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僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~  作者: 破れ綴じ
交易都市シズィ 及び周辺地域

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全ては世界の平和のために

 伝説の勇者シエル──その「強化の才能」を受け継いだ転生体、名前を『シュヴァ』。

 勇者たるもの、その命は──世界平和を目的に捧げられるべきである。


 そもそもどうして僕は勇者になることを了承したのか? 

 自分の過剰なまでの才能に強い自信を持っていたから? 

 魔王による世界の征服に強い恐怖と抵抗を感じたから? 

 自由にできない全滅寸前の世界に閉塞感を覚えたから? 

 傷ついた人々を見て居た堪れなくなってしまったから? 

 それもあるんだろうけど……それが一番の理由という訳じゃない。


 一番の理由は──僕の力で魔王を倒し、人々を絶望から救い出し、そして世界を救いたいという、強い使命感に駆られたからだ! 


 物心ついた時には、もう知っていた。僕には果たすべき使命があるのだと。

 この身に宿る「勇者シエル」の魂が、僕に囁き続けていた。「戦い」「守れ」と。

 世界にはまだ、魔王の……あの悪の化身そのものの残滓がこびりついている。人々を脅かす「ボス」や「魔物」と呼ばれる存在が各地で蠢いている。勇者シエルとしての僕があまりに不甲斐なかった、悪を完璧に根絶できず見逃してしまった結果がこれだ。

 そんな悪を討ち果たし、恒久的な真の平和をもたらすことこそが、僕の存在意義。


 かつての勇者シエルと目的は同じ、しかし今は勇者シエルではない。

 だから、僕は……いや、「私」は。剣を取り、故郷を捨て、旅に出た。




 いつだって思うけど、私が戦闘向けの才能を受け継いだことはとてつもない幸運だった。


 私は生前あったはずの剣や攻撃魔法の才能をこれといって受け継げはしなかった。それでも一般人よりははるかに強いが……これといった武器の技術も、強大な魔力を持つことも、強靭な肉体を手に入れることもできなかった。

 それが原因で、武器は辛うじて慣れ親しんだ剣を選択し、敵の攻撃を未然に防ぐ盾を常備し、全身を鎧で覆う戦法を取らざるを得なくなった訳だが……。


「『肉体強化』! ハアアッ!」


 ──ゲガァァァ! 


「……フッ、この程度かっ!」


 だからこそ──この「支援魔法」「補助魔法」「強化魔法」など、戦闘補助能力に優れて生まれたことがこれ以上ない幸福だった訳だ。


 私は、直接的な攻撃にこそならないが、戦闘でも日常で役に立つ魔法を多く使いこなせる。肉体に強化を施せば、全盛期の自分より力強く、素早く、粘り強い戦い方を選ぶことができる。

 この状態であれば力任せに剣を振るだけでもほとんどの敵を抵抗無く切り裂くことができるし、この力があったために、地道な剣の訓練も最低限の体力消費で繰り返すことができた。万全に準備された装備も相まって全開時の私は、例え敵の攻撃が諸に直撃しようが一歩ですら後ずさることも無い。


 おかげで、世界平和のため、私は存分に力を振るうことができる。

 本当にこの力を持って生まれ変わることができて良かった。もし力を持たないままこの使命感だけを受け継いでいたら……何も出来ない無力感にどれほど苛まれていたことか。





 駆け出しの頃に組んで、一緒に苦楽を共にしてくれた「彼」の存在も記憶に新しい。


 あの頃の私は、未熟だった。自分の弱さを認められず、過剰な装備に身を包んでは、正義感に駆られて先走り、変に暴走を繰り返す……。

 魔法が無ければただの足手まといでしかなかったはずだ。今思い出しても情けない。


 そんな私を、彼はいつでも支えてくれた……。


 ──『え、路銀ってどうやって稼ぐんだ』


 ──『僕……じゃなくて、私も、よく分からないな。日雇いを探すとか?』


 ──『だな。じゃなきゃ装備も揃えられないし』


 とはいえ向こうも、旅を始めたばかりだったのだろう。

 私達にはお互い分からないことだらけ。お互い手探りで魔物への対処法を編み出し、下積みを重ねて資金を貯め、最適な戦闘スタイルを模索していた。

 ただ「魔物を倒したい」という目的が一致したために、あそこまで共にいてくれた彼には感謝を忘れられない。


 時には私の方から彼に助言をすることもあった。

 どうやってそこまで鍛えたのか、彼はとてつもない身体能力を誇っていたけれど……どうにも本人の心意気が危なっかしいというかなんというか。あまり自分の命を大事にしていなさそうな気配が時折垣間見える。


