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僕のくせにボクの邪魔しないでよ!  作者: 破れ綴じ
魔法都市ジェドゥーム

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10/15

えぇ……またなの?

 あーもう……すっごい。

 砂なんて食べてないはずなのに、口の中がジャリジャリしてそう……。


 舌が上顎に張り付いて剥がれないし……呼吸するだけで微細な砂埃が入ってくるんだから防ぎようがないよ。

 口の中を潤そうとしても、肝心の唾が出てこないし、喉の奥がヒリヒリして擦り切れた革みたいにガサガサ。

 予備を入れてた革袋の水筒は半日前に空っぽになっちゃって。最後の一口を分け合ったのが遠い昔のことみたい。

 あの時、ヴィクが「俺はいいからお前が飲め」なんてカッコイイこと言うから、ボクも「相棒なら半分こ」って意地張って……結果、二人して仲良く干からびかけてる訳だけど。


 でも、それももう終わり! 

 目の前に広がる景色が、地獄のような乾燥地帯からの脱出を告げているんだから! 


「あー……! やっと着いた……!」


『お疲れ様。聞こえてないだろうけど……ヴィクもね』


「すっげえ……本当に、別世界だな」


 ほら、隣を歩くヴィクの声も、心なしか弾んでる気がする。

 分かるよ、その気持ち。だって、頬を撫でる風が違うもん。さっきまで肌を突き刺すような乾いた熱風だったのに、今は……うん、しっとりしてる。

 冷たくて、湿り気を帯びてて、深呼吸するだけで肺が潤うような、極上の風。

 ああ、生き返る……肌のカサカサも、髪のパサつきも、全部この風が洗い流してくれそう。乾燥肌ともこれでおさらばだね。




「ここが……『魔法都市ドゥジェーム』」




 見てよあれ。

 道の脇をサラサラ流れる水路。透き通ってて、底の石が見えるくらい綺麗。

 あっちには巨大な水車が回ってて、飛沫を上げて涼しげな音を奏でてるし。

 建物の壁も、ここまでの村みたいな土気色のレンガじゃなくて、白くて清潔感のある石造り。


 街全体が「水」の気配で満ちてる。外はあんなに荒れ地だったのに、一歩入ればこれだもん。

 魔法ってすごいね。文明の力って偉大だね。


『エスクリ、顔がにやけてるよ』


「(仕方ないでしょ! まさか荒れ地がここまで広いとは思わなかったんだから!)」


 体のないエペには分からないかもだけど……本当に大変だったんだよ。

 だって三週間だよ? 三週間! ヴィクは二週間って言ってたけど……あのプルミエールを出てから、ボクたちがどんな目に遭ってきたか。

 荒れ地ってのが思ったより難所で。ボクもヴィクも未体験だったから仕方ないけど……日差しは強いし、風は強いし、喉は乾くし! 

 途中の村で出た「岩食いトカゲ」のボス討伐なんて、剣が弾かれるわ砂埃で前が見えないわで散々だったじゃん。ヴィクが盾でひっくり返して、ボクが柔らかいお腹を刺すっていう連携がなきゃ……ここに辿り着くのはもっと後だったろうね。


 そんな苦労を乗り越えて、ようやくたどり着いたオアシス。

 感動しないわけがないじゃんか! 


「よし……まずは水だな。このままじゃ干物になっちまう。買ってくるよ」


「賛成!」


 水って重いからね。

 ここはとりあえずヴィクの男気に甘えておくのが……じゃなくて、彼の力に頼っておくのが「役割分担のできる相棒」としての正解だよね! 


「じゃあボクは宿を。良い感じのとこ探しておくから」


「助かる。じゃあ数刻後、また向こうの噴水の前で合流しよう」


「了解!」




 さて……と、ボクもお仕事お仕事。

 ……にしても、ここどこだろ? 広場かな? 


 色々な人が入り混じって、なんだか変な空気。

 普通の暮らししてる人と……なんだろ、あのローブ着てる人。学生服かな? 魔法都市って言うくらいだし、近くに学び舎でもあるのかもね。

 オススメの宿の場所を聞きたいんだけど……誰に聞こう。

 あの忙しそうな商人はダメそう。あっちのしかめっ面のローブ……学生服の人も、声かけたら怒られそうだし。もっとこう、地元の人っぽくて、暇そうな……。




 ──「動け……動け……よっ!」


 ──「もう、言うこと聞かないなら、全部蒸発させてやっても……」


 ──「あ、あれ、動いた……? ……噴水だし分かんないよぉ」




 ……何やってんだろあの人。


 噴水の前で、ベンチに座るでもなく、水を汲むでもなく、ただ突っ立って……何か話しかけてる? 

