エピソード4 魔族
魔族は大勢現れた。
そして、その村の人間はその分大勢死んでいった。
誰かが抗おうとしたのだろう。それはおそらく傭兵で、程度の知れた剣が死体に突き刺さっている。
クレエルは口を思わず抑えてレイルを見た。
レイルの瞳は、橙色の光を帯び始めていた。
そして、それと比例するように白いスパークが現れる。〈勇者力〉のうちの一つ、「身体強化」のあらわれである。
今まで一切の無能力者であったレイル・カハナヌイはこれにより勇者としてそこに存在することを自ずと証明してしまう。
その光があんまりギラギラしているものだから魔族たちはレイルを見付けてしまった。その顔は下衆に歪んでいて、舌は汚い。
クレエルは一メートルほどある杖を構えて魔法を放とうとするが、それより先にレイルが動いた。
駆け出し、側転のような動きで地面に転がっていた石を掴み上げると、そのまま宙に飛び上がった。
魔族たちはそこに魔法を撃とうと一斉に手のひらを向ける。
しかしその瞬間、握り潰され砕け散った石の破片が魔族たちの顔面に突き刺さる。辛うじて防御魔法を使ったらしい魔族のうちの一体が怒りに叫びながら手のひらから火炎を放射した。
その中を通る。
レイルの頭の中には親を殺され泣き叫ぶ事も出来ず口元を押さえて恐怖に震える子供の姿。母の死が分からず芋虫のように丸まって死んだ赤子の姿。長年連れ添った妻を殺され怒りに震えながら死にゆく老爺の姿。──憤怒。
瞳は赤に染まり、スパークも赤くなる。
火炎の中を抜けると、魔族の頭を掴み、手のひらから炎を放射した。魔族は死を恐怖しながら、必死に抜け出そうと抵抗を試みるが、敵わない。力があまりにも強すぎる。
「こんなモノ、何が楽しいんだ」
レイルは涙を拭いながら先を見る。魔族は未だにいる。
クレエルは驚きを隠せなかった。レイル・カハナヌイの戦闘性能は本人の人格に見合っていない。そしてなにより、赤いスパークの姿になった際のレイルの体内を見た際、確かに身体強化は解けていた。
他に魔法は使えるはずもない。
「素で……?」
素で人間の数十倍の身体能力を持つ魔族に競り勝っていたのか、と。驚きはやっぱり絶えなかった。ただ、身体が強くても心がマズい。この短時間の戦闘でだいぶ精神が苦しんでいる。
人──魔族とは実際には魔物の類だが──を傷つけるという行為に対して、強い嫌悪感をおぼえている。本当は争うのも嫌なのだろう。
ただ、出来てしまうからやってしまったのだろう。
教えてやらなくちゃならないような気がした。
レイル・カハナヌイは未だ〈勇者力〉を知らない。だから、自分が今まで研究してきた勇者に関する事の内からレイルが望んでいるだろう事を教えてやらなければならないと。
「勇者くん!」
叫んだ。
「攻撃の際、〈勇者力〉を手脚に纏わせるんだ……〈勇者力〉の持つ分解と再構築の能力で、魔族から魔力路と魔力回路を消し去り、力を持たない人間にすることができる! 殺さないでいいんだよ!」
「なんで先に言わないんだ……」
「ごめん」
クレエルにとって魔族というのは殺してもいい生き物だから、言わなくてもいいだろうと思いこんでしまっていた。
「ほんとうに、ごめん」




