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僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~  作者: 破れ綴じ
ソワン国 首都サンク

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43/55

手切れってそういう意味じゃないと思う

 今日の分はこれで終わり、かな。


 積み上げられた書類の山が、少しだけ低くなった気がします。

 以前なら、これだけの量を見たら胃がキリキリして冷や汗が止まらなかったはずなのに……不思議ですね。今は、ただの「仕事」として淡々と処理できているような。

 エペの修理は順調。やるべき残りのことも確立できたし、そのための素材も今度こそ全部そろった。あとは時間をかけて調整するだけ。筆を走らせる手も軽いし、思考もクリアです。

 ヴィクトールさんのあの言葉でかなり気が楽になったんでしょうか。


 ──コン、コン


「あっはい、どうぞ!」


 そして、その心の余裕が幸いしたのか……。

 裏切り者探しの方も、やっと、次の展開に進められそう。


「失礼します、ルメド様」


「パルジュ、お疲れ様です……どうでしたか?」


 ……いつも通り冷静で、強い意志を秘めた表情ですね。

 僕はパルジュのその表情、結構安心感があって好きなんですけど。


 でも、長く付き合ってきた僕には分かります。その瞳の奥に確かな手応えがあることが。

 彼に頼んでおいた、極秘の調査。候補者リストの中から特に怪しい人物をピックアップして、かつて諜報員として活躍していたパルジュに、徹底的に洗ってもらっていたんです。


「ご報告いたします。防衛担当の高官、デファについてですが……」


「……やはり、彼ですか」


「……はい」


 ……いや、意外と驚いた気はしない。

 だから名前を聞いた瞬間、驚きよりも「やっぱり」という納得の方が先に立ちましたよ。以前の会議でも、彼の名前は挙がっていましたからね。ただ、決定的な証拠がなくて保留になっていただけで。

 彼は上層部の地位を持ってはいたけれど、回復魔法を使える素振りも無かったし。もし彼が魔王の残滓に属する者だったとしても、おかしくは……ない。


「裏付けは、取れましたか?」


「はい。こちらをご覧ください」


「これは……」


 ……行動記録や、防衛網の配置図。

 一目瞭然……ですね。

 いやまぁ、あからさまに真っ黒なことばっかり……って内容でもありませんが。

 流石にそんなことしていればすぐ気づかれるので、当然でしょうけど。

 でも確かに、これを見れば明らかに防衛担当の人間として違和感のある行動が多すぎるのも事実です。


 配置図は、過去数ヶ月、この国で魔物が出現した時期と場所。

 それが見事に、デファが担当していた防衛エリアの「穴」と一致していて……。

 本当に魔物の出現位置がこの通りの情報なのか、定かではありませんが。果たしてこれが偶然かと言われると……ちょっと断言できません。

 一度や二度ならまだしも、これだけの回数、これだけの精度で……。


「さらに、彼が外部の不審な人物と接触していたという目撃証言も得られました。相手の正体までは掴めませんでしたが……」


「……決まり、ですね」


 信じたくはなかったけれど、証拠がこれだけ揃ってしまえば、認めざるを得ない。

 デファ……彼が、裏切り者だったなんて。


 彼とは、何度か顔を合わせたことがありますよ。

 いつも眉間に皺を寄せて、どこか不満げで、近寄りがたい雰囲気を持った人でした。でも、それは彼が「防衛」という重責を担っているからだと思っていました。国の安全を守るために、神経を尖らせているんだと。


 彼には、動機があります。

 この「癒しの国」ソワンにおいて、上層部の人間は皆、高度な回復魔法の使い手です。それがステータスであり、権威の象徴でもある。

 けれど、デファだけは違った。彼は……回復魔法が使えなかった。だから彼は、軍事や防衛といった、魔法以外の分野で必死に功績を上げて、今の地位まで上り詰めたのかも……。


