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第68話 告白


「突然のお誘いに集まっていただき、ありがとうございます」


 テトラを中心に、その兄であるラッセンさん、ルイスとヴィンセント様、ジレス様にユアンお兄様、そして私がずらりと集まった小さな部屋は、いったいどうしてここに呼ばれたのかもわからず、妙に緊張した空気に包まれていた。



 怪しい地下集会を見た翌日、私は眠れぬ夜を過ごして疲れ切った顔で、テトラに声をかけた。


 ────ねえテトラ、私、あなたに聞かなきゃいけないことがあるの。


 するとテトラはいつものきらきらとした瞳で、不思議そうに私を見つめてから言った。


 ────僕も話したいことがあるんだ。今日の放課後、キャリック邸に来てほしい、と。


「なんで俺たちが呼ばれたのか、まずは聞きたいんだが」


 ヴィンセント様がぴりついた声をだし、私は思わず寒気が走るのを感じる。


 一方のテトラはあまりにもいつもどおりの調子で、私はどう捉えたらいいのかわからずに、もやもやしながらもテトラの声を聞いていた。


「あ……突然の呼び出しですみませんでした。実は今日は、皆さんに言わないといけないことがあってお集まりいただきました」


 テトラは目を伏せ、少し深呼吸する。


 そしてスッと瞳をあげて、テトラは言った。


「僕には、物心ついたころから変わった力があって……人の心を、人の嘘を読めるという力なんです」


 私とヴィンセント様はじっと黙ったままでその続きを待つ。


 周りの反応を見た感じ、ラッセンさんとルイスは前からこの能力について知っていたのかもしれない。


 びっくりして頭にハテナが飛びまくっているのは、お兄様とジレス様だけのようだった。


「実は少し前から、学院でエルシー・ローグさんによく話しかけられるようになりました。彼女は、他の僕と近づきたい女の子とは全然違いました。つまり……心の声があまりにも異様で、僕は興味深く思ったんです」

「まさか、それであの女と最近よく一緒にいたのか?」


 ヴィンセント様の問いに、テトラがうんとうなずく。


「そうです。僕の能力も万能ではなくて、いろいろな情報が細切れにしか入ってきません。だからいろんな質問の仕方やいろんな会話の中から少しずつしか情報を得られなくて。それで、できるだけ長く一緒にいて彼女の本心を探っていました」


 私がぽかんとしていると、テトラは背筋を正し、いつものふにゃりとした顔からまじめな表情に変えて言った。


「そこでわかったことを、これから話します。信じられないかもしれないけど、エルシーさんが考えていたことを組み合わせるとこうなるっていうことを、お伝えするつもりです」


 そうしてテトラは、みんなが静かに見守る中、ゆっくりと話し始めた。




 ◇◇◇




 我々が住むイマリカ大陸を囲んでいる海の向こうには、他にもいくつかの大陸がある。


 その大陸のそれぞれには人が住んでいて、我々と同じように生活しているらしい。


 ただひとつ違うのは、他の大陸には「魔法」も「魔法使い」もまったくいない、ということだ。


 彼らは魔法の代わりにカガクというものを使って、文明を発展させているのだという。


 そうして外の大陸では様々な国がひしめいているが、なかでも栄華を誇る国のひとつが、クマルタ帝国だ。


 クマルタ帝国は戦争によって領土やショクミンチを急激に広げ、交易中継地や香辛料などの栽培地としてそれらを利用しながらさらなる拡大を望んで航海調査を繰り返していた。



 そんな折、どの国にも独占されていない未開拓の土地として、我々が住まうイマリカ大陸が見つかった。


 しかし、イマリカ大陸に近づくにつれてあまりの息苦しさで船員が失神したり、とめどなく嘔吐するなどの原因不明の事象がつづきなかなか調査が進まない。


 イマリカ大陸は、そこにあるのがわかっているのに近づくことがかなわない、悲願の未到達大陸だった。



 そうして幾度もの調査を経ても原因を特定できず、躍起になっていたクマルタ人に、あるとき光がさしこんだ。


 方位磁針を得て、他大陸をめざして航海を進行していたイマリカ大陸の住人────アーシラ人に出会ったのだ。


 結果としてクマルタ人は、アーシラ人の話とそれをもとにした調査によって、イマリカ大陸を覆っている「魔力」に耐性がある人間であれば、大陸に踏み入ることができると突き止めた。


