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僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~  作者: 破れ綴じ
魔法都市ジェドゥーム

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18/56

卒業

 あの『脳に傷が入れば即死する』という言葉は半分正解だったというか、半分不正解だったというか。

 超巨大化したエペに脳を貫かれたボスは即死こそせず、ただ激しい抵抗を見せた後、動かなくなり。


 そしてぼくたちは──




 ──バキィッ!! 


「よし! 穴が開いたぞ!」


 鼓膜が破れそうな破砕音がして。

 同時に、熱風と、焦げた肉の匂いと……眩しい光がなだれ込んでくる。


 あぁ……外だ、光だ、太陽だ。

 生きてる。ぼくたち、生きて帰ってこれたんだ。


「……うぷっ、ごめんっ! 先、行かせてっ! 探さ、ないでねっ……!」


「お、おお。そうか、先行っていいぞ……?」


『エ、エスクリ! 揺らさないで!』


 あ……エスクリが。

 ワームの横っ腹にヴィクが穴を開けた瞬間、銀色の髪が突風みたいに横切ってった。岩陰の方まで一直線。


 いやまあ、理由は分かる。

 エペをボスに突き刺した後ずっと暴れまわるボスの動きに振り回されてた訳だし、さっきの環境とか、匂いとか、エペを元のサイズに戻すために魔力使ったこととかで酷く酔ったんだ。

 でも乙女として……いや、元男のプライドとしても、吐くところをヴィクくんには見られたくないだろうし……。

 大丈夫かな。後でお水出してあげな……おっとぼくは水が出せないんだった。


「エスクリ、大丈夫か? 相当参ってたみたいだぞ」


 あ、やっぱり心配してる。まぁ、彼はそうなるよね。優しいなぁ。

 でも、今は追われるのは流石に可哀想だ。


「多分平気だよ。ちょっと……身だしなみを整えたい、だけ? だと思う」


「そ、そうか」


 それに……その、不謹慎だけど。

 今は、二人きりでいたい、かも。


 ボスの口の中にいたからほとんど意識してる暇は無かったし、粘液とか振動とかでそれどころじゃなかったけど──ぼくは暗闇の中で、ずっと彼の近くを灯してあげていた。

 何度か手を握られもして……ちょっとびっくりしたけど、あれは彼を恐怖から救えていた証なんだと思う。そのことがちょっと嬉しい。


「それにしても──マージュ!」


「……え、なに?」


「さっきの火魔法──凄かったな! 中のあれ、お前がいなけりゃ無理だったよ」


「……あ、ああ。その、どういたし、まして!」


 ……ほ、褒められた! 

 ぼくがいなきゃダメだったって、そう言ってくれてるの? 

 一早くボスの体内から脱出するためにボスの横っ腹に穴を開けようって話になって。

 土の鎧はヴィクくんが力業で破壊するから、そこまでの肉をどうにかしようってなって、久しぶりに本気で火を出してみたんだけど……す、すごかった? 


「だからな、マージュ」


 う、うん。




「俺たちの仲間になってくれないか?」


 うん………………え? 




「俺とエスクリはこれからも旅を続ける、もっと強いボスとも戦うことになる」


 え、あ、その。

 きみたちが探してたのは、水魔法使いだったんじゃ……。


「元々は水魔法使いを探してたんだが──見ての通りもうボスは倒しちまったからな」


 あ、そうか……。


「だから、お前みたいな強い魔法使いが、仲間になってくれると助かるんだ」


 強い魔法使い。

 仲間。

 助かる。

 かつては世界を救う夢を見て、そして挫折した落ちこぼれで役立たずのぼくを……。


 そんなぼくを「強い魔法使い」だなんて。

 世界を救う旅の「仲間」になってくれだなんて。

 ヴィクくんを「助けられる」なんて。

 この一瞬で、ぼくが欲しかった言葉が、どんどん……え、夢? 


「それに……その、なんだ」


 ……あれ、ヴィクくんの顔が赤い。

 さっきまで真剣なまなざしでこっちを見てた、いつもの整った顔が少しだけ斜めの方向を向いて……。


「知っての通り……俺は、その──暗いのも、苦手だから……その……」


「……っ!」


 か、かわいい……! 


