エピソード10 開戦
シーベンスに帰る道中、魔族の襲来で崩れた花畑があるのを見た。
レイルはどうにかして直してやりたかったが、自分にはそんな能力がないから見て見ぬふりをするしかないように思えた。
目を背けようとする。しかし、踵を返し切る前に、クレイルが動いた。花を再生させる魔法で花畑が綺麗に蘇ったのだ。
レイルはそれを見て思わず「わぁ」と声を漏らした。
「ありがとう、賢者様」
「…………うん。……ねぇ、君がこうしたほうがいいと思うことは、たぶん大抵そうなんだろうと思う。君は、とてもやさきい人間なんだろうと思うよ。勇者くん」
「……うん?」
「もし、例えば……君がもし……魔王を討ち滅ぼしたあと、世界に平和が訪れたとして、君はその時なにをするつもりなの?」
レイルはクレイルの質問に答えられなかった。
「そんな事は何もわかりはしないよ。賢者様……『魔王討伐の後の話』なんてのはさ……俺にとって、そんな物はないに等しいんだ。勇者だって言われたあの時から、俺に明日はもうないんだ。ただ偶然、ほんの少しだけ生き長らえているだけで、自分の為だけに使う命なんて無いんだ。それは、明日なんて無いことの証明で……」
「酷い言葉だ、それ」
「賢者様」
ツバキに黒い蝶が降りていく。
「俺を想わないでくれ。君の明日に俺はいないんだ」
「酷い言葉だ、それは」
「兄弟や友じゃあるまいし」
シーベンスに到着してそれから一週間、鍛錬を続けながら剣の完成を待った。そうしていると、鍛錬も訓練もいらない身のクレイルは暇になってくるから街をぶらぶらと散歩する。
「あっ、賢者様! いたいた丁度良いところに」
「僕になにか用かい?」
郵便屋が二つ手紙を渡した。
「デパリア村のシン・U・リーという人から手紙です。一つは勇者に、そしてそれは貴方にです」
「それぞれに?」
「はい」
「どうもありがとう」
公園のベンチに腰を下ろして、自分宛てのものを読んでみる。どうやらそれは「レイル・カハナヌイという男について」であった。要約すると、「あいつはとんでもなく面倒臭いし、ありえないくらい難しいと思うけど、誰よりも優しい良いやつだからどうか嫌いにならないでね」という内容。
「知ってるよ、そんなの……」
ふぅとため息をつく。
次の瞬間、空から超大型のドラゴンが落下してきた。
〇・二秒の放心。
それからすぐに杖を構えて防御結界を構築した。
しかし、耐えられない。クレイルは思わず「勇者くん」と叫んだ。叫ばずとも気づいている。レイルは空中に飛び上がり、超大型のドラゴンに蹴りを食らわせていた。
防御結界が一瞬ほころぶその隙に魔族が大量に攻めてきた。
どうやら魔王軍はまだ勇者レイル・カハナヌイが完全体になりきっていない今のうちに数で攻めて彼を殺すつもりらしい。
そして、あわよくば勇者の剣を破壊する。




