この再会……もしかして運命!?
いやぁ、ここが中央闘技場かぁ……。
今日は『武闘大会』の当日だ。詳しい内容は知らないけれど前々から気になってたし、新たな仲間探しのためにも既に「エスクリ」の参加届を出してある。
ってことで、都市プルミエールの中央闘技場へ。街の外でも結構有名な闘技場らしくて、初めましてながらいざ入ってみたけれど……熱気がすごいね。
岩造りの控え室には、今まさに血気盛んな猛者たちがもうすし詰め状態。
流石は大都市主催の武闘大会だ。やっぱり集まっている人たちは、そこらのゴロツキと明確に違うね。
汗と鉄油の匂いが強いし、武器が擦れ合う金属音がずっと鳴ってて……これから始まる戦いへの興奮と緊張が入り混じった、独特の空気感が漂ってる。
懐かしいなあ。大きい戦いの前に戦士たちが蠢きだすのは今も昔も変わらないんだ。時代を超えた勉強になったよ。
肝心のボクはというと……。
「……ふぅん。なるほどね」
時々エペと小声を話しながら、腕組みして周囲の参加者たちを値踏みするように見回してる訳だけど……。
これって見ようによっては完全に独り言を呟く危ない不審者だよね。大丈夫かな……。
……この殺伐とした空間なら誰も気にしないか。うん、大丈夫。
むしろ武器に話しかける人って、結構な強者っぽくない? 自然な気がしてきたな。
『どうだいエスクリ。お眼鏡に叶う人材はいそう?』
「悪くはない……というか、かなりレベル高いね。なんだか緊張してきちゃった」
ほら、今目の前を通り過ぎた大男なんか、身長は二メートル近いんじゃないかな。全身を分厚いプレートメイルで覆って、背中には身の丈ほどのバトルアックス。歩くたびに床が揺れそうだ。
あっちの女戦士もすごい。巨大なタワーシールドを軽々と片手で持っている。腕の筋肉の付き方が尋常じゃないよ。やっぱり大きい人ってのは目立つよね。
「うわ、あっちの人は杖持ってるよ! 魔法使いなのかな?」
『う~ん、どうなんだろうね。今の時代、僕たちの知らないことだらけだからなぁ』
というか、今の時代の人ってそもそもボクたちの時代の人よりずっと平均のレベルが上な気がするよ。
もちろん、勇者であるボクや魔王軍と最前線で戦っていた人たちほどじゃないけれど……一般的な戦士って意味じゃ、最低でも数倍の強さはありそうだ。
魔法だってボクたちの知らないものが沢山あるみたいだし、剣技や流派だって聞いたことのないものばっかり。初見だったらボクだって危ないかもしれないな。
ただ……。
「でも──ちょっと偏ってる気がするね」
『やっぱり?』
「うん。ほら、見てよあの装備。あっちもこっちも重装甲だ。武器も破壊力重視の鈍器や大剣ばっかり」
現代の戦士のトレンドなのかな。魔法使いっぽい人はともかく、みんな一様に「打たれ強さ」と「一撃の重さ」を重視しているように見える。
持ち込む装備や戦法については指定が無かったからなのか、皆思い思いの装備に身を包んでるんだよね。
ふふっ、どっちかというと重い重い……かな?
……やめよう、エペに笑われる。
『まあ、対魔物を考えれば合理的だよ。魔物って皮膚が硬い奴が多いし、再生能力持ちもいる。半端な斬撃より質量で叩き潰す方が確実だからね』
「それはそうなんだけどさぁ……」
合理的だとは思う。
思うけど、それっとボクの戦闘スタイルとは絶望的に相性が悪いんだよね。
ボク──エスクリの剣技は、前世から一貫して「スピード特化」だ。敵の攻撃を紙一重で躱し、装甲の隙間や急所を正確に突く。蝶のように舞い、蜂のように刺す。いやぁカッコイイ。
昔の時代は搦手を使う敵だったり、一撃一撃が致命的なポイントを狙って来たり……「攻撃を耐える」ことより「攻撃を躱す」ことの方に重きが置かれてたから、今の彼らとはどうにも相容れないっていうか。
だからこそ、次のパーティメンバー……ボクの相棒には、ボクの速度についてこられる機動力や、あるいはボクが作った隙に即座の反応ができる人が欲しいんだけど……。
「まあ……連携はしにくそうだよね」
『壁役としては優秀だと思うけどね。今の君、打たれ弱いし』
「うるさいな。当たらなければどうということはないんだよ」
まあ、贅沢は言えないか。
とりあえずこれからの予選の戦いぶりを見て、動きの良さそうな人に狙いをつけていくしかないね。
ボクの目は節穴じゃない。筋肉の鎧の下に隠された、キラリと光る才能を見抜いてみせるさ。そう考えて、今も目を光らせて……。
……う~ん、いないなぁ。
『誰を探してるの?』
「へっ!? ……だ、誰も探してないよ! ただ全体を把握しようと……」
『ふーん。この前の彼、いないねぇ』
「っ……!」
エペの奴、面白がって……!
