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僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~  作者: 破れ綴じ
農村カトリエ

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31/57

火加減強めで仕込みました!

 ……ふふ。ふふふふふっ。

 ああ、ダメだ。どうしても顔が緩んでしまう。


 だって、見てよこの状況。

 右を見れば、カトリエののどかな田園風景。

 左を見れば──朝日に照らされていつも以上にカッコイイ、ヴィクくんの横顔。

 そして、今日はその……ふ、ふふふ二人きり! 


「いい天気だな、マージュ」


「う、うん! そうだね、最高の……魔物調査日和だね!」


 ……しまった、ちょっとテンション上がりすぎたか。でも、仕方ないよ。

 一応荷物としてエペを背負ってるけど、彼は今喋れないし。実質、人間はぼくとヴィクくんの二人だけ。あのトロワジーでの「リュト追跡」以来の、二人っきりの時間。


 ……まぁ、そのきっかけはちょっと予想外だったけど。




 ヴィクくんの話だと、関所の跳ね橋が上がってるから一週間はこの村に滞在することになって。今日は時間もあるし、「近隣に新たな魔物の跡が無いか」を調査することになってた。

 ぼくとしても、この力を他の人を助けるために使いたい。だから、結構やる気だったんだけど……。


 ──「ヴィク……ボクのヴィク……」


 朝食の時間になっても起きてこないエスクリを起こしに行ったら、ベッドの上で魘されてて。

 宿のおかみさんに聞いてみたら「ありゃ知恵熱だねぇ、何か悩み事でも抱え込んでたんじゃないかい?」だって。


 そういえば、確かに昨日、宿に着いたエスクリはなんだか様子がおかしかった。

 しかも着いてすぐに、「一応聞いておきたいんだけど……ボクって昔占い師だったっけ?」とか変なことも聞いてきてたな。ヴィクを見る目はいつも通りなんだけど、それはそうとしてちょっと考え事をしてるような感じ……。

