重大な告白
「ヴィクトール!」
「えっ」
目の前にいる男。少し背が伸びて、体つきも逞しくなって、装備も変わっているけれど……間違いない。
ヴィクトール。
私の──僕の相棒だった男。
背が伸びた? 体つきも少し変わった。装備も全然違う。でも間違いない。
私の相棒。私の背中を守り、私と共に戦い……私と同じ志を持っていたはずの男。
彼はとにかくストイックで、魔物への憎悪を滾らせていて、欲に溺れず、ただひたむきに世界平和を成し遂げようとしていたのに……。
ああ、冷静になれない!
久しぶりの再会だというのに、それも吹き飛んでしまうぐらい……!
私がどれだけ──いや、それは今どうでもいい! どうでもよくないけど今言うことじゃない!
このパーティーは一体何なんだ? その……女遊びみたいじゃないか!?
「……!? もしかしてお前、シュヴァか!?」
「そうだ! 君の相棒のシュヴァだ! 忘れたとは言わせないぞ!」
なんだその口ぶりは! 今気づきましたみたいな言い方じゃないか!
いや、ちゃんと彼は私を見て名前を言ってくれた、覚えているはずだ。
それなのに、その困惑したような表情はなんだ。
まるで、知らない人間を見るような……。
こうでなければ、今すぐ飛びついて抱き締めたかったのに。
あんな光景見せられてしまっては……!
「っ、シュヴァ! 久しぶ──」
「それで……君は、その……何故ハーレムを作っているんだ!」
「えっ」
なんでそんな目で見るんだ。言いたいことがあるならはっきり言いたまえよ!
ボロボロの鎧が無様だとでも? そんなもの戦場じゃ勲章だ!
それよりも今の君の方がよほど問題だろう!
後ろに控えてる連中──剣士、魔法使い、僧侶、全員女!
これじゃ、ただのハーレム旅行じゃないか!
「今ボクたち変な目で見られてない?」
「いやぁ……」
知っているぞ。数百年前からそういう男はいた。
何人も女を侍らせて、自分の格をアピールするような下劣な貴族や金持ちたちが。
そういったことはよろしくないと聞かされていたし、不誠実で良くないと思っていた。
あんなヤツにはなりたくないと、大事な一人だけを愛すべきだと、そう思っていたのに。
まるで、その時の彼らのような……。
いや流石に彼がそこまでという訳ではないだろうが……!
「その……不埒じゃないか!? 一人ならず……三人も女を連れて!」
「えっ僕は男なんですが」
「おい、落ち着けシュヴァ。誤解だ、彼女たちは……」
……っ!
ああ、腹が立つ。何が一番腹が立つって、彼が私を宥めようとしてる態度だ。
駄々をこねる子供をあやすみたいな顔して──私は対等な仲間だったはず。
君を叱咤し、背中を叩き、共に前に進む存在だった、君は私の側の人間だったのに!
なのになんだ、この部外者みたいな扱いは……!
私は、君とはぐれてしまって。
それで、どれだけ寂しい思いをしたか、分かっているのか?
本来自分が立っていた場所に、全然知らない人間が、しかも複数人立っていて。
その全員が、並々ならぬ感情を向けているのを見させられるなんて……。
「だ、だが! これのどこが誤解なんだ! 君だって、彼女たちに鼻の下を伸ばしているんじゃないのか?」
「伸ばしてないが……」
「ほ、本当か? で、でも……!」
私が、彼の一番「最初」だったはずだ。「相棒」の席は私のだったはずだ。
君の隣で剣を振るって、共に敵を打ち倒すのは私の特権だったはずだ。
再会したら一番に喜んでくれるって……「生きていると思ってた」って「また会えて嬉しい」って「もう一度二人で組もう」って、そう言ってくれるものだと思ってたのに。
なんで……なんで知らない女に囲まれて平然としてるんだ!
「これ……もしかして修羅場ってやつですか?」
「ど、どうしよう? ヴィクくんが戦いにくいならぼくたちがやる?」
「いいよ。エペがあれば傷つけずに倒すことだってできるし」
「待ってくれ。彼女は敵じゃない、何か悪い勘違いをしてるだけだ」
なんだ、やる気か?
