嘘つかないものが大好き!
本編が終わったからって次の投稿が四日後とは何を考えているんだ私は。
もっとハイペースで書いていかないと……(・_・;)
伝説の勇者シエル──その『戦術の才能』を受け継いだ転生体、名を『ディアマ』。
……ですわー!
とまぁ、こうして殊勝に名乗ってはみたものの。
わたくし、正直なところ勇者シエル様への思い入れというものがまるでありませんの。
前世のあれこれは多少覚えてはおりますのよ? ほんとに少しですが。
ただね、だからどうしたって話ですのよ。
あれは「わたくし」の人生ではございませんもの。
別にそんな知識があったところで現世じゃ役に立つどころか、大法螺吹きと思われるのがせいぜい。
名前もシエルで、生きていた時代も数百年前……そもそも一致する要素が一つもございませんのよ? 他人の日記を読んだ後みたいな、そんな感覚。
性別に至っては殿方らしいじゃありませんか。殿方だった頃の記憶まるで覚えていないのですけれど……わたくしが綺麗に忘れすぎているだけ?
とにかく! わたくしは生まれた瞬間からディアマで、今も変わらずディアマ。
それで何の問題もございませんわ!
わたくしはこの交易都市シズィにて、シズィ商会長のお父様の一人娘として誕生いたしました。
とにかく、それなりに大きな商会の、それなりに大事にされる立場のお嬢様、というわけ。
幼少期から、お父様の商談の場には何度も同席いたしましたわ。商人達が握手を交わし、契約書がやり取りされ、金貨の山が動く──そういう光景が、わたくしにとっての「日常風景」。
普通のお嬢様が人形遊びで覚える単語を、わたくしは商談で覚えたようなものですわね。「数量」「単価」「為替」「利率」「リスク」「担保」「違約金」……ええ、ええ、可愛らしい子供時代でしたこと! くくく!
で、ここで判明いたしましたのよ。
わたくし、商談を見ているだけで、相手の出方が読めてしまいますの。
戦場と商談、扱うものは全く違いますけれど、結局のところ「複数の利害が動く中で全体を俯瞰し、最善手を選ぶ」という構造は同じ。
お父様も早くから「これは……」と気づいていらっしゃったようで、後継者としての教育もそれは熱心にしてくださいましたわー!
ただ、どうしてか。
嘘をつかれることは──ずっと大嫌いでしたわ。
な~んて厄介。商人の娘がこんなこと言ってちゃおしまいですわ!
商人なら互いに嘘をつくことなんて日常茶飯事じゃありませんの。
ま~原因は明白です。大方シエル様が数々の裏切りに遭ってきたからでしょうね。
あぁ、思い出しているだけで気が滅入りますわ!
人類が極限まで追い詰められていた……それもありますが、何より魔王軍が狡猾で。
とはいえよくもまぁ、あれだけ毎度毎度、新しい裏切られ方をされたものですこと。
シエル様も、半分以上はそれが原因で完全な平和を達成できなかったようなものですし?
そのおかげか「嘘をつかれることの不快感」がしっかりわたくしの中に残ってしまって。
他は綺麗さっぱり忘れているくせに、不快感だけ持ち越すなんて……勘弁してくださいませ。前世のわたくし、もう少し配分を考えていただきたかったですわ。
そのせいで現世のわたくしは、人の言葉というものをまるで信用しない人に育ちました。
だけれど!
お金については話が別ですわ!
お金って、嘘をつきませんのよ? ご存じでして?
数字は数字。契約書に書かれた金額は、書かれた通りの価値を持ち、契約期間内は契約期間内の効力を持つ。
損得は計算で確定し、利率は数式で算出される。揺らぎませんのよ、お金は。
気分で増えたり減ったりしませんし、嘘をつきませんし、裏切りませんし、約束を反故にしたりも致しませんの。人間と真逆ですわ!
もうね、これに気づいた時のわたくしの感動と言ったら!
くくく……お金大好きですわー! 愛しておりますわー!
だから、わたくしがすっかり守銭奴のお嬢様になったのも不思議ではありませんよね?
