エピソード5 点滅
殺さなくて済むからといって、それでレイルの心が良くなるとは限らなかった。拳を握る理由は人を守る為であって、生き物を傷つける為ではなかった。魔族というのが大勢の命を奪うクズ中の屑であることは理解しているけれど、それでも自分にとってそれは得難い力だった。
命を奪った罰を与えるのは勇者などという力を持っただけの私人でなく、現代世界において機能していると考えられる法であるべきだ。
魔族に法を当てはめた場合、死刑が妥当だろうが。
(殺さなくて済むなら……)
拳を握り、〈勇者力〉と呼ばれるのだろう金色のオーラを纏わせ殴り飛ばす。すると、魔族は途端にぶくりと膨れ上がり、爆発して死んだ。
「し、死んだけど!?」
「……なんで……!?」
思わずクレエルも大きな声を出した。
「なんで、なんで……」
金色のオーラがおかしい。
「二千年前の勇者の……破壊魔法が縛り付けてある……」
「破壊魔法……?」
「二千年前の勇者は唯一覚えられる魔法で簡単な破壊魔法をおぼえたんだ。……それが勇者力に強く縛り付けられている。勇者が遺した呪いだ。もし二千年後に魔王が蘇るとして、絶対に殺せるようにと」
「野蛮……これは、これ、これ取り除けないの」
「加工は出来るけど、取り除くのは出来ない。昔の魔法すぎるし、なにより深く根を張りすぎている。君は多分、二千年前の勇者の末裔だろ。だから、多分……無理だ……」
「じゃあどうしろと」
「殺すしかない……魔族は、ごめん、魔族は殺すしかないんだ。魔族は人を殺す生き物だから。殺すしかないんだよ、勇者くん」
しばらくの沈黙。
瞼をギュッと閉じて、レイルは思考──葛藤をする。
そうしていても、やはり涙は溢れていく。
「魔族は人の姿を真似しているだけの魔物なんだ。だから、殺したって……誰も酷いなんて思わない」
「やるしかないのはわかってるよ。此処まで来たらやるしかないことくらいわかってる。人の姿をしているだけの魔物だから、大丈夫だなんてことは……理解はしないけど受け入れるよ」
瞼が開く。一瞬、瞳が黒く点滅してから言う。
「爆発は……可哀想だからそれ以外にできるかい」
「それなら、此処でできる……」
「頼む、賢者様」
〈勇者力〉に縛り付けられていた呪いとしての破壊魔法を一瞬切り開き、術式を書き換える。元が破壊魔法なので、あまり可哀想でない死に方はさせてやれないし、きっとレイルも何も言わなくなるだけでそれを良しと思う訳ではないのだろうが、最善を尽くす。
「君がある程度ダメージを与えれば、身体が崩壊して塵になる。爆発はしないけれど、結局その力は……」
「理解はしないけど、受け入れるよ」
白いスパークが地を張った。
次の瞬間にはレイルの姿は消えていて、強い風が吹いた。
「魔法、だもんな……」
クレエルが魔法を覚えたのは誰かを幸せにしたかったから。
一番最初に覚えた魔法は花を咲かせる魔法で、次に覚えたのは人形を思い通りに操る魔法。母と父は騎士団と魔法師団の団長同士で、ふたりともとても善良な人間だった。
魔法使いを憧れだしたクレエルを大変よく褒めた。
そして、母親は死ぬ二ヶ月ほど前に、クレエルに言う。
『あんまり現実的でない例えなんだけどね、もし生涯覚えられる魔法がひとつだけだった場合、火炎魔法とかの攻撃魔法を覚えるような人はほんのちょっぴり見栄っ張りな人でね……回復魔法とかの支援魔法を覚えちゃうような人は生きるのがヘタクソなものすごいおバカさんなんだよ、クレエル』
母の手の温かさをまだ覚えている。
『お前はそういうおバカさんのことを好きになってね』
その時はなんと言えば良いのかわからなかったが、今なら言える。そんなバカを好きになったらたぶん毎日胃が痛む。