 あれは一体なんだったんだろう。変なものでも食べたのかな。

 とりあえずぼくに占い師の記憶は無い。なんか勉強した覚えはあるけどね。


 とりあえずエスクリは、「暇だろうから」って枕元に置いてあったエペをぼくに託した後、また毛布に潜り込んだ。

 ヴィクくんが受注してきた「村周辺の魔物調査」。本来なら三人で行くはずだったけど、エスクリがダウンしたから──こうして、ぼくたちは二人で繰り出している訳なのです。


 不謹慎だし、エスクリには悪いけど──ちょっとだけ、役得かも……。


「どうしたマージュ? 足元になにかあるか?」


「えっ? あ、ううん! なんでもないよ!」


 いけない、またニヤニヤしてたかも。

 ヴィクくん、気配に敏感だからなぁ。変に思われないように気を付けないと。


「(チラッ……と)」


 それにしても……やっぱり、かっこいいなぁ。

 革の鎧に身を包んで、腰には新しい剣を差して。片手には手袋と一体化した盾が掲げられてるし、歩くたびに鍛え上げられた筋肉がしなやかに動くのが、見てるだけで分かる。

 トロワジーの暗闇で震えてた姿も可愛かったけど、こうやって堂々と歩いてる姿は、やっぱり頼りがいがあるというか。


 でも、今日は──ぼくが彼を支えるんだ。


 エスクリがいない分、ぼくが頑張らなきゃいけない。

 彼に「マージュがいてくれてよかった」って、また言ってもらいたい。

 あの時みたいに、必要とされたい。彼に頼ってもらいたい。

 ただの荷物持ちとかじゃなくて、対等な仲間として……いや、それ以上に、彼にとってなくてはならない存在として、認めてもらいたいんだ。


 ぼくがヴィクくんに抱いている感情は「恋」なのか……それは今も分からない。

 ただぼくは間違いなく、彼にとって憧れ以上の感情を抱いているように感じてる。


 そう思うと、今の状況って……もしかしなくても、『あれ』だよね。

 なんだか意識しちゃいそう……。


「(ねえエペ。これってもしかして……実質デート、だったり?)」


 二人の男女が予定を持って一緒にお出かけするんだよ。

 これって、前世では遂に体験できずじまいだった……デートなんじゃないかな。


 もしぼくが「前世の記憶を持つ元男」じゃなくて、純粋に「ヴィクくんに恋する乙女」だったら、今の状況を間違いなく喜んでただろうね。

 まぁ、今のぼくはそれを抜きにしても結構嬉しいけどさ。


『いや……んな……わけ……』


 うわ、ちょっと震えた。

 今のエペは喋れないからなぁ。こうやって振動してなんとか意思疎通しようとしてるのか。

 言葉に出せないからって、体で表現してくれてるんだね。

 うん、分かってる。エペも応援してくれてるんだ。


 それに、今日はとっておきの秘密兵器がある。

 背中の荷物の中に忍ばせた──「包み」。


 ……早起きして、宿の厨房を借りて作った、特製のお昼ご飯。


 ぼくはエスクリみたいに料理が得意なわけじゃないし、刃物の使い方も危なっかしいけど。でも、一生懸命作ったんだ。

 もしヴィクくんが、一口食べて「うん、美味い! マージュは料理が上手いんだな」って、言ってくれたら……彼の支えになれた喜びでどうにかなってしまうかも。


 具材をたっぷり入れて、見た目も綺麗になるように、何度も詰め直して。

 彩りも考えて、赤や緑の『野菜』をたっぷり入れたけど……喜んでくれるかな? 

 お肉も少し入れたけど、やっぱり旅の途中だし、野菜不足になりがちだからね。

 エスクリもよく「野菜食べなきゃ」って言ってたし、ヴィクくんの健康を気遣ってあげないと。


「マージュ、エペを持とうか? 重くないか?」


「ううん、ヴィクくん。ぼくだって少しは体力もあるから、大丈夫だよ」


「そうか? 無理はするなよ。エスクリみたいに倒れてほしくないからな」


 心配性なんだから。

 でも、倒れてほしくないってのは、なんかこう……嬉しい。


 今は、ぼくが大事な仲間で、心配だから言ってくれるんだろうけど。

 いつか、「ぼくが頼りになるから」「ぼくがいないと困るから」、そう言ってくれるように。






 *






「よし。もう昼も近いし、ここで少し休憩にするか」


「うん。そうしようか」


 森の奥、木漏れ日が差し込む開けた場所。

 大きな切り株に腰を下ろして、汗を拭う姿も絵になる……ああ、見惚れてる場合じゃない。


 今こそ、チャンスだ。

 朝からずっと温めてきた、秘密兵器を今ここで……! 


「あの、ヴィクくん。これ……」


「ん?」


「その、お昼ご飯……よかったら、食べて、ほしいなー……なんて」


 よ、よし! 言えた! 

 ちょっと重いかなって思って、自分で作ったとはとても言えなかったけど……。


 ……あれ? 一瞬、ヴィクくんの顔が固まったような? 

 あ、もしかして、量が少なかったか? 彼みたいな戦士には、物足りない量だったかも……。


「お、おう……ありがたくもらうよ。彩りが綺麗で……えっと、食欲をそそるな」


 あ、笑った。

 よかった……! 


「口に合うか分からないけど、栄養は考えたから!」


「ああ、そうだな……栄養は、大事だからな……」


 なんだ、気のせいか。

 びっくりしたぁ……嫌がられたのかと思って心臓止まるかと思ったよ。「食欲をそそる」って言ってくれたし、やっぱり大丈夫だった……ってことだよね? 




 ああ、なんだか幸せだなぁ。

 こうして二人きりで、木漏れ日の中でランチタイム。

 こういう穏やかな、ピクニックみたいな食事って前世でも体験できなかったから……すごく新鮮。平和の象徴みたいな時間が流れてる気がする。

 これだけでも一度世界を救った甲斐があるような……。


 ……今なら、聞いてもいいかな。

 ずっと気になってたこと。ぼく自身の根幹に関わること。


「ねぇ、ヴィクくん」


「んぐ………………な、なんだ」


「その……ね」




「ヴィクくんの思う勇者シエルって──頼れる人だったと、思う?」


「……もぐ」




 ドゥジェームで、彼に「助かった」って言ってもらってから、今に至るまで。

 ぼくは徐々に気持ちが変わって行ってる自信がある。

 元は「誰も助けられない」「勇者の使命を果たせない」「きっとぼくは役に立てない」……そんな感情に支配された学園生活を送っていた訳だけど。

 ヴィクくんの力になれるって分かって、皆で巨大ワームを倒して、トロワジーでも色々な人に感謝されて。今のぼくは、まだ内気なところもあるけれど……本来持てていた自信を徐々に取り戻しつつある。


