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第62話 楽しい観察


「あ! またあの子!」


 授業中、先生が生徒に背を向けるタイミングを狙ってすかさず双眼鏡をかまえる私に、後ろに座っているヴィンセント様があからさまなため息をついた。


「シャーリーン、最近ますます奇行に磨きがかかってるな。今度はなにを見てるんだ?」

「なにってもちろん、テトラです」

「そんなドヤ顔で言うことじゃない」


 じとっとしたヴィンセント様の視線に私は気まずくなって目を逸らす。


 ヴィンセント様の呆れた顔も、まあ、納得せざるを得ないのは事実だ。


 なにせ私はここのところ毎日のように双眼鏡をかまえ、こうして校内を眺めているのだから。



 ……でも、こんなことを言うのもなんだけど、テトラは本当に目が離せない子なのだ。


 私だって、いくらテトラとエルシーの接触が気になるとはいえ、ここまで頻繁に観察するつもりは当初、なかった。


 けれど観察しているうちに、テトラがいかに優しすぎるかを、私はまざまざと思い知らされることになった。


 ……いや、知っていたはずなのよ。


 だけど貴族の子供たちというのは、想像以上に、優しくて穏やかなテトラへのマウンティングがひどかった。


 テトラも、ゲームシナリオの時とは違って読心能力を封印していないから、たぶん皆が自分を利用しようとしていることや、なめてかかってきていることを知っているだろう。


 それでもにこにこと笑っているテトラがいい子過ぎて私はいてもたってもいられず、こうして観察し、テトラに嫌なことをした生徒を見つけてはハトのフンを頭上にお見舞いしているのだった。


「シャーリーン、大人げないぞ。というか、恥ずかしくないのか? そんなことして」

「恥ずかしいに決まってます! だけど……私、やりすぎですかね?」

「お前みたいな姉がいたらウザすぎる。過干渉だな。みんな自分なりに対処して強く成長していくんだから、何もするなよ」

「強く成長……」


 そういえばテトラのシナリオといえば、あのクソゲーの中で最も異色を放っていたのでよく覚えている。


 ゲームでは、読心術という類稀なる能力を武器にして、テトラはクーデターの首謀者となり、国家転覆のための血なまぐさい争いを主導することになる。


 というのも、テトラは幼いころから寝物語としてエバーデーンという王国についての話をよく聞いていたのだけれど、ヒロインが預言者パワーでそれがただの物語ではなく史実であることを突き止めたからだ。



 かつて大陸に存在したエバーデーンという王国では、王族の血筋に読心術を使えるものが稀に現れ、それを使って民を平和に統べていたという。


 ヒロインによって、テトラがそのエバーデーン王国の末裔であったことと、その王国がかつてラートッハ王国に滅ぼされたことを知らされたテトラは、ヒロインの猛烈な後押しによってかつて奪われし王国を取り戻すためにクーデターを起こすのだ。


 結果的にクーデターは成功、シャーリーンはもちろん元の王族もその配下の貴族たちもみんな殺されて、空いた玉座にヒロインとテトラが悠々と座り、ヒロインは満面の笑みを浮かべ、テトラはそんなヒロインを見つめてエンドロールを迎える。


 ……という感じでハッピーエンドは回収できたはず、なんだけど。



 これね、当時ゲームをプレイしてる時はそこまで深く考えなかったけど、どう考えてもおかしい。


 だってテトラみたいな優しくていい子がそんなことして、何食わぬ顔で幸せいっぱいになんて、なれるわけがないじゃない?!


 血みどろの復讐とか、テトラに似合わない言葉すぎるじゃない?!


 あんなに慕っていたルイスも自分の兄(ラッセンさん)もクーデターの過程でいなくなった世界で笑っているテトラなんて、テトラを知れば知るほど想像できない。


 強く成長しただなんて言葉では片づけられない、人格の変化。


 というか、盲目的にヒロインを信じ、すがって周りを遮断するさまは、なんだか今の国王陛下の様子に似ているように思う────つまりは、洗脳だったんじゃないかということ。


 優しいからこそ、うまいこと丸め込まれたのではと思うといてもたってもいられない。


 だから、私がテトラを観察してエルシーとの接触を感知することは、とーっても重要なのよ!



 他三人の攻略キャラのシナリオについては、既にある程度筋書きが変わっていそうだけれど、いま残っている目に見える危険が、このテトラまわりのところなのよね。


(目を皿のようにしてテトラを見守り続けるわ! ついでにテトラを困らせる人には問答無用でおしおきよ!)


「シャーリーン、せめてハトの脱糞以外のことをしたらどうだ? 毎回同じだと面白くないだろ」

「そうですか? ヴィンセント様がそこまで言うなら、あの男子生徒には……」 


 少し考えた私は、テトラに重い自分の荷物を持たせて高笑いした少年の右足に、大きめのネズミが丸一日走りまわり続ける魔法をかけ、ヴィンセント様に「地味だ」とガッカリされたのだった。


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