違うんだ。ボクは別に、あの彼を探してるわけじゃない。
いや、探してはいる。探してはいるけど、それはあくまで「スカウト候補として」だ。あそこまでの実力者なら、この大会に出ていないはずがない。彼は肉体こそ鍛えてあったけど軽装だったし、それならボクの相棒として申し分ないから。
なんなら決勝で戦って、ボクが勝つことで「そんなに強かったのか! 俺の負けだよ、着いていくぜ」って言わせて、上下関係をはっきりさせたいっていう……極めて健全なライバル心からの索敵であって……!
でも、見当たらない。これだけの人数だ。どこかに埋もれているのかもしれないし、あるいはそもそもここにいないのかも。
……そう考えると、なんだか急にこの場にいるのがつまらなく……ああいやいや。ボクとしたことが、特定の個人の有無を士気に関わらせるな。いけないいけない。
『まあ、トーナメント形式ならいずれ当たるでしょ。あれだけの男なら途中で負けたりしないだろうし……それは君もだよね?』
「当然だよ。予選なんてさっさと終わらせて、特等席で彼の試合を見……い、いや! 弱点を探すんだよ!」
そう、予選なんて通過点だ。
これだけレベルの高い大会だ。対魔物に特化したボクにとって、対人戦ってのは苦手分野なんだけど……それでも、同じく対魔物特化の大振りな攻撃なんて、ボクの目には止まって見える。
ちょっと失礼かもしないけど、かつてのボクは世界を救った勇者なんだ。ちょちょいといなして「君、いいスイングだったよ」なんて講評しながら勝ち上がってやるさ。
──『あー……よし』
ん? なんか声が聞こえてきた。
大会案内のアナウンスかな? なになに……。
──『えー、参加者の皆様。ご案内します。本大会の予選は、毎年恒例──参加者全員による、バトルロイヤルになります!』
……はい?
──『フィールドに残った最後の一人、あるいは制限時間終了時に立っていた上位数名のみが本戦へ進出となります。では、開始の合図があるまでお待ちください!』
「えっ」
『えっ』
*
「バトルロイヤルだって……! ど、どうしよ……!?」
『お、落ち着いて!』
驚いて大声で層になって急いで人気のない通路まで移動しちゃった……。
バトル、ロイヤル……つまり、一対一の決闘じゃなくて。トーナメント表を見てじっくり対戦相手を分析する知的な遊戯じゃなくて。ここにいる全員で、最後の一人になるまで潰し合えってこと?
「……嘘でしょ?」
『エスクリ、まずいよこれ』
顔から血の気が引いていくのが自分でも分かる。
いや、冷静に考えれば「武闘大会」なんて野蛮な催しなんだから、そういう形式もあり得る話だとは思うよ? 効率的に人数を絞るなら一番手っ取り早いし、観客だって乱戦の方が盛り上がるのかもしれない。
でもさぁ! 普通、予選っていったらリーグ戦とか、せいぜい数人のブロック戦とかじゃないの!? いきなり百人規模の大乱闘とか、運営は頭がおかしいんじゃないかな!?
トーナメントだって思い込んでゆっくり見定めようとか考えてたボクも悪いけどさぁ!
『毎年恒例……だってさ』
「下調べ不足! ……いやこの街来たばっかりだし!」
あの、言い訳させてもらうなら──ボクたちはあくまで「相棒探し」と「腕試し」が目的だったわけで、大会の形式なんて二の次だと思ってたんだよ。
まさかその形式が、ボクにとって一番相性の悪い「多対一」の大乱戦だなんて!