「ルメド様、いかがなさいますか?」


「……様子を見に行きましょう。適当な理由をつけて、向こうを訪問するんです」


 ここで焦ってはいけません。

 確かに証拠は揃っていますが、まだ「状況証拠」の域を出ないものもあります。

 いきなり拘束して、もし間違いだったら……それこそ取り返しがつかない。

 それに、彼が本当に裏切り者なのか、それとも誰かに利用されているだけなのか、それも確認する必要があります。


「パルジュ、ついてきてくれますね?」


「勿論です。この命に代えても、ルメド様をお守りします」


 ああ、頼もしいですね。

 彼がいれば大丈夫。僕は一人じゃない。

 ヴィクトールさんたちという心強い仲間も、パルジュという信頼できる部下もいる。

 だから、恐れる必要なんて……ないんです。


 かつての僕は、焦りと不安で周りが見えなくなっていました。

 でも、今は違います。冷静に、確実に、一歩ずつ進んでいける。


「では比較的目立たない時間帯に出発しましょうか」


「……えっ?」


「いえ、ルメド様のファンに気づかれてしまっては、デファが警戒するかもしれませんから」


「……! そういう扱いは止めてくださいってば!」


 も、もう! 


 いや、自分が民衆からアイドル視されてる事実は知っていますし、デファの職場まではかなり目立つ道を通らないといけないことは把握していますが……今そんなこと言わなくてもいいじゃないですか! 

 僕に緊張しすぎないように言ってくれてるんでしょうけども……あのフリフリの正装しかり、女の子みたいな顔しかり、結構気にしてるんですよ!? 






 *






「白いですねー……」


「朝ですから。それでも今日の朝霧は濃い気がしますが」


 馬車から見る窓の外は……ちょっとぼやけて見える感じ。

 何もかも一切見えないって訳じゃありませんが。確かにここまで濃いのは珍しいかもしれません。

 以前までなら、この視界の悪さが停滞した現状と重なって見えて、また変に焦り始めてたんでしょうけど……不思議ですね。今の僕には、焦りも、恐怖もそこまでありません。


 胃の痛みも……うん、治まってる。

 やっぱり、気の持ちようだったんですね。


「ルメド様、顔色がよろしいですね」


「ええ、まあ。おかげさまで」


 隣に座るパルジュも、僕の変化に気づいたみたいです。

 彼にはずっと心配をかけていましたからね。これからは、もっと頼もしい姿を見せてあげないと。


「デファの職場までは、あとどれくらいですか?」


「この霧ですから少し時間はかかりますが……それでも、あと数十分といったところでしょう」


 数十分か。

 それならもうすぐですね。


 これから向かうのは、防衛担当の高官、デファの元。事前にアポを取り、表向きはそっちの職員との情報交換を兼ねた会議……という名目で伺うことになっています。

 その間、パルジュが情報を集め、僕も職員から詳しい情報を探る。もし怪しい情報が出て、真実が明らかになり、証拠まで確保できれば……そこで一時撤退。

 国の要人を糾弾するんですから、普通なら足がすくむような大仕事です。もし間違っていたら、ただの言いがかりでは済まされません。僕の立場だって危うくなるかもしれない。


 でも、逆に言えば。

 これさえ上手くいけば、残りの全てが上手くいく。

 目下一番の悩みだった裏切り者についての処遇を決められるようになり、これまで国を蝕んでいたボスの所在についてまで明らかにできるかもしれない。

 そう思うと、頑張れる。


「……よし」


 大丈夫。やれる。

 この霧が晴れる頃には、すべてが終わっているはずです。

 そして、胸を張って報告するんです。「裏切り者を見つけましたよ」って。

 そうしたら、ヴィクトールさんはどんな顔をするでしょうか──


 ──キィィィィッ!! 


「うわっ!?」


 え!? あ!? きゅ、急ブレーキ!? 

 な、何事ですか!? 事故? いやでも今は人もいないはずだし……ま、魔物!? 


 ちょ、パルジュ! 

 様子見てきてください! 


「御者! 何があった!」


「も、申し訳ありません! 急に目の前に人が……!」


 え、ひ、人? 

 こんな霧の中、道の真ん中に? 


 い、いや。とりあえず、魔物じゃないんですよね? 

 もう、誰なんですか? こんな大事なときに、馬車の前に立ちはだかったりして……。


 ……ん? 


「ルメド様! 窓から離れてください! 危険です!」


「あ、い、いえパルジュ! 待ってください! あれは……?」




「よう、間に合ったか」


 ……ヴィクトール、さん。




 え、なんで? 