い、いいさ。むしろ、向こうから手を出してくれるなら問題なく反撃できる。
どれだけ魔力を解放しようが。
どれだけこっちを睨んでこようが、私が怯むことは無い。
同じように魔力を解放し。
ただ、この目で睨み返す、だけ……。
「あれ? その目、ボクたちと……」
「へ? この魔力、ぼくたちと……」
……ん?
*
「えーと……彼女は、俺が昔組んでいた仲間のシュヴァだ」
「シュヴァだ………………先ほどは本当にすまなかった。ついカッとなってしまって」
「……で、こいつらは俺の今の仲間だ。その、不埒な関係では、ない」
「……エスクリ。まぁ、見ての通り剣士だよ」
「ぼくはマージュ……杖はないけど、魔法使い」
「えっと、ルメドです。最近この旅に参加しました」
……なんだ、そういうことだったのか。
酷い勘違いだった。昔から変な正義感に駆られて誤解することはあったが……いくら期間が開いたとはいえ、それをヴィクトールにまでしてしまうだなんて。私の悪い癖だ。
とんだ早とちりだった。
彼が堕落したなんて、彼女達が彼を誑かしているなんて……全部、私の邪推だった。
ヴィクトールは変わっていない。彼もまた、私と同じように……世界平和のために戦い続けている。そして彼女たちも、その志を共有する同志だったんだ。
「(なんで皆急に落ち着いたんだ……? 俺の知らない合図とかがあるのか……?)」
肝心の彼はお互いの紹介を済ませた後、一人で何かブツブツ呟いているが……。
女ばかり引き連れている。それだけの理由で、あのヴィクトールが。
私と組んでいた時も一切手を出したりする素振りすら見せなかったヴィクトールが──数百年前の下劣な彼らと同等になり下がってしまったのではと誤解してしまうだなんて。
今思い返しても……あまりにも沸点が低すぎる。どうしてあれほど急に怒りに思考を支配されてしまったのだろう。彼が自分から好き好んでハーレムを築くなんて、ある訳ないじゃないか。
再会の喜びで頭が沸騰していたとはいえ……騎士として、いや、勇者としてあるまじき失態だ。
……いやハーレムなのは間違いないが。
ただ、それでも納得できる。
だって彼女達は──私自身なのだから。
「昔組んでいただって……昔……昔だって……」
「まあまあエスクリ。今役に立ってるのはぼくたちなんだから……さ」
……私自身、だよな。
あれは、私……なんだよな。
ちょっと……嫉妬深そうじゃないか?
私はあんなに嫉妬深くないぞ。元のシエルはあんな感じだったか……?
「その、僕たちはここのボスを倒すために来たんですが……誤解は解けました?」
「ああ。まさか──『同業者』だったとは思いもしなかった。本当にすまない」
そう。
彼らは、「ボスを倒すため」にこの場所に来たシエル達だった。
ヴィクトールと出会えたこともこれ以上ないほどの驚きだったが……まさかここに自分自身が、しかも三人もいるだなんて思いもしなかった。とてつもない衝撃だ。
かつて出会った……あの「リュト」と呼ばれるシエルとは大きく違う。彼女と違って、本来の目的だった「世界の平和を維持するための抑止力になる」という志を持っている。
この三人は、自らの意志で、危険な遺跡に足を踏み入れた。ヴィクトールという相棒を得て、世界平和のために戦おうとしているんだ。「剣士」「魔法使い」「僧侶」という、戦闘に役立つ才能を受け継ぎ、それを正当に使おうと努力している。
となると、彼女達がヴィクトールとも行動を共にしているのはおかしなことじゃない。
ヴィクトールは現代の勇者とも言えるほどに、私の理想を体現した志を備えている。もし旅の途中で出会うことがあれば、元シエルの彼女達がその心意気に理解を示し、行動を共にすることだって、あり得ないことじゃない。
……集まった面子が女ばかりなことと、私がいなかった間に他の仲間を見つけてしまったという事実は少々寂しい……いや、複雑な気持ちだが。世界平和のために私の幸不幸など、大した問題ではない。
「……で、ここにいたボスは……」
「それなら心配には及ばない。私が既に討伐済みだ」
そういえばそうだったな。
元々彼女達はここのボスを倒すためにやって来たのだから……当然、その安否が気になるだろう。私もそのことを伝えにここまで来た訳だし……。
……? なんだ、その反応は。
てっきり喜んでくれるものかと思ったが……そんな拍子抜けしたような顔をされても。
結果として悪が滅びたのなら、それでいいはず。誰が倒したかなど、些末な問題だろう。
報酬が欲しかったのなら私がディアマから頂いている給金から払うことも考えているが……勇者シエルの生まれ変わりである君達や、ヴィクトールであれば、報酬の有無でそこまで落胆することは無いと思うのだが。何か入り用なのだろうか?
