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【完結】悪役流儀の世界の変え方  作者: はるしののみや
3章 14才 魔法学院
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第60話 閉じた世界


「大丈夫? 三人とも」


 私たちを気遣うレヴィン様の優しい声が聞こえて、ゆっくりと覚醒する。


「……ここは?」

「アーシラの城にもどってきた。君たち全員、意識を失ってたから」

「一体……なにが」


 アーシラで私のためにあてがわれた部屋で、私たちはそろって気を失っていたらしい。


 ふと見ると、私はベッドに寝かされていた。


 一方のルイスとラッセンさんはソファに転がされていたらしく、起きてきたラッセンさんがイテテと腰に手を当てるのが目に入って、私は思わず笑ってしまったのだった。


「シャーリーン。前に、僕たちは外に行けないと言ったのを覚えてる?」

「え……ごめん、なさい。どうしてですか?」


 先ほど見たときはヒト型だったけれど、いまのレヴィン様は小さいドラゴンの姿になっている。


 夜闇に溶けそうなきれいなレヴィン様の目をじっと見つめかえしながら尋ねると、レヴィン様は言った。


「シャーリーン。長い長い歴史のなかで、海を渡ってこの大陸以外の大陸へ行きついた魔物も、エルフも、魔法使いも……おそらくゼロだ」

「ゼロ? どうしてですか、空を飛べるのに……あ」


 そういえば以前、ドラゴンの姿になったレヴィン様の背に乗って空を飛んでいるときに、そんな話をしたことがあるかもしれない。


 こうやって遠く遠く、違う大陸まで行けるのかと私は聞いて、レヴィン様はたしか「行けない」と答えていたんじゃなかっただろうか。


「どうして……いけないのですか?」

「魔力あるものがこの大陸を出ようとすると、誰もが血を吐き、ついには息が止まる。君たちはこの大陸の影響がある海域を超えて外へ行きかけてしまったから、あんな目にあった」


 あの船が大陸からどんどん離れて特定の海域をこえてしまったから、魔力がある私たちはあんなふうに吐血したり息苦しくなったということなのだろうか。


「だけど、レヴィン様は……」

「僕もダメージを負って、しばらくはこの姿のままだろう。誰でもこの大陸を出ていくことはできない」

「そんな。一体どうしてです? 魔力のある者だけがこんな目に合うのですか?」

「魔力を持つものは、体の中に血液が巡る道とは別に魔力を巡らせる道がある。この大陸にいる限りは問題ないけれど、一歩出るとその道に何らかの障害が生じる。それが原因だとエルフは昔、言っていた」

「この大陸の外には、魔物やエルフ、魔法使いがいないのですか?」


 じっと聞いていたルイスが口をはさみ、私はたしかに、と頷いてレヴィン様の答えを待った。


「アーシラにしかいない鳥がいたり、ラートッハにしかない花があるのと同じように。魚は海や川にいて陸では生きられないように。魔力を持つ者にとって、この大陸は穏やかに息ができる場所だけれど、ほかの土地はそうではない。僕たちが知る限り、魔力を持つ者はこの大陸にしかいない」

「他の大陸だと、魔力を持つものは生きられないということですか?」

「この大陸がもつ何らかの力が僕たちを生かしている。逆もまた然りで、僕たちがいるからこの大陸は独自の生態系を保っているんだろう」


 そうだったのですね……と弱々しい声で言うと、その横でレヴィン様は空中でくるくると手をまわして手遊びをしだす。


 指の離れる先から星屑みたいな光が散って、宙に何か文字を書いているように見えたけれど、私には解読できなかった。


「それじゃあ、さっきの海外人が話していたのは俺たちの逆ってことかな?」

「ああ、この大陸は息苦しいと言っていたね。耐性がどうとかも」


 ルイスとラッセンさんが話すのをぼんやりと聞きながら、私は黙って海外人たちが向かった先かもしれないバタック島について思いをめぐらせていた。


 もしその島が植民地支配にあっていて、現地人たちがむごい仕打ちを受けているなら……。


 けれど、確認をしようにも魔力があるかぎりこの大陸から出ることもできないだなんて。



 私がじっと黙っているのをみて気になったのか、私の顔を覗き込むように身を乗り出してきたレヴィン様の大きな瞳と目があった。


 ……まるで天の川を閉じ込めたビー玉みたいな目だ。


 ああ、そうだ。

 私はこの大事な大事な友人を、危険な目に合わせてしまったんだわ。


「契約者の私だけを救うなら、私の名前を呼ぶだけでよかったんですよね」


 ──────契約者に名前を呼ばれると、お互いに問答無用で相手の方へと転移する。


 それが契約している私とレヴィン様の関係性のはずだから、もしレヴィン様が私の危機を察知して私を救うだけならば、わざわざ危険を冒して船までこなくてもよかったはずなのだ。



 かつて人間からひどい仕打ちを受け、距離を置いた魔物達。


 それが今、ふたたび様々な人とのかかわりができる中で、契約者でなくとも救いたいと感じるほど愛着を持てる人間ができているというのは、とても温かいことのように感じられた。


「レヴィン様は魔力が強い分、もしかしたら私たちよりずっと体への負担があったかもしれませんね。自分も危険な中で、私たちを助けに来てくれてありがとう」


 私が言うと、ラッセンさんとルイスも重ねて礼を言う。


 レヴィン様はなんでもないといったふうにそれを流したけれど、私はレヴィン様の頭から背中にかけて、ゆっくりと何度も撫でていたわった。


「……魔力があっても、できないことがあるのね」


 私がつぶやくと、膝の上にいるレヴィン様は静かにほほ笑んだようだった。


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