三回目の出逢いはもう運命でいいと思う
はぁ、はぁ、はぁ……。
『終わった……終わったんだよね、これ?』
た、多分……。
さっきまで殺意の塊みたいに暴れ回ってたトレントが、核を打ち抜かれた今は嘘みたいに静かになって……もう、あの気味の悪い再生もしてない、ね。
「うん、大丈夫そう……勝ったんだね、ボクたち……」
あー、もう立てないやぁ……。
地面にドカッとお尻をついちゃって、泥だらけで……ああもう、最悪だ。
脇腹の傷がズキズキ痛むし、頭の中は鐘が鳴ってるみたいにガンガンする。
服もボロボロだし、髪もぐしゃぐしゃだし。多分、見るも無残な格好になっちゃってるよね……ヴィクが近くにいるのにさ。
でも──生きてる。
あんな、崖を背負って三体に囲まれるなんていう最悪の詰み盤面から、五体満足で生き残ったんだ。
「……助かったよ。ありがとう、ヴィク」
「はぁ、はぁ……おう!」
元気そうに振舞ってるけど、隣の彼も、流石にキツそうだね。息遣いが荒いもん。
絶体絶命の状況から救い出して、盾一枚でボクを守り切って、最後はボク自身を弾丸みたいに射出して。無茶苦茶な作戦だったけど、彼がいなかったら間違いなくボクはあそこで終わってた。
本当に、感謝しかないよ。彼には頭が上がらない。
……でも待って。
冷静になって考えると、やっぱり今の状況はおかしいよね?
「でも、どうしてここに? 用事があるんじゃなかったの?」
そう、そこだよ。
だって、彼は武者修行中でしょ? この街での用事が済んだらすぐ発つって言ってたはずだし。ボクとは闘技場で別れて、それっきりのはずだった。
なんでこんな寂しい森の奥にいるのかな? しかも、あんな出来すぎたタイミングでなんて。偶然にしては出来すぎじゃない?
まさか、ボクが心配でこっそりついてきてくれたとか? ……いやいや、自意識過剰だよ。そんなストーカーみたいなこと彼がするわけないじゃん。それに、ボクがここに来るなんて誰にも言ってないんだから……。
「ん? ああ、その用事があるのは──『ここ』だったからな」
「はぇ……?」
……森の奥に? え、もしかして彼が言ってた「二、三の用事」って、このことだったの?
ボクはてっきり、旅の買い出しとか、お世話になった人への挨拶回りとか、強者との顔合わせとか、そういう用事だと思ってたんだけど……こんな危険地帯に、一体何の用が?
「……実は俺、『勇者シエル』に憧れててさ」
「へっ?」
『んっ?』
勇者、シエル?
……ボクのこと?
え、急に何の話? 今、心臓止まるかと思ったよ。
彼が、ボク……じゃなくて、かつての勇者に憧れてる?
いやいや、待ってよ。今の世の中で語られてる勇者像って言ったら……酒場で吟遊詩人が歌ってたみたいな、怪物みたいなやつだよ?
キミ、あんなのが理想なの? いやまあ、彼も筋肉質だし豪快だし、方向性としては分からなくもないけど……正直ちょっと複雑な──
「──世間じゃ筋肉ダルマだの大男だの言われてるが、俺の故郷じゃちょっと違うんだ」
……?
「俺の故郷じゃ、かの勇者様はもっと繊細で、思慮深い少年だったって伝えられてる。圧倒的な才能を持ちながら、それを決して己の欲望のためには使わず、ただひたすらに正しいことのために振るった……そんな、高潔な英雄だったとな」
嘘……なんで、知ってるの?
そんな話、今の時代じゃほとんど誰も知らないはずなのに。繊細で、思慮深くて……いや、自分で言うのもなんだけど、確かにかつてのボクはそうだった……だけど!