 ──『もう少し防具を充実させてみるのはどうだろうか』


 ──『いるか? 先に仕留めればいいと思うんだが』


 ──『防御ができれば……受けからのカウンターだって狙えるだろう?』


 ──『それはいいな。盾を武器にするのもいいかもしれない』


 ──『あのな……』


 どうしてそんなに敵意に満ちた考えが出てくるのか理由は分からなかったけど……魔物を憎む人間はこの現代世界じゃ珍しいことでもない。きっと彼も、大事な人の命を魔物に奪われてしまった……そんな悲しい過去を持っていたのかもしれない。

 最後までその理由を聞き出すことはできなかったけれど、そんな話をするのも時間の問題だったように思う。私自身、自分の過去を彼になら明かしてもいいんじゃないか、と……そう思うこともあった。


 真夜中に針葉樹の高原を進んでいた時はぐれてしまって、それ以来出会えていないけれど……どれだけ探しても彼はあの場所にいなかったし、その後の旅でも彼の倒したボスの痕跡を見かけることはあった。

 だからきっと今もどこかで生きているはず。


 また会えたら、その時はもう一度。

 あの時よりずっと強くなった私と組んでくれるだろうか。

 きっと彼も、さらに強くなっているだろうから……。






 *






「……おおおっ! やったぞ!」


「倒した! あの化け物を、騎士様が一人で!」


 ──ああ、この瞬間だ。


 地を揺るがすような歓声。涙を流して感謝する人々の顔。

 駆け寄り、私を取り囲む人々のその瞳には──感謝と、畏敬と、そして安堵の色が浮かんでいて……ああ! 

 これを見るために、私は戦っている。この笑顔を守るために、私は剣を振るっている。


 この巨大な猪の魔物も、一般的な衛兵では荷が重かっただろうが……私が来たからにはもう恐れる必要は無い。現にこうして今死骸となって、倒れているのだから。さっきまでこの街を恐怖に陥れていた「ボス」は、今はもう動かないただの肉塊でしかない。

 私の剣が、そして私の魔法が、この脅威を断ち切ったのだ。


 誰かを恐怖から救えたという確かな手応え。

 世界から一つ、悲しみを消し去れたという事実。

 これこそが「私の生きる理由」に違いない。


「騎士様! どうか、これを受け取ってください!」


 ……おっと? 


「村を救っていただいたお礼です! 微かではありますが……」


「いや、結構」


 彼は……村の長だ。

 私にボス討伐を依頼した老人であり、今は震える手でずっしりと重そうな、この街にとっては決して少なくない金貨が入った袋を、惜しげもなく私に渡そうとしている。


 そんなものを受け取る訳にはいかない! 


 何もしないというのは彼の立場からしても看過できないことなのだろうが……そういった心配、私には無用だ。そもそも事前に「報酬は必要ない」と述べている。

 演技でも、痩せ我慢でもなく、本心からの言葉として……人から金銭を巻き上げるためにこのような活動をしている訳ではないのだよ。


「この金は、村の復興に使うべきだ。私に渡す必要は無い」


「し、しかし……これほどの恩人に、何も報いないわけには……!」


「皆の無事な姿。それが、私にとって何よりの報酬だ。これ以上ないほど、満たされている」


 報いなら、もう十分に頂いた。

 皆が喜んでくれることこそが、私の喜びになる。


 ……ああもう、涙なんか流さなくていいのに。それを使うべき時と場所は他にあるはず。

 私への報酬のために、こうして恐怖に震えていた手をもう一度震えさせる必要なんて無いのだから。


「……もしまた、脅威が迫り、困ったことがあれば。今回のように『シズィ』の『ディアマ』の元へ、いつでも依頼をしてくれ。すぐさま駆けつけよう」


 私は、そのために戦っているのだ。




「シュヴァ様! おかえりなさいませ!」


「お疲れ様です! シュヴァ様!」


「ああ、君達も。お疲れ様」


 この「交易都市シズィ」でも、すっかり顔が知れ渡ってしまったな。

 今や「金髪の戦乙女」などという異名で、このシュヴァの名前も有名になった。


 初めは、世界中から商人や旅人が集まるあの街なら、より多くの人々の依頼に触れることができると……そう考えて選んだ拠点だったが。

 毎日のように出港する船の数々、列をなして出入りする馬車の数々、完全に整備された交通の便……これらを踏まえると、より早く被害地域に向かうことができるという観点からしても、この「交易都市」という拠点は間違いのない選択だった。


