ど、同性だと思ったのに!
『じゃ、第十九回勇者会議を始めるよ』
「あれ、十九? 十八は?」
「もうエスクリ。屋敷でシュヴァ含めてやったでしょ」
「……もうそんなに回数重ねてるんですね、これ」
いつものように薄暗い宿の一室。
いつものロウソク一本。いつもの面子。
今回もヴィクトールさんは眠った後に。
違うのは……今日の議題がちょっとだけ厄介だってことでしょうか。
「……で、シュヴァについてなんだけど」
『彼女の実力は折り紙付きだよ。あの遺跡のボスを単騎で倒してるんだから。しかもあの強化魔法特化……正直、対魔王の旅には必須になると思う』
「ぼくもそう思うな。正義感も本物だし、きっと心強いと思う」
実際そうなんですよね。
僕がソワンでやっていた時だって、戦闘職のシエルがいるといないとでは雲泥の差だった。あの強化魔法を味方に使えるなら、ヴィクトールさんの負担だって相当減るはずだし。
彼女がいれば戦力は大幅に強化されるし、この先の戦いが楽になるのは間違いない。
むしろ断る理由の方が見つからないというか。
彼女にも色々都合があるでしょうが、多分「魔王復活」のことを知った以上、それを無視して一か所に留まり続けることができないのは……この短い期間の間に分かりました。
もし同じ目的で動くことになるなら、是非ともパーティーに加入してもらった方が良い。
だから、正直僕たちがあまり乗り気じゃないのは……。
「……でも、あの人……ヴィクの元相棒なんだよね」
『まぁ……』
「うん……」
「はい……」
……言いたいことは分かりますよ、なんとなくですけど。
だって僕も……似たようなこと考えてましたから。
名前を呼ばれた瞬間の、あの反応。驚きと、懐かしさと、それからなんかもう一個よく分からない何かが全部混ざったみたいな顔。あんな顔、僕たちに対してはしたことないですよ。
ヴィクトールさんと二人で旅をして、背中を預け合って……僕たちよりずっと前から、あの人の隣にいた。あの人もシュヴァのこと気にしてたみたいですし……なんか敗北感を感じますよね。
とはいえ、僕はダメージが少ない方です。僕がパーティーに参加した時点で既にあの人にはシエルの知り合いが三人と一本いた。多分マージュもそうなんでしょう。
だからこそ……エスクリは複雑なんでしょうが。
「ボクは誰が初めとか気にしてないけどさ……これでパーティーの関係性が変わっちゃうのは嫌だし」
『気持ちは分かるけど、それとこれとは別じゃないかな』
「分かってるよエペ。分かってるんだけど……」
まぁ、そう考えちゃいますよね。
もし、その……シュヴァが仲間に加わって、ヴィクトールさんと恋仲にでもなったりしたら……僕は大丈夫ですが、エスクリとマージュはとにかくショックが大きそうです。僕は大丈夫ですが。
今まで「ヴィクトールさんの仲間」として積み上げてきたものが、彼女の登場でぜんぶ塗り替えられちゃうんじゃないかって……そんな不安が、どうしても。
……いやダメですね、こんなの。
魔王が復活するかもしれないって時に、感情で仲間の選定を歪めるだなんて。
『ま、シュヴァがどうするかはまだ聞いてないんだから。それはそのとき考えるべきだ』
「う……うん。了解」
『うん。じゃあこの件はここまで。次、明日の予定なんだけど』
切り替え早いですねぇ……。
まぁエペは当事者じゃないですしね。感情に振り回されないのは剣の特権ですか。羨ましい限りですよ。
あっいや僕は別に大丈夫なんですけど。
『ヴィクは明日、シュヴァのためにお詫びの品を買いに行くつもりみたいだよ』
「謝罪って……ああ、あの性別の件」
「……ヴィクくんのセンスで大丈夫かな」
そういえば。
あの遺跡からの帰り道、ヴィクトールさんがぼそっと「何を贈れば許してもらえるだろうか」って呟いてるの聞こえちゃったんですよね。
真剣に悩んでたのがちょっと可愛かっ……いやいや、今はそういう話じゃなくて。
「じゃあ明日は……知能の高いボスの情報を、ボクたちが探してくるべきだね」
「あ、それ賛成。ヴィクくんには少しでも休んでほしいし」