「俺は、それが真実だと信じてる」
……ああもう、参ったな。
そんな真っ直ぐな目で見ないで……迷いなんて微塵もないじゃんか。
本気でそう信じて、本気で憧れてくれてるんだ。世間に流布してる派手な勇者像じゃなくて……あの頃、必死に足掻いて、傷ついて、それでも誰かのために戦おうとした、ちっぽけなボクのことを。
「だから俺も、勇者様みたいになりたくてさ。とりあえず平和のためにボスを倒す旅をしてるんだよ」
『へえ! 凄い良い奴じゃないかヴィク!』
彼も、ボクと同じだったって事実が衝撃過ぎて、エペがうるさいのも気にならない。
武者修行なんて言ってたけど……ただ強さを求めていただけじゃない。その力の使い道まで──ボクと同じ場所を目指してくれていたなんて。
「森にいたのもそれが理由だ。ここのボスについて探るためだな」
「……そうだったんだ。キミも……」
「で、今日の森は様子がおかしいと思って来てみたら……お前が戦ってたって訳だ」
「うっ……」
つまり、彼はちゃんと準備して機会を窺ってたけど、ボクがヘマして追い回されたせいでボスが動き回ったから、それに気づいて飛んできてくれた、と……完全に、ボクの尻拭いじゃん。
うわあ……恥ずかしい。憧れの勇者の生まれ変わりが、こんな無様な姿晒して……もしボクが本物だってバレたら、幻滅されるどころの話じゃないよ。詐欺だって言われても文句言えない。彼の方がよっぽど、ボクの理想とする勇者に近いじゃないか。
でも──それでも嬉しい、嬉しいよ。
ボクのこと、知っててくれる人がいたんだ。数百年の時を超えて、ボクの生きた証を、捻じ曲げずに受け取ってくれる人がいたんだ。ボクだけじゃない、エペにとっても。守らなきゃいけないと思ってたこの世界に、ここまでボクを認めてくれる人がいただなんて。それが嬉しくてたまらない。
ああ、涙が出てきそう。
ダメだ、彼に変な顔見られちゃうじゃん。
せめて、ちゃんとお礼を言わなきゃ。
助けてくれてありがとうって。こんなボクだけど、キミに会えてよかったって。
「よい……しょ」
よし、とりあえず立とう……って、あれ?
あ、あれ、立てな──
「っと、無理するな」
……あ、まただ。
また支えられちゃっ……。
「疲れただろ? とりあえず帰ろう──街まで運んでやるから」
……え、あ。
「は、はい……」
*
……おんぶ、かぁ。
ああいや、文句がある訳じゃないんだよ?
揺られながらぼんやり思うけど……うん、悪くない。この広い背中に、硬い筋肉の感触。それと、ふわっと鼻をくすぐる草原みたいな匂い。
うん、全然悪くないよ。悪くないんだけどさ。
ただ……さっきみたいな──あのお姫様だっこじゃ……ないんだね。
ちょっと期待しちゃったじゃないか……。
……って、何を考えてるんだボクは! おんぶの方が楽でしょ! 安定感あるし、顔見られないし!
そうだよ、顔見られないのが一番だよ。今のボク、絶対凄い顔してるもん。こんな緩みきった顔、彼に見られたら一生の恥だよ。
『……何、百面相してるのさ。エスクリ』
「……うっ」
だって……だって、しょうがないじゃないか。
ボクが、ボクたちがなりたかった「男」の背中に乗っかってるんだよ? ほんのちょっとだけとはいえ色々考えちゃうのは仕方ないことじゃない?
エペだって彼におんぶされてたら同じことを思ったはずだよ。自分が分からないことを理由にボクを責めるのは止めてほしいというかなんというか。
なんかドキドキしてきたな。心臓の音とか、伝わってないかな……。
……大丈夫か。ボクの……その、無駄にある「柔らかい部分」が邪魔してるはずだし。直接伝わるほどペラペラじゃないもんね……。
うん、いつもは邪魔なだけだけど、今回ばかりは感謝しておこう。
あっでも、何かしらは話しておかないと!
ずっと静かなままだとこのバクバクが余計に響きかねないし……ええっと、天気の話? いや森の中か。
晩御飯の話? いや、食い意地張ってるって思われちゃう。
もっとこう、当たり障りのない……。
「あ、あのさ!」
「ん?」
「き、キミ、最初は武者修行だって言ってたよね? あれは、どうして?」
……あ、つい聞いちゃった。
だって、気になって仕方なかったんだよ。
勇者に憧れてボスを倒して回ってるって言ったはずなのに……「武者修行」とか言って隠してたなんて、絶対なんか理由があるはずだよね?