 ああ、なんて軽い足取り。

 戦闘の疲れなんて微塵も感じない。

 強化魔法の恩恵もあるけれど、それ以上に……心が燃えているから。

 使命感という名の炎が、私を突き動かしている! 


「おおシュヴァの姐さん! 帰って来てたのか!」


「む……パン屋の主人か。そちらに問題は?」


「ははは、何にもないぜ! ディアマ嬢のとこに行くところか?」


「そうだ。私は戦うことが仕事だからな」


「そんな気張らなくてもいいと思うけどなぁ~……」


 心配してくれているのはありがとう。

 しかし、私は常に戦い続けなければならないのだよ。


 かつては「リュト」という、他の勇者シエルの生まれ変わりに遭遇したこともあったが……彼女は本当に酷かった。今思い出しても頭痛がする。

 初めに「お前も元勇者シエルなのか?」と聞いて来た時は、新たな仲間が現れたものだと喜んでいたのに……少し話をしてみれば「あの日々は苦痛だった」「勇者の使命なんざどうでもいい」「オレたちに必要なのは自由だ、アンタもそうだろ?」などと、あまりにも無責任なことを次々と口にしてきて……。


「はぁ……本当に……」


 あの時は本当に血が煮えくり返りそうだった。

 勇者シエルとしての矜持は、プライドは、使命感は無いのか。

 その癖いざ勝負が始まれば、圧倒的な武術と『肉体強化』を行った私に勝るとも劣らない腕力でこちらの攻撃を全て受け流してくる。

 彼女も共に、世界平和のため尽力してくれれば、どれだけ力強い存在になったことか……逃げられてしまった以上、いくら後悔しても仕方ないことではあるのだが。


 あの一件で私は、「勇者シエルの生まれ変わり全員が、自身の使命を自覚している訳ではない」というなんとも理解しがたい違いがあることを理解せざるをえなかった。自分自身にまさかあんな一面があっただなんて……なんとも恥ずかしい。

 次にあのような自分自身と出会った時にすぐさまその使命を理解させるために、そして世界平和を彼らが怠けている分も維持するため……私は寛ぐわけにもいかないのだ。

 また今度、君の店でパンを買うから理解してくれ。


 さあ、次の戦いへ向かうための、準備のために。

 急いで、「ディアマ」の元に戻ろう。






 *






「まぁまぁ素晴らしい! 素晴らしいですわシュヴァ! 貴女の剣閃、わたくしの商魂に火をつけましたわー!」


「……まぁ、役に立てたようなら何よりだ」


「あら照れちゃって。わたくしの感謝をそのまま受け取ればいいのに。くくく……!」


「……」


 交易都市シズィの都市長の娘なのだから……もう少し自分を顧みた方が良いと思うのだが。

 相変わらず、なんというか……お嬢様としての佇まいと絶妙なまでの小物臭さが同居してるな、この人は。


 今日も今日とて、豪奢なドレスに身を包み、完璧な巻き髪でキメている。

 テンションの高さに似合わず、座って紅茶を飲む姿は堂に入っているし、焼き菓子を一つつまむ手つきでさえ生まれながらの金持ちとしての気品が溢れているよう。


 もし、見た目に問題があるとすれば……その顔か。

 いや、あれは問題でしかないが。


「……いい加減、その仮面は外したらどうだろう?」


「ま! お黙りなさい! これはパパが辺境のオークションで競り落とした由緒正しき『呪われし黄金仮面』! 最新のトレンドですのよ!」


「そういって少し前もまた別の仮面をつけていたじゃないか……」


 これだ。

 変なものに影響されやすいのか。はたまた騙されたやすいのか。極端に言ってしまえば単純に馬……少し抜けているのか。

 彼女は公的な場面でも変な仮面や変な衣装を身にまとって現れる奇妙な癖がある。もっとも、この街で一番立場の大きい女性なのだから誰も文句は言わないだろうが……。


 というか、由緒正しいのに呪いってなんなのだ。それは本当にちゃんとしたものなのか? 

