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10恥目 生きる責任(1)

 ご遺体は予定どおりに焼かれた。


 田部さんは同行せず、中畑さんが一人で行ったらしい。戻って来て、終わったと報告を受けた。


「はぁ……あ、ありがとうございます」


 ぺこりと一礼したものの、どうもぎこちない。

 中畑さんと顔を合わせるのが気まずいんだよ。年上の男性に怒鳴り散らしたことを後悔してるというか。


 それでも中畑さんは、「一緒に宿へ泊まりましょう」と声をかけてくれた。

 が、病院に無理を申し付けて、しゅーさんの病室に居座る許しを得て回避。


 相手が大人の対応をしてくるから、自分が恥ずかしくなってるんだ。

 

「修ちゃん。お国は連絡しましたからね」

「……」


 しゅーさんも無言。そりゃそうだよね。


「そういえば要さん。ご家族に連絡はされました? 病院に電話がありましたから、使わせていただいてはどうでしょう」

「……あ」


 やべぇ。すっかり忘れてた。

 中畑さんのおかげで思い出し、慌てて帝大にいる先生に連絡した。


『心配しましたよ。けど、僕らのような遂行者に突然はつきものです。あまり気を負わないでください』

「すいません……必死で……」


 先生は理解がある。東京をどう過ごしているかというと、豆腐屋と飴屋のアルバイトは吉次が代わりに行ってくれているようだ。


 どうやら彼にもお金を稼ぐ理由ができたらしい。なんだろう。爺さんも夫妻も理解してくれていると聞いて安心した。


 現代と違って人に恵まれている気がするや。じんわり、目頭が熱くなる。


『……僕らも、要さんに会えなくて寂しいので、帰るときは連絡くださいね。迎えに行けるところまでは行きますから。吉次もそうしたいと言ってます』

「そう言われたら……迷惑かけたの、謝らなきゃなのに……嬉しいです。必ず連絡しますね」


 そう言って電話は終わった。


 寂しいと言われるまでになったか。三鷹でドタキャンされたのが嘘のようだ。人の温かさ、プライスレス。


 それでしゅーさんというと、まだ落ち着かない様子ではあった。

 

 けど、会話もしてくれるようになって、ご飯もいくらか食べられるまでに回復。


 よかった、生きようとしてくれてる。


 罪を犯したと感じている彼に、正しく影ができた。

 だからこそ体を治して、できることをやってもらわなきゃ。


 その晩、僕としゅーさんの二人で病室に篭り、お喋りしていた。

 ただのお喋り。彼に安心してもらうだけの、なんでもない会話さ。


 そんな何気ない話題の中、あることを思い出したんだ。


「そういやさ、100円はまだ貯まってないんだけど。話してもいいのか?」

「何がだ?」

「話したかったら100円持ってこいって……5月の……ほら、雨の日に言っただろ」

「そんなこと言ったか?」


 100円のことは忘れているような言い方をしていたが、この人は絶対に覚えている。

 金に困ってるんだ。収入源になるかもしれない人間の顔は忘れるわけがない。


「じゃあ」


 右の手のひらを差し出しながら、ニンマリと笑う。


「何、その手」

「100円」

「何」

「くれるんだろう?」


 この男、本当に救えないな!


「バカ言ってんじゃないよ! ったく……」


 呆れたついでに、お手洗い。笑いながら、ため息に似せた息を吐き、椅子を立つ。


 ――と、羽織の袖を強く掴まれた。


「どこに行くんだ」


 わかりやすくしょげる。捨てられた子犬みたいな顔しやがって……。


「尿意に襲われてるんだよ。膀胱が破裂寸前だ」

「そうか……早く戻ってこい」

「一緒に行く?」

「気色悪いこと言うな」


 しっし。手を払われた。


 僕はこのやり取りで、信頼……いや、まだアテにされてることを確信した。


 この人は今、僕しか味方がいないのだと焦っている。


 そりゃそうか。

 

 自殺幇助の疑いをかけられて、お里の家族は呆れ返り、おまけに心中事件が新聞に取り上げられたとなれば、どんな人にでも縋りたくなる。


 僕に殴られたとしても、僕が味方で、助けてくれるなら、この手は放したくないはずだ。


 僕にとっても、この事件は始まりだしね。


 また突然に太宰治のことを思い出したとして、自然に助けに入ってもおかしくない距離が作れる。


 しかし、助けるために近くにいたくても、赤の他人の僕じゃあ、どうにもならないこともある。


 ま、とにかく今は、しゅーさんの味方であって、しゅーさんを正す人でいよう。


 先のことを考えるより、今この瞬間を生きるこの人を救わなければいけないのだから。


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