エピソード7 馬車
全身に火傷が拡がってしまった。
軽度のところは自分の回復魔法で治せたが、重たいところはほんとうにジュクジュクになってしまっていた。
これを十三歳の子供に見せるのは申し訳なかったが、治してもらうには彼しかいなかったので、見せた。
すると、クレエルは「もうあれ二度とやっちゃダメ」と言った。
レイルもできることなら二度とやりたくなんかなかったが、「やるよ」とだけ答えた。その後、クレエルはまだ生きているし息を吹き返す可能性のある村人を率先して治癒・蘇生していった。
レイルも壊れた家屋を起こしていき、瓦礫の撤去や仮設住宅の設置を率先して行った。村人たちは「休んでくれ」と懇願したが、レイルは動かなければ気がすまなかった。
魔族といえど、殺した命はあまりにも多かったからだ。
罪悪感で死んでしまいたくなる前に、少しでも多くの命を救っておくべきだと思ったのだ。たぶん自分は死ぬ人だから。
「兄ちゃんすごかった」
村の子供が言った。
「俺もあんなふうになれるかな」
あんなふうになるな、とは言えない。子供の夢を壊すのは年上のやることではなかったからだ。だからレイルは何も言わずに子供の頭を撫でた。口角は少しだけ上げていた。
「勇者くん」
その日の晩、村を出た。馬車の中でクレエルは訊ねる。
「君、魔法使えるだろ」
「……使えるよ」
レイルの声はまた震え始めている。どうやら有事の際でないと冷静になれない人らしい。クレエルも目の前の男がクソみてぇに面倒くさい人間だというのは分かってきたのでそれには何も思わなかった。
「君が覚えられる魔法なんて、一つしかないのに。何を覚えたの。あの火炎の扱いのうまさからして僕の予想だと火炎魔法だと思ってるけど」
「…………よく、馬鹿にされるから、言いたくない」
「僕は賢者だよ、馬鹿になんてするものか」
「……俺が覚えた魔法は……か、回復魔法だ」
「えっ」
「ほら、ば、バカだと思うだろ。唯一覚えられる貴重な枠を使って、大して使えるわけでもない回復魔法なんて覚えたんだ」
回復魔法を使うくらいなら医者にかかるという人間は多い。
それに治癒魔法があればそんな物は使い所もない。
使えなくもない魔法だから普通の人間は余興的に覚える魔法であるけれど、「生涯覚えられる魔法が一つしかない人間」が覚える魔法にしては、それはあまりにも有用性がなさすぎる。
生きるのがヘタクソな人間という印象はとても強い。
「どうして回復魔法なんておぼえたの」
馬の蹄が硬くなった地面を蹴って、前へ前へと進んでいく。
日が落ちるのも間もない。空は色づき始めている。
「君が……俺のことを理解してくれるか、わからないけど……英雄的でもなんでもないんだけど、勇者として、相応しいエピソードかはわかんないんだけど……」
「いいから、言ってみてよ」
レイルの頭の中では魔族の死に際が延々と流れ続ける。
そろそろ死にたくなりそうだ。勇者だからで許されていい殺戮などではなかった。あんなものはやってはいけないことだった。
とは思っていても、会話は続く。
クレエルは杖のヒルトを撫でながら彼の背中を見上げる。
「九歳ぐらいの頃……学校の中庭で……小鳥がケガをしてたんだ」




