第58話 賑やかな朝
「おはようシャーリーン。紅茶いれといたぞ。にしても、お前ルイスと同等のいい部屋あてがってもらってるのか。さすがだなあ」
使節団としての長い旅路を経て久しぶりにアーシラ王国の地をふんだ私たちには、国王主催の盛大なパーティーがまっていた。
そして異国の地で、夜通し飲んで歌って泥のように眠った後の爽やかな朝の目覚めは、温かい紅茶の香りとイケメンから始まる。
「…………って、なんでここにいるんですかラッセンさん? 未婚の令嬢の部屋ですよ」
「俺だって、忍び込んだ先にお前がいて実はさっきから冷や汗が止まらないんだぞ! だがここまで来たらちょっと手伝ってほしいんだ」
「手伝うって何を?」
「侍女たちから匿ってくれ。いやあ、すごく情熱的なお嬢さんが多くてさ……」
「はあ、まあとりあえずお茶をいただきますわ」
ラートッハからの使節団は、ルイスを団長として以下十名が選抜され、アーシラ王国の王城に約三週間滞在して親睦を深める。
期間中はアーシラ国内の視察や夕食会、舞踏会など様々なイベントが開催され、国家間や貴族間で交流を深めたり、今のアーシラ王国の取り組みを学んだり、文化を知る機会となっているらしい。
私は新宰相の通訳として参加しているので、基本は新宰相と行動を共にする。
だけど、新宰相は私を「ガキ、しかも女じゃないか」と嘲笑して、私が通訳しても「お前がわかるわけないのに嘘をつくな」と怒ったりしてまともに聞かず、その様子を見ていたアーシラ王国の人たちが新宰相を早々に見限って重要な会合からも社交の場からも彼を外してしまったので、私の仕事は滞在初日にしてほとんどゼロになってしまった。
────アーシラ王国からすれば、過去にこの国の干ばつ時に雨を降らせた祈りの乙女であり、いまでもビジネスをしてこっちで雇用を生んでいる私のほうがよっぽど価値のある人間であり、それを蔑ろにしている新宰相が無能の烙印を押されるのも自然な流れだったといえる。
とはいえ職務として来ているのに放棄しているようで、何とも気まずいものだ。
……おかげさまで私はただただ観光気分で楽しめるし、いいっちゃいいんだけどね。
ベッドから出てゆったりとお茶を飲みながらラッセンさんに向き合うと、ラッセンさんはソワソワとしながら言った。
「なあシャーリーン。侍女の子たちが言うにはさ、やっぱこの城に海外人が出入りしてるらしい」
「なるほど。どんな方たちで、どんな内容を誰と話しているかまで聞けましたか?」
「王城勤めなだけあって、みんな口が堅いんだよ。でも、陛下と側近しか会っていないから、内容まで知っている人はごく限られているみたいだ。陛下の執務室に定期的にくるって」
「定期的というと、月に一度とかですか?」
「今は隔週くらいだってさ。前来たのはちょうど二週間前の…………もしかしたら今日あたりにまた来るかもな」
「へえ~、とっても興味深い話だね。ねえラッセン?」
「ギャアアアアアアアアア!!」
突然背後から聞こえた声を耳にした瞬間、前に座っていたラッセンさんは文字どおり飛び上がった。
「どうして皆さん、ちゃんとノックしてくれないんですか? 淑女の部屋ですよ!」
「シャーリーン。中から不審な男の気配がしたから、状況を探るためにも仕方なかったんだ」
「おおおおお俺は何もしてない!」
「ははは、そうか。で? 弁解はそれだけか?」
「あ、いや、ほかにもある! まずは話を聞いてくれルイス! ほら、お茶を飲もう!」
「そうですね。せっかく来たのなら一緒にお茶でも飲みましょうか」
突然の来客に私がお茶を注いで椅子をうながすと、ルイスはふうとため息をついて優雅に座る。
その横でラッセンさんがなぜか滝のように汗をかいているのを見て、私は首を傾げた。
────なんにせよ、朝から賑やかなのは活気があっていいことよね?
「さっきの話ですけど、今日、もしくは少なくとも今週中のどこかで、陛下のもとに海外人が訪れるかもしれないんですよね? 会ってみたくはありませんか」
「気になるね。確かめてみようか」
私の言葉にルイスがすぐ反応し、にんまりと笑う。
そして、それにつられて私も笑った。
…………もちろん、そう来ると思ったわ。
「じゃあ、とりあえず今日はアーシラ国王陛下の執務室で遊びましょうか」
「せっかくならピクニックにしようか。サンドイッチやスコーンをつくってもらって」
「まあ! ナイスアイデアですわね!」
「……俺、お前らにはついていけないわ。うん、無理だな」




