信じて送り出した彼が……
「ここが遺跡の最深部か……」
石造りの回廊。遺跡の最深部へ続く道。
今は苔むし、ひび割れ、風化しているが……かつては煌びやかな装飾が施されていたんだろう。もしかすると前世で訪れたことがあったかもしれない、人々の手による、努力の結晶そのものだったはずの建物。
それが今やボスの巣と化しているとは。断じて許せることではない。
交易都市シズィの物流を麻痺させ、人々を脅かす、邪悪な「悪」を、私は打ち倒さなければいけない。
「どこに隠れているのか……『索敵』。『遮音』。『暗視』」
この、魔力の波紋が広がり、壁の向こう、床の下まで浸透していく感覚。
ネズミ一匹逃さない。それが私の流儀。
様々な強化魔法を覚えているとこういう時に役に立つ。使える魔法の種類が多いということは多様な内容に対応できるということ。
おかげで、こういった旅の助けとなる魔法や、前世では存在していなかった弱体化の魔法まで。現代に生まれた新たな魔法の知識をより吸収しやすくなった。
とはいえ、攻撃魔法や回復魔法のような、完全に毛色の異なるものは不可能だが。
もし一種類の系統しか受け継げなかったと思うと……ゾっとしない。その時私は現代魔法のほとんどを理解できず、ただ闇雲に動くことしかできなかったかもしれない。
……っと。
「……いたか」
あの場所は……大広間か。
まぁ広い。天井は高く、崩れかけた柱が何本も並んでいて……いかにもらしい。
入り口の扉が分厚くて助かった。おかげでこうして隠れながら様子を確認できる。
巨大な、骸骨の……戦士か? あれは。
身の丈は優に十メートルを超えているだろうか。
錆びついた甲冑を纏い、身の丈ほどもある大剣を杖のように突いて立っている。
あのサイズの甲冑をどうやって手に入れたか気になるところではあるが……どうせまともな方法ではないだろうな。
「差し詰めスケルトンナイト……か」
ただのアンデッドではない。
あそこまで成長するには、どれほどの年月と、どれほどの魂を食らってきたのか。
想像するだけで反吐が出そうだ。
お前の存在そのものが、この世の理に反している。
周囲の宝箱がその証拠だ。
「あれが、報告にあった強奪品か?」
まぁその認識で間違いないのだろうな。
平地で突然地面から現れ、物資を奪い去り、抵抗する者は皆殺しにして立ち去る。
元は別の場所に居ついていたようだが……被害を恐れた隊商が近寄らなくなり、仕方なく移動。代わりにこの遺跡まで辿り着いた……という訳か。
ああやって強盗を働き、何を目的としているかはまるで不明だが。
あれはきっと、生前の未練か、あるいは邪悪な本能による執着に過ぎない。
情けは無用。対話も不要。悪は、滅びるだけでいい。
それは前世からずっと変わらない。
「……始めるか」
戦闘前は自身への強化を行うに限る。
気持ちも落ち着くし、相手への敵意も芽生えてくる。戦闘が始まってから強化魔法をかけだすのは時間の無駄だし、隙を生むことにもなる。
──『肉体強化』
──『筋力増強』
──『防御強化』
──『剣気付与』
──『加速』『加速』『加速』
相手を侮りすぎるのもよくないこと。
いくら自分の実力に自信があるとはいえ、それに驕って怪我をすることが許されるのは新人時代までだ。
ただでさえ最近の魔物やボスは強い個体が増えてきている気がする。
限界まで重ね掛けして、どれだけ用心しても足りないくらいに。
……あのときは「彼」に心配そうな顔をされたっけ。
不思議と悪い気はしなかったが、そんな風ではいけない。あれを戒めと思うようにならなければ。
「卑怯とは言うまいな、悪党め」
いいか、慈悲を捨てろシュヴァ。
正義を成すためならば、不意打ちだろうが過剰戦力だろうが厭わない。
相手は強大だ。油断すれば、やられるのは私の方かもしれない。
自分の使命を思い出せ……「僕」はそのために生まれてきた。
だからこそ、全力で、確実に、息の根を止める。
私は私にできることを全てやったうえで……どれだけ泥臭くあろうと、必ず勝利を収めてみせる!
