エピソード9 現状
魔族は川沿いにある村を襲っていた。少女が一人死のうという時、彼はようやく現れた。稲妻を腕や脚に纏わせて、涙を流してこう言った。
「もう大丈夫」
なんの根拠もないような言葉だったが、少女は安堵に落ち着いた。
魔族たちはみんないっせいに男レイル・カハナヌイに魔法を食らわせた。レイルはそれらすべてを拳から繰り出される風圧のみでかき消して、近くにいた魔族の顔面を殴り飛ばす。
魔族はパスンという地味で小さな音を出すと、塵になった。
レイルは深く長く息を吐いてから、橙色の瞳を魔族たちに向けた。
次の瞬間、魔法陣が多数展開され、火炎の矢が魔族たちを大いに苦しめた。しかし、反射の魔法を使う者もいるらしい。
跳ね返り村人に当たりかけた火炎の矢だったが、〈赤の勇者力〉に変えたレイルが瞬間的に移動して、それを掴み、反射の魔法が適応されないように火力を倍増させて直接殴りつけた。
「勇者くん、ドラゴンだ……ドラゴンの大群が……」
ドラゴンは大型かつ遠距離からの火炎魔法の放射だったり氷結魔法の放射だったりをしてくるので、非常に厄介。
地面に落ちていた弓を拾い上げ矢をかけると、瞳と装甲が黄色に変色した。矢には銀色の装飾が追加され、レイルがそれを放ち、ドラゴンの眉間に直撃すると、ドラゴンは死んでしまった。
「…………」
同じ事を七度くりかえす。
ここでもクレエルは驚いた。射撃の命中率が常人ではない。
もしやそういう事を生業にしていたのではないか、と言いたくなるほどだったが、レイルのような精神性の男が狩人などできるわけがないと思い直す。
じゃあ。
「才能……」
ドラゴンの塵が降る。
魔族たちは固唾を飲み、しかし逃げることはなかった。
拳を握り固めて殴りかかるものもいた。そのような連中は〈赤の勇者力〉で肉体を燃やして葬り去る。
魔族たちは火炎の威力を見て、「火炎魔法しか使えないのだろう」と分析すると水を生み出す魔法を使い、大雨を降らせた。
これでは炎だって燃えやしない。なので、炎は使わず、腕力だけで無理矢理叩き潰すようにした。
「残念ながら」
魔族たちは猛々しく叫びながら数で攻めるようにした。クレエルはそれを即座に爆殺し、煙が晴れないうちにレイルは石ころを掴み銀色のオーラを纏わせて投げ飛ばし魔族を二十体ほど貫き殺した。
「残念ながら」
それから二時間。
六十八体の魔族を殺し終えたところで、魔族が尽きた。
「勇者くん、平気かい?」
「平気だよ」
レイルの拳や脚には魔族の血がベッダリと付着している。ボタボタと地面に垂れるのを見てから、クレイルは彼の目を見つめた。
「本当に?」
「君に嘘をついてどうなるんだ」
時折黒に点滅する瞳が不穏だった。
彼の瞳の色は茶褐色だから。
「怪我はした? 治すよ」
「いいよ、してない」
「そう。……じゃあ……」
「怪我人がいるだろ。治癒でもしてきなよ、賢者様」