 あのローブは、さっき見た学生服……だと思うんだけど。赤い癖っ毛の前髪が長すぎて、顔が全然見えない。なんか猫背だし。ずっと噴水睨みつけてるし。


『……エスクリ、あの人に関わるのは止めといた方がいいんじゃない?』


「えっそうかな。悪い人ではないと思うんだけど……」


『いやなんというか。感じる魔力に覚えがあるというか……』


 そんな剣のキミにしか分からないようなこと言われても。

 だって、学生服着てるってことはこの街の住人で間違いないし、仕事中じゃないってことでしょ? 今だって噴水に謎の言葉投げかけてるだけだし……多分暇なんだと思うけど。

 例え少しくらい変な人でも、道を聞くだけなら害はないはず。

 ボクだって元勇者だもん、不審者の一人や二人、よっぽどのことがなきゃどうとでもあしらえるって。


 ……前そう言って油断したんだったか。

 なんかこう、ナルシストというか、思い上がっちゃうのはボクの癖なのかな。


 まあ、とりあえず。

 爽やかに、明るく……ただの善良な旅行者ですよー……って感じで。


「あのー、すみませーん! ちょっといいですかー?」


 さあ、教えてもらおうか。この街で一番おすすめの、快適でご飯が美味しい宿を! 






 *






 いやぁ。良い部屋が見つかってよかったよ。

 さっき広場で見かけた変な……じゃなくて、ちょっと個性的な女の子に聞いた宿は当たりだったって訳だ。


「──さて、と。今後の指針について話し合おうか」


 おっと、気を引き締めないと。

 久しぶりにまともなベッドに腰掛けて、たっぷりと水分補給もして。普通ならここでちょっと休憩……といきたいところだけど、ヴィクの言う通り、今後の方針決めは大事だからね。


「まずは現状の確認だな──この周辺の魔物は『乾燥特化型』らしいんだって?」


「うん。ちょっと聞いてみた感じだと、みんな口を揃えて『硬い』って言ってたよ。乾燥して皮膚が石みたいに硬化してるんだって」


 ここの受付のおばちゃんも親切で、ついでにこの辺りの魔物事情も詳しく教えてくれた。

 曰く、このドゥジェーム周辺は昔から乾燥しきった荒れ地地帯。ここにやって来た魔物たちもその環境に適応し……体内の水分を逃がさないよう表皮をガチガチに固める進化を遂げたんだって。


『物理攻撃が通りにくいってことかぁ。僕たちのパーティじゃ相性が悪そうだね』


 そう、エペの言う通りなんだよね。


 ボクはスピードタイプの剣士、ヴィクは盾と剣のタンク兼アタッカー。よくよく考えればどっちも物理一辺倒っていう……まさしく脳筋パーティ。

 硬い敵には打撃が有効だけど、ボクたちは斬撃メインだからね。ボクなら技術で、ヴィクなら力業で押し切れるだろうけど……装備をダメにするリスクがあるし。


「でも、『水』が弱点なんだよな?」


「うん。ここの兵士の話じゃ、水をかけて皮膚をふやかせば柔らかくなって攻撃が通るようになる……みたい」


「じゃあ提案なんだが──この街で、『水魔法』を使える奴を仲間に誘うべきだと思う」


 ……えっ。

 な、仲間? 新しい? 


「……そ、そうかな? わざわざ探さなくてもいいんじゃない?」


 いや、確かにこの「魔法都市ドゥジェーム」に魔法使い専門の学校があるのは知ってるよ? さっき聞き込みした時に教えてもらったからさ。

 しかも、ここの「乾燥した地域」と「水が苦手な魔物」って特徴が相まって水魔法の研究が盛ん、もはや一般学生の必修科目だってことは知ってるよ? 


 でも……ようやく二人きりの旅が板についてきたところじゃん? 

 阿吽の呼吸で連携できて、冗談言い合って、たまにはおんぶしてもらったりして……そんな最高の相棒関係が出来上がってるのに。

 ここにエペ以外の第三者、しかも魔法使いなんていうインテリ枠が入ってきたら……空気が変わっちゃうかもしれないし。

 ヴィクがそっちと仲良く話すって危険性も……ああいや、嫉妬とかじゃなくて! パーティのバランスとか、人間関係の機微とか、そういう繊細な問題だよ! 