「そうですね。最近あの人とにかく仕事量増えてるので……」
ヴィクトールさん、表面上は平気そうにしてますけど……僕にはもう分かります。
ソワンにいた僕と同じなんです。焦りを押し殺して、平気な顔を作ってる。
あの人こそ、僕の回復魔法でずっと癒してあげたいぐらいなのに。
心の傷は治せないから……なんて歯がゆいんでしょう。
『いい案だね。シズィならアクセスもいいだろうし、観光地とか、人の多そうな場所で探してみるのもいいかもしれない』
なるほど、それは確かに。
街中ではヴィクトールさんが買い物をする予定ですし、そこで僕たちが行動していれば僕たち以上に責任感の強いあの人の余計な負担になるかもしれません。
結果的にヴィクトールさんとシュヴァの仲直りを後押しすることになる訳ですが……ちょっと悔しいですね。仲直り自体は良いことなので、無理やり飲み込みますけど。
はぁ。どうしてこうも、自分自身と他の人の関係を見るのは……複雑な気分になってしまうんでしょうか。これがどっちも赤の他人なら喜んで応援できたんですが。
*
なかなか収穫ありませんね。
隣町の観光地っていうから、もう少し色んな人が集まってるのかなと期待してたんですけど……蓋を開けてみればお土産屋と食べ歩きのお店ばっかりで。
いや、観光地ってそういう場所なんでしょうけども。
「ダメだったよー。こっちの通りも全滅」
『というか、付近のボスはあらかたシュヴァが倒してるみたいだね』
「ぼくの方も……旅人のおじさんに聞いてみたけど、『最近は静かなもんだよ』って」
エスクリとマージュも似たり寄ったりみたいで。
静かなのはいいことですよ? 平和は素晴らしいことですよ?
でも僕たちが今必要としてるのは「知能の高いボス」の手がかりであって、「ここ最近はボスの話なんて聞かないねぇ」っていうのどかな感想じゃないんですよ。
せめて「あっちの方角でなんか変なの見たよ」ぐらいの情報があれば縋りつくものを。
「流通が止まってたことはあるけど……もう解決されたから興味も薄いって感じでさ」
「だよね……どこ行っても『ああ、あの戦乙女さんが倒したやつ?』で終わっちゃう」
シュヴァは悪の根絶に燃えてるから仕方ないのかもしれませんが……シズィ周辺でとにかくボス討伐を行ってるそうなので、全然欲しい情報が見つからなくなってるんですね。
そう考えると、シズィに到着してすぐにボスの情報を持ってこれたヴィクトールさんは……とんでもない努力を重ねてたのでは。コツか何か聞いて来た方が良かったのかも。
さっきから漂ってくる屋台のやけに美味しそうな匂いですら鬱陶しくなってきました。
こっちの胃はキリキリしてるっていうのに。これで何の結果も出せないまま帰ったらヴィクトールさんになんて思われちゃうか……。
「噂話じゃ限界がある、ってことですかね」
足で稼ぐ情報収集には限界がある。
旅人の噂、酒場の与太話、商人の世間話……どれも断片的で、裏が取れない。しかも僕たちが探してるのは「普通のボス」じゃなくて「言語を解するような上位個体」。そんな繊細な情報が、街角の立ち話から転がり出てくる訳がない。
……確かな情報筋が、欲しい。
それも、世界規模で魔物の動向を追えるような。
「……みんな。やっぱり、昨日のアレ……思い出しちゃうよね」
「昨日の……ああ」
「『アレ』……ですよね」
やっぱりそこに行き着くか。
僕もさっきからずっと、頭の隅にちらついてたんですよ。
昨日の夜、ディアマさんの屋敷を出るとき。
あのお嬢様が言ってきた、『あれ』。
──「ウチの傭兵になるなら、貴方たちが欲しがっているボスの情報を提供してあげてもよくってよ?」
『とんでもなく胡散臭かったよね』
まぁ、うん。
喉から手が出そうな。いや、もう喉どころか手首まで出かけてるぐらいの情報。
要は、僕たちの戦力を生かしてあの商会の手足となって動くのなら……「知能の高いボス」とやらの情報も提供しますよ、って意味ですよね。
