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9-①.座学と実技

 やってしまった。

 事故とはいえ、登校初日から人を怪我させてしまった。

「そんな気にしなくていいじゃない。それに緑ちゃんならあの程度『かすり傷だ』って言って帰ってくるはずよ」

 机に突っ伏し、あからさまにズンと重い雰囲気をまとった赤塚に気を遣ってか、自称乙女こと岩下磊(いわもとらい)が彼の肩を叩く。

 赤塚以外の人間はもう既に一か月ほど過ごしているからそう楽観的にいられるのだろうが、今日が初めましての自分にとっては本当に辛い。

「そうだよ! 青木ってなんか昔から鍛えてるらしいし、それにいつも手加減してないんじゃないの? って玉ばっか飛ばしてたから清々した!」

 そこに大内柚姫(おおうちゆうき)も加わり、両肩をバシバシ叩かれる。最初は、ほぼ初対面なのにも関わらず慰めてくれる二人に嬉しく思っていたが、絶え間なく叩かれる肩が段々痛くなってきた。

 そろそろ叩くのを止めてほしかったものの、人の好意を無下にするのはどうかと考え黙っているところで二時間目の開始を告げるチャイムが鳴った。

「次の授業なに?」

「アップ先生の化学」

「アップ先生?」

 今がチャンスだと次は何かと聞く。が、さも当たり前かのように大内から飛び出した「アップ先生」の名前に疑問符が浮かんだ。

水谷(みずたに)先生のあだ名だよ。水谷昇(みずたにあがる)の昇から取って、アップ先生」

 頭の上に疑問符を飛ばす自身の様子を見てか、薄桃色のサイドテールの少女陣内愛(じんないみのり)がそう付け足す。

 先ほどのドッジボールでは印象は薄かったが、こう見ているとかなり大内に好かれているらしく、陣内がこちらに寄ってきた瞬間に大内は彼女の腕に張り付いている。大内は内部進学だと言っていたし、

「にしても、その……アップ先生遅くないか? 職員室に呼びに行かないとヤバくない?」

「えー? 呼ばなくても別に良くない? まあ、そもそも呼びに行けないんだけど」

 そう確認を取るように陣内を見つめる。良くはないけど……と付け足しつつもその通りだと相槌を打つ。

 そういえば、ここは階の移動は全てエレベーターで、降りる場所は自動的に設定されるんだったか。やっぱりここは普通とは違うんだなと、否が応でも思い知らされてしまう。


 そうこうしていると、ドアがスライドされて件の水谷先生――アップ先生が入ってきた。朝と同じく、手ぶらのままだ。

「お前ら座れー、今日は化学じゃなくてレゼット理論やるぞー」

 そう先生が言うと、大内がやったーと一際大きく喜ぶ。続けて、陣内が「どうして急に?」と聞く。

「今日は赤塚のために能力のアレコレを説明してやろうと思ってな」

「それってサボりじゃないですか?」

「バレた?」

 そう青木に指摘されバツの悪そうな顔をしつつも、教員用のキャスター椅子に座りチョークを手にし、黒板に大きく「資格」と書き、また椅子に座る。

 目を閉じ、息を吸ったかと思いきや、チョークが真っ直ぐ自分を指してきた。

「毎年勘違いする奴がいるんだけどな! 能力の使用には国家資格が必要なんだよ!」

 そんなの常識でしょう。そう出かけた言葉を飲み込みつつ、無言で先生を見つめ返す。じっとお互い見つめ合う状況が二、三秒続いたかと思えば、椅子を回しまた文字を書き出す。

「正式名称は特殊化学元素技能取扱者試験って言うんだが、そんなことはどうでもいい。甲種、乙種、丙種、があって、お前らは甲種を取らなきゃいけないから、乙種は全部取る、それだけ覚えときゃいい」

 黒板に書かれた、甲種→いちばん強い、乙種→必要、丙種→いらん、という、なんとまあ大雑把な説明を眺め、特段セットされていないカールした茶髪を揺らすように掻いてまた向き直った。

「って言うのも面白みが無いか。はい目があった星岡、甲から丙まで全部言えるよな」

 完全に最初に目が合った。が、さすがに転校初日で色々と聞くのは気が引けたのだろうか、隣に座っていた星岡晴爾(ほしおかせいじ)が餌食になる。

「えっと……丙種は医療行為、乙種の四から六は元素物質の取り扱いについてで、一から三は能力そのものの取り扱いですよね。甲種は、乙種を全部取らないと受けられない代わりに、取得したら能力を無制限に使えるっていう……」

 視線を泳がせながらも、すらすらと説明が出てくるあたり、普段から予習復習をしているんだろうなと勝手に確信する。今朝も助け舟を出してくれたし、少し気が弱いだけで良い人なんだろうな。

 先生は満足げに頷き「さすが〜」と軽く言うと教室を見渡す。また誰かが犠牲になるようだ。

 

「じゃあ、資格を取ること以外で気をつけなきゃ行けないこと、なーんだ、岩下!」

 アタシぃ!? と半分裏返った素っ頓狂な声でクラスが笑いに包まれる。目を閉じて、巻いた金髪を指でさらに巻きながら、先ほどとは打って変わってくぐもった小さな声で答えだす。

「使いすぎに気をつけるとか……?」

「んまあ大体そんな感じ。レゼットを使う時は基本体の中で生成される元素だけ使うんだけど、お前らレベルの力持ってるとさ、勝手に自然に漂ってる元素も使っちゃうのよ。三十年前の南イタリア沈没とか、自然に漂ってた元素が暴走して超デカい津波来て沈んだけどさ、その暴走の原因として近くに建ってた元素をバカスカ使ってた工場のせいで近隣の元素が不安定になった〜、ってのが定説だし。それに、空が今の色になった日、一瞬だけ世界中の元素が大暴走したみたいな噂もあるし……とにかく、環境保全のために乱用、ダメ絶対!」

 そう腕をバタバタさせながら説明を続けているが、能力に関する筆記試験が自己採点で三十点台だった自分と言えど、さすがに体内で生成される元素量に応じて三つにランク分けされているのは、最近教えてもらったから知っている。どんどん今日の昼ご飯の話やら、別の話題にシフトする先生を横目に、緑の空に浮かんだふわふわの綿雲を眺めていると、終わりを告げるチャイムが鳴っていた。

次回更新は11月29日を目指したいです。

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