──……? ……ナニ……モノダ?
……行くぞ。
悪は……滅びるのみ!!
「いざ、勝負!!」
*
「──という訳で、討伐完了した」
「だ……大丈夫ですか? その、お怪我は……」
「大した怪我じゃない、防具が破損しただけだ。心配をかけて申し訳ない」
「いや、そんな……!」
ああ、困り果て助けを求めた依頼者に、「大丈夫か」などと心配させてしまうとは……。
私もまだまだだな。
現に、かなり手強い相手だったのも事実だ。
射程が広いせいかかなり大振りな動きに限定されていたが……それでもかなり素早く、かなり強い攻撃を何度か受けてしまったのも事実。
私は「勇者シエルの防御魔法」が使えるから肉体に大きな損傷こそなかったが……逆に言えば、高度な強化魔法を会得していないと私クラスでも危なかった強敵だったということ。ますます前準備をしておいて良かった。
両親がくれた自慢のこの金髪も汚れてしまったし……その上、この鎧も──完全に破壊されてしまった。
せっかくディアマが、私のサイズにも合うような大きめの胸当てを用意してくれたのに……また頼まないといけないじゃないか。
前に新調した時も、彼女は「わたくしも試着しましたが重くて動けませんでしたわー!」とか呑気なこと言っていたから別に気にしたりしないだろうが。
何気に恥ずかしいんだぞあれ。
……弱音を吐いている場合じゃないな。
装備を使いこなすのも実力のうち。私は私の戦い方で、正義を貫くしかないんだ。
「とにかく、もう安全だ。あのアンデッドの核は破壊し、動くことはないだろう」
「お、おお……! ありがとうございます! これで商路が……!」
「これが私の使命だから、礼には及ばない。貴方の役に立てて満足している」
さて。
後の仕事は、あの強奪された品の回収だな。
アンデッド討伐後の手順は確か……僧侶何人かで、該当アンデッドの出現場所を浄化し、その魂を完全にあの世に送る、とかだったはずだ。
私が前世の僧侶としての記憶も保持できていれば、一度に解決できたんだが……まぁ、贅沢は言っていられない。
急ぎ僧侶を手配するよう頼んで、内部の浄化を行ってもらおう。
その後に回収作業へ移ることになるはず。
私は眷属が残っていることも考慮して警護に回らないといけないし……何よりあの量だ。
相当な数の力自慢が必要になるだろう。それで何往復もして……結果、いくつかの品は破損している可能性もある。私が被害者だったらやりきれないだろう。
今考えるとむしろこっちの方が苦労しそうな気がしてきたぞ──
「──と、なると。先ほどの僧侶を含むパーティーはシュヴァ様がお呼びしたということですか?」
……ん?
「……待ってくれ。それを私は知らないぞ。何の話か教えてくれるか?」
「えっ? 私は先ほど部下から聞かされたのですが……」
つまり、私が遺跡の中でボスと戦っている間、僧侶を連れたパーティーが同じく遺跡へ向かった……ということ、か?
おかしいな。私はまだ浄化案内を出してないし、そんなパーティーを呼んだ覚えもない。
というか、「パーティー」?
僧侶のみではなく?
「私はてっきり、シュヴァ様が手配された方々と思い、そのままお通ししましたが……」
「……知らないな。見てもいないし……入れ違いになってしまったか」
……ディアマめ。
さてはまた、金になるからと公に出されている依頼をそのまま引っ張って来たな?