「だってさ、弱点が水なんでしょ? だったらボクたちの革袋でバシャってやればいいんじゃ……」


「はは、エスクリらしい豪快な作戦だな」


 うっ……。

 その言い方ってことは……。


「良い案だとは思うぞ──ただ……魔物一体につき革袋一本使うとして、群れ相手なら何本いるか分からないし、ボス相手なら樽ごと要るかもしれないしな」


「それは……まあ、現地調達とか……」


『エスクリ、本気? 正直に言いなよ』


「うん……難しいと、思い、ます……」


 ……ぐうの音も出ないド正論だ。

 分かってる。分かってるんだよボクだって。効率を考えれば、水を生成できる魔法使いを仲間にするのが一番だってことくらい。でも……。


 ああいや、ここでボクが「やだやだ二人で十分だ!」なんて駄々をこねたら、それこそヴィクに幻滅されちゃう。

 いくらボクたちが最高のコンビだとしても……ここは、大人の対応をするべき場面だ。


「……分かったよ。ヴィクがそう言うなら、反対はしない」


「助かる。お前の剣技を活かすためにも、サポート役は必須だからな」


 くっ……「お前のため」とか言われると弱いなぁ。

 まあでも──一時的ならいいか。ボスを倒すまでだし。割り切ろう、うん。


 じゃあ狙うは、この街の学園で『水魔法を学んだ経験のある人』だね。学生はダメだ。未来ある若者を、ボクたちの重い使命に巻き込んじゃいけないから。

 探すなら、すでに卒業しているフリーの魔法使いか、あるいは何らかの事情で学園を離れたドロップアウト組……まあ、腕さえ確かなら経歴なんてどうでもいいんだけど。


「よし、じゃあ方針は決まりだな。明日は消耗品の買い込みと、条件に合う魔法使いを探すとこから始めよう」


「おっけー。じゃあ今日はもう休もうか!」




「ただ──エスクリ」


「ん? 何?」


「いや、今更なんだが……本当に『一部屋』でよかったのか?」


 ……へ? 

 ヴィクは何言ってるんだい。一部屋でいいに決まってるじゃん。

 だってボクたちはパーティで、相棒で、旅の道連れなんだから。

 普通、同じ部屋で寝泊まりして、夜遅くまで語り合ったり、装備の手入れをしたりするものでしょ? 

 前世ではいつも個室が割り当てられてたからそういう経験無かったけど。おかげで今日はちょっと楽しみで……。


 ……あれ? 


 でも待って。プルミエールでは一泊する前にすぐ出たし、野宿の時は見張りの交代があるから近くにいただけのような……今回は? 

 ボク、受付でなんて言ったっけ? 『二名様ですね、お部屋はどうされますか?』って聞かれて……『ああ、一部屋でいいですよ』って、即答……し、た? 


 ……!!? 


「ボス討伐の報酬で金はあるんだし、別々に部屋を取ってもよかったんじゃないか?」


「え、あ……」


「お前だって、一人でゆっくりしたい時もあるだろうし──何より俺たちは男女だろ?」


「あ、あー……! い、いや! ほら! あれだよ!」


 えっと……違う! 違うんだよヴィク! 金の問題じゃないんだ! 

 ……いや金の問題ってことにしないとボクの立場がない! 


「せ、節約だよ! 節約! まだ旅は長いし! いつ何があるか分からないから、少しでもお金は残しておかないとね! あはは……!」


『……君さあ、いくら精神が年頃の女の子に引っ張られてるからって』


「(うるさいっ! 黙ってて!)」


 ううう……恥ずかしい。穴があったら入りたい。

 でも、ここで変に意識したら負けだ。そうだよ、ボクは男! ヴィクも男! 男同士が同じ部屋で寝るなんて、何もおかしくない! 変にドキドキしてる方がおかしいんだよ! 


「まあ、お前がそう言うならいいけど……しっかりしてるな、エスクリは」


 ……それって、向こうはこっちのこと何も意識してないってことで。

 ああ違う! 疲れてるんだ! 今日はさっさと寝ようそうしよう! 






 *






 朝一番に来たのに、もうこんなに賑わってるなんて! 

