Three-way battle(スリー ウェイ バトル)
ごめん。ちょっと遅くなりました。そうめんおいしいですね。この頃は、一週間に二回はそうめんが出てきます。いつまでも食べられる気がします。ベラウィズの世界にも、そうめんみたいなのはあるんでしょうか…?
「ちょっと遅かったか…」
龍王を瘴気から解放して、おそらく五分程度。全力で飛ばして、リリスたちから情報があった場所に向かったけど…もうそこはすでに、ゼルガたち率いる勇者+テクノマギア兵、レイダ率いる魔王軍、そして、僕が足止め命令を出していたリリスとセレナ、それに、援軍に駆け付けてくれたエリシアとネフィラの三つ巴の戦いが繰り広げられていた。
「マチアスも早く来てね!私は先に、ゼルガたちのほう行ってるから!」
「……」
「マチアス?」
「……いや、何でもないよ。ハナは先行ってて!」
『ネフィラ、状況は?』
『以前、芳しいとは言えませんね。途中までは私たちで足止めしていたのですが、思ったよりも抵抗してきたのと、魔王軍の進行が早く……』
『そっか…』
『そのうえ、ゼルガとレイダ殿が一騎打ちまでしはじめまして…』
『な…っ!』
戦場をよく見れば、レイダの出す赤、黒、紫の竜巻と、ゼルガの放つ深紅の炎が激突している。どうやら、簡単にはすまなさそうだ。
『どうするかな…』
「どうしたぁ?元勇者様よぉ。魔物暮らしで体鈍ったかぁ⁉」
「……」
「さっさと沈んじまえよ!《焔怒輪廻》」
そういってゼルガが繰り出すのは、その身の丈の十倍はあろうかという炎の剣。あれを振り下ろされれば、大地はたちまち荒野と化すだろう。
が、その予想は残念ながら外れ、レイダはその大剣を、いとも簡単に受け止めてみせる。
『今のうちにアビスキュラは下がれ。これ以上の深追いは危険だ。』
『『『『は。』』』』
「ゼルガ殿!アビスキュラどもが引いていきます!」
「今はいい!さっさとこっちつぶすぞ!」
「《光芒乱舞》」
「くそが!」
「《光芒乱舞》《背信剣舞》《滅裂蛇咬》」
「くそ、くそくそくそ!魔物はさっさと沈めろやぁ!!!!!!」
「ゼルガ様!」
「そこどけや!!じゃねえと踏みつぶすぞ!!!!」
『全アビスキュラに次ぐ。僕の周辺で待機。一応コウモリになっといて。危ないから。』
『マチアス様。あれは…?』
『見てたらわかるよ。』
「怒りは快楽……怒りは祝福……」
「……」
「我は人に非ず、理に非ず ただ破壊望む化身なり
この世のすべての生き物よ この世のすべての感情よ 我が怒りの前にひれ伏すがいい!」
「……」
「《獣化開放》!!!!!」
『レイジ……?』
『獣化開放。「憤怒の勇者」ゼルガだけが使える技。その憤怒に体をゆだね、本能のままに暴れ狂う。』
『そこまで強いようには思えませんが……』
『今からだよ。みてな。』
「憤怒の勇者」ゼルガ・レッドヴェインは、醜悪な姿へと変貌を遂げていた。体からは瘴気にも見たどす黒いモノがあふれ、二の腕は巨大化。掌が大きくなり、長大なかぎづめが見える。一見オオカミのように見える顔も、よく見れば、ライオンやオオカミをはじめとして、様々な動物が融合したものに。体は鱗や毛が乱雑に生え、後ろ脚に至っては、爪の生える位置さえランダムだ。
「絶対しばく。」
そういうと、ゼルガは縦横無尽に動き回る。例えではない。本当に縦横無尽なのだ。空を飛び、土に潜り、空気を裂く。
そう。《獣化開放》の本当の恐ろしさ。それは、あまりの怒りゆえ、時間以外の数多の物理法則を、すべて無視することができることにある。
「さっさと反撃して来いヤァ!!」
「…《光芒乱舞》」
「んな弾当たるかよ!」
そういい、ゼルガはレイダの鎧に確実に傷をつけていく。が、それはレイダも同じこと。どちらの体にも、無数の切り傷だったり、やけどだったりがついていく。
「《滅裂蛇咬》」
レイダが振り下ろす剣と、ゼルガが振り上げる爪が鈍い音を立てる。
何回も、何回も、何回も、剣と爪が打ち合う。
「《恐魂輪哭》!!!!!」
「《断皮魔奏》!!」
激しく響く方向と、同じく心を破壊する斬撃。
周りにいる兵たちは、そのあまりの衝撃に耳をふさぎ、中にはもうすでに壊れかけている者もいる。
「さっさと死ねや!裏切り者がぁ!!!!!お前みたいな野郎は、正義の名のもとにしずみゃいいんだよ!」
「………………るな。」
「あぁ?」
「……語るな。」
「声が小さくて聞こえねぇぞぉ?」
「貴様らのような…富をむさぼり…私欲を肥やし…その下の人間を人間とも思わないようなものが……!」
「聞こえねぇっつてんだろ!」