 見間違いじゃ、ないですよね? 


「!? あの男、何故……!」


「ああ待って待ってパルジュ! 殺気出さないで!」


 落ち着いてくださいよ! 

 確かに、パルジュがヴィクトールさんのことを警戒して……いや、嫌ってるのは知っていますけども。急に出てきたのにはびっくりしましたが──魔物でも野盗でもないんだから剣を抜く必要は無いんですって! 


 というか、来てくれたんですか? 

 エスクリとマージュがいないのは……この前言っていた「知り合いに頼まれた用事」のせいかな? ヴィクトールさんがまた仲間外れにされてるのがなんとも可哀想だけど……。


「ヴィクトールさん!」


「ああ、ヴィクトールだぞ」


「え、えっと、どうしてここに……あ、いえ、嬉しいです!」


 もしかしたら彼も独自に調査を進めてくれていて、僕と同じくデファまで辿り着いた? 

 丁度同じタイミングで、僕たちがデファの元へ向かう馬車を走らせてるのを見つけ……心配して駆けつけてくれた、とか? 


「その、これから一番怪しい人の元に向かうところで……ヴィクトールさんも一緒に来ますか?」


「ルメド様!」


 パルジュも驚いてるけど……でも、彼をここで引き込むのは良い判断だと思いません? 

 パルジュだってヴィクトールさんがものすごく強いことは、一緒にオンドの元を訪れたときに知ったはずです。いくら彼のことを警戒しているとはいえ、これから危険かもしれない場所へ乗り込もうってときに戦力が増えることは護衛としても安心できるはず。

 パルジュとヴィクトールさん、二人がいれば百人力じゃない、です……か。


 ……ん? 

 あ、あれ? ヴィクトールさん? 




 ……どうして、剣を、抜いてるんですか? 

 なんで……敵なんてどこにもいないのに。




「ど……どうしたんですか? そんな怖い顔をして……何か、あったんですか?」


 ……答えてくれない。

 え、あれ……なんで? 


 ……待って。

 僕、もしかして、疑われてる? 


「……貴様、何のつもりだ」


 パルジュも……! 

 聞いたことないくらい低い声ですよ!? 

 待ってください、二人とも。どうして睨み合ってるんですか。

 仲間でしょう? これから協力して敵を倒す仲間でしょう? 


 いやでも確かに……。

 ヴィクトールさんはパルジュが調べたデファの証拠をまだ何一つ知らないし、僕から聞いた容疑者のリストだって全員知らない人のはず。

 あの人が知っているのは「裏切り者がかつて親しかった三人の人間を毒殺したこと」だけ。それだけ踏まえれば、その三人と確定で仲が良く、かつヴィクトールさんが知っているのは僕一人だけになるから……? 


「や、やめてください! 喧嘩してる場合じゃないですよ!」


 ああでも今はとりあえず! 

 二人を止めないと……! 


「その……容疑者? とやらは、お前をそこへ誘導し時間を稼ぐための囮だ」


 ……へ? 

 何を言って……。


 え、言っている意味が分からない。デファが裏切り者じゃないなら、誰が? 

 というか、その口ぶりだと、ヴィクトールさんはそもそもデファのことを知ってすらいない? それなら尚更、どうしてここで止めたりなんてして……。




「裏切り者は、そこにいる──パルジュだ」






 *






 ……え? 

 今、なんて? 


 パルジュが、裏切り者? 

 僕の、護衛が? 

 一度死んだ、彼が? 

 一番信頼している、彼が? 


 ……嘘、ですよね? 

 冗談にしては、タチが悪すぎますよ。笑えない。全然、笑えません。


「……何を、言ってるんですか」


「いや、魔力を隠すのが上手くてな。俺もすぐには気づけなかった」


 ……? 


 冗談を言っている顔じゃない。

 本気だ。本気で、パルジュを疑ってる。

 でも、あり得ない。

 だってパルジュは、僕が蘇生させたんですよ? 


