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僕のくせにボクの邪魔しないでよ!  作者: 破れ綴じ
魔法都市ジェドゥーム

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13/15

水も滴るいい剣?

 ──もしも。

 もしも、ボクが「剣」の才能を持って生まれなかったら。

 もしも、この手にエペがいなくて、隣にヴィクがいなかったら。

 ボクは今頃、どうなっていたんだろう。


 あの店の裏で、過去を語ってくれた女の子、マージュ。

 自分と同じ魂を持つ、もう一人のボク。

 あの衝撃的な再会から数日経つけど……未だにその姿が、頭に焼き付いて離れない。

 卑屈で、自信がなくて、今にも消えてしまいそうな顔。「ぼくは落ちこぼれだ」って、自分自身を否定する言葉。


 まさか、あそこまで変わってしまうだなんて。あれは他人事じゃない。

 あの子は「失敗したボク」なんかじゃなくて、「あり得たかもしれないボク」そのもの。

 環境一つ、才能の割り振りが一つ違えば……ボクがああなっていたかもしれない。暗い部屋で一人、誰にも認められず、世界の役に立つこともできず、ただ惨めに膝を抱える毎日。

 想像するだけで……ああ、ゾッとする。


 ──ゴゴゴゴゴッ! 


「……っ、また揺れたね。しつこいなぁ……」


 人がちょっと落ち込んでる時に邪魔しないでほしいんだけど? 

 地面が盛り上がって、土砂を巻き上げて飛び出してくる影。黒い表皮に覆われた、木の根っこみたいな長い体──ワーム。

 これがこの辺りの主役気取りで暴れ回ってる魔物たち。

 相変わらず気持ち悪い見た目してるよね、その長いの。生理的に無理なんだけど。


 腰の水筒を抜いて、蓋を弾き飛ばして、中身をエペの刀身にぶちまけて……はぁ。

 毎回思うけどちょっと勿体ないよね。そりゃ、直接ぶちまけるよりかは効率がいいんだろうけど……飲み水にすれば丸一日分はあるのに。

 でも、乾燥して石みたいに硬くなった表皮を抵抗なく切るにはこうした方がいいんだから仕方ない。

 ……面倒だなぁ。いちいち足を止めて、水筒開けて、水かけて……こんなの、戦闘じゃなくてただの作業だよ。


「よっ──と!」


 ──プシュアァァァッ! 


「げ……」


 で、どうしてこのワーム共は切り裂いたとこから黒い霧を吹き出すんだろう。

 倒しててびっくりするんだけど、こいつら口から変な黒い霧吐いてきたりするんだよね。これくらったら視界が一気に真っ黒になって何も見えなくなるし、自分の手さえどこにあるか分かんなくなっちゃう。

 霧自体には害がないんだよ? 毒でもないし、汚れる訳でもない。ただ、戦闘中にこれくらうと結構致命的というか。


 ……マージュも、ずっとそんな世界にいたのかな。

 誰にも頼れず、何も見えず、ただ怯えて。ボクだってこんな晴れない霧に頭突っ込んだ状態で勇者の使命全うしろって言われても……ね。

 ボクは強いけど、ただ強いんじゃない。恵まれていた、運が良かったってのもあるんだ。


 ……イライラする。

 早く終わらせちゃおう、こんな生産性のない時間。頭を使わない時間が多いから余計なことばっかり考えちゃうんだ。


 ほら、あいつも同じように切り捨てて──


 ──プシュゥゥゥッ! 


