エピソード2 選定
かつて、二千年前の大昔に「魔王」という存在があった。
大いなる厄災を呼び起こし、殺戮の限りを尽くした。
しかし、そんな魔王の時代も長くはなかった。二千年前、魔王に反旗を翻した勇者という存在が魔王を封印したのだ。
それから長い月日が流れ、現代。
マガラハ山脈ミッカ山の山頂にある遺跡の中に封印されていた魔王がある日突然蘇る。原因は不明、人為的な封印解除である可能性が高く、〈尋常維持機構〉は捜査と同時に魔王を討ち滅ぼす勇者の選定を開始した。
そして選ばれたのがレイル・カハナヌイであった。
レイルはその通知が来た日の晩、ベッドに潜り込んでガタガタと震えていた。勇者なんて自覚はなく、いきなり押し付けられた役目。
放棄する勇気も逃げ出す勇気もない。気が弱いなんてもんじゃない。
その震えは翌日まで続いた。〈尋常維持機構〉が寄越した迎えの馬車に乗る際、震えすぎて二度転んだ。
王都にある王城、その謁見の間に通された際、震えながら泣いていた。
そうしていたからか、隣に賢者が居た事に気が付かない。
声をかけられてようやく気が付いた。
「顔が青いね、お兄さん」
「俺、俺、あの、俺まだ死にたくない……」
「僕もだよ。だから、死なないように頑張ろうね」
「ヒィッ……やだ、やだやだ……俺嫌だ……」
「僕もだよ」
「僕もだよじゃなくて……き、君は怖くないのかい!? ま、魔王だぞ、魔王なんだぞ! 殺されてしまうかもれしれないのに……どうして平気な顔なんてしていられるんだ」
そもそもなんで自分なんだ、と訴える。
〈尋常維持機構〉の職員が簡潔に答える。
「君が勇者として生まれたからだ」
それに対して、レイルはまた騒いだ。
「勇者ってなんだよ……称号だろ!? 二千年前のあの人に与えられた称号!! そうじゃないの!? な、なんでなんもやってない俺にそんなモン与えられてんのさ! しょ、称号なのに!!」
「それは僕から説明するね、勇者くん」
「勇者って呼ぶな……!!」
「無茶を言う。二千年前の勇者は容姿端麗、身体能力抜群、知力抜群、善良で穏やかな性格をしていてね。完全無欠な人に思えるけれど、彼には一つ『出来ないこと』があったんだ。それは何かわかるかい?」
「魔王の討伐」
「痛烈な批判だなぁ。違うよ、『魔法の行使』だ。彼は簡単な破壊魔法しか使えなかったんだ。その分の魔力量と枠しかなかったから。通常人間の魔法枠は一兆コほどあるけど、彼はそうではなかった。ではなせか? 彼の魔力路には魔力ではないものが多く流れていたんだ」
「……それって?」
なんとなくの心当たり。
「魔力路を通して魔力回路を流れるそれは彼が持つ特別な能力。魔王の持つ〈魔王力〉と対を成す破壊的な神秘の力。魔法界はそれを〈勇者力〉と名付けた。彼が勇者と呼ばれたせいでそうなった」
「…………」
「心当たりあるだろ。君の中に流れる力の名は〈勇者力〉だ」
レイルは鼻の奥が痛くなり始めたので、そろそろ泣き止んだ。
そしてかわりに言葉を吐き出す。
「たまたま、そんな力を持って生まれた位の事で……」
「そういうものだよ、勇者くん」




