7-①.遅咲きの花
キンコンとチャイムが聞こえる。ホームルームの終わりを告げるチャイムか、それとも授業の始まるを告げる音か。
春の柔らかい朝日に照らされた廊下は明るく、これからの学校生活もこんな風だったらいいなと思った。
遅咲きだった桜が窓の向こうで揺れている。一際強い風が吹けば花びらは周囲に舞い、数枚はこちらまで飛んできていた。
武中みうとヴィーア・エンリが邂逅した次の日、特別科の校舎での話である。
遂に校舎の門を潜った彼、赤塚賢斗の目には全てが新鮮に見え、また全てが輝いているように見えていた。
「水谷先生、クラスの人達ってどんな感じなんですか?」
のっしのっしと大股で赤塚の前を進んでいた担任、水谷昇は特徴的な天然パーマを掻きながら上を向き少し考えると言葉を濁し言う。
「あー、まあ元気な奴が多いよ。あと……個性的?」
最後の言葉に疑問符が付いていたような気がするが、すぐにクラスメイトと会えるのだから、そこで答え合わせすればいいか。
教室に向かう途中、二人の間に必要以上の会話は無かったが、不思議と気まずさはなかった。
下足箱から伸びる真っ直ぐな道の端に着くと、ゴツゴツとしたかなり機械な感じの物々しい雰囲気のエレベーターが赤塚達を歓迎した。
「……これ乗っても大丈夫なやつですか?」
「学生証を持っていればな」
首にかけた教員証を軽くこちらに向けてから、ボタンの代わりにあるカードリーダーにかざすと、エレベーターの扉は自動的に開いた。
「防犯とかの関係で階の移動は全部エレベーターで、カードかざせば勝手に目的の階まで連れて行ってくれる。でも裏を返せばカード持ってなきゃ何もできない。便利なんだか不便なんだか」
かなり恨みのこもった声色でそう続けたが、この人はまさか教員証を失くして何もできなくなったことがあるんだろうか。
……とりあえず、絶対失くさないようにしようと心に決めた。
エレベーターの内部は見た目と同じく重々しい雰囲気が漂っている。どこに寄りかかっても鉄の冷たさが体を冷やす。
行き先はもう既に決まっているから、中には非常用の連絡ボタンがただ一つあるのみだった。
今何階にいるかを示すランプも無く、こんなところに閉じ込められたらと想像すると身震いがした。
「五組フロアに到着しました」
無機質な女性の声がして、ゆっくりと重い扉が開いた。
入り口と同じような真っ白な廊下、汚れ一つもない白い壁が二人を歓迎する。
しかし、立ち並ぶ教室と微かに聞こえる談笑の声はあの入り口と違う点だった。
「ほら、早く行こうぜ」
そう背中を軽く叩かれたが、文句を言う暇もなく水谷は先を歩いていく。
小走りで彼の背中を追いかける。段々はっきりと聞こえてくる楽しげな声でこちらまでも楽しくなってくる。
「それじゃ、俺が呼ぶまでここにいてくれ」
突き当りまで歩き、声の発生源である教室のドアに手をかけたところでそう止められてしまった。
一足先に水谷が教室に入ると、一瞬は静かになったがまた賑やかになった。扉越しということで完全には聞き取れないが、文句を言われているのは想像できた。
「入っていいぞ」
扉の向こうからそう声がかかる。いくつになってもこういう場面では緊張してしまう。
息を吸って、吐いて、一つ深呼吸をして取っ手に触れる。
どうか良いクラスでありますように。そう願いながらドアを横に引っ張った。
次回投稿は2月15日です。




