エピソード13 度量
身体を休める期間ができた。
どうやら魔王軍も多くの戦力を失ったので侵略を一時中止する羽目になったらしい。その間に身体を万全の状態に戻しておく。
レイルは身体に血が戻っていく感覚を自覚するやいなや鍛錬を始めた。クレエルはそれを何度も制止したが、レイルは言う事を全く聞かないので、諦めて何かあった時のために直ぐ側で見守るようにしていた。
(……この男は……)
この男は自分の命など一切勘定にいれない。
自分など死んでもいいと思っているように、自分の限界を無視している。おそらく、そういうふうに思ってしまっているのは事実なんだろうとも理解してしまう。
レイル・カハナヌイ。おそらく彼は自分の事が大嫌いなんだ。
そして、その自己嫌悪を晴らす言葉をクレエルは持っていない。
というより、持っていたとして聞いてくれるかわからない。
五歳も歳下だから。
彼にとって自分は〈尋常維持機構〉側の人間だから。
せめて親友の言葉であればどうなるか。シン・U・リーに直接言ってもらえれば気が楽になるんだろうか。
そういう事を考えたところで、彼の現状が良くなることはない。
鍛えて鍛えて鍛えて、そして確実に肉体は以前より強くなっている。
「勇者くん、そろそろお昼ご飯にしようよ。お腹減ったでしょ」
「減ってない。ごめんね、俺はお腹減らないんだ」
「そんなことってあるかよ、減るだろ普通」
「俺は普通じゃないんだよ」
最近、彼の涙を見ていない。泣かないようになってしまった。
最初は泣き虫なところなど鬱陶しかったけれど、それがなくなったらなくなったで心配になってしまう自分は意地悪なのだろうか。
クレエルは杖のヒルトを撫でながらそう考えた。
「魔王を……殺すんだよ。賢者様。俺はね、勇者だから魔王を殺すんだ。それしかないんだ、生きる方法は。俺の親友はね、医者を志す優しい男なんだ。俺のような醜いお化けとは違って、人に愛される男だ。彼の生きるこの世界を、魔王軍なんかに壊させたりはしないから……だから、俺は受け入れたんだ」
「勇者くん……だったらなおのこと休まないと。自分を追い込みすぎても身体が壊れるだけで強くなるとは限らないんだよ」
「…………」
「汗臭いからシャワーでもしてきたら?」
「…………」
レイルは立ち上がった。汗に濡れた身体がその異常な執着を物語っているようだった。クレエルはそれから目が離せずにいた。
こういった性格の男が今まで普通の人間として生きてきたのは、きっとそういう人間を愛してやれる度量の人間がそばにいたからだ。
きっと、自分はそれにはなれない。
「勇者くん」
「なんだい」
「今言う事じゃないかもしれないんだけど、魔族に囲まれてた時、実は怖かったんだ。殺されるかもしれないって思っちゃうくらいにね。でも、君が来た時、安心したんだよ……なんでか分かるかい」
「知らないさ」
「きっと、僕の視界に君がいたからだ。……君のその執着は正直すっごく怖いけど、それと同時にとっても頼もしいんだよね。だから、無茶しないでほしいんだ。君が死んだら多分とても悲しいんだ」