あそこの情報網は本物だってこと、それはシュヴァの活躍ぶりからも明らかですし。僕がソワンにいたときですらこの街の情報は一般でも知られてたんです。
もしあの情報力を使えるなら……かなりの精度で割り出せるのかもしれない。
でもなぁ。
「……まぁでも、ダメだよねぇ」
「うん。ダメだ」
……傭兵契約を結ぶということは、ディアマの指示で動くということ。
彼女が求めるのは「商路の安全確保」と「商会の利益」。僕たちの目的とは根本が違う。
ボスの情報は貰えても、その代わりに彼女の金儲けのための案件を優先しなきゃいけなくなる。シズィに縛り付けられて、旅どころじゃなくなる。
十か月を切ってるこの状況で、足止めされるのは……あまりにも致命的です。
あのときはヴィクトールさんもいませんでしたし……あの場で提案を蹴った判断は、間違っていないはず。
でも、じゃあどうするんだって話になると、途端に何も出てこなくなるんですよね。
このまま足で情報を稼ぐ? それじゃ遅すぎる。
かといって他に使える情報筋なんて心当たりも無い。
あーもう、こんな時にソワンの政府パイプがあれば……いやでもあそこはそんな情報通という訳でもないか。
「というか、そもそもあの見た目でねぇ……」
「まぁ、ちょっと信じられないよね」
『商人って、見た目が大事だったりしないのかな』
「もうあの仮面癖は有名なので、向こうも何も言わないんですよ」
──「えっこの仮面ですか? 最近新調しましたわ! 黄金とかダサいだけですわ!」
「なんか、炭みたいだったね。ぼくの魔法で焼き尽くした後の」
「慎重ってことは前、別の仮面つけてたってことだよね」
「『ファッションは鮮度が命ですわ!』って言ってましたね」
『あれはファッションの問題じゃないと思うんだけどなぁ』
僕はソワンで色々な人を診てきましたが……あの仮面から漂ってた空気、あれは「呪具」に近いですよ。そういうものをコレクションしてる人だっているでしょうが……顔に装着するのはちょっと。
禍々しいというか……確実に何か良くないものが付着しているような。失礼を承知で解呪を提案したら「貴重な付加価値ですのよ!」って拒否されたんで多分自覚してるんでしょうけど。
まぁ、今すぐどうこうできる話でもないですし。
ディアマの傭兵にならないと決めた以上、あの屋敷に頻繁に出入りすることもないでしょう。
今日はとりあえず情報探しに専念、ですね。
*
ここの市場、思ったより広いですね……。
向こうの通りは一通り見て回ったし、めぼしい情報もあったような無かったような。
とにかく人が多くて、活気があって、歩いてるだけでお腹が空いてくるような匂いがあちこちから漂ってきて……集中力が削がれる。
「向こうの通りは回ったから、今度はこっちへ行こう」
「これだと戻るのは遅くなりそうだね」
エスクリとマージュはまだまだやる気みたいですが……正直、僕はもう喉がカラカラで。
朝からずっと歩きっぱなしだし、この日差しだし。旅に出てからだいぶ体力はついたつもりでしたけど、やっぱり僕は後衛の人間なんだなって痛感させられますよ……。
というかマージュはどうして大丈夫なんです? 女の子なのに僕より体力があるって……僕が少なすぎるだけか。
「あの、二人とも。ちょっと飲み物買ってきていいですか?」
「ん? ああ、うん。じゃあボクの分も頼んでいい?」
「あっぼくも! お願いして……いい?」
「あぁ、はい」
結局三人分。
まぁいいですけども。
さっき通りがかりに見かけた屋台、あそこなら果実水が売ってたはずです。
喉がカラカラだったせいで記憶に残ってたんですよね。美味しそうだなーって。
ずっと頑張り続けるより、適度に気休めを入れた方が効率的だってこと。昔の僕じゃ考えられない発想ですが……頼れる存在を見つけて、心に余裕ができたからでしょうか。
たしかこの道をちょっと戻って……えっと、あの角の……。
ああ、あったあった。
すみませーん。
「えっと……これ! 三つください」
「はいよ──あれ、お嬢ちゃん一人? おつかい?」
「なっ……そんなんじゃないですよっ!」
ななななんでそうなるんですか!