ヴィクの背中の揺れは変わってないし……歩くペースが崩れてないあたり、あまり聞かれたくないって訳でも無さそうだけど……。
でもなんだろ、今の空気──ちょっと困ったみたいに笑った?
「ああ、それか。隠すつもりはなかったんだが──ただ、余計なことに巻き込みたくなくて」
……ん? 巻き込む?
というか、なんか歯切れが悪いね。そんな言いづらそうにすること?
「いや、本当は──初めからお前を誘いたかったんだ」
「えっ?」
「ここのボスが一人で倒せるようなヤツじゃないのは分かってたし。この前の大会の時から、お前の剣技を見て、こいつは間違いないって」
……な、なに、急に!
そんなこと言われたら、また勘違いしちゃうじゃないか!
え、えっと……てことは、ヴィクもボスを倒すために仲間を探してて、ボクをその候補に見据えてたってことだよね。
多分、彼は慎重にボスを倒す機会を探ってたみたいだし、ここのボスが三体で一体なこととか見抜いてたんだろうな。
だから、他にも仲間を必要としてて、そこでボクに出会って──でも、ボクには「武者修行中」って嘘をついて別れて……あれ?
……どうして?
「でも、『探し人』がいるって言ってたろ?」
あっ。
「大事な目的がある奴を、俺の勝手な夢に巻き込むわけにはいかないと思って遠慮したんだ」
あっ、あああー……。
なるほど、そうだったんだ。ボクが「探し人がいる」なんて嘘ついたから、仲間には誘えないと、へえ……。
「……じゃあ、キミも、ボクと同じことを考えてたんだ……」
「ん? 何が?」
……お互い様じゃないか。
ボクも、キミを巻き込みたくなくて、「探し人がいる」なんて嘘をついて。
キミの夢を邪魔したくなくて、キミの未来を守りたくて……それで遠ざけてたんだ。
そしたらキミも、ボクのことを気遣って、嘘をついてただなんて。
なんだか、おかしくなってきちゃった。
ぐるぐる遠回りして、お互いに気を使って嘘までついたのに──気づけば結局、同じ場所に立ってるんだもん。
もう、いいよね。これ以上、嘘をつく必要なんてない。遠慮なんていらない。
だって、ボクたちはもう、背中合わせで戦ったんだから。
「ううん、大丈夫」
「え?」
「探し人なら──もう見つかったから」
「えっ、そうなのか!? いつの間に?」
いつの間にって、ふふ、鈍感だなぁ。
言ってあげたいよ。ボクにとっての探し人は、ボクが探してた相棒はきっと──初めから、キミだったんだって。
キミに会った時からずっと、ボクはキミを探してて、キミもボクを探してたんだ。
……恥ずかしいし、彼がどう受け取るか分からないから言わないでおくけど。
「うん。だから、もうボクはフリーな立場で、さ」
「そう、なのか……」
そうだよ。
ボクの今の目的は、もう果たされた。
元々嘘だった「探し人」はこうして見つかったし、元々本当に探してた「相棒」も見つかった。これ以上、一人で彷徨う理由なんてどこにもないし、キミの誘いを躊躇う理由だってどこにもない。
「……そうか! 詳しいことは聞かねえが、解決したなら良かった!」
……本当に、いい奴だなぁ。
野暮なことは聞かないで、ボクが晴れやかな顔をしているなら、それでいいって思ってくれてる。
そういう大雑把で、でも温かいところに、ボクは惹かれたのかもしれない。
「じゃあ、エスクリ。改めて、頼ませてくれ」
きた……!
どうしよう、やっぱり心臓の音がうるさい! 口から飛び出しそう!
くるよね? 言ってくれるよね?
「これからは仲間として──俺と一緒に、戦ってくれないか?」
……!
……言わせた。言わせちゃったよ。
完璧だ。百点満点だ。ボクが欲しかった言葉、全部くれた!
ダメだ、顔が熱い! ニヤニヤが止まらないよ!
もう返事なんて、これしかないじゃん!
「……ふ、ふふふ、しきゃ、仕方ない、なぁ」
……。
……よし、深呼吸! 今のは忘れて!
カッコよく決めるんだ、ボク!
声、もう震えるなよ……次裏返ったら一生の恥だからね!
「──キミがそこまで言うなら、その、付き合ってあげる……はい」
「本当か!?」
「あ……うん! よろしくね、相棒!」
「ああ!」
無理、耐えられない!
