エピソード3 感知
理不尽だと思った。
そんな理由で戦いたくないと泣いて喚く一般人を無理やり死地に向かわせるのは、「尋常」の理から外れているのではないかと八時間ほどぶっ続けで〈尋常維持機構〉に文句を言い続けた。
そんな中でも頭では「シンならきっと文句を言わずに受け入れたんだろう」と考えてしまい、自己嫌悪が加速する。
レイルはシンのようになりたかったが、そうなれなかった。
シンのように無尽蔵に善良な心を振りまくことなど出来やしない。
つねに優しさを最大限抱えて生きることなどできやしない。
ただウジウジしているだけのクソガキである。
賢者──クレエル・エスペラルは馬車の隅で震えるレイルを冷めた目で見つめつつ、「そりゃまぁ怖いだろうなぁ」と一定の理解を示してみる。
クレエルは今よりもずっと幼い頃からこういう異常事態に対して耐性のつくような日々を送ってきたから今更どうということはないが、レイルはつい先日まで普通の学生だったのだ。
こういう事には慣れていないのだろうし、いきなり「まぁ頑張ってやるぜ!」となるのはそれはそれで理解しがたい。
「そういえば」
「な、なに」
クレエルが口を開けばレイルは肩を小さく跳ねらせた。
口の中で「鬱陶しいな」と言葉を転がしてから咳をつく。
「君の故郷の村って、ハーフが多いね。君もそうだし」
「だ、だから……!?」
「……やっぱりいいや」
なんなんだ、とレイルは嫌に思いながら車窓からちょこっと空を眺める。
その瞬間、なんの偶然からかほんの〇・一秒、空が嫌な魔力に包まれた。通常ならば気付くはずもない魔力の動き。
賢者クレエル・エスペラルも気付いていない。
レイルは身を乗り出して、御者に言う。
「あんた此処で降りろ。そういうトロープでもあるまいし、死にたくないだろ。此処からは俺がやる」
「な、なんです。いきなり。我儘は」
「うるさい、降りろ」
無理矢理にでも御者を降ろすと、自分が手綱を握った。
遠ざかっていく御者だった彼を見送ってからクレエルはレイルに「いったいどうしたの」と訊ねた。
唐突な方向転換に、壁面にぶつかりながらも。
「魔王の配下……魔族だ! 魔族が出たんだ!」
「そんな気配は……」
「わかるはずだ、あんたが賢者なら」
確かに、邪悪な魔力がドンドンと近づいてくる。クレエルは驚いて、レイルを見た。自分よりも遥かにはやく気付いたのが信じられなかったのだ。「勇者だから」という言葉を思い浮かべて、固唾を飲む。
「でも、君の剣がまだない! 勇者は剣がなきゃあ……」
「武器がなきゃ戦えないなら人は何故拳を握って生まれたか分かりゃしないだろ。ウダウダ言ってないで構えて」
「なんなんだ、君……」
「誰が呼んだか『勇者』らしい」
よく見れば、腕も脚も恐怖に震えている。だからなおさら、「なんなんだ」と思った。理解のできない人間だった。




