エピソード8 鍛造
翌日の明朝に元来の目的地だったシーベンスという街に到着。
レイルは駅にある馬房に馬車を繋いで、宿を取ってから昼頃にクレエルの案内を受けて武器職人というらしい男の元に向かう。
武器職人ダル・コレルは街の外れに工房があった。
工房の腐りかけの戸をクレエルがノックすると、くたびれた男が現れた。男はタバコを咥えていたがクレエルを見るとそれを潰した。
「なんだい、お前さんらは」
「僕は賢者クレエル・コンプレンデル・エスペラル。彼は……」
「……レイル・ケイン・カハナヌイ。勇者です」
「ああ、あんたらが……」
「武器を受け取りに来たんだ。君がダル・コレルさんかい」
「まさしく。大陸一番の武器職人ダル・コレル。レイル・カハナヌイ。お前、ちょっとこっち来い」
「は、はい」
ダルに言われるがまま、レイルは椅子に腰を下ろす。
震えているな、と観察しながら、クレエルは杖のヒルトを撫でる。
「お前、どんな剣を望む」
「えっ」
「既製品をやろうと思ってたんだがね、お前を見たら気が変わった。お前が振るって壊れない剣を作らないとなって思ったぜ」
「えっと……その……」
クレエルに気をかけながら、小声でダルに伝える。
「──そりゃあ、まぁ、出来なくはないが……」
「お願いします」
「任せろ」
解放。「何を頼んだんだい」と訊ねるクレエルに曖昧に返事をしながらシャツの端をつまんで直す。剣が完成するまで街でゆっくりというのもよろしくないから空の様子を見ながら筋力トレーニング。
「今より強くなってどうするの」とクレエルが聞けば、「今より多く人を救える」と簡単な言葉だけを返した。
今よりもっと強くなって、今よりもっと人を救えれば。
それだけで世界はきっと得をする。
せっかく受け入れた苦痛も何もかも、無駄になるよりそのほうがいいに決まっている。だから、レイルは頑張っていた。
「ねぇ、勇者くん。そんなに根を詰めすぎてしまうと、魔王を倒したあとに人間への戻り方わからなくなってしまうよ」
「対策は練ってるから……だ、大丈夫」
「……そう……でも、今日はそこまでだ。身体が悲鳴をあげてるよ」
「…………」
僅かに空が揺らいだ。
「魔族だ」
「えっ」
「行こう」
「う、うん!」
また。気づかなかった。
クレエルは工房にいるダルにひと言つけてから、先に行ったレイルの後を追う。〈白い勇者力〉で強化された筋力にかかれば二キロというのは大した距離ではないらしい。
(はやいなぁ……)
きっとああやって何に関しても追い越されてしまうのだろう。
そこまで思い至ると、ふと腹の中でチクリとした痛みが走る。
「好きにならないようにしよう」




