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脊の低い【魔】

南風(みなみ)吹く春の嵐となりにけり 涙次〉



【ⅰ】


 大輪の花に育つた坂崎玖紀子。彼女の名は父親が付けた。

 花ばかりではなく、根も、葉も、茎も、植物の大事な器官である。それを忘れてしまはぬやうに、である。

 だが彼女はそれを忘れた。今では女優・モデルとして、周囲にちやほやされる每日である。

 彼女は脊が髙かつた。176cmある。

 自分より脊の低い男には、洟も引つかけなかつた。

【魔】に拐帯されさうになり、カンテラに救はれた譯だが、「カンテラ、アンドロイドなのに何故脊丈を考慮して造られなかつたのだらう。逞しい、いゝ男なのに、それだけが殘念だわ」などゝ、いゝ氣なものである。因みにカンテラの脊は、公稱5尺4寸である。別に低い、と云ふ譯ではない。

 女性のバストサイズに相当するのが、男性なら身長だらうと云つたのは、漫画家の奥浩哉氏だつたか。



【ⅱ】


 彼女には攫はれさうになつた時の「小者」の【魔】、の他に、或る【魔】が憑り付いてゐた。知つてか知らずか、その事は何も身に災ひを齎さなかつたので、放つて置いた。


 その【魔】には特に名がなかつた。云へるのは、三人でいつも一緒に行動してゐる事、そして彼らは皆顔がそつくりであり、揃つて脊が低く(150cmぐらゐか)がに股だと云ふ事か。假に「三匹【魔】」として置く。


 彼らを産んだのは、玖紀子の髙慢と偏見にあつた。謂はゞ、脊の低い、彼女に嘲笑された男たちの怨念が産んだ【魔】なのである。それをルシフェルが利用して、「使ひ魔」として彼女を誘拐しやうと企んだ。



【ⅲ】


 じろさんが、事後の暫くは、彼女の警護に当たつてゐた。彼女は「何かしら、このをぢさん。身長162cmと云つたところ。悦美さん(モデルの仕事で一緒に働いた經緯あり)もよく我慢してるわね。カンテラ事務所はチビの掃き溜めだわ」と思ひ、その取り付くシマもなさに、じろさんは警護を已めた。

 

 それ程迄に、彼女の差別心は酷かつたのである。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈脊の丈を何と云はれて尻込むか男だつたら腹で勝負よ 平手みき〉



【ⅳ】


 まあ、自業自得とは云へ、彼女は「三匹【魔】」の存在に脅かされてゐたのだが、敢へてそれは無視した。身長150cmでは、彼女の目に入らぬも同然だつたのである。おまけに、あのがに股。醜いつたらありやしない。彼女は憑依した【魔】にも、美、と云ふ物を要求した。



【ⅴ】


 その彼女が、カンテラ一味にSOSを送つてきた。「三匹【魔】」が、彼女の身を拉致、魔界へ連れてゆく、と彼女に吹き込んだらしい。


 事務所經由で、またカネが支払はれた。さうなると、動きたくなくても動かねばならないのが、一味の辛さである。カンテラは、彼女の自尊心の塊、うず髙い事、よく知つてゐた。「仕方ないな」と、カンテラ・じろさんは(わざと)のろくさと事を起こした。要は、ルシフェルの許にでもなんでも、行つてしまへ、あんな女、と云ふココロである。


 結果、彼女は見事今ではルシフェルの「祭壇」を務めてゐる。カンテラは「万事遅過ぎました。彼女は身に迫る危険を察知してゐたにも関はらず、その事を周りに漏らさなかつた。いやあ、ご愁傷、もとゐ殘念です」

 勿論依頼料は返さない。何もかもが、遅過ぎた。そして、人には余り嫌はれぬのが、美女の間の取り決めだと云ふ事を、言外にカンテラたちは語つた譯だ。



【ⅵ】


 美女界にも色々なキャラクターの持ち主が、ゐる。人知れず【魔】を始末する稼業- カンテラ・じろさんはお義理に「三匹【魔】」だけは片付けて置いた、と云ふ事だ。



【ⅶ】


 因みに、私(作者)の身長は173cm。私の年代からすると、低い方ではないが、脊の事である女性に交際を断られた經驗がある。報ひは受けて貰ひたい、と思い、この挿話を書いてみた。私憤、である。物語作者なんて、みんなそんなもんである。お仕舞ひ。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈畑打つ葉物の育つ土壌かな 涙次〉


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