 だから、こんなことを思ってしまう。

 もっと認められたい。もっと感謝されたい。もっと人の役に立ちたい。

 ぼくが救うべき数多の人たちから──それは当然なんだけど、それ以上に。

 彼に、ぼくを認めてほしい。


 ちょっと意地悪な質問かもしれないけど、勇者シエルなんて、魔王から世界を救った英雄そのものなんだ。そりゃ頼れる存在に決まってる。彼は勇者シエルの純粋なファンなんだから、なおさら肯定してくれるはず。

 今のぼくは、その数分の一……なんなら数十分の一の存在だけど。疑似的にとはいえ、彼にそう言ってほしいと思うのは……いや、流石にちょっと欲張りか。


 質問をされたヴィクくんはというと……おお、急いで飲み込んでる。

 そんな苦しそうにしなくてもいいのに。

 まぁ、そりゃそうか。彼にとって今のぼくって「勇者シエルの厄介ファン」だから……ぼくの地雷に触れないように言葉を選ぼうとしてるんだろうなぁ……。

 ……本当にぼくはどうしてあんなことを。


「……ああ、そうだな。多くの人を救ったし、間違いなく頼れる英雄だったはずだ」


「うん、そうだよね」


「ただ……その、気を悪くしたなら謝るが──彼には、心を許せる『友人』がいなかったとも聞いている」


 ……おっと? 


 あれ、そんなことまで知ってるんだ。そういやエスクリも旅の途中でヴィクくんのこと「勇者シエルにかなり詳しい」って言ってた覚えがあるけど……。

 えっすごいね。歴史書に載ってないことまで分かるんだ。ぼくでさえ、学園で全然知らない自分の歴史を学ばされてちんぷんかんぷんだったのに。おかげで座学の成績が最悪だと言っても過言では……。


「……まぁ、うん。別にぼくの解釈に、違いは無いよ」


「……俺が言うのもなんだが、マージュも相当詳しいんだな。普通、シエルのファンからは猛反発されるんだが……」


 いやだって事実だし。肯定の言葉しか出てこないよ。

 ヴィクくんは……本当にシエルのことを理解してるんだね。


「だから、その、なんだ。頼れる存在だったが、一人で背負い込みすぎていた。だから……」


 ……でもこの口調からすると。勇者シエルは「頼れる存在」だけど、「ちょっと至らないところもある」って言いそうなんじゃ……。

 あれ、思ってたのと違うな。ぼくとしては、過去の自分の頼り甲斐を褒めてもらって、ちょっと良い気分になろうっていう浅ましい考えがあったんだけど……逆にダメージを食らいそうな。




「だから、今の俺にとってのマージュみたいに。力を活かせる場所や、本人が頼れる相手もいるべきだったんじゃないかと俺は思うぞ」




 ……今、なんて言った? 

 今の俺にとっての……ぼく、みたいに? 


「俺は、知っての通り、暗所恐怖症だからな。だから、いつも助けてもらってる訳だが……」


「……え、あ。それって……」


「いくら勇者シエルが頼れる存在だと言っても、彼にもマージュみたいに頼れる相手が必要だと……そう思わないか?」


「あ……う、うん! そう思う!」


 ……あ、ああ、どうしよう。

 凄いところから刺されちゃった。

 嬉しい。嬉しいよ、ヴィクくん。

 シエルを頼れる存在だと言ってくれて、でもそのシエルの孤独を理解してくれて、今のぼくの存在意義まで同時に肯定してくれるなんて……。


『ちょ……僕も……僕も、いる……』


 ……ごめん、エペ。ちょっと今は無視させて。

 今、凄く感動してるところで……。


 そうだ、彼がいれば、ぼくは強くなれる。

 彼のためなら、どんなことだってできる。

 だって、彼はぼくを認めてくれるんだから。

 ぼくの「火」だけじゃなくて、ぼくの「存在」を丸ごと、全部。


「その、大丈夫か? 急に俯いて……」


「あっうわ! ご、ごめん! ちょっと感じ入っちゃって……!」


「……これが過激派なのか。奥が深いな……」


 ああ、もっと。もっと欲しい。とにかく、もっと頼られたい。

 もっと、彼に求められたい。ヴィクくんにとって、代わりのきかない存在になりたい。

 他の誰がどうとか、今はあんまり気にならない。

 エスクリでも、リュトでも、エペでも埋められない隙間を、ぼくが埋めたい。


「……ありがとう、ヴィクくん。教えてくれて」


「お、おう……また時間があれば、俺と勇者シエルの話しようぜ」


「うん……!」


 この気持ちは何なんだろう? 