あのボスに用があった? まさかな。
「とりあえず、ここから出よう。長居するような場所ではないし、私のせいで無駄骨を折らせてしまった」
この度は不手際で余計な混乱を招いてしまったが……早まる前に解決できてよかった。
本当はヴィクトールともっと話したい。彼がどんな旅をしてきたのか、私の知らない魔法をどうやって覚えたのか……聞きたいことは尽きない。
ただ、私には私を待っている依頼人がいるし、ディアマとの契約からこの後彼女の元へ報告に戻る義務もある。あのお嬢様のことだ、私が仕事を後回しにしたら何を言い出すか分からない。
彼らもこんな埃臭い場所に長時間いたくないだろうし……。
「(ねぇねぇ)」
……ん?
おお。
勇者三人衆だ。なんだ小声で。
「(その、ボクたち……キミと話したいことがあるんだ)」
「(えっと、ヴィクくんには内緒で……話ができるかな?)」
「(後でもいいので、時間を取ってほしいのですが)」
うん?
ヴィクトールには内緒?
……ああ、なるほど。
「(ああ、分かった。同じ志を持つ者同士、有意義な時間になるだろう)」
分かっている、君達も私だ。勇者シエルの生まれ変わりでしか話せない話だってある。
きっと、互いの記憶や、使命について語り合いたいのだろう。ここまで多くのボスを討伐してきたのなら、それについての情報共有もしなくてはならない。
後は彼らが何故集中しているかの理由も聞き出さなくては。抑止力たちが一部に集中する意味は無いし、何か目的があるなら聞いておくに越したことは無い。
「よし、ヴィクトール。戻ろう………………ヴィクトール?」
「え? あっ……そう、だな。戻ろう、か」
*
「ヴィクトール。君にも謝罪する、先ほどは君にあんな暴言を吐いてしまって」
「ん、ああ……」
「後日またしっかり時間を取って話し合おう。積もる話もあるし、その……どうだろうか?」
彼には本当に悪いことをした。虚偽の疑いで名誉を傷つけるようなことをいくつも言ってしまって……。
後日正式に、今回の謝罪と再会を祝うための話し合いの場を設けるべきだ。
十分な時間を取り、二人きりでゆっくり、ちゃんとした場所で、食事でも取りながら、ゆっくり今回のこと、これまでのこと、これからのことを語り合うべきだ。
少なくとも今歩いている薄暗い遺跡や、ここを抜けた後の草原、私が移動している馬車の中などでは……その再会を祝う場所に相応しくな……。
「そう……そう、だな」
……?
なんだその適当な返事は。聞こえなかったのか?
いや、隣を歩いているんだ。聞こえないはずがない。
遺跡の中だから風が強い訳でもないし、周囲が別段うるさい訳でもない。
……無視されている?
「……ヴィクトール?」
「……」
「ヴィクトール、聞いているのか?」
「……」
……反応がない。
何か、考え込んでいるのか? 完全に自分の世界に入り込んでいるような……。
……私の提案が不満なのか? 「後日話そう」というのが気に入らなかった?
