エピソード16 写真
財布だけでも取り戻そうかと考えたがどうもそれも無理そう。
なら現地で働いて取り戻すということになる。
「君、そういう魔法はないのかい?」
「そんな魔法必要ないと思ってたから……」
「まぁ、そうだよな」
クレエルはそれにしても傷ついている様子だった。
聞いてみれば、財布には家族写真が挟まっていたらしい。
「お金はいいけど、写真だけでも返ってくればいいのに。写真、あれ一枚しかないんだよ」
「……そっか。それじゃあ、取り戻さないとね」
「でも、もう無理だよ。街だってめちゃくちゃになって、金以外だってもし何処かに捨てられてたら、混乱の最中でビリビリのズタボロになってるかもしれないし」
「大丈夫」
「なんで言い切れるのさ」
「君の視界に俺がいる」
それから、探した。
街の住人も複数人巻き込んで、写真捜索。
そして、宿から徒歩で一時間ほどのところにある川のゴミ止めをさらってびしょ濡れになりながら、レイルがとうとう見つけた。
「は、鼻に泥とか入っちゃった……変な病気になってしまうかもしれない」
ひぇええ、と恐怖に震えるレイル。
クレエルはひと呼吸置いてから微笑み、杖を振るった。
「あっ、すっきり」
「これは、『鼻に詰まった泥を抜く魔法』……僕が魔法使いになってから三番目に覚えた魔法なんだ。いつか、鼻に泥が詰まることがあるかも、なんて思ってたんだけど……君とはね」
「変な話もあるもんだ。鼻に泥が詰まるとは思えても、財布を盗まれることは思いつかなかったのかい?」
「グチグチと……悪い癖だよ。……ねぇ、勇者くん」
「なんだい?」
「ありがとう。これ、宝物だ」
全身がマジで汚いし臭いから宿に着いたらすぐに湯を浴びる。
大浴場もどうやら貸切状態で、せっかくだから湯に浸かる。
「君の身体、傷だらけだね」
「一番新しいのは串刺しのやつかな」
「どうしてトンチンカンなことを言えるんだい? 自分がした怪我のことも覚えていないのかい?」
「そんなに怒らなくたっていいじゃないか」
「どうして、そんなに傷だらけになってしまうんだい?」
「昔から怪我ばかりする子供だったんだ。……たとえば、この腕の傷は犬工場で虐待されて片目を失った老犬を撫でようとして噛みつかれた傷で、これは火事の家から老婆を助けようとしてできた傷。割れたガラスが首に刺さったんだ。貫いたからな、あの時はいつも笑ってる母が珍しくヒステリックになって泣き叫んでた」
なんで首ガラス片で貫かれて生きているんだ、と思った。
けれど、それ以上に昔から自分の命を勘定に入れない行動ばかりしていたのかと少し不気味に思う。
「君の嫁さんになる人はきっと世界で一番不幸だね」
「シンの姉さんにも言われたな」
「あの人お姉さんいるんだ」
「いるよ」
レイルは「私を不幸にしてもいいよ」という言葉を薄っすらと思い出しながら、あの時の言葉を思い出す。「いやです」……だったか。
「いつか君のご両親に会いたいな」
「なんて言って会うつもりなんだ」
「故郷凱旋があるでしょ」
「やらないよ」
「なんでだよ、やれよ」
「故郷には二度と帰らない。行くとしたら王都だけだ」
「故郷は嫌いなのかい?」
「嫌いじゃないけれど、兄が俺を嫌ってる。兄を不幸にする事は俺も望んでない。だから帰らない」
「君の視点はいつも歪だね。バカだから? そうなったらご両親が悲しむでしょうと思うけど」
「母には妹とそれこそ兄がいるし、父も俺のようなウジウジとした奴には外を見てもらうと言っていたから、兄と気持ちは一緒だ」
「そうなのかい?」
そうだよ、とレイル。
ほんとかなぁ、とクレエル。
「でもカハナヌイってとんでもなく面倒くさいしとんでもなく難しいだけの人たちって感じに思えるね、君の育ちぶりを見ると。実はお兄さんもお父さんも君のこと好き好き大好きかも」
「それはないよ」
「なんで言い切れるの」
「俺のような醜い化け物、誰が好きになるんだ」




