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7-②.遅咲きの花

 まず目に入ったのは驚くほど広い教室。ただ、広いとは言っても面積が大きいというわけではなく、人が少なすぎてスペースが有り余っているといった方が正しいだろうか。

 席は縦二列、横三列という過疎っぷり。唯一の空席である一番右の二列目が考えるまでもなく自分の席なのだろう。

 五人のクラスメイトがこちらをじっと見つめる。こう、まじまじと見られると何かついているんじゃないかと心配になってくる。

「ということで、転入生の赤塚賢斗だ。みんな仲良くしてやれよー。赤塚、自己紹介」

 いざ自己紹介しろと言われると、何も思いつかない。趣味や出身地でも言えばいいんだろうか。

「えーと……赤塚賢斗です。趣味とかはあんまないですけど、スポーツは好きです。稲森中から来ました。よろしくお願いします」

 言い終わるとまばらに拍手があがる。元々の母数が少ないとはいえ、音が小さいとなんだか気恥ずかしい気持ちになってしまう。

「はいよろしくー。それじゃ、そこの空いてるとこ座っといて」

 熱くなってしまった耳をいじりながら着席する。ずっと肩にかけていた鞄を机の横にかけようと一旦鞄を下すと途端に肩が軽くなる。

 鞄の重さすらも気にならないほどに高揚していたのかと思うと、悪いことという訳でもないのにまた顔が火照ってしまう。

「赤塚の自己紹介も終わったことだし、お前らも順番に自己紹介してもらうぞ。まずは青木」

 青木と呼ばれた少年は、よく通るまっすぐな声ではいと返事をし勢いよく立ち上がる。

 一番左の最前列に座っていた、ウェリントンの黒縁眼鏡をかける彼は学校のパンフレットに載れそうなくらいキッカリ制服を着こなしている。ワックスでがっちり固められたセンター分けの前髪や溢れだす雰囲気は、まさしく真面目と言い表す他ない。

青木緑(あおきみどり)です。和歌山の方から来ました。俺も体を動かすのは好きなので仲良くできたら嬉しいです。よろしくお願いします」

 体をこちらに向け、笑みを浮かべながらそう喋る。少しばかり胡散臭さを感じたが、初対面なんて愛想笑いしか出てこないか。

「出席番号でそのままやっといて」

 青木が挨拶し終わると、間髪入れずに水谷がそう続ける。

「緑ちゃんが終わったってことは、アタシね!」

 楽しげに回転をかけながら青木の右隣に座っている少年(?)が優雅に立ち上がったのだが、いまいち彼と呼んでいいのか迷う格好をしている。

 ゆったりとしたウェーブのかかった肩までの金髪や、ちょっとした仕草で女性だということは明白なのだが、どう見ても一八〇センチメートルは超えている巨体と野太い声でどうも頭が混乱してしまう。薄桃色のカーディガンから覗く角ばった手は非常に健康そうだ。

 顔ばかりに気を取られていたが、よく見ると男子生徒用の学ランを着ている。なら、男子か。……いや、男子なのか?

「アタシ、岩下磊(いわもとらい)! 可愛いものが大好きよ! これからよろしくね、賢斗ちゃん」

 ちゃん呼びに軽く鳥肌が立ったが、特段それを咎める人は出てこない。相当仲がよかったとしてもちゃん呼びは中々キツい。しかし、このクラスではこれが普通なんだろうか。

「岩下さん最初の時からあんな感じだから、気にしない方がいいよ」

 まだ名前は知らないが、隣に座っていた小柄な少年が体をそっと近づけて耳打ちしてくれた。

 もう受け入れた方が早いということか。そういうことならまあ、受け入れる他無いのだろう。

「じゃあ次はわたしかなー?」

 岩下が座るとほぼ同じくらいに、元気そうな声を出して自分の前に座っていた少女が立ち上がる。

大内柚姫(おおうちゆうき)だよー。一応小学部からの内進生だから煌高のことは割と詳しいよ。よろしく!」

 最後にピースとウィンクを同時にされたのは予想外だったが、声からして元気溌剌としたタイプなのだろうと推察していたのは予想通りだった。

 眉上で切り揃えられた灰色の前髪が動くたびに揺れている。右目の黒い眼帯が気になるところだが、あまり怪我に言及するのは無作法か。

「次はらぶりだよー!」

「言われなくてもわかるってー……」

 らぶりと呼ばれた彼女は照れ気味に立ち上がる。あだ名で呼び合うくらい二人は仲が良いんだろう。

陣内愛(じんないみのり)です。陣取りの陣に内側の内、愛と書いてみのりです。不思議な名前ですよね。柚姫には『らぶり』って呼ばれてますけど、特に気にせず陣内って呼んでください。よろしくお願いします」

 手を前で揃え、落ち着いた声で話す姿はお嬢様然としている。

 薄桃色の髪をボリュームのある白色のリボンでサイドテールにしている。目の色も白っぽく、グレーを基調とした女子の制服も相まってどこか儚い雰囲気をまとっている。

「最後は僕だね」

 陣内が着席したのを確認してから、先ほど気を使ってくれた隣の彼が遠慮気味に立ち上がった。

星岡晴爾(ほしおかせいじ)、です。仲良くしてくれると嬉しいな。……あはは、あんまり話すことないね、とりあえずよろしくね」

 白黒のパンダ耳が付いたオーバーサイズのパーカーを頭に被り、元々小柄な体をさらに縮こまらせながら、周囲と比べると小さめな声で話す。今までかなりキャラが濃い人間しかいなかったからか、引っ込み思案だが優しげな彼は癒しのように思えてくる。


 これで全員か。

 真面目そうな眼鏡の人が青木、何か変な金髪の人が岩下。眼帯をつけているのが大内で、サイドテールの人が陣内、そして隣が星岡。

 普通の四〇人程度のクラスで一斉に自己紹介をされたとなれば、今頃頭を抱えていただろうが、少人数だったおかげでどうにか一発で覚えられた。

 数分前に水谷がクラスメイトのことを「個性的?」と言っていたのは確かに間違いではなかった。

 そこでタイミング良くチャイムが鳴る。

「鳴ったしホームルーム終わりー。これ授業開始のチャイムだから、早く来いよ」

 教材がぎっしり詰まったトートバックを持ち、先生は颯爽と去っていった。

「次は体育だけど、体操着持ってる?」

 話をしながら教室を出ていく皆を横目で見ていると、眼鏡をかけた彼、青木に声をかけられる。

「いや、ちょっと持ってないわ。俺は見学かなー」

「じゃあ体操着貸してあげるよ」

 うーんと唇に手を当て、少し考えたかに思うと鞄を漁り、「あおき」と大きく書かれた袋をこちらに押し付けるように突き出す。

「一緒に受けようよ。この学校の体育さ、ちょっと特殊で面白いんだよね」

 断る訳にもいかず、軽く感謝を述べながら袋を受け取った。

次回更新は2月15日です。

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