どうしようか、誘い方を間違えたか。正義感ばかりに突き動かされていたから、今更人との付き合い方なんて分かりもしないし……。
……いや、それでもヴィクトールはそんな粘着質なことをする男じゃないはずだ。
もっとこう、竹を割ったような……そう、サッパリとした性格だったはず。
「おい! ヴィクトール!」
「……っ! あ、ああ、なんだシュヴァか。どうした?」
「どうした、じゃない! さっきから呼んでいるのに何故無視するんだ!」
ようやく顔を上げたかと思えば……まるで今気づいたみたいな反応じゃないか。
まさか本当に聞こえていなかったのか? 隣を歩いている私の声が?
そんな馬鹿な。いくら考え事をしていたとしても、限度があるだろう。それとも、よっぽど重要な……私との会話よりも優先すべき思考に没頭していたとでも言うのか?
「悪い、少し混乱していた。悪気はないんだ」
……混乱?
「何かあったのか?」
「あ……いや、わざわざ言うほどのことでもない……と、思う」
……え、なんだその言い方。
逆に気になるじゃないか。
謝罪の言葉は素直だ……嘘をついているようには聞こえない。
ただ、せっかく数年ぶりの再会で、向こうが何か「混乱」しているだなんて。その内容は十中八九、私かこの状況に関係している内容じゃないか。
私の知る彼なら、何か気になることがあればもっと直球で言葉をぶつけてきたはずだが……それが、こんなにも歯切れが悪いなんて。
「……大事なことなら、はっきり言った方が良いんじゃないの?」
あ。
エスクリ達が話に入って来た。
「いや、大事なことではあるんだが」
「でも……もしかしたら、後に響いてくるかもしれないよ?」
「それはそうかもしれない。でも言わない方がいいかと」
「そんな。これ以上、一人で抱え込まないでくださいよ」
「……いや、でもなぁ」
これは……彼らなりの、助け船か。
重い話なら、隠さず打ち明けてくれと言う信頼の証なんだ。
彼なら周囲にそう思われるのもおかしくないし、むしろそうやって支えようとする仲間が集まってくるのが普通なのだろう。彼の善性が、これでもかと表れている証拠でもある。
事実、私は彼の背負っているものならいくらでも力を貸し、解決のために尽力するつもりだが。
「よし……分かった。言うことにする」
……考え直してくれたか。
なんで私が聞いたときはすぐ言ってくれなかったのか気になるが。
ただ、もしかすると、本当に重大なことなのか?
あの遺跡はアンデッドが跋扈していた場所だ、私は特に何もなかったが……もしかしたら悪い影響が出ているのかもしれない。
それか、あの遺跡の中に重要な情報を見かけたとか? その情報が私達を危険に晒すものだから、あえて秘密にしているとか……彼ならあり得なくもない。
それとも……私との再会について、改めて何か思うところがあるとか? 「やっぱりお前と会えてよかった」とか、「実は今までずっと探していたことがある」とか……!
「その……当時は俺たちも若かったし、必死だっただろう?」
……うん?
「それに、お前はずっと鎧を着ていて、普段の姿を見たことが無く……」
……んん?
何の話だ?
「それに、言動が男っぽかった。一人称も『僕』と『私』が混ざっていて、本来は『僕』なのかと」
……えっと?
そうだ、ぞ。今でこそ慣れたが、世界を救う勇者としての威厳を出すため、男社会の傭兵団で舐められないため、少しでも強く見せようとして……。
でも、それがなんだ?
それが、今の君を悩ませるほどの問題なのか?
彼は、一体何を悩んで……。
「お前……女だったのか」
……。
…………。
………………は?
「いや、悪い。今の鎧……というか、中が少し見えて、それで。本当にすまない」
……。
じゃあ、私。
新人時代を共にした相棒に。
性別すら……把握されていなかった、のか!?
「……ヴィク、それは……ダメだよ」
「ヴィクくん、流石にちょっと……」
「いくらなんでも失礼では……」
「待ってくれ、これ俺が悪いのか」
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