「パルジュが裏切り者なんて……そんなの、あり得ません!」


 そもそも彼は諜報員の一人で、勇者三人に接触なんてできる立場じゃなかったし。

 裏切り者なのに自分が死ぬことを、僕が蘇生することを大前提とした行動を取りますか? そんなの確実性が無さすぎる。やっぱり、詳しい背景を知ることができないからこそ、突飛した結論に辿り着いたんじゃないんですか? 

 そもそも、命の恩人である僕を裏切るなんて、そんなことするはずがない。彼がどれだけ僕に尽くしてくれたか。どれだけ僕を守ってくれたか。それを全部否定しろと? 


「彼は僕の部下で、僕を支えてくれた理解者なんです! なのに、裏切りなんて……!」


 そうですよ、彼には動機もない。

 それに、彼を疑ったら、これまでの情報の整合性が取れなくなる。デファの証拠を集めてくれたのも彼だし、裏切り者の情報を整理してくれたのも彼。もし彼が犯人なら、わざわざ自分の首を絞めるような真似をするはずが……。

 いや、でも。自分が裏切り者なら、自分で捜査を進めれば、情報も制限できるし、疑いの目を逸らせるんじゃ……いやいや! 何考えてるんですか僕は! 


「……やはり、最初から怪しいと思っていたんだ。お前こそ、ルメド様を撹乱するために潜り込んだんじゃないか?」


 ……えっ? 

 パルジュ……? 


「勇者様お二人の腰巾着として着いて回っていたんだ。ただの旅人にしては異常すぎる。最初から目的があって近づいたとしか思えない」


「ゆ、勇者様? お二人? 何言ってるんだお前」


「(ちょ、ちょっとパルジュ!)」


 ヴィクトールさんに勇者のことは秘密だって……! 

 いや確かに、ヴィクトールさんは謎が多いですよ? エスクリとマージュとエペ、この勇者パーティーに紛れ込んでいる全く無関係の現代一般人だなんて、事情を聴いたうえでも変だなとは思いますけど……。


「あるいは……ヴィクトール、お前こそが──裏切り者なんじゃないか?」


 ……! 


 そ、そうか。その可能性も、あるのか。

 ヴィクトールさんが敵で、僕たちをハメようとしている……。

 そのために裏切り者の候補の情報も知りたがっていた。今、裏切り者の調査を進められると困るから、パルジュを妨害しようとしている可能性だって、無くはない……のか? 


 いや、でも待ってください。

 彼はエペの修理に協力してくれました。素材も集めてくれた。僕を励ましてくれた。

 あの言葉は、あの優しさは、全部嘘だったんですか? そんなの、信じたくない。


 でも、パルジュを疑うのも嫌だ。

 どっち? どっちが正しいんですか? 


「やめてくださいよ! どうしてこんな……!」


 ダメです、喧嘩しないでください。

 こんな時に、仲間同士で争ってる場合じゃないんです! 


「二人とも、落ち着いてください! 今はデファのところへ行くのが先決でしょう!?」


 そう、まずはデファです。

 状況証拠とはいえ証拠があるんですから、彼を問い詰めれば何か分かるかもしれません。パルジュが犯人だとか、ヴィクトールさんが怪しいとか、そんなのは後でいいんです! 


「ルメド様。コイツをこのまま放置はできません。共に行動してルメド様に被害が及べば……護衛としてこれ以上の悲劇はない」


「パルジュ……」


「少なくとも、あの男が無実であるという疑いを捨てられなければ──先には進めません」


 そんな。そんな……。

 これは、どっちを信じるのが正解なんですか? 

 今は一旦置いておいて、後で考え直すってことはできないんですか? 

 そもそも、もし二人のどちらかが……考えたくないですが、どちらかが本当に裏切り者だったとして。それをどうやって証明するんです? 僕は癒しの神に仕える身であって、人に本心を自白させる魔法なんて使えませんよ? 


「そうだな。急に疑われたら困るだろう。それは分かる」


 ……じゃあ、まさか。

 今こうして、僕の目の前に現れたヴィクトールさんは。

 パルジュが裏切り者であると証明する──その手段を……。


 ……既に持っていると? 


「よし、じゃあ証明として──」




「──俺とパルジュ、二人の片手を斬り落とすというのはどうだ?」


 え? 


 ──ズバァッ! 


 ……え?

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