茶会の招待状
数日が過ぎた。
アカは特注した新しい騎士剣の試作品を受け取り、その切れ味に満足そうな笑みを浮かべていた。ヨルは、サクとの地獄の特訓を続け、意識を失うことなく「法則の視界」を維持できる時間が、数秒ずつ、だが着実に伸びていた。
それは、嵐の前の、束の間の平穏だった。
ある日の午後、彼らの部屋のドアの下から、一通の封筒が滑り込まれた。
それは、選手村の無機質な雰囲気には全くそぐわない、上質な和紙でできた、格式高い封筒だった。
「なんだ、これ?」
アカが訝しげにそれを拾い上げる。封には、見覚えのある、竹の葉を模した家紋が刻まれていた。
中に入っていたのは、一枚の、簡潔な文面が美しい筆文字で書かれた招待状だった。
『一対一での、お話がしたく存じます。
明日正午、中央区画・茶室『静心庵』にてお待ちしております。
風見 蓮』
「……はっ、罠に決まってるでしょ、こんなの!」
アカは招待状を叩きつけるように机に置いた。「一対一ですって? あんたを一人で行かせるわけないじゃない!」
彼女の反対は、予想以上に激しかった。
サクも、通信で「不要なリスクだ」と告げてきた。
誰もが、反対だった。
だが、ヨルの心は、決まっていた。
「……行くよ」
「ヨル!?」
「彼は、イザヨイのことを知ってる」ヨルは、アカの目を真っ直ぐに見つめ返した。「俺たちは、何も知らないままだ。このままじゃ、ただ来る敵を待って、殴り返すだけだ。それじゃダメなんだ」
彼の声には、以前にはなかった、自らの運命に立ち向かうという、強い意志が宿っていた。
「俺は、知らなきゃいけない。俺に何が起こったのか。そして、これから何をすべきなのかを。そのための唯一の手がかりが、彼なんだ」
アカは、ヨルのその瞳を見て、何も言えなくなった。
目の前の少年は、もはや、ただ守られるだけの、か弱い存在ではなかった。
彼女は、大きなため息を一つついて、そして、不敵に笑った。
「……分かったわよ。ただし、あたしも行く。あいつが変な真似をしたら、茶室ごと叩き斬ってやるから」
翌日、正午。
選手村の中央に位置する『静心庵』は、ここが死と隣り合わせの戦場であることを忘れさせるほど、静謐な空気に満ちていた。ここでは、いかなる戦闘行為も固く禁じられている。
ヨルとアカが通された個室には、既に、蓮と小雪の二人が静かに座っていた。
「……よく来ましたね」
蓮は、ヨルだけを見つめていた。「単刀直入に言いましょう。私は、あなたに取引を持ちかけに来ました」
蓮は、茶を一口すすると、その氷のような瞳で、ヨルの心の奥底を射抜くように、言った。
「私が持つ、イザヨイと、彼女が所属する組織<クラブ>に関する全ての情報を、あなたに提供します」
「その代わり……我々が彼女を見つけ出した時、あなたのその力で、確実に、あの女を殺しなさい」




