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僕のくせにボクの邪魔しないでよ!  作者: 破れ綴じ
魔法都市ジェドゥーム

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12/16

なんかもう根本的に違う

 そういうこと……なんだよね!? 


 目の前の美少女剣士──この前の噴水のあの子から、ぼくと全く同じ魔力を感じるのも。その瞳が、ぼくと同じ金色に輝いてるのも。

 そして何より、さっきの絶叫──「なんでキミも『女』なのさーっ!」って……これ以上ない証拠! 確定演出! 


 ……って、いやいやいや! 

 わ、分かるけど。その気持ちは痛いほど分かるけど──いきなり大声出さないでよ! 

 店長は……あ、セーフ、奥に引っ込んでる。他のお客さんは……いない、今の時間は誰もいない。これもセーフ。

 いやセーフじゃない! ぼくの脳内と心臓がアウトだ! 


「ま、また女!? ボクは本当は男に向いてなかったってことなの……!?」


「ちょ……し、静かにっ!」


「え……ああ! ごめん!」


 ていうか、何この状況。

 理想的なイケメンが目の前にいて、ただでさえ心拍数上がりまくってるのに、そこに乱入してきた美少女がまさかの「自分の分身」って。

 状況が状況だし、あり得なくはないシチュエーションだけど……こんなのどこのおとぎ話? 

 落ちこぼれだったぼく──一人のイケメンと出会い──そして運命の歯車は動きだしていく……的な? 


「で、でも……キミ! ちょっと話したいことがあるんだ!」


 うわ、急に身を乗り出してこないでよ! 

 話したい? そりゃぼくだって話したいし、聞きたいことだって山ほどある。「今どれぐらい把握してる?」とか「能力どうなってる?」とか「なんでそんなに楽しそうなの?」とか。


 でも……。


「む、無理……こっちも話せるなら話したいけど──仕事中だから……」


 だって、今のぼくはバイト中。絶賛生活費工面中。

 ぼくはキミと違って、この店の売り上げに命運を握られてるんだ。店長に見つかって「サボってる」なんて思われたら、クビになっちゃ──




「じゃあ、これならどうだ?」


 ……へ? 

 イケメン……くん? 




「この……光る、棒か? 俺は便利だと思う。これを沢山買うことにしよう」


「え? へ?」


 え、どういう意味。このイケメンくんは何を言っている? 

 しかも一本や二本じゃない……棚にあった全部? 二十本……いや、三十本はあるけどこれ。


「え、あ、あの……そ、そんなに?」


「おう」


 ……? 


 これ、魔力込めれば何度でも使える便利グッズだよ? 一人一本あれば十分。 

 なんで三十本も? 業者? コレクター? それとも暗闇恐怖症? 

 ほら、女の子……もう一人のぼくも混乱してるよ。首傾げちゃってるから。

 ……てことは普段はこんなことしないってことか。じゃあなんで──


「これだけの量だ、包みにも勘定に時間がかかるだろ? 他にも色々買うつもりだ」


 ……ふむ? 


「店主は俺の対応に忙しくなるし、その間受付は占有される──受付で働いてる奴は一時的に『休憩』になるかもな」


 ……あっ。


 そういう、こと? 

 この大量買いは、ぼくたちが話をするための……時間稼ぎ? わざわざ無意味な品を買い占めてまで? 


 嘘でしょ。優しすぎない? 神様なのか? 

 ていうか、めちゃくちゃお金持ちってことなのか? 


「あと俺は『剣を褒められて』機嫌が良い。店主には『店員の接客が良かったから買うことにする』なんていうかもしれない……な?」


 あっ神様だ……。


 接客が良かったって……こんな、オドオドして、声震わせてただけのぼくの? 

 十中八九、ぼくをフォローするためのお世辞だろうけど……嘘でも嬉しい。お世辞でも泣ける。

 誰も認めてくれなかったぼくを。石ころ並べるだけの底辺だと思ってたぼくにそんな言葉をかけてくれるなんて。


「あ、ありがと……!」


 震える声でなんとかお礼を言うのが精一杯。

 彼は「気にするな」って感じで手を振って……ああもう! 

