険しく、壮大な新たな人生が。

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