 おっと……。


「お疲れ、エスクリ。怪我はないか?」


「大丈夫だよ。最後の一体、ありがとね」


 ……やっと終わった。水筒、あと一袋しかないや。これじゃボスとの戦いは干からびるぐらい激しくなりそう。

 まあ、今回は水の補給方法があるし、そもそもボクたちにはこれしか手がないんだから文句言っても始まらないんだけど。


「ヴィクこそ、装備は平気?」


「ああ、頑丈なのを新調したからな。まだまだ斬れるぞ」


 それに引き換え、ヴィクは相変わらず頼もしいなぁ。

 多分彼なら、霧を食らっても、例え一人だとしてもズバズバ敵を斬っていっちゃいそうなオーラがある。スパスパじゃなくてズバズバ、力強くね。

 マージュが気に入るのも無理ないか。あの子、露骨にヴィクに色目使ってたからね。

 ……ボクはあくまで相棒だからそんなんじゃないし、一応それでも渡す気は無いけど。


 さて、仕事の仕上げだ。

 ヴィクも準備してるし、ボクもしっかりやっておかないと。

 腰のポーチにある空き瓶に、ワームたちが出してる「黒い霧」を詰めて……っと。

 こんなもの集めて何が楽しいんだか、多分、依頼じゃなきゃ一生やる機会のない行為だろうね。




『うげぇ……』


 あ、忘れてた。

 エペ、不機嫌そうだね……まあ、理由は明白だけどさ。


『良いとは言ったけど……もうすっかり水浸しだよ。錆びついたら困るし、悪いけど──拭いてくれないかな?』


「あーごめんね、すっかり忘れてた」


 人間ならまだしも、武器の身に水はあんまり良い気がしないよね。拭き拭き。

 聖剣なんだし、変形すれば錆なんて全部落ちちゃうんだから……って思わなくもないけど、本人が気にしてるんだし仕方ない。


『そもそも、なんで僕たち、こんな面倒なことしてるんだっけ? 魔物倒すだけならまだしも、水かけて、斬って、霧詰めて……』


「ああ……まあ確かに。面倒だけどさ。そういう依頼だったんだよ」


 そういえばそうだった。

 あの時、エペは宿の部屋に置いてきてたんだった。だから事情を知らないんだよね。


「実は結構いい条件でね。相手はちょっと……いや、かなり変わった人だったけどさ」


 まあ、とはいっても昨日のことなんだけど……。






 *






「いやはや! 本当に助かった! 何度礼をしてもし足りない! 君達のような物好きがいなければ、私の研究はここで頓挫するところだった!」


 物好きとは、これまた随分な言い方だね。

 水の魔法使い探しに奔走してたボクたちを見るなり声をかけてきたのは自分なのにさ。せっかく二人きり……ああ違う。それは関係ない。


 まあ、困ってるなら見捨ててはおけないし。

 ヴィクも「チャンスだ」って言ってたから話は聞くけども。


「そもそもだね! 魔物の生態調査などという非常に重要な任務を、正規軍がないがしろにしているのが間違いなのだよ! 奴らは『防衛時のみ倒せばいい』としか考えていない! 野蛮だ! 短絡的だ! 知性の欠片もない!」


 そんな唾が飛ぶぐらい語られても。身振り手振りされたって分かんないよ。


 ボサボサの白髪に、分厚い眼鏡。着古したローブは至る所が焦げたり染みになったりしていて、正直言って清潔感の欠片もない。

 街の通りを行き交う人々が遠巻きに見てるあたり……結構有名な人なのかな、悪い意味で。


 まあでも、話を聞く感じ相当鬱憤が溜まっているんだね。

 さっきから五分くらいずっとこの調子。内容はまとめちゃえば「私の研究は素晴らしいのに、危険だから誰も協力してくれない」っていう愚痴。

 ……うん、まあ。こんな街のど真ん中で大声出してる変人に協力したい人がいるとは思えないけど。


「上に研究費用の増額依頼を出しても『危険すぎる』だの『報酬が見合わない』だの……腰抜けばかり! 私が欲しいのは、ただの護衛と、ほんの少しのサンプル採取の手伝いだけだというのに!」


 あはは……ほんの少し、かぁ。

 さっきチラッと見せられた紙には、「ワームの体液」「表皮」「黒い霧」「生きたままの捕獲(可能なら)」なんて不穏な単語が並んでた気がするんだけど……。


 要はこの人、ここら一体の魔物の調査をしたいから、自分の護衛とサンプルの採取をしてくれて、かつ腕の立つ人を探したいってことなんだよね。

 でも、魔物狩りは一般的じゃないし、ボス討伐は国や街が十分にお金と時間をかけてするもの。個人がそれをすることには……まあ意味がない。

 だから研究価値を見出されてないし、予算も降りないから好き勝手護衛も雇えない。提供できるのは魔物の生態における情報だけ……。


「しかし君達は違う! 私の目を見て話を聞いてくれた! その瞳には知性と、探求心がある! 素晴らしい! これこそ私が求めていた人材だ!」


「こちらこそ、アンタの役に立てるなら何よりだ」


 まあ、「金よりも情報」を求めてるボクたちにとっては、渡りに船だったわけだけど。

 さて、いい加減そろそろ本題に入ってくれないかな。ボクたちの目的は愚痴を聞くことじゃないんだ。


「ねえ、ヴィク……そろそろ」


「……そうだな──で、アンタ。本題なんだが」


「おお! すまないすまない! つい話に夢中になってしまったな! この続きは採取から帰った後にしよう!」


 愚痴の続きに興味は無いよ! 