 確かに、あの時、震えてたもんね。

 とにかく強い戦士なのに、暗闇が怖いなんて。しかも、その弱点をエスクリは知らない。

 知ってるのは、ぼくだけ。助けられるのも──ぼくだけ。彼を「安心させてあげられる」のは、ぼくの火だけ。

 な、なんだか……胸の奥が沸騰しそうになってきた。


「だから、これからも、マージュが良ければ──俺たちを助け続けてほしい……どうだ?」


「……そんな、ちょっと不安そうな顔しなくたって」


 もうここまできたら──ぼくに断る理由なんてないのに。

 答えは──一つだよ。




「──あっ、まずい。一つ聞き忘れてた」


「へっ?」


「いや、さっきあの学者に言われてたじゃないか、『入学した時』がどうのって。学生だったってことだよな?」


「え、うん」


 ……んっと? あれ? 

 ぼくとしてはもう全然オッケーの雰囲気だったんだけど……まだ何か? 

 彼は何を聞きたいのかな。仲間に迎えるには何か条件が必要ってこと……? 


「だから一応聞いとくんだが……」





 ──「あー、気持ち悪かった……早く帰って口ゆすぎたい……」


 ──『自分自身が吐くところ見せられた僕の気持ちにも……』


 ──「うるさいな……おーい二人とも! 待たせてごめんねー!」




「マージュは、今も──学生なのか?」


 ──「へ?」


「えっと………………ううん、違うよ」


 ──「えっ」






 *






 ──ちゃぷん。


 あー……お湯だ。温かい、たっぷりの、お湯。

 足の先から頭のてっぺんまで、じんわりと熱が染み渡って……溶けそう。

 ドロドロに汚れたからヴィクくんたちが泊まってる高級宿のお風呂に入らせてもらったけど……これはすごい。

 こうしてお湯に浸かってると、さっきまでの地獄が嘘みたい。粘液のぬるぬるも、焦げ臭い匂いも、全部お湯の中に溶けて消えていく。こんな贅沢、いつぶりだろう。


「……ふぅ。生き返るね」


 隣のエスクリも気持ちよさそう。肩まで沈んで、顔だけ出してる。

 ……相変わらず絵になるな。濡れた銀髪が肌に張り付いてて、湯気で頬が紅潮してて、同じ魂のはずなのに。ぼくなんて、赤毛の濡れ鼠だよ。


 まぁ、見た目が良いからってエスクリを僻む気はもうないけれど。

 彼女はぼく自身だし、ぼくのこと見下したりしないし──ぼくはぼくで自分が役に立てるって分かったばかりだから。


「……ねえ、エスクリ」


「……んー?」


 そういえば。

 エスクリには面と向かって言ってなかったし。ヴィクくんだけじゃなくて、エスクリにもちゃんと話を通しておかないといけない。




「ぼくも──一緒に行っていいかな?」




 ……静かになった。

 エスクリは鈍いところがあると思ってるけど、まさか今のこれが「別の場所まで護送して」じゃなくて「仲間に入れてくれ」って意味なのは……ちゃんと伝わってるよね? 


「……本気?」


「……うん、本気だよ」


 冗談で言えることじゃない。

 命懸けの旅だ。今日みたいに、泥まみれになって、死にかけるかもしれない。


「ヴィクくんが誘ってくれたんだ。強い魔法使いを、仲間にしたいって。俺たちを助けてくれって」


「いや、確かに強い魔法使いは助かるけど……」


 思い出すだけで、胸が熱くなる。彼に感謝されたり、助けてほしいって言われると不思議な気分になれる。

 初めて暗闇でヴィク君にお礼を言われたとき、世界が色づいた気がした。大袈裟かもしれないけど、本当にそう思ったんだ。


「『学生じゃない』って嘘ついてたのは、そういうこと?」


「うっ……ま、まぁ……」


 学校には、ヴィクくんにバレないよう退学を申し出ようと思ってる。

 店だってまだ辞めるって告げてないし。このままじゃどっちもただバックレるだけ。

 ボス討伐の一因を担ったんだから、街のぼくに対する対応も変わると思う。

 長年君臨してた厄災がいなくなって、水魔法一辺倒の傾向も変わるかもしれない。


 でも、ぼくは──彼についていきたい。


「……もしかして、好きなの? ヴィクのこと」


「……っ」


 ……まさかそんなこと聞かれるとは。

 しかも変化球なしのど真ん中で。


 ぼくは、ヴィクくんのことが──好きなのか、どうか……正直、よく分からない。

 なんだかドキドキするし、顔が熱くなる覚えもあるし、彼のことずっと見ていたいとも思ったりするけど。

 ぼくは、これが「恋」なのか、「憧れ」なのか、「依存」なのか。前世から恋愛経験ゼロのぼくには、判断がつかない。

 そもそも今のぼくは女の子だけど、中身は男な訳だし。どっちを信じればいいのか分からないってのもある。


 でも。


「……分からない。好きとか、そういうのはよく分からないけど……彼に『必要だ』って言われた時、嬉しかったんだ。この人のためなら、なんだってできる、ついていきたいって思ったんだ」


