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※少し卑猥です。

 尊はひどい自責の念を抱えながら、しかし庄司の匂いがついた自分にどこか満足した。甘い匂いが思い出のように消えることなく、確実に記憶として残しておきたかった。

 結局公衆トイレでの顛末を庄司に打ち明けることもなく、玄関で抱き合ってから部屋にも入らずにとんぼ返りとなった。玄関の扉を閉めるとき、庄司は悲しそうな顔だったような気がした。目は合わなかった。尊は頭の中で、やはりバレているんじゃないだろうか、バレているなら嘘をつかなくてもよかった、そもそも冗談に昇華してくれようと庄司はああ言ったのに、なんて俺は、なんて俺は。とそれが脳みそをヌメヌメと這って、どうしようもない心持になった。歩道の真ん中で立ち止まって、まだ引き返せる距離であることを重々承知のうえで、尊はまだ前に歩き始めるのだった。

 しかしその足取りは次第に重くもなっていった。息が荒くなり、体中が熱くなってしまい、とうとう尊は日陰に座り込んでしまった。いつしか尊は、発熱のような状態になった。手の甲をおでこにあてて、体温が上がっているのを感じる。たぶん、陽炎でも出てるんじゃないかと思うほどに熱くなっていた。頭がぼやぼやと何も考えられず、頭部が内側からはち切れそうな息苦しさに、それに抗うように尊はスマホを取り出した。果たして、庄司は助けに来てくれるだろうか。自分で一発して、嘘をついて帰っていった友人のことなど、もう見限っているのではないだろうか。庄司も庄司で困惑からは抜けられていないし、今他人の心配をする暇なんてないはずだ。だったら、見限るなら、未読無視でも既読無視でもいい。何かふんぎりを付けてくれ、と尊はなんとも自分勝手なことを考え始めたのだ。しかし発熱と自責に取り込まれた尊は、それでもあの女に支配されていた。やはり庄司のことを思い浮かべてはチラチラと服の隙間から見えるあの白い肌を、記憶という美化フィルターに通して思い出しては体の体温を上げるのであった。



 庄司に助けのメールが届いたのは、玄関で抱き合って、尊が帰っていったおよそ三十分後のことだった。

『なんか熱っぽい』

『歩けん』

 庄司はそのメールが来るまでの三十分のことをうまいこと言葉にできなかった。庄司としては、尊が写真を何に使うかなど分かりきっており、それを冗談で済ましたかった。それは尊のためでもあるが、自分がそのように思われて少し喜んでいるというこの感情を押し殺すためでもあった。尊は男で、もう自分は女であることを庄司はよくやく受け入れた。もはや男心も分からなくなってしまった。男だったころ、そういうことをしたことって、冗談になったのか。女を目の前に興奮して、発散することは男にとって隠したいことだったのか。

 庄司は忘れてしまった。だから思い出すことにした。

 尊と同じことをしようと考えた。

 そこからの三十分だから、言葉にできなかったのだ。それは試行錯誤、初めてそこに感じる不思議な肉感に庄司は楽しさを覚えた。女の体の不思議さに心底驚いたのだ。こんなに生生しく体の内部が、裂くように存在しているのに、そこをいじっても痛いどころか快感に置き換わるというのだから不思議だった。ただ庄司にとってはまだ快感になることはなく、しかしあることをすれば快感に置き換わることを発見した。

 庄司は太陽を思い浮かべた。あの北の凍てつく空に浮かぶような、太陽にように猛々しいあの顔を。尊の顔を思い浮かべたのだった。

 その瞬間、体が跳ねた。庄司は手を離した。食道のほうから快感と言う名の声があがりそうになり、その押し殺す声も色っぽいことが、庄司の耳に入ってくる。もう一度、もう一度やってみようとする。あの玄関で抱き合ったときのことを思い出す。汗臭い尊の匂い、大きな背中、尊の声、服、心臓の鼓動。そして尊が隠したこと。

 脳が指令を出さずとも、背中がのけ反って、その反動で庄司のくびれが震える。自分で自分の腹部を見ていると。腸が囲まれている骨の部分が浮き彫りになり、へその緒が生き物のように流動し、庄司はまた指の動きを速めた。

 目と鼻の間から、脳天から何かが突き出そうで、首をぐいっとエビ反りさせる。爆発のようななにかが近づいてきている。背中がブリッジの限界を越えそうになった時。

 尊からのメールが届いたのであった。それと同時に、庄司は召された。

 穴という穴から液体と快感と、快楽とプライドが流れている。庄司はハアハアと息を荒くして、甘臭い汗を流した。

 ……庄司は、これで、尊に打ち明ければいいと思った。そして、女の体であることを、ここで初めて嬉しく感じた。


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