 依頼から帰ったらボクとヴィクは宿に帰るんだよ! 


「依頼の内容は『護衛』と『黒い霧の採取』。ターゲットはこの地域の魔物全般。期間は調査が終わるまで。これで間違いないな?」


「その通りだよ──ところで、報酬が金銭ではなく、『魔物の情報』というのは構わないのかな?」


「問題ない、俺たちはよそ者でな。ここの魔物の特性、対策……あわよくばボスの情報が欲しい」


「ふむ……!」


「俺たちの剣と盾を貸す代わりに、あんたの知識を借りたい。それが条件、いいだろう?」


 ……交渉っていうか、これもう依頼者側か分からない迫力があるけど。

 でも、ヴィクが言ってることは正論だよね。

 ボクたちは強いけど──偶然の遭遇ならまだしも……未知の敵相手に丸腰で突っ込んで無事でいられるほど無敵じゃない。それはもうしっかり学習したつもり。

 特にここの魔物は「乾燥に適応している」っていう特殊な環境下で進化してるらしいし。事前の情報があるかないかで、生存率は大きく変わるはず。


「ハハハッ、面白い! やはり私の目に狂いはなかった! 君達こそ、所謂変人であり、真の探求者だ! 魔法しか使えん卵達よりよっぽどここの学園の席に座る価値がある!」


 ……その魔法も使えない子だっているんだけど。

 ああいや、これは今関係ない。なんかずっとひきずってるな、ボク。


 というか、別にボクたちは変人でも探求者でもないけど。

 ただの世界平和を守るために旅をするだけの冒険者だけど……いやこれ変人か。

 まあ、機嫌を損ねなかったならいいか。この人、褒められると伸びるタイプみたいだし。


「いいだろう! 契約成立だ! そうなると出発は早い方が良い! 明日の朝一番に街門前まで集合してくれたまえ!」


「え……えぇ!? あ、明日!? 朝いちばん!?」


 ちょ、ちょっと気が早すぎない!? 

 朝いちばんだと今日はヴィクと遅くまで話したりとかできないし……そもそも、今日の内に準備を終わらせないといけないじゃないか! 

 ボクたちは肝心の──ここの魔物の対処法も何も教えてもらってないんだけど!? 


「ま、待ってよ。それならせめてここの敵と戦う時はどうすればいいかとか教えてくれない?」


「………………む?」


 え。

 なんでそんなに黙りこくっちゃうのさ。ボク、変なこと言っちゃった? 


「だ、だってそうでしょ? ボクたち他所ものなんだから。腕には自信があるけど、正攻法を知るに越したことは無いじゃんか」


「………………それも確かに! 用心深いのは素晴らしいことだ!」


 う、う~ん……? 

 いまいちやりづらいなこの人。ヴィクに任せっきりだったから分からなかったけど、テンションが独特というか。


 ……あっほら! ヴィクも苦笑いしてる! やっぱり喋りにくかったんだ! 

 向こうは全く気にした素振りみせないけど……それで良いのか、悪いのか……。


「ワームたちは地中を潜って移動し、その土は表皮に付着する! 付着した土は乾燥した気候で渇き、硬度のある自然の鎧となる! そしてその鎧がより掘り進む速度を上げ、刃は通りにくくなる! 普通に戦えば苦戦は必至だ!」


「……それは確かに、手強そう」


「だがな! 案外簡単に対策できるのだぞ?」


 まあいいや、対策があるってんなら聞かせてもらおうじゃん。

 ボクたちは今からその準備に奔走しなきゃいけないんだから。


「ズバリ! それは──」






 *






『……なるほどね。だから水浸しなのか』


「うん、ごめんね?」


『いいよ』


 まあ、答えは「武器を水で濡らせばいいぞ」っていう至極単純なことで。

 よく考えれば当たり前か。敵に直接水をかけるより少ない量で済むし、汚れも落とせるし、確かにこれなら準備だって一晩もかからない。

 まあでも、経緯はどうあれ、自分がビシャビシャにされるのは嫌だよね。

 分かるよ。ボクだって服が濡れたら気持ち悪いし。でも、これが一番効率的なんだから我慢して。


 さて、エペの水気を拭き取ったら、この「黒い霧の瓶」と「魔物の肉体」をそのまま渡しに行かないと。

 学者さんはどこに──って。


「そもそもだね、この黒い霧……成分を分析しないと断定はできんが、おそらくは『魔力そのものが変質した排泄物』に近いものだろう! だから毒性はないが、視界を遮るほどの濃度を持つのだ!」