 それが恋なら、そうなのかもしれない。

 でも今は、名前なんてどうでもいい。ただ、この衝動に従いたいだけ。


「ごめん、わがままで」


「いや、いいんだけど……いいんだけども……いいはずなんだけども……」


 対するエスクリは……すごい複雑そう。


 これまで話をした感じ、彼女はかなり男としての自認が強く残ってるし。ヴィクのことも恋愛対象じゃなくて、相棒として見たがってそう……時々、怪しい時もあるけれど。

 だから、同一人物であるはずのぼくに、複雑な感情を抱くのは分からなくもない。


 それに……。


「ボクたち、何分割したか、覚えてる?」


「……覚えてない。結構な数にバラしたと思うけど……生憎、知識が火の魔法に集中してて、ちょっと……」


「そっかぁ……」


 そもそも、ぼくたち『勇者シエル』の転生体が一か所に集中しちゃうってのもあんまり良くない。

 世界は広いし、せっかく保険として数を増やしたのに──結局同じ団体として動くんじゃ、効率も悪いし、全滅時のリスクも大きい。


 勇者シエルとしての使命を考えるなら、良くないことだってのは分かってる。

 でも、ぼくは不完全だ。一人じゃ勇者になれない。だからこそ、誰かが必要なんだ。


「……分かったよ」


 ……え? 

 い、いいの? 


「……戦力が増えることは悪いことじゃないし、ヴィクも乗り気になってるから」


「……!」


「あんなに落ち込んでたキミがやる気になってるのに、そこへ水を差すのも……ね」


「あ、ありがとう!」


 ……やった、認めてくれた。

 エスクリはちょっとだけ寂しそうだけど……でも、ぼくのことを拒否せずに受け入れてくれたんだ。

 大丈夫、ぼくも足は引っ張らないよ。

 だから、これからよろしくね、『ボク』。




 ……って。

 あれ……? どこ見て……。


「……その、大きいね、マージュ」


 え? 

 あ、これ? 


「……うん、まあ、重い……よね? もう慣れたけど」


 でも、エスクリのも同じくらい大きいけど。

 なんで自分にもあるのに、ぼくのを見てそんな苦虫を嚙み潰したような顔をするのか……。


「慣れた……そっかぁ、はぁ……」


 ……ああ。

 僕はもう慣れたし、仕方ないことだって割り切ってるけど、エスクリはまだ男としての憧れや自認が強いから……他の転生体が「こう」なのが不満なのか。


 ……人の胸睨みつけながらため息つくのは止めてほしいんだけども。






 *






 店にも辞めるって伝えに行って、これまでのお礼をして。

 学校にも中退の申し込みをして、あの学者さんに追いかけられたのをなんとか撒いて。

 払いきれてない学費は……ヴィクとエスクリが「任せて」って言って出してくれた。

 これは後でボスの討伐報酬が出るから、その中の自分の分から返すつもり。


 だから、後は荷造りするだけ。


「ついにこれを開ける時が来たか……」


 タンスの一番下の引き出し。

 ずっと開けてなかった場所。

 開けるのが怖かった場所。

 取っ手に手をかけて、深呼吸して。

 ……えいっ。


 ──ふわっ


 ああ……あったあった。うわぁ、懐かしいな。

 まあ、一番奥にしまってたんだからあって当然なんだけど。逆に無くなってたらびっくりする。


「お母さんが、編んでくれたローブ……」


 丁寧に畳まれた、赤と白の布地。

 故郷を出る前の夜に、「今」のぼくのお母さんが夜なべして作ってくれた特注のローブ。

 神童だって言われてたぼくにこれを着せて、「マージュ、お前はすごい子だよ」って、「凄い魔法使いになって、世界を救うんだよ」って言ってくれた、あのローブ。


 あの頃のぼくは、これを着て胸を張ってたなぁ。自分が特別だと信じて疑わなかった。

 でも、いつの間にか着られなくなっていた。皆の期待を背負えないのが怖くて、「落ちこぼれのぼくには似合わない」「こんな派手な服、笑われるだけだ」って、自分で封印してしまった。


