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9-②.座学と実技

「じゃ、次のレゼット実技はいつもの地下ねー」

 チャイムが鳴ったと同時か、はたまたそれよりも早く立ち上がりそう言い残して扉を閉めていった。実技ということは、また体操服に着替えるのか。一時間目が体育だったというのに、一旦座学を挟んでまた着替えるのは二度手間じゃないか。面倒だと思いつつ、誰かに体操服を貸してもらおうとしたものの、クラスを見渡すと誰一人として動くそぶりがない。男子はともかく、女子も動かないとはどういうことか。着替える時間は大丈夫なのか?

 それはともかく、気は進まないが、仕方が無いことなんだと自分に言い聞かせ、前後で楽しげに話している岩下と星岡に声をかける。

「あのさ、体操着貸してくれない?」

 顔をこちらに向けた二人は頭上に疑問符を浮かべている。何かまずいことでも言ってしまったのだろうか。もしや、転校生に貸すものは無いということか……?

「何で? 次要らないでしょ」

 当たり前だと言うように、そう淡々と岩下が返す。もう一方の彼は一瞬視線だけをちらと向けた後、体をこちらに向きなおった。

「ああそっか、確かにそう思うよね。レゼット実技は体操着は要らないんだよ」

 へえ、そうなんだと相槌を打つと、星岡は立ち上がり一緒に行こうかと言った。感謝しながら廊下に出て、突き当たりのエレベーターに向かって歩きだす。この学校はどうだとか、中学校はどこだったなんて他愛もない話をしていると、この煌高校の、特別クラスの、生徒。という凄い人の代名詞のような仰々しい肩書きがあっても、たまたま秀でたものを持っていただけの同じ高校生なんだなと、理屈では分かっていたことを改めて強く感じ、ようやく肩の力が抜けたような気がする。

「学生証は?」

 岩下に声をかけられハッと前を見ると、もう既にエレベーターの前に立っていた。慌てて全身のポケットをひっくり返し、学ランの胸ポケットから目当てものを取り出す。一般的な硬質カードに印刷された自分は緊張からか肩は平行になり広角は不自然に下がっている。

 入学前、セキュリティの観点から何やらで証明書用の写真を求められたのはこのためだったのかと考えながら、読み込み機にかざす。


 数秒後、チンと小気味よい音と共に扉が左右に吸い込まれてゆく。乗り込みまた数秒経つと少しの浮遊感と共に地下一階が姿を表す。コンクリートに囲まれたその場所は入学時に連れて来られた、能力の強さを測定するあの部屋を彷彿とさせるが、ここはあの部屋よりも何倍も広い。自分の中学校の体育館よりも一回り、いや二回りほどは大きく見える。

 向こうにはパイプ椅子に座って紫煙を燻らせるアップ先生がいる。岩下と星岡は「また吸ってる〜」と笑ったが、仮にも勤務中の教師が喫煙してもいいのか? いやしかし、特別クラスが普通であったことなど指折り数えるほどしかないし、良いのだろう。……良いのだろうか。

「あーあ、体育じゃなくてこっちで力出せば良かった」

 盛大なため息をつき、こちらに向かってくる人がいる。女子二人の声ではないし、もしや。

「あれ、青木……くん」

「くん付けなんて止めてよ、気軽に青木って呼んで」

 後ろには予想通り、一時間目の終了後から保健室に行っていた青木緑(あおきみどり)が立っていた。腕を組み、お手本のような人当たりの良い笑みを浮かべてはいる様を見ると何とも無いように思えるが、鼻に付けられたガーゼを見ると申し訳ない気持ちが湧き上がってくる。

「じゃあ……青木、一時間目に怪我させちゃって本当に――」

「大丈夫! 大丈夫だって! あんなのかすり傷!」

 改めて謝罪しようとしたところを青木本人に遮られる。ふと、二時間目が始まる前に岩下が言っていた「あの程度『かすり傷だ』って言って帰ってくるはず」――そんなことを思い出す。何だ、本当に言うのか。自分でもよく分からないが、そう思った途端に申し訳なさは消えて、みんなと仲良くなってみたいという気持ちが強まったのだった。

 それからすぐに陣内と大内もやってきて、予鈴の音が鳴り響いた。

次回投稿日は未定ですが、年内に3話ほど投稿できればいいなと考えています。

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