「そ、そうか……勉強になった」


 ああ……ヴィクが捕まってる。

 変な研究のせいで普段から話せる相手とかいないのかも。だから話し相手がいるのが嬉しいのかな。


 というか……排泄物って……。

 うん、聞きたくなかったなその情報。


「ところでこの魔物は、街の中には出てこないのか?」


「それに関しては心配ない! こ奴らは特定の場所に留まらず、この地域全体を活動域としているが──街は『結界部隊』が守っているからな!」


 結界部隊……なんかそういう魔法使いの集団がいるのかな? 

 ああ、そういえば、街の門のところで厳重な警備をしてた人たちが空に向かって杖を掲げてたっけ。

 名前からするに、街の中に魔物が入ってこれないよう結界の魔法を張るための仕事をする部隊ってことなのかな? 

 まあ、魔法学園ならそういうのも当然あるか。少なくとも火の魔法では……なさそう。


「つまり、結界が張れない場所は直接魔物の被害に遭う?」


「その通りだよ。この荒野には既に滅んだ農村が山ほどあるが……それらは結界を張れなかったために魔物に食い尽くされたもの。残っているものはジェドゥームから結界部隊が度々遠征してるからにすぎない」


 ……! 

 なんてこと、この場所はそこまで魔物被害が深刻なんだ……。


「奴はもう数十年……いや、もっと前からこの地に鎮座している。被害は甚大だ。歴代の領主も討伐隊を何度も送ったが、生きて帰った者はいない。だからこそ学園は奴を倒すため──『超高圧水魔法』の研究に莫大な予算を投じている! 正直無駄だと思うがな!」


「……」


 ……なるほど。

 こういう地域の特色はあるけど、学者さんの話を聞けば聞くほど、この街の「水魔法偏重」の理由が分かってくる。

 その『超高圧水魔法』がどうして無駄なのかも分からないけど。そういう大規模で改造された魔法を使おうと思うと、ボクらの時代の基礎的な魔法技術じゃお話にならないってのは……まあ当然、なのか。

 とことんマージュには合わない訳だ。




「うむ! 今日のところはこれで十分だ! 引き上げよう!」


「あー……もうそんな時間かぁ」


 よく見たらもうだいぶ日の位置が変わっちゃってる。

 この学者さんも当然のように水魔法が使えるし、それで水筒の中身が補充できちゃうから作業がずっと終わらないんだよね。


 まあボクたち、これぐらいの敵相手だったらそこまで疲れないけどさ。

 ほらヴィクなんか……うわ、もうワームの残骸馬車の荷台に積め終わってる。彼、体力に限界とかあるのかな。


「──ところで諸君! 帰る前に一つだけ、ボスについての有用な情報を教えておこう!」


「え?」


「ん?」


 え、急にどうしたの……って、ああそうか。ボクたちへの報酬が魔物の情報だから、完了前に先払いで教えてくれるってことか。

 なんか変に律儀なとこあるな。それならそうと言ってくれたら分かりやすいのに。


「君たちは、なぜ奴が数十年もの間、倒されずにいると思う?」


「へ? ……ええっと」


 数十年も倒せてないっていうぐらいだから……多分、ただの理由じゃないよね。

 あのトレントみたいに、条件次第で無限に再生するとか? 

 それとも、魔法の完全耐性? ああいや、水魔法で倒そうとしてるなら違うか。

 じゃあ、石化光線を放てるとか……ちょっと分からないな。


「教えてくれ。どういう理由なんだ?」


 ボクも気になる。どんな理由なんだろう。

 それが分からないと、またトレント戦の二の舞だ。どんな情報でも受け止めないと。


「……奴はな」






「……非常に巨大なんだ!」


 ……。

 …………。

 ………………。


 えっあっ、それだけ!?

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)

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