背が低いだけでしょう! これでも立派な十六歳なんですけど!
お金だってちゃんと自分のを持ってるし、別に誰かに頼まれた訳じゃ……いや頼まれてはいますけど! おつかいとは違いますから!
「あはは、ごめんよ。はい、三つね。一つはもうできてるから先に持ってな」
「あっはい」
「じゃ、あとちと待っててくれよ」
……もう。
こんなの前世じゃあり得なかった。元勇者がおつかい扱いだなんて。
このちんまい見た目が全部悪いんですけどね。分かってますよ。分かってますけど腹は立つんです。
あとお嬢ちゃんじゃありませんから! 立派な男ですから!
どうしようかな。
髪型とか変えてみましょうか? もっと男の人っぽい──それこそあそこにいる人みたいな。
──「あー、また体が凝ってきたなァ……サラシもキッツいしよォ……」
そうそう、ああいう感じです。
あの色眼鏡と耳飾りの……観光客? っぽい、あの胴着の男の人みたいに。
短めカラッと爽やかな。あれなら今の僕のハーフアップより、カッコよくなるんじゃ。
……僕の顔だともっと子供っぽくなるかも? エペに聞いてみた方が──
──「動き回る訳じゃねェし、解いちまうか。よいしょ……っと」
──ゆさっ……
……えっ?
え、あ……急に胸が……え、女の人?
あわわ、とんでもないものを見ちゃいました。
男の人かと思って見てたのに……まさか女の人だったなんて! しかも凄いセクシー!
うわぁ、悪いことしてる僕……女の人の胸元をじろじろ見てただなんて……。
……ん?
あれ? あの人、エスクリとマージュの方に向かって……。
──「よっ久しぶり……でもねェか。卵潰しのときは世話なったな」
──「えっ、なんでここに?」
──「そりゃ観光だろ。こちとら自由を満喫中だっての」
──「あー。だから観光地にいるんだね」
ん、んん?
なんか普通に二人と話してますね。知り合いなのかな?
──「まァいいや丁度良かった。ヴィクは? どこいんの?」
──「シズィにいるけど……」
──「へェ、そーなのか。また久しぶりにあれ頼みたいし会ってくるわ。ありがと、じゃあな!」
──「えっちょっ」
──「リュトは相変わらず自由だねぇ……」
……行っちゃった。今来たばっかりじゃ……って、速っ!
人混みの中をすり抜けていくスピードが尋常じゃないんですが。あっという間に見えなくなっちゃいましたよ。なんの話だったんでしょう。
ていうかさっき、リュトって微かに……。
……リュト。
……リュト?
……リュト!?
えっ、リュトって、知り合いのもう一人の勇者シエルですよね!?
さっきの人、凄いナイスバディの短髪女の子でしたよ!?
眼鏡の奥はよく見えなかったけど、顔立ちは整ってたし、声だって女の人のものだったし! 胴着の上からでも分かるぐらいのあの体つきは、鍛えてはいるけどどう見ても女性のそれで!
ヴィクトールさんから聞いた話だと、リュトって「サバサバして力の強い奴」って印象だったんですけど。しかも「一人称が『オレ』」らしいから僕てっきり──
「──ちゃん! お嬢ちゃん!」
……へ?
「お嬢ちゃん! 果実水! 零れてるよ!」
「え!? わ、わわ!?」
あっ! 手が! 果実水が!
しまった、びっくりしすぎて持ち手が完全にお留守に……!
うわあああ服に! 服にかかってる! 冷たい! ベタベタする!
「あーあー、だから言ったのに。ほら、布巾使いな」
「す、すみません! ありがとうございます……その、もう一杯、追加でください……」
「おつかい大変だねぇ」
「おつかいじゃないんですよっ!」
うわーん!
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