 まあでも、あんまり名前にはこだわらないや。この感情が、ぼくを動かすエネルギーになるなら。


「ぼく、もっと頑張るね。ヴィクくんの『頼れる相手』になれるように……もっと、もっと頑張るから」


 きみとなら、ぼくはどこまでも頑張れそうな気がするんだ。

 勇者としてはおかしいかもしれないけれど──例えそれが、地獄の底だったとしても……。






 *






 カトリエに滞在して二日目。

 今日は記念すべき日になった。ヴィクくんと二人きりで、魔物調査の任務に行ったから。


 エスクリが知恵熱でダウンしたのは心配だったけど、おかげでぼくたちに時間ができた。

 お昼には、ぼくの手作りランチも食べてもらえた。「美味い」って言ってくれた時のヴィクくんの顔、一生忘れないと思う……なんで時々渋い顔をするのかはよく分からなかったけど。


 ただ、結局魔物は一度も出てこなかった。

 調査を依頼してた村の人は「なら次の巡回までは安全そうですね」「ありがとうございます」「こうして見回りをしているのでボスの発生を防げています」って言ってくれたけど……個人的にはちょっと複雑と言うか、残念。

 もし魔物が出てきたら、ぼくの魔法で跡形もなく燃やし尽くしてやれたのに。ぼくの魔法で、敵を倒すところをヴィクくんに見せたかった。「すごいなマージュ!」「助かったよ」って、また言ってもらいたかっ……。


 ……あれ、変だな。元勇者としては、魔物が出ないことって喜ぶべきなんじゃ……。


 ん? もしかして今ぼく、自分の承認欲求のために魔物の出現を望んじゃってた? 

 危ない危ない。いくら「ヴィクくんの役に立ちたい」という純粋な想いから来た感情とはいえ、流石に自分の使命まで忘れそうになるなんて。

 いやまぁ、彼と並び立つ覚悟ができたってことか。うん、そうだ。ぼくは別に勇者シエルとして、まだおかしくなんてなってない。


 それに、今日はヴィクくんから最高に嬉しい言葉を貰った。

 そう、「今の俺にとってのマージュみたいに」……って。


 思い出すだけで手が震えそう。

 この言葉を、しっかり日記に刻み込んでおく。

 分かりやすいように下線を引いておこう。

 なんならぐるぐる丸で囲ってしまおう。


 ぼくは、彼にとって「頼れる相手」なんだ。

 ただの仲間じゃない。彼が必要としてくれる、特別な存在なんだ。

 もっと、もっと頑張ろう。

 彼にとって代わりのきかない、最高のパートナーになるために。




 ……そういえば、帰り道に不思議なことがあった。

 目を閉じた、紫の髪色した……変わった人とすれ違って、ヴィクくんが話をしてた。

 知り合いだったのか? 「占いはいかがですか?」ってその人が言って、ヴィクくんが「今日は遅いから、また別の日に頼む」って返してた。

 目を閉じていたのは……盲目の人だったのかな。大丈夫だろうか、一人だったけど。


 それにしても、占い、か。

 ヴィクくん、占いに興味があるのかな? 


 もしそうなら……ぼくも「占いの魔法」を覚えてみようかな。

 火魔法しか才能がないって言われてきたけど、ヴィクくんのためなら、新しいことにも挑戦できる気がする。炎の揺らめきで未来を見る「火占い」とか、あるかもしれないし。

 彼が知りたいことを、ぼくが教えてあげられたら……もっと頼ってもらえるよね? 

 明日、ちょっと実験してみよう。時間と場所さえあれば、火で色々試せるはずだから。


 ……あと、少し気になったのは、あの占い師の人。

 すれ違った時、微かだけど……何か覚えのある魔力をしていた、ような。

 引きこもってたぼくですら覚えがあるってのはどういうことなんだろう。不思議な感覚。

 もしかして、気のせい? 今日は色々あって疲れてたし。


 ま、いいか。

 日記は魔導書じゃない。真実だけを何でもかんでも書く場所じゃないしね。


 以上、本日の記録終了。

マージュはエスクリと違って、嫉妬や独占欲より、承認欲求が強めな気がします。

自己肯定感激低から一気に畳みかけられたので、その分欲深くなっているのかも。


感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)

ブックマーク・評価・リアクション等も、可能であればぜひお願いします。大喜びしますので。

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