ヴィクの声も弾んでる、嬉しいんだ! 彼も、ボクと同じくらい!
嬉しすぎて顔の筋肉が戻らないよ! これ絶対バレてるよね!? 背中でニヤけてるの伝わってるよね!?
……もういいや、今日くらい許して!
とにかく!
ボクは彼と! パーティーを結成できたんだ!
ボクの憧れる「理想の男」そのもののヴィクに認められて、これからは一緒に旅をして、二人で世界を守っていけるんだ!
ああやったぁ! 万歳! ばんざーい!
『──やったねエスクリ! 色々トラブルもあったけれど、最終的には最高の場所に落ち着けたよ』
『ボスも倒せたし、相棒も見つかった。しかも彼は相性最高でその上、僕たち勇者の理解者で、かつ凄く良い奴ときたもんだ!』
『僕たちの未来は明るいね! これからきっと、頼もしくて愉快な旅が始まっていくんだろうな……!』
*
『そう思ってたんだけど……しまった、これを忘れてた……』
……な、なにさ。「これ」とは中々な言い方じゃないか、エペ。
言っとくけどこれはキミの言う「色ボケ」とやらじゃないからね。ボクは今、別に変なことなんてしてないよ?
ただ、落ちないようにヴィクの首に腕を回して、体を安定させてるだけ。
そう、安定させてるだけだ。揺れが心地いいとか、背中が温かいとか、ヴィクの匂いがするとか、そういうのは不可抗力であって、ボクが求めてるわけじゃないからね。
……うん。ちょっと眠くなってきたかも。
『ちょっとエスクリ! 何やってるのさ!』
「(や、やめてよ! うるさいよ!)」
キミは念話で会話できるけど、ボクは声に出さないとキミに伝えられないんだから! こんなとこで話しちゃダメじゃないか!
ヴィクにバレたらどうするの!? こんな至近距離で変なこと口走ったら、彼に変な目で見られちゃうよ!?
『やめて、じゃないよ! 勇者としてのプライドはどうしたのさ! さっきの「しょうがないから付き合ってあげる」って余裕ぶった態度はどこへ行ったの!?』
「(だ、だから……疲れてるんだってば……)」
『疲れてる? 嘘だね。君の回復力の高さは僕が一番知ってるんだから』
「(うっ……)」
『ほら、降りてよ! もう自力で歩けるでしょ!? そんなに密着して……見てるこっちが恥ずかしいよ!』
……むぅ。
分かってるよ、分かってるけどさぁ。これは、その……あくまで戦略的休息だよ!
そう、今後の旅に備えて、体力を温存しておくための合理的な判断なんだ。決してボクが甘えてるとか、そういうのじゃないから!
それに、相棒としての信頼関係を深めるスキンシップみたいなもので……!
「どうしたエスクリ? なんか言ったか?」
「な、なんでもないよ! 独り言!」
「そうか? ならいいけど……そろそろ降りるか?」
「だ、大丈夫! このままがいい! ……あ、いや、ほら、まだ動けなくて!」
嫌だ。降りたくない。まだ、この特等席にいたい。
いや違う、特等席とかじゃなくて、あくまで安全確保のために!
ほら、森の中は足場が悪いし、転んだら危ないでしょ? それに、男同士の友情でも、おんぶくらい普通にするよね? おかしくないよね?
だからこれは、極めて健全な、相棒としての……へへっ。
『……エスクリ。君、自分がどんな顔してるか分かってる?』
「(う、うるさいっ! 分かってるよ!)」
『なら降りなよ! かつての「勇者シエル」が泣いてるぞ! 自分の分身がデレデレしてる姿を間近で見せつけられる僕の気持ちが分かる!?』
ああもう、うるさいなぁ!
今後ともヴィクと仲良くするためにも今不審に思われるのは避けないとじゃんか!
キミが恥ずかしいのも分かるけど……これは必要なことなんだから!
だから……だから……!
「『僕』のくせに『ボク』の邪魔しないでよ!」
ヴィク:……?(´・ω・`)
これで第1章終わりです。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
次の章から徐々にタグのハーレム要素を入れていけると思います
……多分。
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それでは、次話以降も宜しくお願いします(´・ω・`)