「正義を語るな!!痴れ者が!!!!!!《滅裂魔奏》!!!!!!!!!!!!」
「そこまでだ。双方、動きを止めよ。」
その声とともに、魔物と人間の兵全員の首に、剣のようなものが突き立てられる。それは、ゼルガとレイダも、例外ではない。
「てめぇ…!」
「……アビスキュラか。」
「お初にお目にかかる。「憤怒の勇者」ゼルガ・レッドヴェイン。「元勇者」レイダ・A・デクリファー。」
「気取った挨拶してんじゃねえ。さっさとこの剣どけやがれ!!」
そうゼルガが叫ぶと同時、その首に突き立てられていた剣が、少し深く、首に切り込む。
「っ…!」
「だから言っただろ?動くなって。リリスも。もう少し待ってあげてもいいだろ?」
「警告を無視する者に、待ったも何もないでしょう?」
「そういうことを言わない。わかった?リリス。」
「…はい。」
「よし。イイ子イイ子。」
「てめぇら、何が目的だ?」
「いっただろう?攻撃の停止だよ。ここを荒野にされたら、俺たちも困るんだ。」
「どの魔王にも属さないアビスキュラが、か?」
「ああ。そうだよ。」
「……それで、」
「どうした?レ……元勇者殿。」
「それに答えたとして、それでわれらに利はあるのかと聞いている。」
「さあ、それはこれからの行動次第で変わるから、どうとも言えないな。まあ、言ったとおりにしてくれるのなら、こちらから手は出さないよ。」
「あっそ……それなら、こっちにてぇだしてもいいっつぅことだよなぁ?」
そういうと同時、ゼルガは納めていた剣を抜き、レイダに斬りかかる。そして、次の瞬間…
「……!」
ゼルガの喉元は、いつの間にか現れたイヴの持つ茨に突き通されていた。
「がっ……」
「これ以上、主様の手を煩わせないでください。」
「イヴ。」
「はい、主様。」
「何してんの?」
「……!も…申し訳…………ございません……」
「はぁ。もう少し、駒に対しての扱いを学んでほしいよ。まだつぶさなくてよかっただろう?まあ、つぶしちゃったものはしょうがないけど。」
「……駒?」
「そう、駒。割と使いやすかったんだけどね。もう死んじゃったけど。」
「お前は、人間を駒として扱うのか…」
「……」
「……罪のない民たちもか?」
そういってレイダは、静かに、専用の剣「ドーンブリンガー」を鞘から引き抜く。
「……」
「どうなんだ?」
「……そんなこと、するわけもないだろう?僕が駒として扱うのは、あくまで幹部の人間。何も情報を持っていない民たちを駒にするほど、僕は暇じゃないよ。まあ、こっちを傷つけない限りは、襲うこともないだろうけど。」
「……そうか…………倒そうとはしないのか?」
「今の戦力差では勝てそうにないからね。いったんお預けだよ。」
「そうか。………この借りは、どこかで返すぞ。」
「果たして、それはどっちの意味の借りなのか。」
「さあな。魔物の兵に次ぐ。ここを襲う理由がなくなった。被害を最小限に抑えて撤退するぞ。」
「マチ…主様。」
「どうしたの?イヴ。」
「先ほどは、申し訳ございませんでした。」
「フッ……フフフフフっ。イヴ、もしかして僕が本気で怒っているとでも思った?」
「なっ…」
「あれぐらいで起こるわけもないだろう?何なら感謝したいぐらいさ。ありがとう。」
「でもそれなら、なぜあのようなことを。」
「あそこで下手にイヴを許して、向こうが「こいつらなら付け込めるかも」なんて思い込みでもしたら大変でしょう?こういう態度をとってるおかげで、今のところ、どこの魔王軍にも吸収されてないんだよ。」
「なるほど。」
「じゃ、いったん帰ろうか……いったん、ね。」
というわけでどうでしたか?またボリューミーです。すいません。
というわけで、今回紹介するアビスキュラは、前回のネフィラと同じく、ep.9に出てきた3人目のアビスキュラ、カーミラです。
本名はカーミラ・デモリス。
元鬼族でオラオラ系。好きな四文字熟語は「先手必勝」という徹底ぶり。
里を人間たちに襲われ、最後の一人になったときにマチアスが駆け付け救助されました。それからは特攻隊長として、常に先陣を切りつづけています。血の匂いに興奮する節ありという、なかなかな問題児です。
基本的には、のちに紹介するルクレツィアと一緒に暴れまくっています。
アビスキュラが全員紹介できたときには、アビスキュラのみんなについてもう少し詳しくまとめた話(半分図鑑みたいになるかも)を出す予定ですので、楽しみにしておいてください!そこでしか聞けない面白情報もあるかも…?
カーミラのイラストも載せておきますね。
カーミラ・デモリス