確かにこの案件は大型のものだし、依頼を専属で受けるよう変更したいなら結構な手数料がかかるだろう。
彼女の金になる案件を嗅ぎつける嗅覚は素晴らしいものがあるが……私に完全に引き継がせるための手続きを省略して、手数料を節約したか。
もしかしたら、この案件を後回しにしたのも報酬の増額を待つためだったりするのでは。
それのおかげで……何も知らない別のパーティーがボス討伐に名乗りを上げたと……。
いやまぁ、ボスの討伐を引き受けてくれる人物が出るとは想定できなかっただけかもしれないが。
「……呼び戻してきましょうか。もうボスはいない訳ですし」
……だが。
それは、なんとも……。
「そうだな。私が呼びに行って来る」
「えっ! シュヴァ様が……ですか!? その、安静にされた方がいいのでは」
「大丈夫だ。本当に大した傷じゃないし、私個人としても──彼らと話をしてみたい」
そうだ。
よくよく考えてみれば──そのパーティーの心意気は非常に素晴らしいものじゃないか。
この遺跡の異様な気配、あるいは物流が止まっているという噂を聞きつけて、自ら危険地帯に飛び込んでくれた義勇の士たち。
長らく放置されていた討伐依頼であればその危険度が高いのも承知のはず。にもかかわらず、自分の命の危険を踏まえた上で、世界平和のために尽力しようというのだ。
しかも数百年前とは違い、緊急性のない現代において……それを自主的にやっているというのだから。
勿論、報酬に目が眩んだだけかもしれないが……。
かつて愛する者を守るため、魔王軍と戦いその命を捧げたかつての仲間のように。
私と同じように悪を憎み、世界を平和にする旅をすると語っていた「彼」のように。
それほどまでに素晴らしい人物が他にもいる。
しかも、僧侶を含んでいるということは……魔物との戦闘、そして事後処理まで見越した万全の態勢ということか。
彼らのような志を持つ者がいるなら。
私が世界を救ったことにも十分意味があったと実感できる……!
「もしまた入れ違いで彼らが戻って来たときは礼を伝えておいてくれ、では」
「は、はぁ……分かり、ました」
何はともあれ感動している場合ではない。
ボスは結局倒されてしまったのだ。彼らが到着したところで討伐すべき相手はもう存在しないし、そもそもあの遺跡は迷路状に入り組んでいて視界も不明瞭だ。無駄に骨を折る必要は無い。
善意のために駆け付けた彼らがもし、遺跡の中で迷って「来なければよかった」などと後悔させてしまったら……あまりにも忍びない。
彼らに是非とも一言礼を言いたい。
その勇気に敬意を表さなければいけない。
きっとこれは、実りのある出逢いになるだろう。
*
さっき出たばかりの遺跡に、もう一度入ることになるとは。
僧侶を連れて、危険を承知で飛び込むとは……どんな気概の持ち主たちだろうか。
ただの無鉄砲な旅人ではない。確かな実力と、覚悟を持った者たちに違いない。
「もしかしたら、話の合う同志かもしれないな」
私と同じように、この世界の平和を願い、悪を討つために戦う者たち。
一体どんな話ができるだろう? 私の理想を体現しているのだから、とても高潔かつ誠実な人々であるはずだ。
かつての……「彼」のように。
「ふふっ……」
……このボロボロの鎧姿を見られるのは、少々恥ずかしいが。
胸当てが割れて、中の服が見えてしまっているし……「金髪の戦乙女」なんて呼ばれているのに、こんな無様じゃ格好がつかないな。
でも、彼らなら……見た目ではなく、中身を見てくれると信じたい。
……ん?
──「……! ……!」
──「……? ……!」
……声?
声が聞こえるということは……『遮音』の魔法を使っていないということか?
少し不用心だな。敵地であまり大きな声を出すべきではないと思うが。
いや、既にボスがいないことを確認して、一時的に会話をしているのかもしれないな。
かなり場数を踏んでいる旅人なのかもしれない。きっと冷静な分析をしているのだろう。
なになに……?
──「……この痕跡、既にアンデッドが倒されていますね」
──「こんなに急いで来たのに、もう倒されちゃったの?」
──「これじゃ話は聞けな……じゃなくて、来た意味なかったですね」
──「そ、そんなぁ。ぼく今日照明係しかしてないよ……?」
「……意外だな」
件の人物は──思ったより楽観的そうだ。
話をしている当たり……聞いていた通り複数人みたいだな。どれも女性の声……女性だけのパーティーなのか?