 目の前の分身は「今やっと意味を理解しました!」みたいな顔をして……ちょっとムカつくけど、今は感謝の方が勝ってるから許してあげる。


「……じゃあその、ぼくは時間ができたし……店の裏、行こうか?」


「分かった。そこで『ボクたちだけ』の会議だね」






 *






 薄暗い路地裏。湿った空気と、埃っぽい匂いで相変わらずぼくそのものみたいな場所。

 いつもゴミ出しで使ってる見慣れた薄汚い景色で、いつもと一つ違うのは……場違いな美少女がいるってこと。


「……ここなら大丈夫だね」


 目の前にいるのは、もう一人のぼく。


「えっと……キミは──勇者シエルの転生体……で、いいんだよね?」


「そっちこそ……」


「やっぱり……!」


 整えられた銀色の髪が、路地の僅かな光を反射してキラキラして……ぼくのボサボサ髪とは全然違う。

 服だってそうだ。あの子の鎧は手入れが行き届いてて白と青のコントラストが綺麗なのに、ぼくの店員服はヨレヨレ。

 ……あんまり並びたいとは思わないなぁ。少なくとも同じ魂だなんて信じたくない。

 似てるとこは、ぼくには不釣り合いなぐらい輝いてるこの目と……体つき、くらい? 


「じゃあ、まずは自己紹介だね。ボクはエスクリ、剣士だよ」


「ぼくは……マージュ。一応、魔法使い……」


『へえ、マージュか。僕はエペだよ』


 エスクリ……剣士、か。確かに背中に立派な剣を背負ってる。勇者シエルの「剣の才能」を受け継いだ転生体ってことか。

 なるほどね。剣の才能ならどこでもやっていけるよね。いいなぁ、当たりくじじゃん。魔法使いだなんて、「火が出せるだけの雑用係」のぼくが言うのもおこがまし……。


「ん?」


 ……エペ? 今、誰が喋った? 

 ここには二人しかいないはず……。


「こら、エペ。キミがいきなり話しかけたらびっくりするじゃないか」


『ああごめん。話しかけていい人って珍しかったからつい』


 ……え、嘘でしょ? 

 いや、確かにエスクリだけじゃなくて、背負ってる剣からもぼくと同じ魔力を感じるとは思ったけれど……。


「あ、紹介が遅れたね。こいつは聖剣エペ、ボクの相棒だよ。ボクたちと同じ、勇者シエルの転生体の一人なんだ」


『よろしく。君からは強い魔力を感じるね、流石は魔法特化の個体だ』


「そ、そうなんだ……ぼく、びっくりしちゃって……」


 ……ぼくというか、勇者シエルは剣にまで転生したの? 

 しかも……相棒? ……棒ではないけど。


 ……羨ましい。

 いいなぁ。あの子には、どんな時でも傍にいてくれて、話を聞いてくれて、理解してくれる「もう一人の自分」がいるんだ。

 ぼくには? ぼくには相談相手も、愚痴をこぼす相手も、誰もいない。孤独。

 でも、あの子は違う。最初から「二人」だったんだ。


 不公平だ。ズルい。

 同じ魂なのに、なんであの子ばっかり。

 頼れる相棒がいて、あんなイケメンの仲間もいて。

 順風満帆じゃん。人生イージーモードじゃん。それに比べてぼくは……。


「で、さ。キミの元勇者としての活動進捗はどんな感じ?」


 え。


 ああそうか、ぼくは元々平和になった未来の世界を見届けるために、場合によっては抑止力になるために転生したんだった。

 転生した場所で各々自分なりに活躍して、世界の平和を守ろうって考えてたから……そりゃそうか。他の勇者シエルの活躍も気になるよね。


 でも、ぼくの現実は。

 平日は勉強勉強勉強。場合によっちゃ補習。

 休日は朝から晩まで接客と品出しと掃除だよ。

 冒険なんて、街の外に出ることすらできないのに。


「ボクたちはここに来るまでにボスを四体倒してきたよ。ね、エペ?」


『うん。魔法使いのキミがいて、ここのボスが健在ってことは……今準備中ってとこなのかな?』


「あ、いや……その……」


 やめてよ、そんな質問。

 ボスなんて基本自分から狩りに行くものじゃない。街や国が準備を十分にして討伐に行くような存在。

 ぼくだって他の勇者シエルがどうなってるかは気になってたけど……それを四体か。

 すごいな。本物の英雄じゃん。ぼくなんて、ここの雑魚一匹ですら勝てるか怪しいのに。


 同じ元勇者なのに、この差は何? 

 才能の違い? 環境の違い? それとも……ぼく自身の努力不足? 