「……ごめんね」


 ずっと暗いところに閉じ込めてて。

 でも、もう大丈夫。今のぼくなら、袖を通せる気がする。

 荷造りも終わりだし、二人とも後で合流だから……もうこれを着ちゃいけない理由はない。

 よし……。


「……」


 ……ちょっと、全体的にきつい気がする。

 ……まあ、落ちこぼれだなんだと抜かしつつ、成長してたってことだよね、ぼくも。

 ちょっと悪い気もするけど、使っていくうちに伸びていくだろうし。そこはまぁ……いいや。


 ボタンを留めて、フードを整えて。

 姿見は……こっちか。


「……ははっ」


 ああ、本当に懐かしい。あの頃の神童マージュそのまんまじゃないか。

 少し大人びて、少しやつれてるけど。でも、赤と白の鮮やかな色彩は、少しも色褪せていない。


「……似合ってる、かな」


 ……うん、悪くはない、はず。

 少なくとも、落ちこぼれの象徴だった今までのぼくよりはずっとマシだ。


 ──『本当に?』


「……っ!」


 鏡の向こう。

 ぼくの顔をした誰かが、ニヤリと笑った気が……。


 ──『ぼくなんかが、本当にやっていけるの?』


 ──『彼らの役に立てるって、本気で信じてる?』


 ──『また失敗するよ。どうせすぐにボロを出す』


 ──『あんなすごい人たちに、ぼくが釣り合うわけないじゃん』


 ──『ぼくなんか、ただの荷物持ちがお似合いだ』


 ……幻聴だ。

 分かってる。これは、ぼく自身の心の声だ。


 染みついた劣等感。積み重なった敗北体験。

 それが亡霊みたいに、ぼくの足を引っ張ろうとしてる。「行くな」「ここにいろ」「お前には無理だ」って。

 確かに、諦めてしまえば楽になれる、傷つかなくて済む。この部屋で、膝を抱えて一生を終えればいい。

 それがまさに、今までのぼくがしてきたことだ。


 鏡の中の自分はどうだ。隈だらけの目、怯えたような表情……情けない顔。

 毎朝、こうやって鏡を見る度に、「自分は情けない存在なんだ」って自分に催眠をかけて、どんどん下へ下へと堕ちていった。

 でも、もう諦めない。

 彼はきっと諦めないから、彼に相応しい人になるためにも、ぼくはもう諦めない。


 ──『ほら、ヴィクだってすぐに愛想尽かすよ』


 ──『火しか使えない役立たずなんて、いらないって』


「……うるさい!」


 分かってるよ。ぼくが弱くて、情けなくて、臆病なのは。

 でも、今は違う。


 彼は言ったんだ、「おかげで、助かった」「お前がいてくれてよかった」「俺たちを助け続けてほしい」って! 

 あの時の、彼の温もり。真っ直ぐな瞳。震えていた手。あれが嘘なわけない。

 そう思えば、信じられる。

 例え自分自身が信じられなくなったとしても、彼が信じてくれた「ぼく」のことなら、信じられる。


 拳を握りしめろ。

 爪が食い込んで痛い──それが、ぼくに現実を教えてくれる。

 これは夢じゃない、新しい一歩なんだ。


 荷物を背負って、扉に手をかけて。

 もう帰らないこの部屋に向き直って。


 鏡の中の、あの「ぼく」だって「ぼく」なんだ。

 自分が「役立たず」だと思い込んで、何もかも諦めてた「ぼく」なんだ。

 きっと、自分が役立たずじゃないって分かれば、今みたいに、きっと立ち直れる。

 それに今まで気づかなかっただけなんだ。






「きみも『ぼく』なんだから、『ぼく』の邪魔なんて、しなくていいんだよ」

これで第2章終わりです。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

また1話、幕話をやって、その後3章に移ろうと思います。


可能であれば、感想や意見や評価やリアクションを頂けると嬉しいです。大喜びします。

それでは、次話以降も宜しくお願いします(´・ω・`)




よく考えたらこれ学園からは卒業できてないですね。

タイトル詐欺か……?

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