 そこで何とか帝国内で魔力耐性のある一握りの人材を探し集め、いかにしてイマリカ大陸を植民地にするか検討し、調査団を派遣したのだ。



 イマリカ大陸では、土地固有の木々や土壌などの自然などからも微量の魔力が放出されている。


 だからこの大陸に生まれ育った者たちは、魔法使いではない人間でも、動物でも、「魔力耐性」はあるのが普通になっている。


 一方、「魔法」や「魔力」の概念さえ存在しないほかの大陸の人間は、ほとんどの場合耐性がなく、この土地の空気は耐えがたい。



 クマルタ帝国を含む外の世界ではカヤクやテッポウが発明されていて、既に多くの国や民族が容易に制圧、征服されてきた。


 しかしこの魔力濃度があるかぎり、イマリカ大陸に拠点を構えることも、軍を投入して征服することも難しい。


 けれどそんな中でもたったひとつ、この状況を打開する方法があることがわかった。


 ────魔力を持つ生き物を消し去ることによって、大陸を覆う魔力濃度を下げることが可能のようだ。


 魔力を持つ生き物────。


 イマリカ大陸の人間がいうには、それはすなわちラートッハ王国にだけ生息している魔法使いとやらを指す。


 ならば魔法使いをせん滅しよう。


 しかし、そう考えた彼らはジレンマに悩まされることになる。


 魔法使いたちがいるかぎり、魔力濃度が高すぎるゆえ軍を投入して魔法使いを殺戮することもできないという、ジレンマに。



 そこでクマルタ帝国は、魔法使いを持たぬアーシラ王国とグアラ王国をそそのかし、イマリカ大陸内で戦争を起こさせ、魔法使いが集結しているラートッハ王国を陥落させることを画策した。


 魔法という不思議な力は当初手に入れるべき魅力的なものに思えたが、魔法によって現在実現されている発明や世界について聞く限り、それはカガクで実現されたものと大差はなく、むしろ劣っていると彼らは思った。


 ────それなら、カガクでいい。魔法使いは邪魔なだけだ。



 ラートッハ王国を孤立させ、追いやるように仕向けることは簡単だった。


 グアラ王国もアーシラ王国も、しょせんはカガクも知らぬ猿。


 魔法ごときに畏怖し、嫉妬し、ラートッハ王国をうらやんで魔法使いを欲していたが、クマルタ帝国がもたらす力を見せつければ彼らはすぐに目の色を変えた。


 そうだろう、魔法などでは、カガクに太刀打ちできるわけがない。


 魔法でなにができるというのだ? 何の価値もない。

 この火力も、この殺傷力も。

 この艦船も、この精密な医療器具も、お前たちは持っていない。



 ────今まで、ラートッハ王国は魔法使いによる富を独占し、傲慢にもこの大陸を支配していたのですか?


 我々は、ラートッハ王国が、その強欲のままにこの大陸の外にまで影響力を及ぼすことを危惧しています…………ラートッハ王国が暴走する前に止めなければなりません。


 それにこれまでの長い年月、ラートッハ王国だけがいい思いをしていたのなら、これからの長い年月は、あなたがたがいい思いをするべきです。


 なに、魔法使いなどとるに足らないものだと、今のあなたがたならわかるでしょう。


 帝国が、我々の持つこの力が、あなたがたの後ろ盾になりましょう。


 そしてこの先のあなたがたの、長くめざましい発展をお約束しましょう────。



 そうつついてやれば、猿どもはやる気を見せた。


 我々は両国を軍事支援することで、わが軍を上陸させずともラートッハ王国を陥落させることになるだろう。


 ……なにせ、ラートッハは軍さえ持っていないというのだから。



 そして魔法使いどもが消えた後。


 そこからは我々の力を後ろ盾に、輝かしい未来が待っていると──────そう猿どもは思っていることだろう。


 現実は違う。


 魔法使いがいなくなれば、我々は帝国軍を率いて上陸できるようになるだろう。


 そうなれば、アーシラ王国やグアラ王国も、我が軍のもとに屈することになるだけなのだから。


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