「一緒にいたのは旅の仲間の……ヴィクトールだよ。彼はソロの期間でもう十体近くボスを倒してるって話してくれたな」


『ヴィクって言ってあげなよ。なんで渾名を隠したりするんだい?』


「うっ、それは……」


 じゅ、十体……? ソロで? 

 あのお客さん……ヴィクトールくんって言うんだ。ただのイケメンじゃなかったんだ。そりゃそうだよね、あんな凄い雰囲気纏ってるんだもん。

 ……あーあ。住む世界が違いすぎる。英雄と、英雄並みの実力者。


 ぼくと同じはずの「自分自身」は。

 ぼくと違って──既に英雄としての実績を積んでいて。

 ぼくと違って──話の分かる相棒を手に入れていて。

 ぼくと違って──凄く素敵な旅の仲間を迎え入れてて。

 ぼくと違って──次の目的へと順調に進んでいる。


 ぼくが入り込む隙間なんて、最初からなさそうだね。さっき「かっこいい」なんて言っちゃった自分が恥ずかしい。身の程知らずもいいとこ。

 ついさっきまで「話せるなら話したい」だなんて考えたのが嘘みたい。


「今はね、この地域のボスを倒すために水魔法を使える魔法使いを探してるんだ」


 ……やっぱり、そうだよね。

 ボス討伐が目的で、この街に来てて……そりゃ水魔法使いを探してるよね。

 少なくともぼくじゃない。ぼくは「マージュ」だけど、水魔法なんてまるで使えない。火の魔法なら自身はあるけど……結局、火しか出せない。この乾燥地帯で一番役に立たない、ゴミみたいな能力しか持ってない。

 もしかして、向こうは期待してるのかな。魔法使いなら「水魔法」も使えるんじゃないかって。


 いや、それもぼくの期待のしすぎか。今のぼくの現状から救い出してくれるんじゃないか、って。

 同じ魂のよしみで、仲間に入れてくれるんじゃないかだなんて、ぼくがそもそも足手まといでしかないことを自覚できてない自惚れでしかないんだ。

 惨め。目の前に「救いの手」があるように見えるのに、ぼくにはそれを掴む資格がない。


「ねえ、マージュ。キミはどうなの?」


 無邪気なくせにナイフみたいな問いかけするな。

 悪気がないのは分かってる。あの子にとって、勇者シエルの生まれ変わりが優秀であることは「当たり前」なんだ。自分がそうであるように、ぼくもまた成功者だと信じて疑ってないんだ。


 ごめんね。期待を裏切って。

 ぼくは、キミが思うような「すごい魔法使い」じゃないよ。

 ただの落ちこぼれだ。勇者の名折れだ。それが話しててすっかりよく分かった。

 まさかこんな気持ちになるなんて思わなかったな。あのイケメンくんがお膳立てしてくれたのに。


「……ぼくは」


 あーあ、言いたくないなぁ。

 でも、言わなきゃね。ここで何も言わずはぐらかすってのは……ぼくの中で数少なく残った勇者シエルの残滓を全て打ち消すような真似になってしまうから。


 だから、ぼくの、空っぽで、薄汚れた、現実を。






 *






「……という訳。ごめん、期待に沿えなくて」


 言っちゃった。吐き出しちゃった。

 ぼくが落ちこぼれだってこと。火魔法しか使えなくて、この街で役立たずだってこと。勇者としての活躍なんて微塵もできてない、自分の暮らしだけで精いっぱいってこと。


「えっと、その……ここから、出ていこうとは、思わなかったの?」


「思わなかったよ。というかぼくにはできないし」


 ここの地域に出没する魔物はぼくだけじゃ倒せない。火なんてあいつらには効きやしないし、全力出して焼き尽くそうとしたら……他の魔物が寄ってきちゃって結局詰むんだよ。

 人に頼んだりすれば外にだって出られるんだろうけど……ぼくにはそれを叶えるだけの伝手もないし、それを指示するための資金だって足りてない。そもそもこの街から出られないんだ。

 ……いや、それもどうだろう。ぼくが怖がって結局行動に移せてないだけなのかも。それが自覚できたところで行動できる訳じゃないけどさ。


 幻滅したかな。「なんだ、その程度か」って呆れたかな。それとも「勇者の面汚しめ」って軽蔑したかな。

 でも、これもきみなんだよ。こんな情けない「ぼく」も「きみ」なんだよ……なんて。




「……ごめんね、マージュ」


「……え?」




 謝られた? なんで? 