 さすが魔法都市、プルミエールの熱気とはまたベクトルが違うね。


 昨日の作戦会議を経て、ボクたちは翌日早起きし、早速市場へと繰り出したんだけど……流石魔法都市ドゥジェーム。

 プルミエールが「肉! 鉄! 筋肉!」って感じの熱気なら、こっちは「薬草! 魔石! 神秘!」って感じの……なんていうか、洗練された空気感だ。

 並んでる商品も独特だなぁ。水魔法で鮮度を保った魚介類とか、乾燥地帯特有のドライフルーツとか。あと、やっぱり魔法関連のアイテムが多いね。


「へえ、これすごいよエペ。乾燥対策のクリームだって」


『保湿効果のある薬草を練り込んでるとか? この街ならではだ』


「こっちは水魔法用の触媒石か。これを持ってるだけで威力が上がるのかな?」


『純度の高い魔力を感じるよ。やっぱり魔法技術が進んでるんだなぁ』


 店頭のワゴンを物色するだけでも感心しきりだ。

 昨日の夜、ヴィクに「節約」なんて見栄を張っちゃったけど……これだけ魅力的な商品が並んでると財布の紐も緩んじゃいそう。

 特にこの保湿クリーム、絶対欲しい。女の子の体になってから思ったけど、やっぱりケアは大事だし。ヴィクにも塗ってあげたら喜ぶかな? 


 ……って、あれ? ヴィクは? 


 ──「へえ──なあ、これいくらだ?」


 ──「あぇ、えっと……は、はい!」


 えっ……もうあんなとこにいるし! いつの間に店に入ったの? 

 相変わらず行動が早いというか、目的に一直線というか。まあ、重い荷物持ちを率先してやってくれてるし、交渉ごとも彼に任せておけば安心なんだけどさ……。


 話してるのは……受付の店員さんかな? 




 ──「銀貨三枚か! 品質の割に安いな。これなら旅先でも役に立ちそうだ」


 ──「うん……あの、その剣……すごく……」


 ──「ん? こいつか? 買ったばかりだが、手入れはしてるつもりだぞ」


 ──「へ、へえ。その……ぼくは、かっこいい、と思う」




 ……何の話? 

 え、待ってよ。「かっこいい」? それって剣のこと? それとも……? 


 いや、特に何か言いたい訳じゃないけどさ。

 でもヴィクって優しいし、あんまり人を疑ったりもしないから、危ないかもしれないし。

 そもそもあんまりお店の人──しかも受付の人と長話するってよくないと思うんだよね。他のお客さんのためにもさ。


 理屈じゃないけど……なんか気に入らない! 

 注意しないと! 


『えっ、エスクリ……なんか殺気立ってない!?』


 ──バーン! 


 お邪魔するよっ! 


「──お待たせヴィク! 買い物ならボクも混ぜてよ!」


「お、おう。悪いな、先に入ってて」


 ヴィク、何きょとんとしてるの。

 用があるのはキミじゃないよ。まあ話しかけたのはボクだけどさ。

 ほら、ボクのヴィクに色目使った泥棒猫はどいつだ! 


 ……って。


「この前の噴水の人……?」


「へ……え、あんた……」


 体格はボクと同じぐらい。服装はこの前の制服と違う店員服。

 ボサっとした──だけどどこか艶のある赤い癖っ毛が目元にかかってて……。

 え、この人、この道具屋でバイトしてたの? 

 世界はせま……じゃなくて。


 向こうもボクを見て固まってる。

 さっきまでヴィクを見て赤らめていた顔が、驚きで白くなって……いや、まだ赤いな。相当舞い上がってたね? 

 ほら、こっち向いた拍子に、驚いたような瞳がこっちを向いて……。

 向いて……。


 ……きん、いろ? 

 赤い髪の奥の目は、混じりけのない……。




 鏡の前で毎日見ている──ボクの瞳と全く同じ色。





『……あれ? この魔力って──僕たちと同じ……』


 へ……? 


 え、そういう、ことだよね? 

 だってあんなに輝く瞳、ボク以外で見たことも無かったし……。

 ……でも、なんで? なんでこんな場所に? 

 その、予想してたタイミングと全然違ったというか……。


 ……それで、その。

 キミの、ボクと同じくらい、大きく膨らんだ胸元……ってこと……は。




「な、なんでキミも『女』なのさーっ!!?」

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)

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