お父様にも「お前、ちょっと度が過ぎないか?」と苦言を呈されたことがございますし。
でも仕方ないではありませんの。だって、これしか信じられるものがありませんのよ?
他に何を信じろと?
それにわたくし。
お金のことを考えれば、自分が嘘をつくことに──まーったく抵抗がありませんし。
だって、皆さんおつきになるんですもの、嘘。
皆さんがおつきになるなら、わたくしがついてもよろしいでしょう? ね? ね?
必要があれば平然と白を切りますし、聞こえていた話も「聞こえませんでしたわー」と言い切りますし、知っていたことも「存じ上げませんでしたわー」と惚けますわ。
くくく……便利な性質に育って良かったですわー!
そう思うと……わたくし、シュヴァとの相性はすこぶる良かったのですね。
契約と義にどこまでも忠実で、約束したら絶対に守って、駆け引きとか腹芸とか一切できなくて、口にしたことは全て本心。嘘なんてつきようもない……あんな分かりやすい人間、商人としては最高のお客様ですわ!
契約書通りに動いてくださって、こちらが提示した条件に対して裏読みなど一切してこなくて、その上こちらからの報酬は必要ないと仰るのですよ? 思い出しても気持ちのいい相手でしたわ!
ただ、問題としては……過去の殿方のことを愚痴愚痴言ってくることと──彼女がわたくしと同じ、勇者シエルの生まれ変わりであること。
前者は惚気がただただ鬱陶しいという話ですが……後者については、知っていながら黙っていないといけないというのが中々面倒極まりなかったですわ。彼女にそんなこと言い出してしまえば、間違いなく「使命」とやらに引きずり込まれてしまいますし。
ふむ?
こうして整理してみますと、結局わたくしという人間、根っこに大した複雑さはございませんわね。
お金が好きで、嘘が嫌い。それだけ。
あら、シンプル!
*
「──やっぱり考え事は自室に限りますわね……」
壁いっぱいに並べたお気に入りの仮面達。
ガラス張りのショーケースの中で、わたくしの可愛い子達が今日もきらきらと輝いておりますわ。
囲まれているとなんだか落ち着きますのよね。誰のものでもないお顔がたくさん並んでいる空間というのは、不思議と思考が冴えますの。
コレクションが百を超えたあたりで数えるのを止めましたけれど、まぁこれだけあれば毎日違うものを着けて遊べますし。
ずっと同じお顔で過ごすなんてつまらないでしょう?
「くくく……眺めているだけで頬が緩みますわー!」
そもそもね、仮面に惹かれる理由なんて、シンプルですのよ。
お顔って嘘をつくじゃありませんか。
にこにこ笑っている方が裏で何を考えているかなんて分かりませんし、泣いている方が本当に悲しいのかも怪しいですし、真剣な顔をしている方が真剣に考えているとも限らない。お顔ほどあてにならないものはございませんの。
でも仮面は違いますわ。「わたくし作り物ですわー!」って最初から堂々と宣言してくれていますの。
最初から嘘だと分かっているもの、それはもう嘘ではございませんでしょう? むしろ正直者ですわよ、仮面は。
お顔より仮面の方が信用できる、なんて。
子供の頃から思っておりましたの。可愛らしくない子供でしたこと!
で、気づけばこんなコレクションに育ちましたのよ。
趣味が高じすぎて部屋が一つ占領される始末。
ただ、それ以上に仮面というのは……。
目元を隠すのに、うってつけなんですのよね~。
うちの商会網はご存じの通り世界規模。
そうなると、世界で──魔王復活のために動こうとする勢力が活動していることも、その勢力が「金色の瞳を持つ勇者シエルの生まれ変わり」を組織的に殺害していることも……分かってしまうもの。
商隊が異常な被害を受ける事例も、政府関連施設の不審な出入りも、特定地域の魔物の動きの偏りも。一つ一つは些細な、報告書に紛れて終わるような小さな違和感ばかり。ただ、断片を並べて俯瞰すれば、嫌でも見えてしまいますのよ。
わたくしのこの瞳の金色が勇者シエル様の生まれ変わりの証であることは、自分でとっくに気づいておりましたから。もし魔王軍の残党が再び動いているとして、転生体だとバレた瞬間にどうなるか。考えるまでもございませんわよね?