『どうするの、これ。囲まれたら終わりだよ』
「わ、分かってるよ……!」
そう、それが最大の問題だよ。
ボクは『一対一』なら大抵の人間や魔物相手は瞬殺できる自信があるんだ。
いくら今のレベルが上がってて、ここにいる人たちが凄腕とはいえ、ボクには勇者としての剣技もある。対魔物の剣術が人間相手に不利だとしても……事実ボクは魔物の『ボス』を単独撃破した功績だってあるんだから。
ただ、乱戦になったら話は別。
制限時間内に生き残るか、最後の一人になるか。どちらにせよ、手っ取り早く「数」を減らすのが勝利への近道ってのは、戦いの定石だ。
じゃあ、誰を最初に狙う? 一番強そうな奴?
違うね。そんなリスクは誰も冒さない。一番弱そうで、一番倒しやすそうで、一番邪魔にならなさそうな「カモ」から始末するに決まってる。
で、このむさ苦しい筋肉の海の中で、一番「弱そう」に見えるのは誰かといえば。
まずさっきの大男や女戦士はあり得ない。むしろ彼らは狩る側だ。
杖を持ったご老人? いやいや、それは歩行じゃなくて魔法の補助なんだよ。
じゃあ探すなら、杖を持っていない、あるいは剣しか持っていない、小柄な──できれば女……ってことになるよね。
……うん。どう見ても、ボクだよね。満場一致でボクだよね!
「対人だから手加減もしなきゃいけないのにぃ……!」
殺して終わりの魔物ならまだ筋はあるけれど……相手はボクが守るべき人間だよ!?
勢いあまって殺しちゃったら本末転倒だし、かといって倒しきれなきゃ自分がやられるだけ。一人に集中しても他の人に狙われる隙を晒すだけだし、これが一対一なら自由にできるのに!
ただ……。
『逃げ回る……ってのはダメだよね』
「……当たり前じゃないか」
会場は広い。ボクの脚力と身軽さなら、重量級の彼らを翻弄して、ひたすら逃げ続けることは可能だ。生き残るだけなら、それが正解だ。
でも……。
「逃げ回るなんて、そんなのカッコ悪いじゃない!」
『だよね。それでこそ僕だし、僕自身もそんな戦い方は嫌だな』
だって想像してみてよ。周りが激しく戦っている中で、一人だけ「きゃあきゃあ」言いながら逃げ惑うボクの姿を。
それは確かに「守ってあげたいヒロイン」としては百点満点かもしれない……でも、ボクが憧れた姿じゃない。
ボクは「頼れる男」に憧れてるんだ。
そんな人が、敵に背を向けて逃げ回るなんて……うん、嫌だ! 知的に作戦勝ちっていうのも悪くないけど……なんか違うんだよ!
「それに……」
『……それに?』
「あっ……いや、なんでもない! なんでもないよ!」
あ、危ない危ない。思わず口に出すところだった……。
……「乱戦だと、彼と確実に会えるかどうか分からない」だなんて。
集中砲火の攻撃を浴びる中、彼を探しに行くって訳にもいかないし……そもそもいざ勝負ができたって、周りの誰かに邪魔されることは必至。二人きりの状況はどうあがいたって望めない。
最悪、エペの『能力』を解放すれば皆まとめて蹴散らすこともできるけど……でも、それは「奥の手」だ。
まだ予選で、しかもスカウトしたい「相棒候補」たちが見ている前でそんなことする訳にはいかないし、魔力の消費量問題とか、そもそもあの方法じゃ運悪く手加減に失敗するなんてこともありえる!
これがトーナメントなら、いずれぶつかるまで勝ち続ければいいってだけの簡単な話だったのに……ああいや、相棒として見定めるためにって話だよ!?
『とりあえず、囲まれる前に動いて各個撃破……これしかないね』
「ま、まあ、仕方ないか……通用するか分からないけど、今回はそれで──」
「──さっきから誰と話してるんだ?」
……え?
「探したぜ、どこにもいねーんだから」
え、え?
なんで……何が……え?