近くの盗品に何も言わず、ボスについてのみ話しているようだし、やはり真っ当な心意気で来たパーティーなのだろうが……少し気が抜けているような。
何か──頼れる相手がいるから、安心しきっているような……そんな雰囲気じゃないか?
ああ、一人見えてきたぞ。
背丈からして……男か。
火魔法を明かりとして使っているのか? これなら『暗視』を使わなくてもよく見える。
肩のあたりに火の玉を浮かせて……相当な制御技術だな。あそこまで完璧に炎の挙動を操る魔法は現代に存在していなかったと思うが。手練れであることは間違いなさそうだ。
でも、あの後ろ姿。
なんだか懐かしいな。
只ならぬ雰囲気を纏わせて、隙は無い。それなのに、どこか自然体。
やはり相当な戦闘経験を積んでいる。なんだか安心できる雰囲気だ。
よし、とりあえず声をかけてみよう。
もし熟練の火魔法使いならこの距離からでも私を攻撃できる。
敵だと勘違いされないよう、明るい声で呼びかけてみて──
──「そうだな、一度外に戻ろう。俺の調べた情報に間違いがあったのかも……」
えっ。
えっ? え? あ? うそ……?
……ヴィク、トール?
えっ、どうして?
どうしてここに?
彼だ。私がずっと探していた、かつての相棒。
見間違いか? 私は疲れているのか?
懐かしい。昔より少し成長した?
生きていると信じていたが、まさかこんな場所で……。
不器用で、無口で、でも誰より優しかった彼。
こんな形で、運命の再会を果たすなんて!
いやまず、どうしてここに?
ああ、考えが整理できない。
あの日、はぐれてしまってから……ずっと会いたいと願っていた彼が、今、目の前にいる!
──「既に倒されていたとしたら……しまったな。どうすれば……」
でもやっぱり、間違いない。
あの声も、あの顔も、あの瞳も、全部に見覚えが、聞き覚えがある!
あの剣は? ああ、買い直したのか。
彼のことだ、無茶な使い方をしてどんどん使い潰しているのだろう。そんな使い方をしてはいけないと、何度も叱ってやったことをよく覚えてる。最後まで直りはしなかったが、今までその癖で多くの敵を倒してきたのだから詰めることでもなかったかもしれない。
あの盾は? 私が助言したそれだ!
彼は合理的だし、本当に無駄だと思ったら使わなくなるだろうけど……今でも装備している。今でも私のアドバイスを受け入れてくれてるんだ。盾も完全に変わってしまっているのが少し寂しいが……それ以上に、彼の役に立てているということが嬉しい!
あの魔法は? 私は見たことが無い。
彼からは一切魔力を感じなかったし、魔法を使っている素振りすらなかった。新しく会得したのか? 彼が頑張り屋なのは知っているが、一番初めの仲間だった私に知らない事実があるのはちょっと悲しい。彼はあれ以降、私以外の色々な人に出会ったのだろうか。どうしても、それを祝福できない自分がいる。
でも今は。
とにかく早く、彼に「僕」を思い出してもらわないと!
君の相棒は!
今ここにいるよって!
「ヴィクト──!」
──「ねえヴィク、これで何もいなかったらどうする?」
──「それは困……らないな。平和なのはいいことだ」
……ん?
あれ? 女?
──「ヴィクくん、明かり、強くしようか?」
──「そうだな、そうしてくれると、助かる」
……え?
女? もう一人? え?
──「ヴィクトールさん、こっち。こっちも見てみましょう」
──「いや、引っ張らなくても大丈夫だぞ」
は?
え、一番可愛い……え、また女?
ん? え? は?
「はあああああっ!?」
「ひゃあああ!?」
「うわぁ!? え、なになに!?」
「わわ!? ヴィ、ヴィクトールさん!」
「え、なんだ、どうした」
私の……僕の相棒が……。
僕の見ていない間に……。
……ハーレム作ってるんだが!?
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