 ぼくが勝手に落ちこぼれただけなのに。期待を裏切ったのはぼくなのに。


「その、キミがそんなに苦しんでるなんて思いもしないで……無神経に、悪かったよ」


『……僕からも謝るよ。配慮が足りなかった』


 え? え? 

 あれ、おかしいな。ぼくがうまくできないのはぼくのせいのはずじゃ……。


「待って、どっちにしろ、ぼくが落ちこぼれなのは変わらないし」


 やめてよ。謝らないでよ。

 そんな顔されたら、ぼくが余計に惨めになるじゃないか。

 怒ってくれた方がマシだ。「情けない奴だ」って罵ってくれた方が、まだ諦めがつくのに……。


「それは違うよ。キミは悪くない」


「……っ」


「火魔法だって立派な力だよ。ボクたちの魂の一部だよ」


『そうさ。その力を生かせる場所は必ずある。それが偶然ここじゃなかっただけさ』


 ……そんなこと。

 ああ、やっぱり勇者シエルは勇者シエルなんだ。悩んでる人を突き放したりしないんだ。

 ぼくの努力不足じゃなくて。ぼくの才能が劣ってるわけじゃなくて。ただ、運が悪かっただけだと……そう言ってくれるんだ。

 おかしいな、自分が自分自身に慰められるなんて。


「だから、世界平和のために努力しろなんて言わないけれど……途中までなら、ボクたちがキミを送り出すよ」


 ……送り出す? 


「ボスを倒してからだけど。キミを、キミの火魔法が必要とされる場所まで護衛する。どうかな?」


 護衛……? 

 ぼくを? ただで? なんでそんなこと……。


「同じ勇者である以上、キミがそんなところで腐ってるのは見過ごせない。世界は広いんだ。キミのその強力な魔力を必要としてる場所は、きっとどこかにあるはずだよ」


 ……ああ、そうか。これが「勇者」か。

 見返りなんて求めない。ただ、困っている人に手を差し伸べる。かつてのぼくもそうだったのに、どうして忘れちゃってたんだ。


 でも──外の世界。ここじゃないどこか。ぼくを否定しない場所。ぼくが必要とされる場所。そんな場所……。

 ……やっぱり怖い。変化が怖い。外に出るのが怖い。本当にやっていけるのか。また失敗するんじゃないか。

 ずたずたになった自己肯定感が染みついたぼくには、そんな救いみたいな言葉も──「はい」と即答できなくて……ああ、情けない、悔しい。


「大丈夫、今無理に決めなくてもいいよ。ボスを倒すまではこの街にいるから。それまでに考えておいて」


 ……本当に、同じ魂なのかな。出来が違いすぎるよ。

 そもそも、持ってる自信の質が違うんだろうね。ぼくが「孤独感」を受け継いだ転生体なら、彼女は「ナルシスト」なんて要素を継いだのかも。


 でも……不思議と、心の鉛みたいな重りが、少しだけ軽くなった気がする。

 出られるって選択肢があるんだと知れただけで、息がしやすくなった、のかな。


 相変わらず、ぼくに大したことができるとは微塵も思わないけれど……さ。


「……うん。ありがと。考えて、おく」


「こっちこそ! 話してくれてありがとうね! じゃあ、戻ろうか!」


 相変わらずぼくの声は小さいけれど、でも嘘じゃない。

 今はまだ踏み出せないけど、もう少しだけ頑張れるのかも……って、ちょっとだけ思えたな。




『……ねえ、聞こえてる? 聞こえてたらちょっとだけ頷いてほしいんだけど』


 え、なに? 

 ……ああ、エペか。えっと、頷くんだっけ。

 こそこそと……エスクリには聞こえないように話しかけてきてるの? 

 急にどうしたんだろう。なんか重要な話? 


『あのさ……その……彼に、見惚れてなかった?』


 …………へ? 


 彼って……ヴィクトールくんのこと? 

 見惚れてたかって……その……。


 ……いや、まあ、はい。

 頷くしかないんだけど。


『ああ、やっぱり……! じゃあやっぱりエスクリ個人じゃなくて、シエルの魂自体のタイプが彼ってことじゃないか……うわー、複雑……』


 ……な、何の話?

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)

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