「急で悪いが、もし時間があれば──特訓場まで着いてきてくれないか?」
「キミは……この前の……」
偶然ぶつかって。
華麗に抱き留めてくれた。
爽やかで草原のような匂いのする──
「──よう、また会ったな!」
*
な……なんでなんでなんで!?
「今日は大会だからな。皆会場ばっかで、逆にこっちはガラ空きなんだよ」
「そ、そうなんだ……あはは……」
何も言わずにとりあえず着いてきちゃったけど……大丈夫なのかなこれ!?
闘技場の奥の方にある訓練場は彼の言う通り、誰もいない。石造りの壁に囲まれた、薄暗くひんやりとした空間。松明の明かりが揺れるだけの静寂の中で、ボクたちの声だけが反響している。
静かなはずなのに、ボクの頭の中だけはお祭り騒ぎ。そんなつもりないのに、さっきから顔がひきつってないか気になるし、心臓はバクバクいって止まらない。
痛いしうるさいよ、ちょっと静かにしてほしい!
「(ど、どういうこと!? 「探したぜ」って言ったよね!? ボクのことを探してたってこと!?)」
い、いや……特に深い意味じゃなくて、ただ用事があったってだけだよね!
実際ボクは予想外のアナウンスにビビっ……驚いて、人気のいない場所に移動してた訳だし……!
……よよよ用事があったぁ!?
『ねえ、ちょっと! 顔が緩んでるよ!』
「(緩んでない! これは緊張で顔が強張ってるだけだ!)」
だって、そんなことあっちゃダメじゃないか!
確かに、彼は近くで見るとやっぱり大きいよ?
無造作にかき上げられた黒髪、日に焼けた肌、獲物を狙う鷹のような鋭い眼光。ボクが欲しくても手に入らなかった「男らしさ」の塊みたいな存在。
……そんな人に出合えて、つい嬉しくなってしまったなんて……認められる訳がない!
「悪いな、急に連れ出して──俺、ヴィクトールって言うんだ。ヴィクって呼んでくれ」
「えっ? あっ……え、エスクリ。ボクは、エスクリだよ」
「エスクリか、いい名前だ。よろしくな」
「へへ、キミもね………………ハッ!」
あっやばい! 今ボク絶対アホみたいな顔した! エペじゃなくても分かる!
彼の名前教えてもらって、ボクの名前褒めてもらって、絶対アホな顔してた!
いやでも、彼がほとんど気にして無さそうなのが救いというか。
何が救われたのか分からないけど。男のプライド?
……というか、待って。
結局これ、どういう状況?
「なあ、エスクリ」
……待って待って待って!
ヴィクが、ヴィクがすっごい近づいてくるよ!? もう手を伸ばせば届く距離なんだけど!?
ああ、やっぱりいい匂いがする……じゃなくて! 何を考えてるんだボクは!
「(近い近い近い! なになに!? 何されるの!? 心の準備が!)」
わざわざ人気のいない場所に連れ込んで、名前を聞き出して、ボクのこと探してたって……。
ま、まさか──告白……とか!?
ヴィクの眼差しは……うわぁ、真剣そのものだ。
迷いなんて微塵もない。純粋で、真っ直ぐで、燃えるような熱量だけ……。
ただ、背負っていた盾を構え、腰の剣に手をかけて、ボクの心の奥を見透かすように見つめてるだけだ。
へえ、彼って片手剣と盾のスタイルなんだ、騎士って感じ。なんか意外だけどますます頼りがいのありそうな……。
『エスクリ! エスクリ!? なんか心臓の音が背中の僕にまで伝わってるんだけど!?』
ああもう、うるさいな。今それどころじゃないんだよ!
でも、どうしよう。もし告白なんてされたら……ボクはなんて言えば……。
ああ待って、展開が早すぎる! ボクたちはまだ出会って数日だし、会話だってこれが二回目で……。
いやでも、そういうものなのかもしれない! ボクだって彼を見た瞬間ビビッときたし、彼もボクに同じものを感じてくれていたなら、それはもう運命ってことじゃ……!
……運命!? ボクはさっきから何を!
……ん? 盾? 剣? なんで今、武器を構えるの?
それにさっきからボク自身というより、ボクの手足やエペを見てない?
「──俺と、戦ってくれないか?」
「………………へ?」
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