つまりは──目元を隠さなきゃ駄目ってこと。
ああ~、仮面集めておいて良かったですわ~。
くくく、われながら見事な采配ですわよ?
趣味と実用の合体技ですのよ!
「ただ──ヴィクトール様は仮面がお嫌いなのですよねぇ……」
この前無理やり──婚約の手紙を送りつけた殿方。
あれは……困りましたわ。
いえ、困ったというのは語弊がございますわね。
計算外、と申し上げた方が正確かしら。
あの方、本当によろしいんですもの。
数々のボス討伐の実績だけでも凄まじいのに……その後の各地での活躍、シエル様達からの絶対的な信頼、そして極めつけが先日の災厄討伐でしょう? 一度命を落としながらも蘇生されて戦線に復帰、致命の一撃を導いたなんて……どこの英雄譚ですの?
しかもあの方、ご本人は欲がないんですのよ。名声も地位も金銭も求めない。ただ真っ直ぐに、世界平和のために動いていらっしゃるだけ。その上誠実極めていらっしゃって、隠し事をすることはあれど「悪意で嘘をつくことはあり得ない」というわたくしのためだけにあるような設定まで完備していらっしゃる。
そしてその周りには、シエル様の生まれ変わりが確か……六人だったかしら?
……これ、商会代表として見過ごすには、あまりにも惜しい存在ですわ。
ヴィクトール様を手中に収められれば、シエル様の転生体六人と一括でコネクションが結べる。あの方々はそれぞれが各分野で唯一無二の能力をお持ちですから、その全員と繋がりを持てるなんて、商会としても対魔王軍のパトロンとしても破格の価値ですわ。
しかもあの方、話を聞いた感じ情にも厚いんですのよ。妻となった相手を守るためなら、迷わず動いてくださる類の殿方。シエル様達のあのベタ惚れ集団から妻の座を奪う形になれば、それはもう恨まれるでしょうけれど、ヴィクトール様が妻を守る側に立ってくださるなら──わたくし、彼女らのあらゆる感情的な反発からも身を守れますのよ?
勿論、シエル様達から守れるなら、それ以外の全ての危険からだって身を守れるということに他ならないじゃありませんか。
いざとなれば対災厄戦におけるヴィクトール様の功績を、事実虚実織り交ぜて面白おかしく脚色しまくればこれ以上ないほどの宣伝効果を生み出せますし。
シエル様達と繋がり、ヴィクトール様という最強の盾に守られる立場として、商会経営でも対魔王軍の運営でも世界復興事業でも、絶対的な発言力を持てる。
私の伴侶というポジションを生かすにはこれ以上ない最適な御方。
こんなもの、利用するだけ利用するに決まってますわ。
シュヴァには悪いですが……どうせ彼女のことですし、未だに自分の感情に整理をつけられないままアプローチの「ア」の字にも辿り着けていないのではなくて?
そんな隙をわたくしが見逃すはずないのですから。
くくく、完璧ですわー!
わたくしの戦術眼、健在ですわー!
──コンコン
……あら?
「お嬢様、お手紙が」
まぁ。じいや?
あらあら、あらあら。
まぁ!
お返事ですって? そんなに早く?
「ありがとう、じいや。こちらへ!」
ふむふむ。
白い封筒。整った封蝋。
この丁寧さ、ご本人ではなく誰かに代筆を頼まれたかしら……いえ、シズィでの交渉の際の筆跡からして、ご本人ですわね。
パッと見ただけでも、ところどころ語調が乱れてますし、言葉遣いも完全とはいえません。何も知らない状態かつ慣れない手つきで一生懸命書いてくださった感じが、もう、文字の端々から滲んでますわ。
となると、文書の書き方を誰かからわざわざ教わった? 返事を書くためだけに?
くくく……可愛らしい!
「さて、と」
それでは早速──じっくり読ませていただきましょうか!
