3-②.知らぬが仏
赤塚と黄田は互いの顔を見つめ合い、黄田がはぁとため息をついてこれまでの経緯を語った。部外者に話してもいいのかと疑問に思ったが、本人いわく秘密保持義務に値しないとかなんとか。
一週間の間に起きたとは思えないほどの濃密な話を聞き、腕を組みうーんと唸る。
「じゃあ今の赤塚くんには教師が必要だね!」
「えっ、いや確かに必要ですけど、後々教会から来ますし――」
「いや俺大学出たら教会のエジュスケール勤務希望だから! な!」
怪我させてしまったこともあり、黄田の制止はあまり力が入っていないように見える。
そのまま彼を振り切り、ずいっと赤塚に近づいて一つ。
「君はその力を以て何をしたい?」
何を聞かれるかと思いきや、こんな簡単な質問とは拍子抜けだ。
持て余すほどの強大な力があるのなら、それを有効活用できることなんてこれしか無いだろう。
「人を助ける! 誰かの役に立つ!」
フッと赤子を見るような目で微笑むと、指先から火花を生み出した。
指と手を少し動かすと、火花が集まり一つの線となり次々と絵を作り出す。
「能力で人助けをするってだけでも沢山の仕事があるからね。警察官、消防士はもちろん、俺が聖教会に所属しようと思っているように、連盟とかの組織に所属してもいい。直接働きかけるのもあれば、縁の下の力持ちとなって人々を支える仕事もある。赤塚は高校生、しかも高一だ。将来の道を決めるのに時間は有り余っている……何か若干恥ずいかもしれないこと言ったけど、ちょっとまあ、能力についてあまりにも無知なその状態だと能力関連の仕事に就くのは難しいっていうかね……」
「レゼットを使う仕事は山ほどあるけど、今のお前じゃどれも到底無理だから勉強しろって言われてるぞ」
話し続けるにつれて声が消えていき、最終的には気まずそうに黙ってしまった土生の心境を察してか、はたまた頭の上に疑問符を浮かべる赤塚を見てか黄田がそう付け加える。
そうしてまた怒った赤塚と、二人をなだめる土生の姿を感情の無いカメラは捉えていた。
*
天井にはきらきらと反射するシャンデリアがぶら下がっている。
中央に置かれた重厚感のある樫のテーブル、細かく模様が掘り込まれた椅子にシンプルながらもどこか高貴さを感じさせる鳶色の壁紙。
部屋に置かれた全てがきらびやかで庶民には眩しいものであったが、等間隔に鎮座したいかにもな老人たちの顔は険しいものであった。
「エンベル、なぜ貴様が我々の会議に呼ばれたかわかるか?」
深くしわが刻まれた老人たちの中で異彩を放つ、青年はそう問われてもなお頬杖をつき船を漕いでいた。
シーソーのようにギッコンバッタン揺れる首はピタッと止まったかと思えばまた揺れるのだ。
「エンベル! ゴーヴィ・エンベル! 聞いているのか!」
いくらサボりの達人であっても叩き起こされてしまえば眠気は飛んでしまうものだ。
一つ大きなあくびをすると、首を鳴らして椅子にふんぞりかえる。
どこからか歯軋りや舌打ちが聞こえたような気がするが、こんな態度で対応されれば苛立ってしまうのも仕様がない気もする。
「すみません、寝てました。最初から言っていただいてもよろしいですか?」
「とぼけおって……貴様の小隊の隊員、黄田飛耀のことに決まっているだろう!」
手を顎に当て、考える仕草をした後に「さあ?」とでも言いそうなジェスチャーを見せる。
「何がいけないんですか? 奴と仲良しこよししていた方が後々有利になるでしょう?」
並んだ老人たちのしわと怒りは溜まっていくことを知らずか、意図してかエンベルと呼ばれた青年は大きくため息をつきながら常識を話すように淡々と告げた。
「奴と交友関係を持ったあげく、部外者の侵入を許してしまっているんだぞ! 私達と同じ大主教の立場でなければ、お前のような若造ごときすぐに――」
「あなた方の護衛を主にしているのは誰だと思ってるんですか。俺たち『七段の城壁』と、俺が隊長やってる聖教会本部レゼットタンカー第五隊の奴らですよ? 偉大な大主教様方くらい、俺らは座ったまま殺すことが可能なんです」
おもむろにペットボトルを取り出し、カチッと封が開く音がするのと同時か、それより早いか。
気が飛んでしまいそうなほどの突風が部屋に突き抜ける。
ただただ風が吹かせているだけではなく、舞い上がった書類などを的確に当ててくる。死に至ることは無いといえど、痛覚はしっかりと働いてしまうのだ。
机にしがみつき飛ばないようにするので精一杯の人間もいる中で、この猛烈な風を何の予兆も見せずに生み出したエンベル自身は呑気に水を飲んでいる。
「そんなに飛耀のことが不満なら、上司の俺が行ってもいいですけど。まあ、本当に赤塚賢斗の監視役を変えたいのならまた呼んでください。やるかどうかは別ですが」
彼が椅子から立ち上がった途端、今までの突風が嘘だったように静寂が部屋を包む。
また攻撃されるのを恐れた彼らは、無言で去っていくエンベルの背中を恨みを込めて睨みつける他なかった。
七段の城壁……それは聖教会の最後の切り札であり、最強の戦闘部隊。
名前の通り七名しかいない部隊だが、その戦闘力はたった一人でさえも国を転覆させることが理論上可能とされている。
赤塚も、土生も、黄田でさえもまだ知らない。
こうして聖教会に目をつけられ、あろうことか七段の城壁に気づかれることがどんなに不幸なことであるか。
どんどん絆を深める彼らが引き剥がされるのはそう遠い話ではないのだ。
次回投稿は明後日12月21日です。




