エピソード12 執着
あれ、おかしいな。
こいつなんかおかしいな。
魔王軍は、というより魔王は主に焦っていた。
というより困惑の極みにいた。
シーベンスを襲ってから一週間が経った。
戦力をだいぶ失い魔族は急遽大量生産中だから、戦力補充が終わるまでは魔王軍も暇になる。だから、勇者について考える。
やっぱりこいつ、なんかおかしいな、と。
勇者の様子を知らせに来た魔族の一人が「完全回復」と告げた時、魔王カプ・ジュラルはぎょっとした。
現代の勇者レイル・カハナヌイは二千年前に自身を封印した勇者ミノアカ・カハナヌイの子孫である。
だから現代人が〈勇者力〉と呼んでいるそれを引き継いでいるのは納得できる。しかし、それ以外がおかしい。
あの素の身体能力はいったいなんなんだ? あの生命力はいったいなんなんだ? あれは〈勇者力〉に起因するものではない。〈勇者力〉が効果をあらわすのは能力発動してからで、平時にそれが力を示すことなどはありえない。あれはいったいなぁに?
あんな人間は二千年前にもいなかった。
ミノアカ・カハナヌイもあんな無敵超人じゃなかった。
心臓を貫かれたら流石に死ぬだろうし、垂直跳びも良くて三メートルだし。だから本当に恐ろしくてたまらなかった。
あんな化け物ははやく殺したほうがいいに決まっている。
しかし、賢者が邪魔をした。
賢者クレエル・エスペラルも奴は奴で強すぎる。齢十のうちに科学的功労賞を受賞し、かつ魔法的功労賞も受賞。十二歳になった頃に無詠唱魔法を人類に適応させ、人類の魔法を大幅に進歩させた。
そして現在ではレイル・カハナヌイと共に旅の中。
はっきり言って異常である。
あの二人が魔王軍の敵対者になった以上、希望はあまりない。
こんな時代に蘇らなければよかった──とさえ思えてしまう。
しかし、やらなくてはならない。
カプ・ジュラルは震える手を押さえた。
やらなくてはならない。なにがなんでもやり遂げなくてはならない。
野望というより「異常執着」といったほうがいい感情。
この世界にそれを形作るものがあるとするならば、〈異嚇〉と呼ばれているそれである。〈異嚇〉は魔力およびそれに類似した超常的なエネルギーを持つ生物に起こりうる「究極への進化」である。何かに対しとことん執着し、負の感情を募らせた者がいたる戦場の極致。
カプ・ジュラルはそれに至ろうとしている。
そうでなければレイル・カハナヌイは殺せない。
そうでなければ、「夢の果て」にはいけない。そうでなければ、どうしてこんな命があるのかさえも分かりやしない。
もっと強くなって、もっと賢くなって、魔族を強化し、世界を蹂躙し、そして誰よりも強者であることを世界に見せつける。頂点に立ち、そして、二千年前の自分にできなかったことをやり遂げる。
それがカプ・ジュラルの目的だった。