 外せないだけの呪いの装備とかじゃないのか。都市長も何を買ってきているのか……。


「とりあえず、依頼のボスは討伐した」


「ええ、ええ! 住民たちからの報告書も届いていますわ。『金髪の戦乙女が救ってくれた』って、皆様大変興奮されたご様子で!」


 ディアマは変人お嬢様ではあるが……それはそれとして有能なお嬢様だ。

 この街に来て最も良かったことというのは彼女がパトロンに着いてくれたというのが一番大きいかもしれない。


 この都市のあらゆる物流へ自由自在にアクセス可能な立場であり、その情報網は山や海の向こう側まで続いている……それが彼女。

 そんな彼女にとって、ボスの存在は目の上のたんこぶであり、私の勝利は商会の利益だ。

 私が魔物を倒せば、街道の安全が確保される。安全が確保されれば、商会の荷馬車が行き来できるようになり、物流が活性化する。さらに、「あのシュヴァを支援している商会」という名声は、金銭以上の価値を生む。


 シズィに着いてまもない私……そこにすぐさま目を付けた彼女の見る目は想像以上だということだろう。目論見は見事成功したといっても過言ではない。

 スカウトするや否や次から次へと周辺地域のボス情報を提供。私への装備も高価なものをどんどん貸し出し、旅のための物資も大量に準備してくれる。現地までの移動サポートも欠かさない。


「いつも助かっているよ」


「お任せあそばせ! わたくしの商会網は世界の果てまで! 金の匂いのするところ、ディアマありですわ! キラーン!」


 そう、これが私の求めるもの──圧倒的な情報力。

 私が一人で各地を放浪していた頃は、魔物の情報を得るために酒場を回り、信憑性の低い噂話に振り回されることも多かった。苦戦することはほとんどなかったが、これのせいで何度も面倒な目に遭いかけたことは事実だ。


 だが、ディアマと契約してからは違う。

 彼女の商会は世界中に支店を持ち、無数の行商人や冒険者が出入りしている。そこから吸い上げられる情報は、早くて、非常に正確。

 さらに、彼女は私の活動資金や装備のメンテナンスまで一手に引き受けてくれる。


 彼女は私の使命の最大の協力者。

 まさに両者得しかしないビジネスパートナー。

 その存在は勇者シエルの生まれ変わりにとってこれ以上ないほどの好条件な訳だ。

 ……ちょっとうるさいけど。


「じゃ! 次はこちらの案件をお願い致します!」


 そして彼女は。

 私が過分な休息も、莫大な報酬も、今以上の名誉も必要ではないことを理解している。

 私に「少し休んでいっては?」などと聞かず、次々救いを待つ人々の情報を差し出す方が望ましいことを、きちんと把握してくれている。


「分かった。すぐに向かう」


「くくく……ここの流通を確保できればうちはさらなる規模拡大を……! わたくし、天才ですわー!」


 ……だから、まぁ。

 彼女やその父親が悪事に手を染めない限り、私の使命は順調に進んでいくのだ。




「そういえば最近、ソワン国の方から何人か旅人たちがいらしているそうですわ」


「へぇ……そうなのか」


 ソワン国まではかなり距離があるはずだから……大きな護衛も無しの個人でなら、相当実力がある旅人の集団だということだが……。


 ……まぁ私には関係ないな。

 鍛えているのは良いことだ。ただ、いくら強いからといって、現代の一般人を私の過酷な運命に巻き込む訳にはいかないし。

 仮に悪人であれば、すぐ噂が広まる。そうなれば私が天誅を下すだけ。

 今無理に接触する必要がある訳でもない。


「では、行ってくる。良い報告を待っていたまえ」


「行ってらっしゃいませ~!」


 さあ、行こう。

 次の戦場が──救うべき世界が私を待っている。

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)

ブックマーク・評価・リアクション等も、可能であればぜひお願いします。大喜びしますので。

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