*
『拝啓 ディアマ様
この度はご丁寧なお手紙を頂き、まことにありがとうございました。
お返事が遅くなりましたこと、まずお詫びします。
私はソワン国の療養所にて、現在も療養中の身になっています。
蘇生の処置を受けてからの完全な回復が予想以上に長引いていて、個人的には大丈夫だと思っているのですが、仲間の治癒術師のルメドに厳しく安静を命じられている状態です。
本来だったらすぐにでも返事を書くべきだったのでしょうが、このように遅れてしまったことを改めてお詫びさせていただきます。
貴女様より頂きましたお手紙の内容、何度も読み返させていただきました。
正直に申し上げますと、最初に拝読した際は驚きのあまり言葉を失いました。私のような者にこのような形で正式なお話をいただけるとは、全く想定していなかったもので。
そして、貴女様が私について評価してくださった数々の点と、また私の不在の間に仲間達のことまで気にかけてくださっていたという事実。これらに対しては、商会代表としてのご提案である以前に、一人の人間として深く感謝したいです。
私は自分自身を、貴女様が記してくださったような価値のある人間とは思っておりません。ですが、そのように見ていただけたという事実そのものを、無下にするつもりはありません。
その上で、申し上げにくいのですが。
現時点で、貴女様のお申し出に対し、明確なお返事を差し上げることが、私にはできません。
貴女様とは、シズィでの交渉の場で限られた時間しかお話しできておらず、貴女様のお人柄について私が存じ上げていることはあまりにも少ないと思っています。
このような状態で、軽々しく「お受けします」とも「お断り申し上げます」とも申し上げることは、貴女様に対して失礼に当たると考えました。
後、加えて追伸にて頂いた件なのですが。
貴女様が、勇者シエルの生まれ変わりであるという事実は一体どういうことなのでしょうか。これにつきましては、本当に、本当に驚いていて。私の認識を超えた事実なんですけども。
まさかそのような方が私の前にいらしたとは思いもよらず、お手紙を読み終えた後しばらく動けませんでした。
この件については、書面で軽く触れて済ませて良いお話ではないです。
療養が終わり次第、必ずシズィへ伺い、直接お話を伺いたいです。貴女様ご自身のお話を、しっかりと聞かせていただきたい。これが今の私の率直な気持ちです。
以上、誠に勝手ながら、現時点ではこのようなご返答とさせていただきます。
療養が完了次第、シズィに伺わせていただきます。
敬具 ヴィクトール
追伸
シズィに伺う際は、私一人ではなく、パーティーの仲間達も同行することになると思います。
ただ……なぜか皆の機嫌がとても悪くなっています。
原因について俺もずっと考えているのですが、思い当たる節がありません。貴女様のお屋敷に伺う際、お受け入れの段取りに何か影響があるかもしれませんので、念のためお伝えしておきます』
「……ふぅ」
ふむふむ……。
なるほどなるほど、なーるほど。
「まぁー! 中々感触悪くないですわね! 満足ですわ!」
即お断りされるのが最悪のパターンでしたから、それは免れた。
向こうから会いに来ると言ってきてくださっている。
話を聞きたいということは、関心がある証拠。
追伸の件についても深く伺いたいと、わざわざ書いてくださっている。
くくく……上々の滑り出しですわ!
しかも文面の節々に出ておりますわね、あの方の素朴さが。「私」と書いていらっしゃるのに最後の追伸で一回「俺」って混じっておりますもの。
慌てて書き直す余裕もなかったのかしら。可愛らしい!
追伸のお話も、ふふ……理由がお分かりにならない、ねぇ?
罪な御方ですわ。いくら儲けられるか、今から楽しみに……。
「……ん?」
あら?
手紙の裏に数枚何か紙が挟まってますわね。こっちにも何か書かれていて……何かの伝言でしょうか?
……これは。
ふむふむなるほど。
「じいや! ちょっと来ていただけます?」
「ああ来ましたわね! この紙きれ、捨てといてくださいまし!」
「なんでって? 人の恋文に水差す悪質なクレームでしたわ! お気になさらず!」
こんな感じの本編終了後の話を後日談として10話ほど書いていく予定です。
頑張ってラブコメにできるように努力します。
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